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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第8 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

緊急人材育成支援事業において、主たる生計者要件の確認及び支給終了者一覧の作成を適切に行うことにより、基金からの支援給付金の支給及び支援資金の返済免除等に伴う基金からの補助金の交付が適正なものとなるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


(2) 緊急人材育成支援事業において、主たる生計者要件の確認及び支給終了者一覧の作成を適切に行うことにより、基金からの支援給付金の支給及び支援資金の返済免除等に伴う基金からの補助金の交付が適正なものとなるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)職業能力開発強化費
部局等 厚生労働本省
交付の根拠 予算補助
事業主体 中央職業能力開発協会
緊急人材育成支援事業の概要 雇用保険を受給できない者の職業訓練の機会を拡充するため、職業訓練、訓練・生活支援給付、訓練・生活支援資金融資等を実施するもの
緊急人材育成支援事業に係る基金造成額
3870億5061万余円
(平成21、22両年度)

基金から支給された支援給付金の額
738億4332万円
(平成21、22両年度)

上記のうち主たる生計者要件を満たしていない者に対する支援給付金の支給額(1)
4950万円
 

支援資金の返済免除等に伴い基金から交付された補助金の額
5億0634万余円
(平成21、22両年度)

上記のうち停止されなかった支援資金の貸付けに係る返済免除等に伴い基金から交付された補助金の額(2)
1093万円
 

(1)及び(2)の計
6043万円
 

 【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

   緊急人材育成支援事業における訓練・生活支援給付及び訓練・生活支援資金融資の実施について

(平成23年9月7日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 制度の概要

(1) 緊急人材育成・就職支援基金事業の概要

 貴省は、平成21年度緊急人材育成・就職支援事業臨時特例交付金交付要綱(平成21年厚生労働省発能第0605001号)に基づき、平成21年6月に、中央職業能力開発協会(以下「協会」という。)に対して緊急人材育成・就職支援事業臨時特例交付金7000億円を交付している。
 協会は、この交付金を財源として緊急人材育成・就職支援基金(以下「基金」という。)を造成し、基金を活用して緊急人材育成・就職支援基金事業(以下「基金事業」という。)を実施している。基金事業は、深刻な経済危機の中で、製造業を中心とした雇用調整により離職を余儀なくされた非正規労働者等の失業期間が長期化していくことが懸念されることから、雇用保険受給資格のない者や雇用保険受給終了者等の長期失業者に対するセーフティネットを作り、公共職業安定所(以下「安定所」という。)が中心となって職業訓練、再就職及び生活への支援を総合的に推進することを目的としている。
 そして、22年度までの基金の造成額は、前記の交付金交付後、基金の一部が国庫返納されたり交付金が追加交付されたりしたことにより5581億4662万余円となっている。

(2) 緊急人材育成支援事業の概要

 基金事業のうち、緊急人材育成支援事業は、雇用保険を受給できない者の職業訓練の機会を拡充するため、職業訓練(以下、緊急人材育成支援事業として行うこの職業訓練を「基金訓練」という。)、訓練・生活支援給付、訓練・生活支援資金融資等を実施するものである。そして、上記の基金造成額5581億4662万余円のうち、緊急人材育成支援事業に係る造成額は3870億5061万余円となっており、このうち1357億3833万余円が21、22両年度に基金から支出されている。

