部局等 | 厚生労働本省(平成21年12月31日以前は社会保険庁) | |
福祉施設の運営の委託先 | (1) | 財団法人厚生年金事業振興団 |
(2) | 社団法人全国社会保険協会連合会 | |
上記の両法人が保有している福祉施設の運営により生じた資金又は特別会計清算後の剰余の資産の額 | (1) | 236億4600万円(平成22年度末) |
(2) | 15億7416万余円(平成22年度末) | |
計 | 252億2016万余円(平成22年度末) | |
上記のうち適切な規摸を把握して、その有効活用を図ることについての検討が十分でなかった額 | (1) | 206億8436万円 |
(2) | 15億7416万円 | |
計 | 222億5852万円 |
(平成23年10月28日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、平成22年1月1日に社会保険庁が廃止されたことに伴い、従来同庁が所掌していた厚生年金保険等の事業に関する事務を所掌することとなった。
国は、厚生年金保険、国民年金及び旧政府管掌健康保険の保険者として、その被保険者、年金受給者等の健康の保持増進、福祉の増進等を目的として、年金福祉施設及び旧政府管掌健康保険に係る保健・福祉施設(以下、これらを合わせて「福祉施設」という。)を厚生年金保険等の保険料を財源として設置してきた。
福祉施設は、厚生年金保険の福祉施設119施設、国民年金の福祉施設60施設、旧政府管掌健康保険の福祉施設193施設、制度共通の福祉施設93施設、計465施設が設置されており、それらの施設に係る土地取得費及び施設整備費として支出された額は、計2兆3575億円となっている。そして、福祉施設の運営に当たっては、当時の保険者であった国が公益法人等に委託して行ってきた。
社会保険庁は、16年度に行われた年金制度改正において、年金制度等を取り巻く厳しい財政状況、福祉施設を取り巻く社会環境、国民のニーズの変化等に鑑み、医師不足等が問題となっている地域医療を担う役割を果たしている社会保険病院及び厚生年金病院を除いた福祉施設の整理合理化を行うこととし、17年3月に「年金・健康保険福祉施設(病院を除く)に係る整理合理化計画」(以下「整理合理化計画」という。)を取りまとめ、公表した。
整理合理化計画においては、福祉施設の整理合理化を推進するため、独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構(以下「機構」という。)を17年10月1日に設立すること、整理合理化の対象施設を機構の設立後5年以内に民間等に譲渡又は廃止するものとすることなどが掲げられている。そして、整理合理化計画では、318施設が整理合理化の対象とされており、これを制度別、施設類型別に示すと表1のとおりとなっている。
制度別施設 | 施設類型(施設数) [合計318施設]
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厚生年金保険の福祉施設 | 厚生年金保養ホーム(4)、会館(21)、老人ホーム(32) 健康福祉センター(25)、総合老人ホーム(17) 終身利用老人ホーム(1)、スポーツセンター(4) [計104施設]
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国民年金の福祉施設 | 健康保養センター(47)、健康センター(8) 会館(2)、総合健康センター(2) [計59施設]
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旧政府管掌健康保険の福祉施設 | 社会保険診療所(7)、健康管理センター(15) 保健福祉センター(13)、健康づくりセンター(6) 保養所・健康増進所(22) [計63施設]
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制度共通の福祉施設 | 社会保険センター(48)、社会保険健康センター(44) [計92施設]
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また、整理合理化の対象から除かれた社会保険病院及び厚生年金病院についても、民間等への譲渡又は廃止を進めるが、地域医療にとって重要な病院は、地方公共団体等と協議の上、その機能が維持できるよう十分に考慮することとされた。
社会保険庁は、整理合理化計画に基づき、整理合理化の対象となった318施設のうち、17年10月の機構設立前に同庁において譲渡又は廃止した15施設を除く303施設を機構に現物出資した。その後、厚生労働大臣の指示により、3施設については、当該施設が連携している厚生年金病院と一体で譲渡することとされた。この結果、機構が民間等に譲渡することなどにより整理合理化を行う対象となる福祉施設(以下「譲渡福祉施設」という。)は300施設となり、機構は、22年8月までにこれらの300譲渡福祉施設を全て民間等に譲渡している。
