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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

都道府県等の事業主体が締結する造林事業に係る請負契約等について、同一の市町村管内を施行地とする造林事業で競争入札により契約を締結している事業主体がある場合には、競争の利益を享受し、入札・契約方式の一層の適正化を図るため、原則として競争入札により契約を締結することなどを都道府県等に指導するよう改善の処置を要求したもの


(4) 都道府県等の事業主体が締結する造林事業に係る請負契約等について、同一の市町村管内を施行地とする造林事業で競争入札により契約を締結している事業主体がある場合には、競争の利益を享受し、入札・契約方式の一層の適正化を図るため、原則として競争入札により契約を締結することなどを都道府県等に指導するよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)林野庁 (項)森林整備事業費
(項)治山事業費 等
部局等 林野庁
補助の根拠 森林法(昭和26年法律第249号)、予算補助
補助事業者
(事業主体)
13道府県、284市町村等、11林業公社
補助事業の概要 森林整備又は治山の一環として植栽、下刈、間伐等の造林事業を行うもの
随意契約により締結された造林事業の事業費
151億6779万余円
(平成21、22両年度)

上記のうち同一の市町村管内を施行地とする造林事業で競争入札により契約を締結している事業主体がある場合の事業費
102億7058万余円
 

上記の随意契約を競争入札に変更したと仮定して試算した低減できることになる事業費
3億4865万余円
(平成21、22両年度)

上記に対する国庫補助金相当額
1 億6281万円
 

【改善の処置を要求したものの全文】

   造林事業における入札・契約方式について

(平成23年10月28日付け 林野庁長官宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 造林事業における入札・契約方式の概要

(1) 入札・契約方式に係る関係法令等

 貴庁は、森林法(昭和26年法律第249号)等に基づき、森林の適正な整備を推進することなどを目的として、都道府県、市町村(財産区(注1) を含む。以下同じ。)及び林業公社(注2) (以下、これらを合わせて「都道府県等」という。)の事業主体が森林整備又は治山の一環として植栽、下刈、間伐等の造林事業を行う場合に、その事業に要する費用の一部について国庫補助を行っている。
 そして、都道府県及び市町村が森林組合、民間事業体等と造林事業に係る請負契約等を締結する場合には、地方自治法(昭和22年法律第67号)、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)等により、原則として、一般競争入札によることとされているが、その性質又は目的が一般競争入札に適しない場合等には指名競争入札、その性質又は目的が一般競争入札及び指名競争入札(以下「競争入札」という。)に適しない場合等には随意契約によることができるとされている。また、林業公社が造林事業に係る請負契約等を締結する際には、自らが定めた内部規程により、競争入札又は随意契約によることとされている。

(注1)
 財産区  地方自治法により、市町村の一部の山林を市町村の財産として保有している特別地方公共団体
(注2)
 林業公社  分収方式による造林を行うなどのため、地方公共団体等からの出資を受けて平成18年改正前の民法(明治29年法律第89号)第34条の規定により設立された公益法人

(2) 造林事業における随意契約の見直しの状況

 平成20年3月に閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画(改定)」は、行政の各般の分野について、規制の在り方の改革の積極的かつ抜本的な推進を図り、経済社会の構造改革を一層加速することを目的としており、この中で、意欲のある林業経営者等の事業拡大を図るため、都道府県等が行う造林事業に係る森林組合への随意契約については、見直しを含め、必要な措置を講ずることとされた。さらに、21年3月に閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」において、国、都道府県を問わず、造林事業を行う場合には競争入札がなされるよう取組を強化することとされた。
 貴庁は、上記に関し、各都道府県に対して、次の内容を記載した通知文書を発している。

ア 20年4月に発した「造林関係事業における競争入札の推進について」においては、透明性の確保及びコストの縮減の観点から都道府県に加え、市町村、林業公社等が実施する造林事業についても競争入札を推進すること
イ 21年5月に発した「価格及び品質が総合的に優れた契約内容による品質の確保について」においては、総合評価方式による競争入札の導入の取組等により、入札及び契約の一層の適正化を進めること
ウ 22年7月に発した「競争性のある入札制度の導入の推進について」においては、競争入札に移行することなどの取組を進めること

