会計名及び科目 | 一般会計(組織)国土交通本省 | ||
(項)都市再生・地域再生整備事業費 等 | |||
(平成19年度以前は、 | (項)都市環境整備事業費 等) | ||
社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定) | |||
(項)道路環境改善事業費 等 | |||
平成19年度以前は、 | |||
道路整備特別会計 | (項)道路環境整備事業費 等 | ||
部局等 | 国土交通本省 | ||
補助の根拠 | 都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)、道路法(昭和27年法律第180号)等 | ||
補助事業者 | 都、道、府2、県12、市111、特別区9、町10、計16都道府県、130市区町 | ||
移動等円滑化に係る事業の概要 | 高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上に資する構造及び設備を備えた道路、旅客施設、建築物等の整備を実施するもの | ||
平成13年度から22年度までの間に作成した基本構想に基づくなどして実施した移動等円滑化に係る事業費 | 2112億8081万余円 | ||
上記に対する国庫補助金交付額 | 1000億4162万円 | (背景金額) | |
移動等円滑化が確保されていないエレベーター数及び事業費(1) | 45基 |
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13億9666万余円 | (平成13年度〜22年度) | ||
上記に対する国庫補助金交付額 | 5億3922万円 | ||
障害物検知装置の設置費用を負担している踏切道拡幅工事の実施箇所数及びこれに係る障害物検知装置の設置費用(2) | 6か所 | ||
5138万余円 | (平成19年度〜22年度) | ||
上記に対する国庫補助金交付額 | 2706万円 | ||
(1)及び(2)の計 | 14億4804万余円 | (平成13年度〜22年度) | |
上記に対する国庫補助金交付額 | 5億6629万円 |
(平成23年10月28日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求し、及び同法第34条の規定により是正改善の処置を求める。
記
貴省は、平成6年9月に施行された建築物の利用の円滑化を進めるための「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(平成6年法律第44号。以下「ハートビル法」という。)及び12年11月に施行された旅客施設、鉄道車両、乗合自動車(以下「バス」という。)等の公共交通機関と旅客施設周辺の歩行空間の移動の円滑化を進めるための「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年法律第68号。以下「交通バリアフリー法」という。)に基づき、高齢者、身体障害者等の利用の円滑化及び移動の円滑化を推進してきた。
その後、17年7月に、貴省は、上記の枠組みにおけるバリアフリー化の取組の課題と今後推進すべき施策等について取りまとめた「ユニバーサルデザイン政策大綱」を策定している。これを踏まえ、18年12月に、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合、拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「新法」という。)が施行された。そして、貴省は、これに基づき、道路、旅客施設、建築物等の構造及び設備を改善するための措置並びに一定の地区における旅客施設、建築物等及びこれらの間の経路を構成する道路、駅前広場、通路等の一体的整備を推進するための措置を講ずることにより、移動等円滑化(注1)
の促進を図ることとしている。
貴省は、新法に基づき、18年12月に移動等円滑化を計画的に推進するため、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成18年国土交通省等告示第1号。以下「基本方針」という。)を策定している。基本方針においては、道路、旅客施設等の移動等円滑化の目標のほか、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が新法に基づき、これらの施設の移動等円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本的な構想(以下「基本構想」という。)を作成(注2)
