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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

食農連携事業による新商品の開発等について、課題提案書等の審査を充実させることなどにより、事業の効果が十分に発現するよう改善の処置を要求したもの


(3) 食農連携事業による新商品の開発等について、課題提案書等の審査を充実させることなどにより、事業の効果が十分に発現するよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省
(項)食品産業競争力強化対策費
(平成19年度以前は、 (項)総合食料対策費)
部局等 部局等農林水産本省
補助の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
1公益法人(平成17、18両年度)
1公益法人、 12任意団体、 計13事業主体(平成19年度〜21年度)
間接補助事業者
(事業主体)
4公益法人、 12任意団体、 計16事業主体(平成17、18両年度)
(16事業主体と上記13事業主体の合計から重複する事業主体7を除いた事業主体数22事業主体)
補助事業 地域食料産業クラスター形成促進事業(平成17、18両年度)
食料産業クラスター体制強化事業(平成19、20両年度)
食農連携体制強化事業(平成21年度)
補助事業の概要 食品産業と農林水産業の連携により国産農林水産物と加工技術を活用して需要に即した新商品を開発するとともに、その販路の拡大等の取組を支援するもの
新商品の開発等が順調に実施されていなかったものの件数 106件(平成17年度〜21年度)
上記に係る事業費 4億9598万余円
上記に対する国庫補助金相当額 2億4730万円

【改善の処置を要求したものの全文】

   食農連携事業による新商品の開発等について

(平成23年10月19日付け 農林水産大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(1) 食農連携事業の概要

 貴省は、平成17年度から、食品産業の競争力の強化を図ることを目的として、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)に基づき、食品産業競争力強化対策事業(19年度以前は総合食料対策事業)を実施している。そして、貴省は、同事業の一環として、農商工連携の取組を通じた地域経済の活性化等を目的として、17、18両年度は地域食料産業クラスター形成促進事業、19、20両年度は食料産業クラスター体制強化事業、21年度は食農連携体制強化事業(以下、これらの事業を総称して「食農連携事業」という。)を実施する事業実施主体に対して国庫補助金を交付している。
 食農連携事業は、食品産業競争力強化対策事業実施要領(平成20年19総合第1744号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要領」という。)等に基づき、都道府県単位に設立された食料産業クラスター協議会(以下「協議会」という。)が事業実施主体となって、食品産業と農林水産業の連携により国産農林水産物と加工技術を活用して需要に即した新商品を開発し、その販路の拡大等を実施する取組(以下、この取組を「新商品の開発等」という。)を支援する事業である。
 貴省は、食農連携事業を、17、18両年度については、財団法人食品産業センター(以下「センター」という。)を経由した間接補助事業として、センターを通じて貴省本省に事業実施計画書を提出して選定された協議会に対して補助金を交付して実施していた。そして、19年度以降については、貴省が定めた公募要領により課題提案書を提出した協議会について、貴省本省において事業の実施内容等に関する審査等を行い、選定した協議会に対して直接補助金を交付して実施している。

