会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)国土交通本省 | ||
(項)地域活力基盤整備事業費 等 | ||||
社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定) | ||||
(項)地域連携道路事業費 等 | ||||
部局等 | 直轄事業 | 6地方整備局 | ||
補助事業 | 10県 | |||
事業及び補助の根拠 | 道路法(昭和27年法律第180号)、道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和33年法律第34号)、交通安全施設等整備事業の推進に関する法律(昭和41年法律第45号)等 | |||
事業主体 | 直轄事業 | 9国道事務所等 | ||
補助事業 | 県9、市4 | |||
計 | 22事業主体 | |||
移転補償の概要 | 道路整備事業を行う国及び都道府県等が、道路整備事業により支障となる建物等を移転させる際に、所有者に対して物件の移転に伴う損失補償を行うもの | |||
移転補償費 | 直轄事業 | 103億7385万余円 | (平成20年度〜22年度) | |
補助事業 | 76億3749万余円 | (平成20年度〜22年度) | ||
(国庫補助金交付額 | 44億3196万余円) | |||
建築設備として算定していたキュービクル式の受変電設備の移転補償費 | 直轄事業 | 8243万余円 | ||
補助事業 | 1億0399万余円 | |||
低減できた移転補償費 | 直轄事業 | 7158万円 | ||
補助事業 | 8426万円 | |||
(国庫補助金相当額 | 5073万円) |
(平成23年10月13日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、道路交通の安全確保と円滑化等を図るなどのため、国が行う直轄事業又は都道府県等が行う国庫補助事業として道路整備事業を実施している。
そして、道路整備事業を行う国又は都道府県等(以下「道路事業者」という。)は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年閣議決定。以下「補償基準」という。)等に基づき、道路用地の取得に支障となる建物等を移転させるなどの際に、その所有者に対して物件の移転に伴う損失補償(以下「移転補償」という。)を行っている。
補償基準等によると、取得に係る土地等に建物等があるときは、当該建物等を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転工法によって移転するのに要する費用等を補償することとなっている。
建物等の調査や移転補償費の算定等については、貴省の「地方整備局用地調査等業務請負基準準則」(平成13年国総国調第97号総合政策局国土環境・調整課長通知)の「用地調査等共通仕様書」(以下「仕様書」という。)等に定められており、道路事業者はこれらを参考にして道路事業者ごとの共通仕様書等を作成し、業務の適正な執行を確保することとしている。
仕様書等によると、移転補償費の算定において、建物とともに移転補償の対象となる設備のうち、受変電設備を含む電気設備、昇降機等で建物と一体となって建物の効用を全うするために設けられているものは、建築設備として区分され、その移転補償費は、建物と一体のものとして算定することとなっている。
一方、原動機等により製品の製造等を行うもの、又は製造等に直接関わらない機械を主体とした排水処理施設等(建築設備以外の変電設備等を含む。)は、機械設備として区分され、その移転補償費は、建物とは別に機械ごとに算定することとなっている。
建物の移転工法には、従前の建物と同種同等の建物を建築する再築工法が多く採用されている。建物の再築工法による移転補償費は、建築設備を含む建物の推定再建築費に、標準耐用年数(非木造建物の場合は30年から90年)や経過年数等から定まる再築補償率を乗ずるなどして算定することとなっている。
一方、機械設備の移転工法には、従前の機械設備と同種同等の機械設備を購入して据え付ける再築工法と、従前の機械設備を再利用するために撤去して移転先に運搬し据え付ける復元工法があり、移設しても従前の機能を確保することが可能な場合は、原則として復元工法を採用することとなっている。そして、機械設備の再築工法による移転補償費は、機械設備の再調達価格に、標準耐用年数や経過年数等から定まる再築補償率を乗ずるなどして算定することとなっている。また、復元工法による移転補償費は、従前の機械設備の撤去費、運搬費、据付費等の合計となっている。
受変電設備には、変圧器等の機器を現場において配線し建物に直接据え付ける受変電設備と、変圧器等の機器を配線し金属製の箱に収めたキュービクル式の受変電設備(以下「キュービクル」という。)がある。キュービクルは、工場で製作され、そのまま現場に運搬して箱ごとボルト等で据え付けるもので、建物の外にも設置することができることなどから中小規模の工場等に広く活用されている。
そして、前記のとおり、仕様書等によると、受変電設備は、建物と一体となって建物の効用を全うするために設けられている場合は建築設備に区分され、それ以外の場合は機械設備に区分されている。
道路用地の取得に伴う建物等の移転補償費は毎年多額に上っている。この中には、キュービクルを含む移転補償が多数見受けられ、また、その移転補償費も高額になっている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、キュービクルの移転補償費の算定が実態に即した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