するに当たって指針となるべき事項が定められており、移動等円滑化に係る各種の事業が相互に連携して連続的に移動経路が確保されるよう、関係者間で十分な調整を図り事業の集中的な実施を確保することなどに留意する必要があるとされている。また、市町村が作成する基本構想には、基本方針に基づき、移動等円滑化に係る事業を重点的に推進することが特に必要な地区(以下「重点整備地区」という。)の位置及び区域、重点整備地区において、高齢者、障害者等が日常生活又は社会生活において利用する旅客施設、官公庁施設、福祉施設等(以下「生活関連施設」という。)及びこれらを結ぶ経路(以下「生活関連経路」という。)、移動等円滑化のために実施すべき事業等を定めることとされている。
そして、生活関連施設又は生活関連経路の管理者(以下「施設設置管理者」という。)は、基本構想において、歩道の設置、拡幅等を行う道路特定事業、旅客施設内でエレベーター等の設置を行う公共交通特定事業等の実施すべき事業が定められた場合には、当該事業の具体的な内容、実施予定期間等を定めた特定事業計画(以下「事業計画」という。)を作成(注2)し、これに基づき事業を計画的に実施することとされている。
また、基本方針によると、市町村は、基本構想作成後、各特定事業等が早期に、かつ、当該基本構想で明記された目標に沿って順調に進展するよう、事業の実施状況の把握、これに係る情報提供等による事業を実施すべき施設設置管理者との連絡調整の適切な実施等事業の進展に努めることが必要であるとされている。
市町村が定めた生活関連経路のうち、移動等円滑化が特に必要な経路については、新法に基づき、その経路及び区間を国土交通大臣が指定するものとされ、施設設置管理者は、指定された経路において新設又は改築する道路については、「移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第116号。以下「移動等円滑化基準」という。)に適合するように整備し、維持しなければならないとされている。
また、道路管理者である国、都道府県、市町村等は、上記以外の管理する道路についても、移動等円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされている。
我が国においては、高齢者、障害者等が社会、経済活動に参加する機会を確保することが求められており、誰もが安全で安心して参加できる社会を形成することが国の主要な政策課題となっていることから、移動等円滑化に係る事業を着実に推進することが必要となっている。
そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、移動等円滑化に係る事業は重点的かつ一体的に実施されているか、生活関連経路は基本構想や移動等円滑化基準等に基づいて適切に整備されているか、整備された生活関連経路は適切に管理され有効なものとなっているか、また、重点整備地区以外の道路における移動等円滑化は適切に推進されているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
13年度から22年度までの間に作成された基本構想に基づくなどして、17都道府県(注3) 管内の130市区町の重点整備地区において、16都道府県(注4) 及び17都道府県(注3) 管内の109市区町が国庫補助事業として実施した移動等円滑化に係る事業(工事費(注5) 計2034億5379万余円、国庫補助金計959億1823万余円)並びに13都道府県(注6) 及び13都道府県(注7) 管内の44市区町が重点整備地区以外において、19年度から22年度までの間に実施した移動等円滑化に資する踏切道拡幅に係る道路整備事業等(工事費計78億2701万余円、国庫補助金計41億2338万余円)を対象として、基本構想、事業計画等の書類及び現地を確認するなどして会計実地検査を行った。
(注3) | 17都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、神奈川、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡、長崎、鹿児島各県
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(注4) | 16都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡、長崎、鹿児島各県
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(注5) | 都道府県及び市区町の公共交通事業費については除外してある。 |
(注6) | 13都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、香川、福岡各県
