会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)厚生労働本省 | (項)生活保護費 |
部局等 | 厚生労働本省、13県 | ||
国庫負担の根拠 | 生活保護法(昭和25年法律第144号) | ||
補助事業者 (事業主体) |
県2、市17、計19事業主体 | ||
国庫負担対象事業 | 生活保護事業 | ||
国庫負担対象事業の概要 | 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するためにその困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの | ||
180日を超えて入院していた被保護者のうち入院継続の必要性がないとされた被保護者数 | 64人 | ||
上記の被保護者について支払われていた医療扶助費の額 | 5億6970万余円(平成20年度〜22年度) | ||
上記に係る国庫負担金相当額 | 4億2727万円 |
(平成23年10月28日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が、法による保護(以下「保護」という。)を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金(以下「負担金」という。)を交付している。
全国の事業主体に対する負担金の交付額は、平成20年度で2兆0254億余円、21年度で2兆2553億余円に上っている。
保護は、その内容によって、生活扶助、医療扶助、介護扶助等の8種類に分類され、このうち、医療扶助は、厚生労働大臣、都道府県知事、政令指定都市の市長又は中核市の市長が指定する医療機関(以下「指定医療機関」という。)等において、被保護者が診療を受ける場合等の費用(以下「医療扶助費」という。)について行われるものであり、被保護者が医療保険の加入者でない場合は、指定医療機関等に支払われる診療費等の全額が医療扶助の対象となる。
そして、医療扶助の実施に際しては、法に基づくほか、「生活保護法による医療扶助運営要領について」(昭和36年社発第727号厚生省社会局長通知。以下「運営要領」という。)等により事務を処理することとされている。
運営要領等によれば、事業主体は、医療扶助の申請を受けた場合は、医療の必要性を検討した上で医療扶助を決定することとなっており、医療扶助が医療の必要性、内容、程度の判定等といった専門的な判断を要する特殊性を持つものであることから、指定医療機関に対して、事業主体が発行する医療要否意見書、精神疾患入院要否意見書等(以下、これらを合わせて「要否意見書」という。)への意見の記載を求め、これに基づき医療扶助を実施することとなっている。
そして、医療扶助が上記のとおり専門的な判断を要することから、事業主体は、医療扶助の決定及び実施に当たり、現業員(注1)
、査察指導員(注2)
等に対して専門的な判断を踏まえた必要な助言指導を行う医師(以下「嘱託医」という。)を委嘱することとされており、嘱託医は、要否意見書、診療報酬明細書等の内容の検討等を行うこととなっている。
そして、事業主体は、嘱託医の意見により、医療扶助を受給している被保護者が6か月を超えて医療を必要とするとき、また、その後も引き続き医療を必要とする場合には、6か月を経過するごとにそれぞれ指定医療機関から要否意見書の提出を受け、これにより、医療扶助の継続の要否を十分検討することとなっている。
また、現業員等は定期的に被保護者の生活状況等を把握等するための訪問調査を行うこととなっており、入院している被保護者については、少なくとも1年に1回、被保護者、指定医療機関の主治医等と面接を行い、その病状等を確認することとなっている。
そして、医療扶助の適正な実施を図るため、現業員、査察指導員、嘱託医等は、組織的な連携に努めるなどとされている。
(注1) | 現業員 保護の決定及び実施に係る調査等の事務処理を行い、保護決定の手続、被保護世帯の指導援助等を行う地区担当員。一般にケースワーカーと呼ばれている。
|
(注2) | 査察指導員 保護の決定及び実施に係る現業員による事務処理について審査を行い、現業員に対して現業活動の実施上の助言や指導を行うなどの指導監督を行う。
|
事業主体は、医療扶助の適正な実施を確保するため、入院期間が180日を超えた被保護者(以下「長期入院患者」という。)については、「医療扶助における長期入院患者の実態把握について」(昭和45年社保第72号厚生省社会局保護課長通知。以下「実施要領」という。)により、次のとおり実態把握等を行うこととしている。