平成20年度から22年度までの間に、直轄事業として7地方整備局(注1) 管内の13国道事務所等(注2) が実施した31件(移転補償費計103億7385万余円)及び補助事業として23府県市(注3) が実施した42件(移転補償費計76億3749万余円(国庫補助金計44億3196万余円))、計73件のキュービクルを含む移転補償を対象として、上記の計36事業主体において、移転補償費の内訳明細書等の書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、移転補償費の算定に当たり、キュービクルを建築設備として算定したものが9国道事務所等(注4)
で14件16基、13県市(注5)
で20件20基、計34件36基、機械設備として算定したものが11国道事務所等で17件18基、13府県市で22件24基、計39件42基で、その取扱いが区々となっていた。
そして、建築設備としていた上記34件のキュービクルの移転補償費は、キュービクルを建物と一体のものとして、再築工法により、キュービクルの新規購入費等を見込んだ推定再建築費に再築補償率を乗ずるなどして直轄事業で計8243万余円、補助事業で計1億0399万余円と算定していた。
しかし、キュービクルは、従来の受変電設備とは異なり、建物と一体でなくても機能するもので、取り外して移設することが容易な特徴を有し、その更新期間は、一般に建物の標準耐用年数に比べて短いものとなっている。
したがって、上記のような特徴等を有するキュービクルは、建物と一体の建築設備として移転補償費を算定するのではなく、機械設備として算定するのが合理的であると認められる。
そして、キュービクルの移転補償費を機械設備として算定すると、復元工法では、キュービクル本体は既存のものを再利用することとなり、また、復元工法を採用できない場合(注6)
でも再築工法により移転補償費を算定すると、キュービクルの耐用年数が建物に比べて短いことから、再築補償率が低くなり、移転補償費が低減されることとなる。
以上のことから、復元工法を採用できる場合は復元工法により、また、それ以外の場合は機械設備の再築工法を採用することとし、キュービクルの耐用年数を業界団体の調査を基に20年と仮定して、建築設備としていた前記34件のキュービクルの移転補償費を算定すると、直轄事業で計1084万余円、補助事業で計1972万余円(国庫補助金相当額1142万余円)となり、直轄事業で約7158万円、補助事業で約8426万円(国庫補助金相当額約5073万円)それぞれ低減できたと認められる。
(是正改善を必要とする事態)
前記のように、キュービクルは、建物と一体でなくても機能するもので、取り外して移設することが容易な特徴を有し、その更新期間は、一般に建物の標準耐用年数に比べて短いものとなっているのに、これを建物と一体の建築設備として建物の再築工法により移転補償費を算定している事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、キュービクルの特徴等を考慮して、その移転補償費を算定することについての検討が十分でなく、キュービクルの移転補償費を機械設備として算定することを仕様書等で明確にしていなかったことなどによると認められる。
道路用地の取得に伴うキュービクルの移転補償は、今後も引き続き多数実施されることが見込まれる。
ついては、貴省において、キュービクルの移転補償費を機械設備として算定することを仕様書等で明確にするとともに、地方整備局等に対してこれを周知徹底し、また、都道府県等に対しても同様に助言することにより、移転補償費の算定を適切なものとするよう是正改善の処置を求める。
(注1) | 7地方整備局 関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局
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(注2) | 13国道事務所等 横浜、長岡、新潟、富山河川、紀勢、京都、兵庫、広島、徳島河川、松山河川、大洲河川、土佐、北九州各国道事務所
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(注3) | 23府県市 京都、大阪両府、栃木、埼玉、千葉、静岡、和歌山、鳥取、広島、徳島、香川、愛媛、福岡、長崎、鹿児島各県、船橋、白山、静岡、舞鶴、岡山、広島、福岡、北九州各市
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(注4) | 9国道事務所等 横浜、長岡、新潟、富山河川、紀勢、京都、広島、徳島河川、松山河川各国道事務所
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(注5) | 13県市 埼玉、千葉、和歌山、鳥取、広島、徳島、香川、福岡、長崎各県、船橋、静岡、広島、北九州各市
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(注6) | 復元工法を採用できない場合 復元工法とすることにより、建物や機械設備等の移転に伴い営業を一時休止する必要があると認められる場合に、休止期間中の収益減や従業員に対する休業手当相当額等を補償するための費用(営業補償費)が増加するなどの場合
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