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(注7) | 13都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、広島、福岡、鹿児島各県
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(検査の結果)
検査したところ、移動等円滑化に係る事業について、次のような事態が見受けられた。
新法によると、市町村は、基本構想を作成するに当たり、各特定事業に関して、施設設置管理者等と協議することとされており、施設設置管理者は、市町村が基本構想を作成した後に、市町村、他の施設設置管理者等の意見を聴いた上で、事業計画を作成することとされている。また、国及び地方公共団体は、基本構想に定められた生活関連施設の整備等必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされている。このようにして、移動等円滑化に係る事業の実施に当たっては、関係者が緊密に連携することによる効果的な事業の実施が求められている。
17都道府県(注3)
管内の130市区町の重点整備地区のうち、施設設置管理者が事業計画を作成しないまま事業を実施しているものが見受けられた87市区町の重点整備地区において、隣接している生活関連施設と生活関連経路の一体的整備の推進状況についてみたところ、次のようになっていた。
17市区町の重点整備地区において、4都道県及び14市町が管理する生活関連経路25経路については、視覚障害者等が円滑に移動できるように視覚障害者誘導用ブロック(以下「誘導ブロック」という。)を連続して敷設するなどの整備を21年度までに完了していた。一方、25経路に隣接する4県及び15市区町が管理する生活関連施設については、生活関連経路が整備されてから1年以上経過した22年度においても、当該施設の案内設備までの間の誘導ブロックは未整備となっていた。このため、整備済みの生活関連経路における視覚障害者等の安全かつ円滑な移動は確保されているものの、当該施設の案内設備までの安全かつ円滑な移動が確保されておらず、整備した生活関連経路の事業の効果が十分発現されていない状況となっていた。
ア 駅前広場等に設置するエレベーターの整備
生活関連経路の施設設置管理者である都道府県及び市町村は、鉄道の旅客施設と隣接している駅前広場や歩道等においてエレベーターを整備している。この整備に当たっては、立地条件、交通条件等から、車椅子使用者が介助者なしで利用したり、エレベーターの出入口に接続する歩道等を自転車等が通行したりすることなどが想定されている。
このため、移動等円滑化基準等によると、エレベーターの構造については、原則として、出入口が1方向の場合には、車椅子使用者がエレベーター内で円滑に回転でき、前方を向いて安全に降りられるように、内幅、奥行き共に1.5m以上とすることとされている。また、出入口が2方向の場合には、視覚障害者等が認識しやすいように、開閉する出入口の方向を音声により知らせる装置を設置することとされ、その場合には、エレベーターの内幅及び奥行きは、車椅子使用者が搭乗したまま他の同乗者が乗降可能な内幅1.4m以上、奥行き1.35m以上とすることとされている。
5都道府県(注8)
及び14都道府県(注9)
管内の51市区町が、13年度から22年度までの間に駅前広場、歩道等に設置したエレベーター154基の移動等円滑化に関する整備状況についてみたところ、鉄道事業者と協議の上、自ら整備していたり、鉄道事業者に委託して整備していたりなどしていた。
そして、1都及び6市が整備した出入口が1方向のエレベーター10基(工事費計4億5448万余円、国庫補助金計1億3855万余円)は、内幅及び奥行きが1.5m未満となっていて、車椅子使用者がエレベーター内で円滑に回転して前方を向いて安全に降りられるものとなっていなかった。
また、2県及び20市区町が整備した出入口が2方向のエレベーター35基(工事費計9億4218万余円、国庫補助金計4億0067万余円)は、音声案内の内容が開閉する出入口の方向を明確に知らせるものとなっていなかったり(20基)、駅舎用のエレベーターと同様の寸法のものを導入するなどしたため内幅が1.4m未満となっていたり(15基)していて、視覚障害者等が安全かつ円滑に乗降できるものとなっていなかった。