 そして、内閣府が、22年7月末現在の「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」の措置状況について同年12月に公表した「規制改革推進のための3か年計画等のフォローアップ結果について」において、貴庁は、造林事業の実施に際しては競争入札の導入が推進されるよう都道府県等を指導するなどして、措置を講じたとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 上記のとおり、貴庁は、各都道府県に対して造林事業を行う場合には競争入札がなされるよう通知文書を発しているところであるが、契約の透明性の確保、コストの縮減及び規制改革推進が図られるためには、都道府県等の事業主体が行う造林事業において、実際に競争入札が推進されていることが必要である。
 そこで、本院は、経済性等の観点から、都道府県等の事業主体が造林事業に係る請負契約等を締結する際に、どのような入札・契約方式を採っているか、随意契約の見直しの状況はどのようになっているか、随意契約のうち競争入札の実施が可能であったと認められるものはないかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、貴庁、13道府県(注3 )、13道府県管内の284市町村及び11林業公社(以下「13道府県等」という。)において会計実地検査を行った。そして、13道府県等が事業主体となって実施した造林事業に係る請負契約等21年度計2,454件(事業費計170億5608万余円、うち国庫補助金計84億7469万余円)、22年度計2,358件(事業費計142億1195万余円、うち国庫補助金計73億0160万余円)、合計4,812件(事業費合計312億6804万余円、うち国庫補助金合計157億7629万余円)を対象として、契約書、見積書等の関係書類により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 造林事業における入札・契約方式の状況について

 13道府県等の事業主体ごとに造林事業における入札・契約方式の状況についてみたところ、表1 のとおりとなっていた。

表1 各事業主体の造林事業における入札・契約方式の状況
(単位:件、千円)

事業主体
入札・契約方式
道府県 市町村 林業公社  
割合
(%)
一般競争入札 事業主体数
件数
事業費
国庫補助金
3(6)
297
3,284,576
1,486,623
10(17)
28
600,292
476,731
0(1)
10
38,238
12,232
13(24)
335
3,923,107
1,975,586

6.9
12.5
指名競争入札 事業主体数
件数
事業費
国庫補助金
6(11)
765
4,859,420
2,415,935
98(134)
695
4,719,302
3,123,073
7(9)
681
2,598,411
1,353,415
111(154)
2,141
12,177,134
6,892,424

44.4
38.9
随意契約 事業主体数
件数
事業費
国庫補助金
4(9)
358
6,325,082
2,614,612
176(221)
1,344
6,709,709
2,894,019
4(7)
634
2,133,004
1,399,655
184(237)
2,336
15,167,797
6,908,286

48.5
48.5
事業主体数
件数
事業費
国庫補助金
13
1,420
14,469,080
6,517,170
284
2,067
12,029,304
6,493,824
11
1,325
4,769,655
2,765,303
308
4,812
31,268,040
15,776,298

100
100
(注)
 入札・契約方式ごとの事業主体数は、造林事業の過半数を当該入札・契約方式により行った事業主体の数であり、( )内の数字は、造林事業の一部でも当該入札・契約方式により行った事業主体を含めた数である。

 このように、9道府県(注4) 、221市町村及び7林業公社が事業主体となって行った造林事業について計2,336件の随意契約(事業費計151億6779万余円、うち国庫補助金計69億0828万余円)が締結されており、その契約全体に占める割合は、件数、事業費ともに48.5%となっていた。
 また、上記随意契約の相手方については、〔1〕 当該契約の施行地の森林整備に精通していること、〔2〕 当該契約の施行地の森林整備において実績があること、〔3〕 森林整備を適正に行う技術力があることなどの理由により、計2,115件(事業費計101億6001万余円、うち国庫補助金計48億4421万余円)の契約が森林組合と締結されており、その随意契約全体に占める割合は件数で90.5%、事業費で66.9%となっているなど、森林組合と随意契約を締結している割合が高い状況となっていた。
 したがって、前記のとおり、貴庁において競争入札の導入の推進に関し、通知文書を発しているにもかかわらず、随意契約によっている割合が高いなど、競争入札の導入が推進されているとはいえない状況であると認められた。

(2) 随意契約から競争入札に変更した事業主体における平均落札率等の状況について

 13道府県のうち、21、22両年度において、造林事業に係る請負契約等の全てを随意契約から競争入札による方式に変更していたのは宮崎県のみであった。
 すなわち、同県は、従来、森林整備に精通していることなどを理由として、森林組合と随意契約により造林事業に係る契約を締結していたが、21年10月以降、国の方針に沿って競争入札の推進を図るため、指名競争入札による方式に変更していた。そして、造林事業の施行地がA市管内である契約について、入札・契約方式の変更に伴う平均落札率(随意契約の場合は、契約価格の予定価格に対する割合を平均したもの。以下同じ。)、落札者(随意契約の場合は契約者。以下同じ。)等の状況についてみたところ、表2のとおりとなっていた。