〔1〕 現業員は、入院期間が180日を超えた時点及びその後も入院の継続が必要と認められた者については6か月を経過した時点ごとに、長期入院患者に係る直近の要否意見書、過去6か月分の診療報酬明細書等を準備する。
〔2〕 嘱託医は、〔1〕 で準備された要否意見書、過去6か月分の診療報酬明細書等に基づき、入院を継続する必要性がある者と、入院を継続する必要性について主治医の意見を聴取する必要性がある者とに分類するための検討(以下、この検討を「嘱託医の書面検討」という。)を行う。なお、嘱託医の書面検討は、診療内容の適否や医療扶助の要否自体の確認を目的とする要否意見書の審査と異なり、退院の可能性について主治医に確認が必要かどうかの検討を行うものであることから、要否意見書、診療報酬明細書の内容等から明らかに入院を継続する必要性があると認められる者以外の者については、退院の可能性について主治医の意見を聴取することとなっている。
〔3〕 現業員は、主治医の意見を聴取して実態を把握する必要がある者(以下「実態把握対象者」という。)について、実態把握対象者名簿及び調査票を整備し、当該長期入院患者に係る主治医の意見を調査票に記入する。
〔4〕 現業員は、主治医の意見を聴取した結果、入院を継続する必要性のないことが明らかな者について、速やかに、当該長期入院患者及びその家族を訪問して実態を把握し、退院に必要な措置の状況(以下「措置状況」という。)を調査票に記入する。そして、退院を阻害している要因の解消を図るとともに、退院に向けた適切な指導等を行う。
事業主体は、管内における実態把握対象者の状況、検討経過、措置状況等を常時把握しておくこととなっている。また、事業主体は、前記の実態把握対象者名簿に登載された者に係る3月31日現在の嘱託医の書面検討の状況及び措置状況を、所定の様式により、毎年、都道府県等に報告している(以下、この報告を「年度報告」という。)。都道府県等は、管内の事業主体に対する指導監査等において、実態把握対象者の状況、措置状況等を確認するとともに、適切な指導及び援助を行うこととなっている。また、貴省は、年度報告の内容を生活保護法施行事務監査等において確認することとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
21年度における全国の被保護者数は約176万人で、そのうちの約80%に当たる約140万人が医療扶助を受けており、21年度の生活保護費3兆0071億余円(うち負担金相当額2兆2553億余円)のうち医療扶助費は1兆4514億余円(同1兆0886億余円)で、全体の48.2%と半数近くを占めている。また、21年度における医療扶助から歯科診療分等を除いた一般診療分1兆2451億余円(同9338億余円)のうち入院医療に係る分は8363億余円(同6272億余円)で、一般診療分の67.1%を占めている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、医療扶助を実施している長期入院患者の実態把握が適切に行われているかなどに着眼して、31都道府県(注3)
の226事業主体の247福祉事務所において、20年度及び21年度の年度報告に記載されている長期入院患者延べ40,124人(これらに係る医療扶助費1603億6045万余円(うち負担金相当額1202億7034万余円))を対象に、医療扶助の実施状況等について事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のとおり、長期入院患者の実態把握が適切に行われていないなどの事態が見受けられた。
すなわち、29都道府県の130事業主体の136福祉事務所に係る長期入院患者延べ12,084人(これらに係る医療扶助費473億6376万余円(うち負担金相当額355億2282万余円))について、事業主体は、嘱託医の書面検討を行ったとしていたが、実際には、嘱託医は医療扶助の要否自体の確認を目的とする要否意見書の審査のみを行っているだけで、嘱託医の書面検討を行っていなかった。そして、現業員等は、要否意見書において、嘱託医が医療扶助の実施を容認していたことをもって、嘱託医の書面検討が行われたと判断するなどしていた。
また、上記の長期入院患者12,084人のうち27都道府県の103事業主体の108福祉事務所に係る1,417人(これらに係る医療扶助費54億6775万余円(うち負担金相当額41億0081万余円))について、事業主体は、主治医の意見を聴取していなかった。
