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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

特許料等の納付について、特許印紙による納付から口座振替による納付への積極的な誘導施策を検討することなどにより、特許印紙売りさばき手数料の負担の軽減を図るよう意見を表示したもの


(2) 特許料等の納付について、特許印紙による納付から口座振替による納付への積極的な誘導施策を検討することなどにより、特許印紙売りさばき手数料の負担の軽減を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 特許特別会計 (款)特許料等収入 (項)特許印紙収入
       
部局等 特許庁
特許印紙売りさばき手数料の概要 特許印紙の販売を受託している郵便事業株式会社が、売りさばいた金額を特許特別会計に納付するに当たり、当該売りさばき金額から一定の割合で控除する金額
特許印紙収入
996億6455万余円余円
(平成22年度)

過大となっていた支払額
32億4166万円
(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

  特許料等の納付について

(平成23年10月21日付け 特許庁長官宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 特許料等の納付方法の概要

 貴庁は、工業所有権に関する特許料、手数料等(以下「特許料等」という。)を特許の出願等を行う申請人から収納している。そして、特許料等の納付方法のうち主に利用されているものは、特許印紙による納付及び口座振替による納付である。

(1) 特許印紙による納付

 特許印紙による納付は、申請人があらかじめ購入した印紙を手続書面に貼付することにより特許料等を納付する方法であり、また、申請人が納付すべき特許料等の見込額を特許印紙により貴庁に予納しておき、必要なときに申請人の申出により貴庁が予納額から引き落とす方法も認められている。この予納制度は、平成2年12月に特許、実用新案等に係る電子出願が開始されたことに合わせて導入された。そして、貴庁所管の社団法人発明協会(以下「社団法人」という。)は、この申請人が行う特許印紙による予納を代行する事業(以下「代行納付」という。)を行っている。代行納付を利用する申請人は、特許印紙を購入するための代金を社団法人の銀行口座に口座振込により送金し、社団法人が申請人に代わって特許料等の納付に必要な特許印紙を貴庁へ提出している。
 代行納付で使用される特許印紙は、貴庁が特許印紙の売りさばきを委託している郵便事業株式会社から更に委託を受けて社団法人が販売しており、その売りさばき額は特許印紙の全売りさばき額の約半分を占めている。そして、社団法人は、郵便事業株式会社から特許印紙の販売手数料を収受していて、この販売手数料を原資として無料で代行納付を行っている。
 継続的な特許の出願等を行う申請人は、一度に数千万円相当の特許印紙を予納することもあり、このために高額な現金を持ち運び特許印紙を購入・貼付して貴庁窓口に提出したり郵送したりすることは、安全上の問題が生じるが、代行納付では、申請人は必要な金額を社団法人の口座に送金することのみで済むため、安全上の問題は生じない。
 なお、社団法人の広報資料によると、現在、2,500を超える企業・特許事務所等がこの代行納付を利用しているとされている。
 特許料等の納付に必要な特許印紙については、前記のとおり、貴庁は、特許印紙の売りさばきに関する事務を郵便事業株式会社に委託していて、22年度に同社が売りさばき金額から控除した特許印紙売りさばき手数料(売りさばいた印紙の金額の100分の3.15に相当する金額)は32億4166万余円と多額に上っている。

(2) 口座振替による納付

 口座振替による納付は、申請人の利便性の向上、特許料等の納付手続の簡素化及び特許印紙売りさばき手数料の軽減を図るなどのため、新たな納付方法として21年1月に追加されたものであり、貴庁、申請人及び金融機関の三者間の合意に基づき、申請人が口座振替による納付の申出をしたときは、金融機関が申請人の口座から国庫金口座に納付すべき額を振り替える方法である。
 そして、23年5月現在、貴庁は27金融機関と口座振替の契約を締結していて、口座振替1件につき10.50円の手数料を各金融機関に支払っており、22年度に支払った口座振替手数料は251万余円となっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 特許制度については、知的財産を活用した産業競争力の強化を図るため、手続の簡素化、料金負担の軽減等申請人の利便性を向上させることが求められている。そして、特許料等の設定は、特許業務に係る経費を特許料等の収入により支弁するという収支相償の原則を前提としていることから、経費を節減して申請人の負担する特許料等を軽減することが重要となっている。
 そこで、本院は、経済性等の観点から、特許料等の特許印紙による納付から口座振替による納付への移行が進捗しているかなどに着眼して、貴庁において、特許料等の納付方法別の収納実績等について、委託契約書等の関係書類により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 納付方法別の特許料等の収納実績等

 18年度から22年度までの間における特許料等の収納実績を納付方法別にみると、次表のとおり、22年度の口座振替による納付の利用率は21年度から増加したものの10.0%にすぎない状況となっている。また、22年度の特許印紙による納付の利用率は89.4%であるが、その大部分は予納制度の利用によるものである。