表2 A市管内における入札・契約方式の変更に伴う平均落札率等の状況
年度 入札・契約方式 件数 平均落札率(%) 落札者
(落札件数)
平成21 9月以前 随意契約 5 97.6 森林組合(5)
10月以降 指名競争入札 7 92.6 森林組合(5)
民間事業体(2)
22 指名競争入札 12 86.3 森林組合(9)
民間事業体(3)

 平均落札率についてみると、21年度の9月以前の随意契約に比べて、21年度の10月以降の指名競争入札では5ポイント、22年度の指名競争入札では約11ポイント低くなっていた。また、民間事業体が競争入札に参加し、落札するなどしていた。したがって、宮崎県は、入札・契約方式を変更したことにより競争の利益を享受していると認められた。

(3) 造林事業の施行地が同一の市町村管内における入札・契約方式別の平均落札率等の状況について

 上記のとおり、造林事業に係る契約の全てを随意契約から競争入札による方式に変更した事業主体においては、競争の利益を享受していると認められたことから、これを踏まえて、どのような場合に入札・契約方式を随意契約から競争入札に変更することができるか検討した。
 その結果、同一の市町村管内において造林事業を行う場合、一般に、造林事業の施行地の地理的状況、競争入札に参加し得る事業者等の所在条件等は類似していると考えられる。また、地方公共団体は、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)を踏まえて制定した規程により、競争入札を実施した契約に係る入札結果等の情報を公表することとしており、事業主体は、入札結果等の情報を容易に入手することができる状況となっている。これらのことから、競争入札により造林事業に係る請負契約等を締結している事業主体がある場合には、同一の市町村管内を施行地とする造林事業については、原則として競争入札により契約を締結することが可能であると認められる。
 そこで、13道府県において、造林事業の施行地が同一の市町村管内であって、同一年度に事業主体により入札・契約方式が異なっている事態がないか検査したところ、11道県(注5) の延べ346市町村の管内において事業主体により入札・契約方式が異なっている事態が見受けられ、その平均落札率等の状況は、表3のとおりとなっていた。

表3 造林事業の施行地が同一の市町村管内である場合の入札・契約方式別の平均落札率等
道県名 年度 事業主体により入札・契約方式が異なっている市町村の数 入札・契約方式 平均落札率
(%)
事業費
(千円)
国庫補助金
(千円)
北海道 平成
21
79 競争入札
随意契約
93.2
96.3
2,855,515
3,727,386
1,901,276
1,420,430
22 80 競争入札
随意契約
94.0
96.1
2,184,002
3,137,633
1,417,704
1,304,803
神奈川県 21 1 競争入札
随意契約
93.6
97.1
36,560
3,602
10,968
1,080
22 1 競争入札
随意契約
87.0
98.4
32,103
5,995
8,288
464
岐阜県 21 16 競争入札
随意契約
91.0
97.2
402,925
659,153
161,215
382,353
22 13 競争入札
随意契約
92.3
98.1
418,441
356,669
204,985
213,229
静岡県 21 6 競争入札
随意契約
95.6
96.8
363,681
74,064
202,204
59,641
22 7 競争入札
随意契約
93.0
98.8
71,960
56,083
55,258
26,139
滋賀県 21 4 競争入札
随意契約
96.7
99.1
283,763
11,882
134,626
6,011
22 5 競争入札
随意契約
95.3
93.8
270,968
11,270
139,841
6,295
奈良県 21 9 競争入札
随意契約
87.8
98.3
77,056
165,088
35,751
73,272
22 8 競争入札
随意契約
87.6
96.1
68,663
116,064
52,918
41,505
岡山県 21 9 競争入札
随意契約
94.3
92.3
504,109
128,212
211,113
68,121
22 9 競争入札
随意契約
95.8
93.5
579,764
161,311
233,721
81,492
香川県 21 5 競争入札
随意契約
96.3
97.4
259,171
28,196
113,276
10,970
22 3 競争入札
随意契約
96.1
94.4
142,124
19,687
63,774
17,814
長崎県 21 13 競争入札
随意契約
95.6
98.1
556,976
203,103
349,146
112,876
22 13 競争入札
随意契約
94.6
98.1
536,555
196,705
307,116
112,298
宮崎県 21 13 競争入札
随意契約
95.4
97.8
167,154
334,869
116,379
213,460
22 11 競争入札
随意契約
92.9
95.8
291,770
202,580
212,476
169,235
鹿児島県 21 19 競争入札
随意契約
97.9
98.1
312,724
361,393
176,353
182,975
22 22 競争入札
随意契約
96.6
97.1
515,772
309,627
299,696
191,901
346 競争入札
随意契約
93.7
96.7
10,931,768
10,270,581
6,408,094
4,696,375
注(1)  「事業主体により入札・契約方式が異なっている市町村の数」欄の計は平成21、22両年度の延べ数である。
注(2)  事業費及び国庫補助金の金額は、単位未満を切り捨てているため、集計しても計の欄とは一致しない。