なお、上記の事業主体のうち、一部の事業主体では、訪問調査を行っていたが、その内容は主に長期入院患者、主治医等から、長期入院患者の現況を聴取等することであり、退院の可能性について主治医の意見を聴取していなかった。
そこで、上記の主治医の意見を聴取していなかった長期入院患者1,417人について、要否意見書等の記載内容等から入院を継続していることについて疑義のある点等について、事業主体を通じて主治医等に確認するなどして、調査を行った結果、13県(注4)
の19事業主体の19福祉事務所に係る64人については、入院継続の必要性はないとされた。このように、長期入院の実態把握が適切に行われていなかったため、退院に向けた指導及び援助が十分に行われないまま、上記の64人に対して、入院期間が180日を超えた翌月から上記の調査時点までの医療扶助費(注5)
(以下「180日超医療扶助費」という。)が5億6970万余円(うち負担金相当額4億2727万余円)支払われていた。
(注4) | 13県 茨城、栃木、石川、岐阜、滋賀、兵庫、島根、徳島、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
|
(注5) | 平成19年度以前に入院期間が180日を超えている長期入院患者については20年4月以降の医療扶助費を計上している。
|
A市は、被保護者Bの入院期間が180日を超えたため、長期入院患者としての実態把握の対象としていた。しかし、A市は、嘱託医による要否意見書の審査をもって入院を継続する必要性があると判断し、さらに、主治医の意見を聴取しないまま、医療扶助の継続を決定し、実施していた。
しかし、本院が検査したところ、要否意見書の記載内容等から入院を継続していることに疑義が生じたことから、A市を通じてBの主治医に対して入院を継続する必要性について調査したところ、主治医の判断は、特別な医療行為は行っておらず施設への入所が適当であるとのことであった。そして、上記の調査時点までに指定医療機関から提出された要否意見書に記載された病状に変化はなく、この間、長期入院の実態把握が適切に行われていなかったため、退院に向けた指導及び援助が行われないまま、Bに係る180日超医療扶助費が計1328万余円(うち負担金相当額996万余円)支払われていた。
(改善を必要とする事態)
以上のように、医療扶助における長期入院患者の実態把握が適切に行われていなかったことにより、退院に向けた指導及び援助が適時適切に行われないまま医療扶助を継続している事態は、医療扶助の適正な実施を図る上で適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において
(ア) 現業員、査察指導員、嘱託医及び主治医の間における長期入院患者の実態把握等についての組織的な連携が十分なされていないこと
(イ) 実施要領の理解が十分でなく、実施要領に基づき長期入院患者の実態把握等を適切に行うことに対する認識が十分でないこと
イ 貴省において、実施要領等に基づき長期入院患者の実態把握等を適切に行うことについての周知徹底が十分でないこと
近年、被保護者数及び負担金は増加傾向にあり、引き続き保護の適正な実施が強く求められている。ついては、貴省において、長期入院患者の実態を適切に把握し、退院に向けた指導及び援助をするなどして、医療扶助費の低減を図り、負担金の交付が適切なものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 事業主体に対して、現業員、査察指導員、嘱託医及び主治医の間で長期入院患者の実態把握等について組織的な連携を行うよう、技術的助言等をすること
イ 長期入院患者の実態把握の必要性及び実施要領に基づき適正に長期入院患者を把握することの重要性を事業主体に周知徹底するとともに、長期入院患者の実態把握等を確実に行うことができるよう、次のことを実施すること
(ア) 嘱託医の書面検討が行われたことを確認できるよう書面検討の結果等を記載する様式等を示すこと
(イ) 現業員等が主治医の意見を聴取するに当たり、的確に主治医の意見を聴取できるよう、退院の可能性を確認するため聴取すべき事項を例示等すること
(ウ) 退院の可能性について主治医から聴取した意見等を記載する項目等を調査票等に設けるなどすること
ウ 貴省、都道府県等が事業主体に対して行う生活保護法施行事務監査の際に、長期入院患者の実態把握等について確認し、長期入院患者の実態把握等が十分でない事業主体に対して改めて指導を徹底すること