表 特許印紙による納付及び口座振替による納付の収納実績
 


全体  
うち特許印紙による納付 うち口座振替による納付
件数 金額(A) 利用率 件数 金額(B) 利用率
(B/A)
件数 金額(C) 利用率
(C/A)
18 2,667,089件 1403億円 100% 2,659,695件 1397億円 99.6%
19 2,630,876件 1731億円 100% 2,620,514件 1725億円 99.6%
20 2,524,326件 1344億円 100% 2,490,972件 1326億円 98.6% 19,285件 10億円 0.8%
21 2,345,521件 1187億円 100% 2,166,542件 1099億円 92.5% 165,438件 81億円 6.8%
22 2,398,011件 1217億円 100% 2,144,545件 1088億円 89.4% 239,453件 121億円 10.0%
注(1)
 20 年度における「口座振替による納付」は、21年1月の制度導入後の実績である。

注(2)
 代行納付の実績は、特許印紙による納付実績に含まれる。

注(3)
 特許料等の収納方法としては、他に現金納付及び電子現金納付もあるため、特許印紙による納付と口座振替による納付の件数及び金額を合計しても、全体の件数及び金額とは一致しない。

 そして、特許料等を特許印紙により納付する場合、表の特許印紙による納付件数及び金額に基づき計算すると、貴庁は1件につき平均約1,500円の特許印紙売りさばき手数料を負担していることになるが、口座振替により納付する場合には、貴庁は1件につき10.50円の手数料を負担するのみとなる。

(2) 口座振替による納付の利用率が増加しない原因

 口座振替による納付と代行納付は、申請人にとっては、いずれも金融機関を利用する納付方法であり、共に高額な現金を持ち運び特許印紙を購入・貼付して貴庁窓口に提出したり郵送したりするという安全上の問題は解消されている。そして、申請人の多くが、代行納付を含めた特許印紙による予納制度を継続して利用していて、この予納制度の利用が定着していることなどのため、口座振替による納付の利用率が増加していないと思料される。

(3) 口座振替の利用促進のための貴庁の取組状況

 口座振替による納付を取り扱っている金融機関は、21年1月に制度が導入されたときは6機関であったが、貴庁の取組により、22年10月の時点では14機関、23年5月現在では27機関となっている。
 また、貴庁は、制度の開始に合わせて、口座振替の利用方法及び口座振替による納付のメリット等を取りまとめたパンフレットを作成して、日本弁理士会等の関係機関に送付し、会員や利用者への配布を依頼するなどの周知広報活動を行っている。
 このように、貴庁は、口座振替による納付の利用率を増加させるため、一定の取組を行っているところである。
 しかし、貴庁が口座振替の契約を締結している金融機関数は増加しているものの必ずしも十分なものとなっておらず、また、貴庁が行っている周知広報活動が前記のとおり関係機関へのパンフレットの送付等にとどまっていることなどから、表のとおり、口座振替による納付の利用率は、増加傾向にあるものの22年度で10.0%にとどまっている。

(改善を必要とする事態)

 代行納付を含めた特許印紙による予納制度の利用が定着していることなどから口座振替による納付への移行が進まず、貴庁が負担している多額の特許印紙売りさばき手数料の軽減が図られていない事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴庁において、特許業務の経済的な実施についての認識が十分でないため、代行納付を含めた特許印紙による予納制度の利用が定着している状況にある中で、口座振替による納付の利用を促進するための取組が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 代行納付は、貴庁が新たな納付方法として口座振替を導入する前に、特許印紙による納付のデメリットである高額な印紙を持ち運ぶことなどの危険性を避けたいとする申請人からの要望に応えて実施されてきたものであり、現在、社団法人を含めた複数の団体において実施されている。しかし、社団法人等の代行納付は、口座振替による納付と比べて、申請人にとっては金融機関を利用する納付方法であるという点において同様であるのに、貴庁にとっては口座振替手数料と比べて著しく多額な特許印紙売りさばき手数料を負担することになっており、この負担は収支相償の原則から最終的には申請人が負担することになる。
 また、貴庁は、口座振替による納付の利用率を増加させるため、前記のとおり一定の取組を行っているところであるが、十分に効果的なものとはなっていない。
 ついては、特許業務に係る経費を軽減して申請人に還元することの重要性に鑑み、貴庁において、特許料等の口座振替による納付への移行を推進することにより特許印紙売りさばき手数料の負担の軽減を図るよう、次のとおり意見を表示する。

ア 口座振替の速やかな普及を図るため、取扱金融機関の一層の拡大を図るとともに、大口の申請人等に対し、口座振替の利便性等の情報を個別に提供するなど効果的な周知広報活動を行うこと

イ 社団法人等の代行納付を含め印紙による予納制度の在り方について十分検討するとともに、口座振替への積極的な誘導施策の実施を検討すること