ア 訓練・生活支援給付の概要

 訓練・生活支援給付は、基金訓練又は公共職業訓練(以下「基金訓練等」という。)の受講中の生活保障を行い、円滑な受講に資するため、基金訓練等を受講している者に対して、訓練・生活支援給付金(以下「支援給付金」という。)を月額10万円(被扶養者を有する者は月額12万円)支給するものである。支援給付金の支給対象者は、年収が200万円以下でかつ世帯全体の年収が300万円以下であることなどのほか、原則として、世帯の主たる生計者であること(各世帯につき1人のみとされている。以下、この要件を「主たる生計者要件」という。)が要件とされている。そして、21、22両年度に支給された支援給付金は738億4332万円となっている。
 支援給付金の支給を希望する者は、訓練・生活支援給付受給資格認定申請書(以下「認定申請書」という。)等を安定所に提出し、安定所は、申請者が必要な要件を具備していることを確認した上で、認定申請書等を協会に送付することとされている。協会は、送付された認定申請書等を審査して受給資格の認定(以下「受給資格認定」という。)を行うこととされている。
 そして、協会から受給資格認定を受けた者(以下「受給資格者」という。)は、毎月、訓練・生活支援給付支給申請書(以下「支給申請書」という。)等を訓練実施機関を経由するなどして協会に提出することとされている。支援給付金の支給は、支給を希望する月の直前1か月間の基金訓練等に8割以上出席していることなどの出席に関する要件(以下「出席要件」という。)等を満たすことが必要とされており、協会は、提出された支給申請書等について、出席要件等を審査して、支給又は不支給を決定することとされている。また、基金訓練等の受講期間の途中で出席要件等を満たさなくなった場合、以降の当該訓練についての支援給付金は支給されず、支給は終了することとされている。

イ 訓練・生活支援資金融資の概要

 訓練・生活支援資金融資は、全国13の労働金庫が、支援給付金のみでは基金訓練等の受講中の生活費が不足する者に対して、支援給付金を受給している期間に支援給付金の上乗せとして訓練・生活支援資金(以下「支援資金」という。)を毎月貸し付けるものである。支援資金の貸付額は、月額5万円(被扶養者を有する者は月額8万円)が上限とされており、支援資金の貸付対象者は、支援給付金の支給対象者であり、かつ、労働金庫が審査の上、返済が困難ではないと判断する者であることとされている。また、支援資金の貸付けを受けるには、担保及び保証人は不要とされているが、信用保証機関である社団法人日本労働者信用基金協会(以下「日本労信協」という。)を利用することが条件とされている。
 そして、21、22両年度の支援資金の貸付実績は、68億1117万余円となっている。
 支援資金の貸付けを希望する者は、安定所が交付した訓練・生活支援資金融資貸付要件確認書等を労働金庫に提出し、労働金庫は、審査をした上で貸付決定したものについて1回目の貸付けを行うことになっている(以下、支援資金の貸付けを受けた者を「借受者」という。)。そして、基金訓練等の受講を途中でやめたり、出席要件を満たさなくなったりなどして、基金訓練等の受講期間の途中で支援給付金の支給が終了した場合には、以降の支援資金の貸付けは行わないことになっている。このため、2回目以降の貸付けについては、各労働金庫は借受者の一覧を取りまとめて協会に送付し、協会は借受者のうち支援給付金の支給が終了した者について一覧表(以下「支給終了者一覧」という。)を作成して、各労働金庫へ送付することになっている。各労働金庫は支給終了者一覧に記載のある者について、以降の貸付けを停止することになっている。
 また、借受者が、6か月以上の雇用が見込まれる就職をして雇用保険一般被保険者資格を取得するなどの条件を満たした場合には、労働金庫は貸付額の50%に相当する額の返済を免除する(以下、これを「返済免除」という。)こととされている。
 日本労信協は、労働金庫が返済免除を行った場合はその返済免除額について代位弁済を行うことになっており、また、借受者の債務不履行を原因として労働金庫から保証債務の履行請求があった場合には代位弁済を行い労働金庫から求償権を取得することになっている。そして、日本労信協が返済免除に伴う代位弁済を行った場合及び取得した求償権について回収不能と判定した場合には、協会はこれらに係る返済免除額及び回収不能額について日本労信協に対して基金を財源とした補助金を交付することとされている。そして、21、22両年度に日本労信協に交付された補助金は、5億0634万余円となっている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、支援給付金の支給及び支援資金の貸付けは適正に行われているかなどに着眼して、貴省、協会及び日本労信協において、21、22両年度に協会が支給した支援給付金738億4332万円及び日本労信協へ交付した補助金5億0634万余円を対象として、支援給付金の支給台帳、支給終了者一覧等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 主たる生計者要件を満たしていない者に対して支援給付金を支給していたもの