A市は、平成17年度に、B駅の駅前広場に接続するエレベーターを工事費1107万余円(国庫補助金500万円)でC鉄道株式会社に委託して整備している。同市は、委託に当たって、設置場所の条件等から、出入口が2方向のエレベーターを設置することとしていたものの、音声案内の内容について、明確に指示していなかった。このため、整備されたエレベーターの音声案内は、出入口が2か所あるのに、到着階において、到着階のみをアナウンスし、乗った側と反対側の出入口が開くことをアナウンスするものとなっておらず、当該エレベーターにおける視覚障害者等の安全な利用に支障が生ずる状況となっていた。
イ 駅前広場等のバス停留所の整備
基本方針によると、バス車両については、原則として低床バス(注10)
に代替することを目標とするとされている。
そして、生活関連経路の施設設置管理者である都道府県及び市町村は、移動等円滑化基準等に基づき、低床バスが停留所との隙間を空けずに停車(以下「正着」という。)して、車椅子使用者がスロープ板を使用して低床バスとの間の安全かつ円滑な移動ができるように、歩道の高さを確保したバス停留所を整備するなどの移動等円滑化に係る事業を実施している。
17都道府県(注3)
管内の89市区町の重点整備地区において、駅前広場及びバス路線となっている生活関連経路計328経路の移動等円滑化の状況についてみたところ、次のようになっていた。
9市の駅前広場9経路では、バス停留所の設置位置が駅前ロータリーの曲線部分に位置していて低床バスが正着できないことから、低床バスに搭載しているスロープ板を適切に設置できないなど、バス停留所と低床バスとの間の安全かつ円滑な移動が確保されていない状況となっていた。
また、44市区町の重点整備地区において、13都道府県及び26市が設置、管理する生活関連経路計70経路の歩道に設置したバス停留所では、低床バスが正着できても、歩道の高さが十分確保されておらず、設置するスロープ板が急勾配となり、スロープ板を適切に設置できないなど、バス停留所と低床バスとの間の安全かつ円滑な移動が確保されていない状況となっていた。
D市は、平成20年度に、E駅の駅前広場整備として、誘導ブロックの設置、バス停留所のある歩道の整備等を工事費1億7290万円(国庫補助金1480万円)で実施している。バス停留所の位置については、タクシー利用者の要望等により、当初計画のタクシー乗場の位置を変更したため、これに伴い、バス停留所2か所が曲線部分に設置されることとなった。しかし、バス停留所の構造等についての検討が十分でなく、低床バスが停車する際に、バス停留所と低床バスの乗降口に相当の隙間が生じて、スロープ板が適切に設置できないなどのため、車椅子使用者等の安全かつ円滑な乗降が確保されていない状況となっていた。なお、会計実地検査実施後の23年7月に、同市は、バス事業者と協議するなどして、低床バスが正着できるように、タクシー乗場とバス停留所の位置を変更したり、停車方法についての申合せを行ったりするなどの対策を行っている。
ウ 車両乗入れ部の整備
移動等円滑化基準等によると、生活関連経路を構成する歩道の有効幅員(注11)
は、原則として2m以上確保することとされており、隣接する民地等に車両が乗り入れる箇所(以下「車両乗入れ部」という。)においても、歩道の平たん部分の有効幅員は2m以上確保することとされている。
14都道府県(注12)
管内の38市区町の重点整備地区において、基本構想に定められた生活関連経路のうち、これらの市区町が既に必要な構造を確保しているとして事業計画上移動等円滑化に係る事業を行わないこととしている経路や、誘導ブロックの設置等を部分的に実施したのみで幅員等の構造の改良を行っていない経路の計257経路の移動等円滑化の状況についてみたところ、次のようになっていた。
22市町の重点整備地区において、4都府県及び15市が設置、管理する生活関連経路計105経路は、車両乗入れ部全体が車道側に傾斜するなどして、平たん部分の幅員が確保されていないのに、事業計画上、当該箇所についての改良を実施しないこととされており、車椅子使用者等の安全かつ円滑な移動が確保されていない状況となっていた。
(注8) | 5都道府県 東京都、北海道、大阪府、福井、鹿児島両県
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(注9) | 14都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、広島、福岡、長崎、鹿児島各県
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(注10) | 低床バス 床が低く、乗降口とバス停留所との段差が少ないため、利用者の負担が軽減されるだけでなく、搭載しているスロープ板を乗降口とバス停留所との間に設置することにより、車椅子使用者の乗降が可能となり、移動等円滑化に資する機能を有しているバス
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(注11) | 有効幅員 路上施設、縁石等の幅員を除き、実質、歩行者が通行可能な幅員