(2) 新商品の開発等

 食農連携事業により新商品の開発等を実施する場合、協議会は、実施要領等により、事業内容を記載した事業実施計画書を地方農政局(北海道に所在する協議会にあっては貴省本省、沖縄県に所在する協議会にあっては沖縄総合事務局。以下同じ。17、18両年度はセンターを通じて貴省本省)に提出し、審査・承認を受けることとされている。そして、事業実施計画書には、新商品の開発等の中心となる食品製造業者(以下「コア企業」という。)、主要原材料の国産農林水産物、主要原材料を取引する農業者、売上計画、開発・製造・販売の連携体制等を記載するとともに、事業完了年度の翌年度から3年間の主要原材料の使用量、新商品の販売額等の事業目標を記載することとされている。
 また、協議会は、事業実施年度内(17年度から20年度までは1年以内、21年度以降は3年以内)に、開発しようとする新商品の衛生状態や成分の検査、試作品の製造等を行い、商品化を完了させることが求められている。そして、事業完了年度以降において、食農連携事業の成果として開発した新商品を安定的に製造・販売していくことが期待されている。そのため、協議会は、実施要領等により、事業実施年度終了後速やかに事業実績報告書を地方農政局(17、18両年度は地方農政局を経由してセンター及び貴省本省)に提出するとともに、事業完了年度の翌年度から3年間にわたり、主要原材料の使用量等の事業実績を記載した事業成果報告書及び新商品の販売額、販売で得た収益等の状況を記載した収益納付等状況報告書を地方農政局(17、18両年度は地方農政局を経由してセンター及び貴省本省)に提出することとされている。
 そして、地方農政局は、事業成果報告書及び収益納付等状況報告書(以下「事業成果報告書等」という。)の内容を確認して、事業実施計画書に掲げた事業目標が達成されていない場合には、当該協議会に対して必要な指導を行うこととなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、有効性等の観点から、食農連携事業による新商品の開発等において、事業実施計画書どおりに国産農林水産物が主要原材料として活用されているか、主要原材料の使用量や新商品の販売額が目標を達成しているかなどに着眼して、北海道食料産業クラスター協議会等32協議会が17年度から21年度までの間に実施した食農連携事業による新商品の開発等207件(事業費計8億5238万余円(国庫補助金相当額計4億2431万余円))を対象として検査を実施した。
 検査に当たっては、貴省本省において、課題提案書及び事業実施計画書を基に事業内容の審査方法等を聴取するとともに、上記32協議会において、課題提案書等の関係書類やコア企業に記入を求めた調査票の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 前記の32協議会による207件の新商品の開発等について、事業完了年度の翌年度から3年間(19年度事業については2年間、20年度事業については1年間)における主要原材料の使用量及び新商品の販売額の実績をそれぞれ合計して、事業実施計画におけるそれぞれの目標の合計に対する割合を計算する(以下、この割合を「達成率」という。)などして、新商品の開発等の状況をみると、次表のとおりであった。

表 新商品の開発等の状況

新商品の開発等の状況 新商品の開発等 事業費 国庫補助金相当額
新商品の開発等が順調に実施されていなかったもの
106(61.3%)
千円
495,988
千円
247,304
  開発できなかったもの又は開発したものの製造・販売できなかったもの 54(31.2%) 255,029 127,137
事業完了年度の翌年度から3年以内に製造・販売を中止していたもの 12(6.9%) 30,866 15,433
主要原材料の使用量及び新商品の販売額の達成率が30%未満のもの 40(23.1%) 210,092 104,734
主要原材料の使用量又は新商品の販売額の達成率が30%以上100%未満のもの 37(21.4%) 126,715 62,758
主要原材料の使用量又は新商品の販売額の達成率が100%以上のもの 30(17.3%) 84,683 41,993
  うち主要原材料の使用量又は新商品の販売額のいずれかの達成率が100%以上のもの 21(12.1%) 56,259 28,100
うち主要原材料の使用量及び新商品の販売額の達成率が100%以上のもの 9(5.2%) 28,424 13,892
小計 173(100%) 707,387 352,057
平成21年度事業のため、事業成果報告書等の提出期限が到来していないもの 34 144,993 72,256
合計 207 852,380 424,313
注(1)
「達成率が30%以上100%未満のもの」及び「達成率が100%以上のもの」は、主要原材料の使用量又は新商品の販売額の達成率のうち、いずれか高い方の率で分類した。
注(2)
事業費及び国庫補助金相当額は、単位未満を切り捨てているため、合計欄の金額と一致しない。

 すなわち、21年度事業のため、事業成果報告書等の提出期限が到来していない34件を除いた173件のうち、主要原材料の使用量と新商品の販売額のいずれの目標も達成していたものは9件(全体の5.2%)にすぎず、いずれかの目標を達成していなかったものは164件であった。このうち、特に新商品の開発等が順調に実施されていなかったものは、開発できなかったもの又は開発したものの製造・販売できなかったもの54件(全体の31.2%)、事業完了年度の翌年度から3年以内に製造・販売を中止していたもの12件(全体の6.9%)及び達成率が30%未満のもの40件(全体の23.1%)の計106件(全体の61.3%)であった。
 そして、新商品の開発等が順調に実施されていなかったもの106件(22協議会、事業費計4億9598万余円、国庫補助金相当額計2億4730万余円)について、その原因別に整理したところ、以下のとおりとなっていた。