 前記のとおり、支援給付金の支給対象者は世帯の主たる生計者であることとされており、受給できるのは原則として各世帯につき1人のみとされている。そこで、22年12月までに協会が受給資格認定を行った169,726件のうち、同一住所かつ同一姓である者について受給資格認定を行っていた605件を抽出して検査したところ、主たる生計者要件を満たしていない者に対して支援給付金を支給していたものが129件(22年度末までの支給金額計4950万円)あった。

<事例>

 協会は、平成22年8月に、基金訓練受講予定のAから、認定申請書、世帯構成員の中に以前に支援給付金を受給した者又はこれから受給しようとする者がいない旨が記載された申告書、世帯構成員であるBを扶養しているとする添付書類等の提出を受けて、これに基づきAを被扶養者を有する者として受給資格認定を行い、それ以降支援給付金計72万円を支給していた。
 しかし、実際には、BはAの2日前に認定申請書を提出して世帯の主たる生計者として受給資格認定を受けており、Aは世帯の主たる生計者とは認められないことから、支援給付金の支給対象とはならない。

(2) 支援給付金の支給が終了しているのに支援資金の貸付けが停止されておらず、これに係る返済免除又は回収不能に伴う補助金が交付されていたもの

 前記のとおり、基金訓練等の受講期間の途中で支援給付金の支給が終了した場合には、以降の支援資金の貸付けは行わないことになっている。
 そこで、22年11月までに協会から受給資格認定を受け、労働金庫が貸付決定した21,469件のうち、22年12月末までに終了している訓練コースを受講していて、基金訓練等の期間に応じて本来支援給付金が支給される回数より実際の支援給付金の支給回数が少なかった2,255件を抽出して、支給終了者一覧が適切に作成されているかなどについて検査した。
 検査したところ、協会は、支援給付金の支給申請書が提出され、出席要件等の審査の結果、不支給の決定をした者については支給終了者一覧に記載していたが、基金訓練等の受講を途中でやめるなどしたため支給申請書が提出されず、支援給付金の支給が基金訓練等の受講期間の途中で終了となった者(以下「申請書未提出者」という。)については、支給終了者一覧に記載していなかった。
 このため、本来支援資金の貸付けを停止すべきであったのに、労働金庫において貸付けが停止されていなかったものが1,171件(停止されなかった貸付額計1億0274万円)見受けられた。そして、このうち返済免除又は回収不能となったことに伴い、22年度末までに基金から補助金が交付されていたものが298件、計1093万余円あった。

 (是正及び是正改善を必要とする事態)

 上記のように、支援給付金の受給資格認定の審査に当たって主たる生計者要件の確認が十分でなく、要件を満たしていない者に支援給付金を支給している事態及び支給終了者一覧の作成が適切でなく、停止されなかった支援資金の貸付けに係る返済免除又は回収不能に伴い補助金が交付されている事態は適正とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 安定所において申請者から認定申請書等が提出された際の要件の確認が十分でないことにもよるが、協会において、支援給付金の受給資格認定の審査に当たり、主たる生計者要件について、同一住所における申請者以外の受給資格者の有無の確認が十分でないこと
イ 協会において、支給終了者一覧には、支援給付金の不支給を決定した者だけではなく、申請書未提出者も記載すべきであることについての認識が十分でないこと
ウ 貴省において、上記のア及びイについて、協会に対する指導監督が十分でないこと

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

 貴省は、恒久的な制度として求職者支援制度が23年10月に開始されるまでの間、緊急人材育成支援事業を継続することとしており、また、求職者支援制度の開始後も、基金訓練等が継続している間は支援給付金の支給及び支援資金の貸付けが引き続き行われることになる。
 ついては、貴省において、協会に対して、主たる生計者要件を満たさない前記の129件の支援給付金について、速やかに返還等の措置を執らせるよう是正の処置を要求する。
 また、貴省において、基金からの支援給付金の支給及び支援資金の返済免除又は回収不能に伴う基金からの補助金の交付が適正なものとなるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 協会に対して、支援給付金の受給資格認定の審査に当たり、主たる生計者要件について、同一住所における申請者以外の受給資格者の有無を確認できる体制を整備させること
イ 協会に対して、申請書未提出者も適切に把握して支給終了者一覧を作成させること
ウ 上記ア及びイの処置が適切に執られるよう、協会に対して指導監督を行うこと