 競争入札と随意契約の平均落札率についてみると、全体では、競争入札が93.7%、随意契約が96.7%となり、3ポイントの開差があった。また、道県ごとにみると、滋賀県(22年度)、岡山県(21、22両年度)及び香川県(22年度)を除いて、競争入札は随意契約より低い平均落札率となっており、最大で約11ポイントの開差があった。
 このように、同一の市町村管内を施行地とする造林事業について、競争入札により請負契約等を締結している事業主体がある場合、一般的には、競争入札によることにより競争の利益を享受できると認められる。したがって、そのような場合には、原則として、当該事業主体以外の事業主体についても競争入札を導入する必要があると認められる。
 したがって、本院において、前記の延べ346市町村の管内における造林事業について、随意契約から競争入札による方式に変更したと仮定して、随意契約により行った契約の予定価格に、同一の市町村管内において同一年度に競争入札により行った契約の平均落札率を乗ずるなどして事業費等を試算したところ、競争入札を導入していれば事業費3億4865万余円(国庫補助金相当額1億6281万余円)が低減できることになる。

<事例>

 宮崎県は、A市管内において、平成22年度に12件の造林事業を行っていた。これらの事業について、同県は競争入札参加資格の認定を受けた3者又は6者を指名して指名競争入札を行い、民間事業体が3件、森林組合が9件を落札したが、その平均落札率は86.3%であった。
 一方、A市は、同市管内において、同年度に2件の造林事業を行っていた。これらの事業について、同市は、〔1〕 現場に精通していること、〔2〕 他の業者にはない豊富な実績を有することなどの理由により、1森林組合と随意契約を締結していて、その平均落札率は95.4%と、上記の落札率に比べて高率となっていた。
 なお、この1森林組合は、上記の宮崎県が行った指名競争入札で7件を落札しており、その7件の平均落札率は87.3%であった。

(改善を必要とする事態)

 都道府県等の事業主体が行っている造林事業において、同一の市町村管内を施行地とする造林事業について、競争入札により請負契約等を締結している事業主体がある場合には、原則として他の事業主体においても、競争入札によることが可能であり、これにより競争の利益を享受できると認められるのに、随意契約により造林事業を行っている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 貴庁において、同一の市町村管内を施行地とする造林事業について競争入札により請負契約等を締結している事業主体がある場合には、原則として競争入札を導入することが可能であることについて、都道府県等の事業主体に対する指導が十分でなかったこと
イ 事業主体において、同一の市町村管内を施行地とする造林事業について、競争入札により請負契約等を締結している事業主体があるかを調査していないなど、競争入札を導入することについての検討が十分でなかったこと

3 本院が要求する改善の処置

 都道府県等の事業主体が造林事業を実施するに当たって、前記のとおり、「規制改革推進のための3か年計画(改定)」等に対する貴庁の措置の実効性が確保されるとともに、意欲のある林業経営者等の事業拡大や契約の透明性の確保、コストの縮減等が図られるためには、競争入札の導入がより一層推進されることが必要である。
 ついては、貴庁において、都道府県等の事業主体に対し、競争入札を導入することについての検討を十分に行うこと、特に、同一の市町村管内を施行地とする造林事業について競争入札により請負契約等を締結している事業主体があるか調査して、競争入札により請負契約等を締結している事業主体がある場合には、競争の利益を享受し、入札・契約方式の一層の適正化を図るため、原則として競争入札によることなどを指導するよう改善の処置を要求する。

(注3)
 13道府県  北海道、大阪府、千葉、神奈川、岐阜、静岡、滋賀、奈良、岡山、香川、長崎、宮崎、鹿児島各県
(注4)
 9道府県  北海道、大阪府、神奈川、岐阜、奈良、岡山、長崎、宮崎、鹿児島各県
(注5)
 11道県  北海道、神奈川、岐阜、静岡、滋賀、奈良、岡山、香川、長崎、宮崎、鹿児島各県