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(注12) | 14都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、神奈川、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、広島、福岡、鹿児島各県
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施設設置管理者は、移動等円滑化が特に必要として指定された経路を含む生活関連経路については、その整備後においても、移動等円滑化基準に適合するよう維持し、また、適合させるために必要な措置を講ずるよう努めることとされている。
また、道路管理者である都道府県、市町村等は、道路占用物件の設置等のための工事(以下「占用工事」という。)については占用許可条件を、道路管理者として発注する工事については施工条件をそれぞれ施工業者に示して工事施工期間中に行うべき安全対策等について定めている。
19年4月から23年3月までの間に、11都府県(注13)
及び12都道府県(注14)
管内の35市区が誘導ブロックの敷設を含めて整備した生活関連経路において、整備した後に水道事業者等が占用工事を行っていたり、道路管理者が工事を行っていたりしている生活関連経路計162経路の事業実施後の移動等円滑化の確保状況についてみたところ、次のようになっていた。
10都県及び31市区では、視覚障害者等を安全に仮設経路に誘導するための仮設の誘導ブロックを敷設することを占用許可条件及び工事の施工条件とする取扱いとしておらず、移動等円滑化に係る事業により誘導ブロックを整備した生活関連経路における占用工事の許可及び道路管理者による工事の発注に当たっても同様の取扱いとしていることから、工事期間中の視覚障害者等の安全かつ円滑な移動が確保されない状況となっていた。そして、このような占用工事等は、生活関連経路計126経路において、1,255件見受けられた。
(注13) | 11都府県 東京都、大阪府、群馬、埼玉、福井、岐阜、愛知、兵庫、香川、福岡、鹿児島各県
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(注14) | 12都道府県 東京都、北海道、大阪府、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡各県
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道路管理者である都道府県及び市町村は、重点整備地区以外の管理する道路の整備等について、新法に基づき、移動等円滑化基準に適合させるよう必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされており、踏切道の多くが歩道未整備であることから、歩道拡幅等の移動等円滑化に資する踏切道拡幅工事を鉄道事業者に委託して多数実施している。
鉄道事業者への委託に当たっては、基本的に「道路と鉄道との交差に関する協議等に係る要綱」(平成15年国道政第74号等。国土交通省道路局長等3局長連名通知。)により、工事費用の負担方法等を決定することとしているが、同要綱に具体的に規定されていない事項について、これまでに多数の通知が発出されたり、鉄道事業者と道路管理者との間で、覚書が締結されたりしている。そして、貴省は、道路局長、鉄道局長等の連名により、「踏切道の拡幅に係る指針について」(平成13年国道政第32号等。国土交通省道路局長等3局長連名通知。)及び「踏切道の拡幅に係る指針の取扱いについて」(平成13年国道政第33号等。国土交通省道路局路政課長等3課長連名通知。以下、これらを合わせて「指針」という。)を発して、踏切道拡幅工事に伴い、踏切道上の自動車を検知する装置(以下「障害物検知装置」という。)を設置するに当たり、既設の踏切道に歩道がないか又は狭小な場合には、その設置費用を道路管理者の負担の対象としなくてもよいとする取扱いとしており、緊急に歩道の整備を必要とする踏切道の改良を促進する道路管理者の負担が軽減されることとなっている。
13都道府県(注6)
及び13都道府県(注7)
管内の44市区町が19年度から22年度までの間に重点整備地区以外の計88か所の踏切道において、工事費計78億2701万余円(国庫補助金計41億2338万余円)で実施した歩道の新設、拡幅及びこれに併せて障害物検知装置を設置している踏切道拡幅工事についてみたところ、次のようになっていた。