ア 主要原材料について仕入先の確保や特性の把握を十分に行っていなかったもの

(17件 事業費計1億1560万余円(国庫補助金相当額計5779万余円))

 商品を安定的に製造するためには、主要原材料について、安定的に調達できる仕入先を確保するとともに、品質のばらつき度合いなどの特性を把握しておく必要がある。
 しかし、主要原材料を安定的に調達できる仕入先を確保していなかったものが11件、主要原材料の特性を十分に把握していなかったものが6件あった。

<事例1>  主要原材料を安定的に調達できる仕入先を確保していなかったもの

 群馬県食品産業協議会は、平成17年度に、株式会社Aをコア企業として、地域の特産品のマコモタケを主要原材料とした漬物を事業費143万余円(国庫補助金相当額71万余円)で開発していた。マコモタケは、収穫時期が9月末から10月末までと短く、冷凍保存に適さないため、適時に必要量が調達できる仕入先を確保する必要があった。しかし、同社は、新商品を開発したものの、事前にマコモタケを安定的に調達できる仕入先を確保していなかったためマコモタケが確保できなくなったとして、事業完了後2年で新商品の販売を中止していた。

イ 製造過程における技術的な課題の解決や加工費の低減を実現していなかったもの

(41件 事業費計1億1977万余円(国庫補助金相当額計5950万余円))

 製品を商品として継続的に製造して販売するためには、食味や食感に魅力があり、経済的に加工できる新商品を開発する必要がある。
 しかし、商品の食味や食感を改善できないなど製造過程における技術的な課題を解決できなかったものが28件、加工費を低減できなかったものが13件あった。

<事例2>  製造過程における技術的な問題を解決できなかったもの

 北海道食料産業クラスター協議会は、平成21年度に、有限会社Bをコア企業として、北海道産の小麦、牛乳等を主要原材料とした液状の生地のまま冷凍保存できる蒸しパンを事業費640万円(国庫補助金相当額320万円)で開発していた。同社は、液状の生地を冷凍すると加熱してもふくらみが不足することを事業採択前の課題提案書の提出段階において認識していたが、その問題を解決できるとしていた。しかし、同社は、事業実施前に解決策について十分に検討しないまま事業に着手したため、原材料の配合や容器の改良等を行ったものの問題を解決できず、事業完了年度後も商品化していなかった。

ウ 開発した新商品が適切な販売価格になっていなかったり、消費者の需要に合っていなかったりしたもの

(27件 事業費計1億6656万余円(国庫補助金相当額計8302万余円))

 商品を継続的に販売するためには、消費者の需要を的確に把握して、販売価格を適切に設定するとともに、需要に合った商品にする必要がある。
 しかし、消費者の需要調査や類似商品の市場調査を行わなかったことから、開発した新商品が適切な販売価格になっていなかったり、消費者の需要に合っていなかったりしたものが27件あった。

<事例3>  開発した新商品が適切な販売価格になっていなかったもの

 福岡県食料産業クラスター協議会は、平成17年度に、C協同組合をコア企業として、健康志向が高い高齢者等の消費者向けに福岡県産の米、黒米、赤米等を主要原材料とした薬膳弁当を事業費333万余円(国庫補助金相当額166万余円)で開発していた。しかし、同組合は、市場調査を行わずに販売価格を高額に設定したことから新商品をほとんど販売できず、事業完了後1年で製造・販売を中止していた。

エ 商品の製造業者や小売業者を決めていなかったもの

(21件 事業費計9405万余円(国庫補助金相当額計4698万余円))


<事例4>  開発した新商品が適切な販売価格になっていなかったもの

 熊本県食料産業クラスター協議会は、平成18年度に、製粉業者であるD株式会社をコア企業として、熊本県産の小麦を主要原材料としたパンを事業費409万余円(国庫補助金相当額204万余円)で開発していた。しかし、同社は、パンの試作を行いレシピを作成していたものの事業実施計画書作成段階においてパンを製造する製パン業者や小売業者を決めないまま事業に着手しており、事業期間内においても製パン業者や小売業者を特定できなかったことから、事業完了年度後も商品を製造・販売していなかった。

