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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

第三者行為災害に係る支給停止の制度について、労災保険給付と第三者等からの保険金等の支給との重複が多額に上ることを避けるための方策を検討するよう意見を表示したもの


(9) 第三者行為災害に係る支給停止の制度について、労災保険給付と第三者等からの保険金等の支給との重複が多額に上ることを避けるための方策を検討するよう意見を表示したもの

会計名及び科目 労働保険特別会計 (勘定)労災勘定 (項)保険給付費
部局等 厚生労働本省
支給停止の根拠 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第12条の4第2項
支給停止の概要 同一の事由について第三者等からの損害賠償と政府による労災保険給付とが重複することを避けるため、労働者災害補償保険法の規定に基づき、保険給付を受ける者が当該第三者等から同一の事由について損害賠償を受けたときは、その価額の限度で保険給付を停止するもの
平成20、21、22各年度の支給停止解除事案に係る重複上限額 42億6789万余円
上記のうち実際に二重填補となっていた傷病年金等の金額 7億5999万円

【意見を表示したものの全文】

   第三者行為災害に係る支給停止限度期間の設定について

(平成23年10月28日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 第三者行為災害の概要

 貴省は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)に基づき、業務上の事由又は通勤途上における労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に関し、被災労働者又はその遺族(以下「被災労働者等」という。)に対して行う保険給付の一環として、傷病(補償)年金、障害(補償)年金、遺族(補償)年金、療養の給付等の保険給付(以下「労災保険給付」という。)を行っている。
 このうち、通勤途上の交通事故被害等のように労災保険給付の原因である事故が第三者の行為等によって生じたものであって、当該事故の被災労働者等に対して第三者が損害賠償の義務を負う場合(以下「第三者行為災害」という。)には、労災保険法において労災保険給付に関する特例を定めている。

(2) 支給停止及び支給停止限度期間の概要

 被災労働者等が被った第三者行為災害に係る損害は、最終的には事故発生の原因となった第三者が賠償すべきものであることなどから、労災保険法第12条の4第2項の規定において、被災労働者等が第三者、当該第三者の加入している自動車損害賠償責任保険及び対人賠償任意保険等(以下、これらを「第三者等」という。)から損害賠償を受けたときは、国はその保険金等の額を限度として労災保険給付を行わないこと(以下「支給停止」という。)ができることとされている。そして、この支給停止の規定により、同一の損害に対して労災保険給付と第三者等からの保険金等の支給とが重複して行われること(以下「二重填補」という。)が避けられることとなっている。
 また、労災保険法においては、被災労働者等が第三者等から保険金等を受領する前に労災保険給付が行われた場合は、その給付の額を限度として第三者等に対して求償権を行使することができるとされている。そして、貴省は、第三者行為災害事務取扱手引(平成17年2月1日付け基発第0201009号。以下「取扱手引」という。)において、支給停止を実施できる期間を、この求償権を行使可能な期間を勘案して、最長で事故発生から3年と定めている(以下、この期間を「支給停止限度期間」という。)。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、経済性等の観点から、支給停止限度期間の設定は適切か、二重填補が発生していないかなどに着眼して、貴省本省及び9都道府県労働局(注) (以下、都道府県労働局を「労働局」という。)において、20年度から22年度までの間の労災保険給付に関する支給停止決議書等の書類を確認するなどの方法により会計実地検査を実施した。

 9都道府県労働局  富山、京都、大阪、山口、香川、高知、佐賀、長崎、鹿児島各労働局

 (検査の結果)

 検査したところ、9労働局において、被災労働者等が第三者等から損害に対する填補として多額の保険金等を既に受領しているにもかかわらず、取扱手引により労災保険給付の支給停止限度期間が一律に3年と定められていることから、事故発生から3年経過後に支給停止を終了して労災保険給付を開始(以下「支給停止解除」という。)している事案(以下「支給停止解除事案」という。)が見受けられた。
 支給停止解除事案では、次図のとおり、第三者等から受領した保険金等の額が、支給停止された労災保険給付の額(以下「支給停止額」という。)より多額となるため、支給停止解除後の労災保険給付は、保険金等と支給停止額との差額(以下「重複上限額」という。)を限度として、同一の損害に対する二重填補が生じ得る状態となっている。そして、被災労働者等に対する労災保険給付の継続中は、重複上限額に達するまでの期間、損害に対する二重填補が継続することになる。

 図 支給停止解除事案のイメージ

図支給停止解除事案のイメージ

 そこで、20年度から22年度までの間の支給停止解除事案の件数及び重複上限額について、労災保険給付のうち、給付期間が長期にわたる傷病(補償)年金、障害(補償)年金及び遺族(補償)年金(以下、これらを合わせて「傷病年金等」という。)を対象に検査したところ、表1のとおり9労働局において計308件、計42億6789万余円となっていた。