22年度末現在、社会保険病院は51病院(これらに7看護専門学校及び29介護老人保健施設が併設)が、厚生年金病院は10病院(これらに3看護専門学校及び3厚生年金保養ホームが併設)が、それぞれ機構から委託を受けた公益法人等により運営されている(以下、これらを合わせて「病院等」という。)。
社会保険庁は、一連の社会保険庁改革により同庁が廃止されることとなり、社会保険病院は20年10月以降、厚生年金病院は22年1月以降、同庁での設置運営ができなくなる状況となったことから、20年10月に103病院等を機構へ現物出資した。
このため病院等は機構の保有となったが、同庁は、民間等への譲渡に当たっては、地域の医療体制が損なわれないように十分に配慮することを基本に、各病院等が地域医療に果たしている機能を踏まえつつ、その所在する地域の地方公共団体の意見を聴取した上で、譲渡対象となる病院等を選定することとした。そして、機構は、103病院等のうち2病院等を民間等に譲渡している。
前記のように、当時の保険者であった国は、譲渡福祉施設及び病院等の運営を財団法人厚生年金事業振興団(以下「厚生団」という。)、社団法人全国社会保険協会連合会(以下「全社連」という。)等の公益法人等への委託により行ってきた。
そして、厚生労働大臣は、これらの施設が機構に出資された後も当該施設の運営は公益法人等に委託して行うこと、この場合の委託契約の内容は、機構設立前に社会保険庁が委託していた公益法人等との契約内容を基本とすることなどを機構の中期目標に定めている。
機構が公益法人等と締結した譲渡福祉施設及び病院等の運営に係る委託契約(以下「運営契約」という。)によると、公益法人等は、運営を委託された施設ごと又は施設の種別ごとに特別会計を設置し、それぞれの施設の運営による収入をもってその運営のための支出に充てることとされている。また、施設の効率的かつ安定的な運営に資するため、各会計間の調整及び共同事業を実施するための管理特別会計を設けることができるとされている。
そして、公益法人等は、福祉施設が民間等に譲渡されるなどして運営委託が終了したときは、運営契約に係る特別会計を清算し、清算後の剰余の資産を機構に引き渡すこととされているが、複数の福祉施設の運営を一括して受託している場合は、全ての施設の運営委託が終了したときに、運営契約に係る特別会計及び管理特別会計を清算するものとされている。
「政府関連公益法人(注) の徹底的な見直しについて」(平成21年12月閣議決定)によると、公益法人を管轄する主務大臣は、公益法人が保有する資産等の経営資源が事務・事業の目的・内容に照らして過大なものとなっていないかなどについて指導監督等を強化することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、譲渡福祉施設の譲渡完了後も引き続き病院等の運営を機構から受託している公益法人が保有している、譲渡福祉施設及び病院等の運営により生じた資金等が、病院等の運営に今後必要となる資金に照らして適切な規模となっているかなどに着眼して、譲渡福祉施設及び病院等の運営に係る経理を対象にして、貴省本省並びに多数の病院等の運営を機構から受託している政府関連公益法人である厚生団及び全社連において、契約書、事業報告書、決算書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
厚生団は、社会保険庁又は機構から107譲渡福祉施設及び12病院等の運営を受託していたが、これらのうち107譲渡福祉施設が22年度までに民間等に譲渡されたため、22年度末現在では12病院等の運営を受託している。
厚生団は、譲渡福祉施設及び病院等の運営に当たり、運営契約に基づき、厚生年金病院、厚生年金保養ホーム、厚生年金会館等の施設の種別ごとに9特別会計を設置して経理を行っていた。そして、これらのほか、管理特別会計として施設管理特別会計を設置して、各福祉施設から必要最小限の運転資金以外の資金の預託(以下、この預託を受けた資金を「預託金」という。)を受け、この預託金を原資として運転資金が不足する施設に対する貸付けを行うなどしていた。20年度から22年度までの各年度末時点における施設管理特別会計の病院等に係る預託金及び貸付金の状況を示すと、表2のとおり、病院等から施設管理特別会計に預託されている預託金の額が22年度末時点で236億4600万円と多額に上っている。一方、預託金を原資にして病院等へ貸し付けている貸付金の額は、22年度末時点で29億6163万余円にとどまっていて、厚生団は、22年度末時点で差引き206億8436万余円の資金を保有していることになる。そして、この資金の額は、厚生団における22年度の事業費用及び事業外費用の合計額563億5940万余円の36.7%に相当するものとなっている。また、病院等に係る3特別会計は、20年度に計20億2656万余円、21年度に計22億0570万余円、22年度に計39億8617万余円の当期剰余金を生じている。