1県及び5市が工事費計4億7599万余円(国庫補助金計2億5062万余円)で鉄道事業者に委託して実施した6か所の踏切道拡幅工事においては、道路管理者と鉄道事業者における検討及び協議が指針の趣旨を踏まえたものとなっておらず、既設の踏切道に歩道がないか又は狭小な場合に該当し、歩道整備に伴う踏切道拡幅工事となっているのに、道路管理者である当該県市が、障害物検知装置の設置費用計5138万余円(国庫補助金計2706万余円)の全額を負担している状況となっていた。
(改善及び是正改善を必要とする事態)
以上のように、移動等円滑化に係る事業において、関係機関と連携した一体的な取組がなされておらず、生活関連経路を整備した効果が十分発現していない事態、駅前広場等に設置したエレベーター及びバス停留所において、視覚障害者、車椅子使用者等が円滑に乗降できなかったり、生活関連経路の車両乗入れ部において、車椅子使用者等が円滑に移動できなかったりしている事態、整備した生活関連経路において、仮設の誘導ブロックを敷設することを占用工事等の許可条件等としていない事態、並びに歩道拡幅等の移動等円滑化に資する踏切道拡幅工事の実施に当たり、十分な検討及び協議を行わないまま、道路管理者が障害物検知装置の設置費用を負担している事態は適切とは認められず、改善及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。
ア 市町村において、生活関連経路の整備の効果が十分に発現されるよう、事業計画の作成及びそれに基づく事業の実施状況を正確に把握し、施設設置管理者との間で連携して取り組むことについての認識が十分でなかったこと
イ 施設設置管理者において、移動等円滑化基準等に基づいたエレベーター、バス停留所、車両乗入れ部の構造等についての認識が十分でなかったこと、また、エレベーターの整備の委託に当たり、エレベーターの設置場所や運用方法に応じた構造等について明確にしていなかったこと
ウ 施設設置管理者において、整備した生活関連経路において実施される占用工事等の工事期間中の視覚障害者等の歩行の安全かつ円滑な移動の確保に対する認識が十分でなかったこと
エ 施設設置管理者において、踏切道拡幅工事を鉄道事業者に委託するに当たり、指針についての理解が十分でなかったこと、また、費用負担についての検討及び協議が十分でなかったこと
本格的な高齢社会を迎え、高齢者、障害者等が社会、経済活動に参加する機会を確保するため、移動等円滑化に係る事業は、今後ますます重要となる。そして、我が国の厳しい財政状況の下、計画的、効果的に事業を推進することが必要とされている。
ついては、貴省において、移動等円滑化の一体的整備の推進等が適切に行われ、移動等円滑化に係る事業が計画的かつ効果的に実施されるよう、また、踏切道等における事業が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
ア 市町村に対して、生活関連経路の施設整備の効果を十分に発現させるため、事業計画の作成及びそれに基づく事業の実施状況を正確に把握し、施設設置管理者と緊密に連携するよう周知すること(会計検査院法第36条による改善の処置を要求するもの)
イ 施設設置管理者に対して、移動等円滑化に係る事業の実施に当たっては、移動等円滑化基準等に基づき、〔1〕 エレベーターの整備については、委託の場合も含めて、設置場所や運用方法に応じた構造等を十分検討した上で実施するよう周知すること、〔2〕 バス停留所の整備については、バスが正着できることやスロープ板を適切に設置できるようにすることに十分配慮して実施するよう周知すること、〔3〕 車両乗入れ部については、構造等の現況を把握した上で、移動等円滑化に係る事業を実施するよう周知すること、また、〔4〕 前記のような事態となっている各施設について、その現状を把握し、各施設の安全かつ円滑な移動等の確保に努めるよう周知すること(〔1〕 について同法第34条による是正改善の処置を求め並びに〔2〕 、〔3〕 及び〔4〕 について同法第36条による改善の処置を要求するもの)
ウ 施設設置管理者に対して、占用工事等について、整備した誘導ブロックの機能を継続して確保するため、占用工事の許可条件等の重要性を周知すること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)
エ 施設設置管理者に対して、踏切道拡幅工事を行う場合における障害物検知装置の費用負担の方法等について改めて周知するとともに、国、都道府県、鉄道事業者等で構成される踏切道調整連絡会議等を積極的に活用し、必要な検討及び協議を行うなどして、踏切道における移動等円滑化に資するよう周知すること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)