表1 各労働局における支給停止解除事案の件数及び重複上限額
(単位:件、千円)
労働局名 平成20年度
支給停止解除分
21年度
支給停止解除分
22年度
支給停止解除分
件数 重複上限額 件数 重複上限額 件数 重複上限額 件数 重複上限額
富山労働局 6 93,317 10 85,218 4 30,292 20 208,828
京都労働局 15 94,975 11 100,946 14 193,257 40 389,179
大阪労働局 59 983,307 38 499,910 47 664,085 144 2,147,303
山口労働局 12 287,409 8 67,248 4 132,236 24 486,895
香川労働局 8 59,235 4 14,430 4 31,402 16 105,067
高知労働局 2 24,574 3 67,727 5 84,437 10 176,739
佐賀労働局 4 56,701 3 42,120 4 89,016 11 187,838
長崎労働局 2 37,313 3 21,645 11 197,039 16 255,997
鹿児島労働局 10 91,712 12 167,833 5 50,500 27 310,047
118 1,728,547 92 1,067,081 98 1,472,268 308 4,267,897
(注)
 単位未満を切り捨てているため、各項目の合計と計欄は一致しない場合がある。

 そして、表1の支給停止解除事案について、支給停止解除から23年6月までの間に、同一の損害に対して実際に二重填補となっていた傷病年金等の件数及び金額を検査したところ、表2のとおり9労働局において計308件、計7億5999万余円となっていた。

表2 表1の支給停止解除事案に係る実際の二重填補額
(単位:件、千円)
労働局名 平成20年度
支給停止解除分
21年度
支給停止解除分
22年度
支給停止解除分
件数 二重填補額 件数 二重填補額 件数 二重填補額 件数 二重填補額
富山労働局 6 22,725 10 25,859 4 3,026 20 51,611
京都労働局 15 41,490 11 23,156 14 14,529 40 79,176
大阪労働局 59 259,352 38 96,359 47 49,479 144 405,191
山口労働局 12 39,591 8 20,887 4 5,676 24 66,155
香川労働局 8 23,174 4 7,306 4 4,214 16 34,695
高知労働局 2 8,323 3 6,748 5 3,770 10 18,843
佐賀労働局 4 14,969 3 6,267 4 3,675 11 24,912
長崎労働局 2 8,803 3 4,926 11 10,559 16 24,289
鹿児島労働局 10 28,204 12 23,774 5 3,137 27 55,117
118 446,635 92 215,288 98 98,070 308 759,993
注(1)  表1の支給停止解除事案を対象として、支給停止解除から平成23年6月までの間の二重填補額を
集計したものである。
注(2)  単位未満を切り捨てているため、各項目の合計と計欄は一致しない場合がある。

 上記の支給停止解除事案について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 大阪労働局A労働基準監督署は、平成18年3月に同署管内に所在する事業所への通勤途上に交通事故にあった被災労働者Bが、当該事故による損害に対する填補として第三者等から保険金9563万余円を受領していることから、21年3月まで障害年金の支給停止を行った。しかし、この支給停止額は175万余円となっており、受領した保険金との差額9388万余円を重複上限額として、支給停止解除に伴い二重填補が生じ得る状態となっていた。そして、支給停止解除後から23年6月までの間にBに対して支給された障害年金の支給額計348万余円が実際に二重填補となっていた。

 貴省は、支給停止限度期間を一律に3年と定めている理由について、〔1〕 被災労働者等が第三者等から損害賠償を受領する前に、先行して労災保険給付を行った場合の当該第三者等に対する求償権の行使を事故発生から3年以内としていること、〔2〕 長期にわたる支給停止を行うことは、労災保険給付が年金という給付方法を採ることによる被災労働者等への利点が失われるため、長期の支給停止を避けて被災労働者等の保護を図る必要があることとしている。
 しかし、第三者等に対する求償権の行使は、被災労働者等が第三者等に対して有する民事上の損害賠償請求権を国が取得することであり、民法(明治29年法律第89号)第724条の規定に基づき時効期間が3年とされていることに合理性はあるが、支給停止は、民事上の損害賠償請求権を行使するものではなく、求償権の行使の時効期間と均衡を図る必要はないと考えられる。
 一方、被災労働者等の保護については、第三者等からの保険金等の支給で達成されており、より長期の支給停止を実施したとしても、支給停止解除後は労災保険給付が開始され、年金という給付方法による利点は失われないことから、支給停止限度期間を3年に限定する必要はないと考えられる。
 また、貴省が、当初、支給停止限度期間を一律に3年と定めたのは昭和41年6月であるが、同年3月末時点の対人賠償任意保険の加入率は20.9%であったのに対して、平成22年3月末時点では73.3%まで増加している。そして、その賠償限度額についても無制限となっているなど1億円を超える保険契約が99%以上を占める状況となっており、さらに、交通事故のうち人身事故に対する民事の損害賠償額も高額化してきていることから、保険金等の額が支給停止額を大幅に上回り、支給停止限度期間である3年を経過しても二重填補が長期化する可能性が高まっている。

 (改善を必要とする事態)

 上記のような社会経済情勢等の変化が生じているにもかかわらず、貴省において、支給停止限度期間を一律に3年と定めていることにより、支給停止解除後の二重填補額が多額に上っている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、社会経済情勢等の変化により、第三者行為災害に係る損害に対して、第三者等からの保険金等が高額化しており、支給停止限度期間である3年を経過しても二重填補が長期化する可能性が高まっていることについての認識が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 貴省は、近年の対人賠償任意保険の加入率の増加、人身事故に対する民事の損害賠償額の高額化という社会経済情勢等の変化を踏まえて、労働者災害補償制度を適切に運営していく必要がある。
 ついては、貴省において、支給停止の制度の趣旨を踏まえて、被災労働者等の保護という労災保険給付の目的等も勘案して、支給停止解除後の二重填補額が多額に上ることを避けるための方策を検討するよう意見を表示する。