 そこで、前記の22協議会について、課題提案書及び事業実施計画書の作成状況やコア企業への指導・助言の状況を確認したところ、協議会は、課題提案書及び事業実施計画書の作成に当たり、コア企業による新商品の開発等に関する事前の調査・検討の状況を十分に確認しておらず、新商品の開発等が順調に実施されていなかったのに、コア企業に対して改善に向けた適切な指導や助言を行っていなかった。
 また、貴省本省及び地方農政局による課題提案書及び事業実施計画書の審査状況について確認したところ、貴省本省及び地方農政局は、事業内容、事業実施方法、事業実施主体の適格性等については審査していたが、新商品の需要の有無や販路の確保状況等については十分に審査していなかった。
 さらに、地方農政局は、事業実績報告書に事業完了年度における新商品の開発結果、販売価格、販売先等を記載することにしていなかったこと、事業完了年度の翌年度から3年間、協議会に事業成果報告書等を提出させているのに、その記載内容に漏れがないかなどについて確認するのみであったことなどから、事業完了後の新商品の販売状況等について十分に把握しておらず、改善に向けた指導をほとんど行っていなかった。

(改善を必要とする事態)

 以上のように、食農連携事業による新商品の開発等において、新商品を開発できなかったり、開発したものの製造・販売できなかったり、事業完了年度の翌年度から3年以内に製造・販売を中止していたりなどしていて、新商品の開発等が順調に実施されておらず、食農連携事業が農商工連携の取組を通じた地域経済の活性化等に必ずしも寄与していない事態は、事業の効果が十分に発現していないことから適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 協議会及びコア企業において、主要原材料の仕入先の確保、製造過程における技術的な課題の解決策、販売価格の設定、事業の実施体制等について調査・検討を十分に行っていないこと
イ 地方農政局において、事業実施計画書の審査に当たり協議会やコア企業による新商品の開発等に関する取組内容について十分に審査していないこと及び協議会から事業実績報告書、事業成果報告書等の提出を受けているのに、事業完了後の新商品の販売状況等について十分に把握しておらず、改善に向けた指導をほとんど行っていないこと
ウ 貴省本省において、事業実施主体の採択に当たり、新商品の開発等に関する事業実施前の調査・検討状況等について事前の審査を十分に行っていないこと

3 本院が要求する改善の処置

 貴省は、農林漁業等の振興、農山漁村その他の地域の活性化を図ることなどを目的として、農林漁業生産と加工・販売の一体化や地域資源を活用した新産業の創出を促進するなど、農山漁村の6次産業化(注) を基本政策に掲げており、その一環として、23年度から6次産業推進地域支援事業を実施している。そして、貴省は、食農連携事業により実施していた国産農林水産物を活用した新商品の開発等について、6次産業推進地域支援事業により、同様の仕組みで引き続き実施することとしている。
 ついては、貴省において、6次産業推進地域支援事業により新商品の開発等を実施する際に、その開発等が順調に行われて事業の効果が十分に発現することになるよう、次のとおり 改善の処置を要求する。

ア 新商品の開発等を実施する事業実施主体の募集に際して、主要原材料の仕入先の確保、製造過程における技術的な課題の解決策、販売価格の設定、事業の実施体制等について、事業実施前に十分に調査・検討した上で提案するよう公募要領等に明示するとともに、その検討状況を課題提案書に記載させること
イ 地方農政局に対して、課題提案書及び事業実施計画書を審査するためのマニュアル等を作成して通知するなどして、事業実施主体による新商品の開発等に関する取組内容について十分に審査するよう指導するとともに、事業実績報告書に新商品の販売価格、販売先等を記載するようにするなどして、新商品の販売状況等を把握して問題がある場合はその改善に向けて事業実施主体を適時に指導するよう指示すること
ウ 貴省本省において、新商品の開発等に関する事業実施前の調査・検討状況等について、課題提案書により事前に十分に審査し、その結果を事業の採択に反映させること

(注)
6次産業化  農林水産物の生産(1次産業)だけでなく、食品加工(2次産業)、流通・販売等(3次産業)にも農業者が主体的かつ総合的に関わることで、第2次・3次産業事業者が得ていた付加価値を農業者が得ようとする取組