特別会計名 | 厚生年金病院 | 厚生年金 看護専門学校 |
厚生年金 保養ホーム |
計 | |
平成 20年度末 |
預託金 貸付金 |
18,492,000 2,202,000 |
— — |
96,816 34,139 |
18,588,816 2,236,139 |
差額 | 16,290,000 | — | 62,677 | 16,352,677 | |
21年度末 | 預託金 貸付金 |
18,743,000 2,512,000 |
— — |
91,816 39,139 |
18,834,816 2,551,139 |
差額 | 16,231,000 | — | 52,677 | 16,283,677 | |
22年度末 | 預託金 貸付金 |
23,564,000 2,911,000 |
— — |
82,000 50,639 |
23,646,000 2,961,639 |
差額 | 20,653,000 | — | 31,361 | 20,684,361 |
厚生団は、施設管理特別会計の預託金について、運転資金が不足する病院等への貸付資金のほか、病院等の運営に必要な設備及び医療機器を調達する際の資金、厚生年金病院の建替工事等の施設整備費等に充てるとしているが、貴省は、これらの使途にどの程度の資金を要するかについて十分に把握していない状況である。
全社連は、機構から5譲渡福祉施設及び87病院等の運営を受託していたが、これらのうち5譲渡福祉施設及び1病院等が21年度までに民間等に譲渡されたため、22年度末現在では86病院等の運営を受託している。
全社連は、譲渡福祉施設及び病院等の運営に当たり、運営契約に基づき、社会保険病院、介護老人保健施設、健康管理センター等の施設ごとに93特別会計を設置して経理を行っていた。そして、これらのほか、管理特別会計として病院清算特別会計を設置して、民間等に譲渡された施設に係る特別会計を清算した後の損益の経理を行っていた。
22年度末時点において病院清算特別会計が管理している清算後の剰余の資産をみると、15億7416万余円となっている。
しかし、病院清算特別会計は、譲渡された施設に係る特別会計を清算した後の損益の経理を行うことを目的とした管理特別会計であるため、剰余の資産は、病院等の運営資金に充てられることとはなっておらず、全社連において保有されている状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
以上のように、厚生団において病院等の運営によって生じた多額の資金が、全社連において民間等に譲渡された譲渡福祉施設等に係る特別会計の清算による多額の剰余の資産が、それぞれ保有されているにもかかわらず、貴省において、これらの資金及び剰余の資産が今後の病院等の運営に見込まれる経費の具体的な内容等からみて適切な規模であるかについて十分に把握しておらず、その有効活用を図るための方策が十分に検討されていない事態は、近年の年金制度等を取り巻く厳しい財政状況及び政府関連公益法人に対する指導監督の強化の観点からみて適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、運営契約において、公益法人等が複数の福祉施設の運営を一括して受託している場合は、管理特別会計の清算及び特別会計を清算した後の剰余の資産の納付は全ての施設の運営委託が終了したときに行うこととされていることにもよるが、貴省において、福祉施設の運営により生じた資金及び剰余の資産の適切な規模を把握して、その有効活用を速やかに図ることについての検討が十分でなかったことなどによると認められる。
貴省は、整理合理化計画等に基づき、福祉施設の整備により生じた年金資金等の損失の最小化を果たすべく、機構を通じて福祉施設を民間等へ譲渡する事業等を実施している。
そして、機構は、22年度末までに302譲渡福祉施設等の譲渡を完了したところであるが、前記のように、厚生団及び全社連は、病院等の運営及び譲渡福祉施設の譲渡により生じた多額の資金及び剰余の資産をその内部に保有している状況となっている。
一方、機構においては、今後、東日本大震災により被害を受けた病院等の復旧等に係る費用や、独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の一部を改正する法律(平成23年法律第73号)により、26年6月までに独立行政法人地域医療機能推進機構に改組されることに伴う費用が必要となることが見込まれている。
ついては、貴省において、厚生団及び全社連が保有している資金及び剰余の資産について、厚生団及び全社連のこれまでの病院等の運営状況を分析したり、今後の病院等の運営に見込まれる経費の具体的な内容を資金の収支に係る計画等により精査したりするなどして、その適切な規模を把握した上で、今後、機構において必要となる上記の費用に充てたり、機構を通じて国に納付させたりするなど、その有効活用を図るための方策を速やかに検討するよう意見を表示する。