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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

港湾整備事業により整備する岸壁が有効に利活用されるよう意見を表示したもの


(6) 港湾整備事業により整備する岸壁が有効に利活用されるよう意見を表示したもの

会計名及び科目 社会資本整備事業特別会計(港湾勘定)
平成19年度以前は、港湾整備特別会計(港湾整備勘定))
(項)港湾事業費 等
部局等 直轄事業 2地方整備局等  
  補助事業 2地方整備局等  
事業及び補助の根拠 港湾法(昭和25年法律第218号)、沖縄振興特別措置法(平成14年法律第14号)等
事業主体 直轄事業 2地方整備局等  
補助事業 府1、管理組合1  
4事業主体  
港湾管理者 府1、県2、管理組合1、計4港湾管理者
岸壁の概要 船舶を接岸及び係留させて貨物の積卸しなどに供する施設
検査の対象とした岸壁の事業費 直轄事業 5079億9790万余円  
補助事業等 2821億4678万余円  
(国庫補助金交付額等 1743億0556万余円)  
効果的な港湾整備事業を実施していないため利用が低調となっている岸壁の事業費 直轄事業 115億9997万円  
補助事業 45億5822万余円  
(国庫補助金交付額 27億8359万円)  

【意見を表示したものの全文】

  岸壁の利用状況について

(平成23年10月28日付け 国土交通大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 港湾整備事業の概要

(1) 事業の概要

 貴省は、港湾法(昭和25年法律第218号。以下「法」という。)等に基づき、国が行う直轄事業、地方公共団体等の港湾管理者が行う補助事業等により港湾整備事業を実施している。この事業は、航路等の水域施設、防波堤等の外郭施設、岸壁等の係留施設等(以下、これらを合わせて「港湾施設」という。参考図参照 )の建設、改良等を実施するものである。そして、整備した港湾施設は、貴省が直轄事業で整備した港湾施設も含めて、港湾管理者が管理することとなっている。

(2) 基本方針

 貴省は、法に基づき「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」(平成20年国土交通省告示第1505号。以下「基本方針」という。)を定めており、「港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全に関する政令で定める事項に関する計画」(以下「港湾計画」という。)は、基本方針に適合するよう策定することとされている。
 そして、貴省は、基本方針において、効率的・効果的な事業の実施のため、投資の効率化を掲げており、港湾管理者等は、港湾の開発に当たり、地域の要請、貨物需要の動向等を的確に把握し、港湾相互間の機能分担や施設の拠点化を進めるなど効率的な施設整備を行うこととしている。

(3) 港湾計画

 港湾計画は、法等に基づき、重要港湾(注1) の港湾管理者(以下、単に「港湾管理者」という。)に対して策定が義務付けられているものであり、港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全の方針、港湾の取扱貨物量、船舶乗降旅客数その他の能力に関する事項、港湾の能力に応ずる水域施設、係留施設その他の港湾施設の規模及び配置に関する事項等を定めることとされている。
 そして、港湾計画は、基本方針に適合するとともに、「港湾計画の基本的な事項に関する基準を定める省令」(昭和49年運輸省令第35号)で定められた基準に適合したものでなければならないとされている。
 同省令によると、港湾管理者は、港湾計画の策定に当たり、港湾計画の目標年次については、通常10年から15年程度の将来の年次とし、港湾の取扱貨物量その他の能力に関する事項については、自然条件、港湾及びその周辺地域の経済的及び社会的条件等を考慮して、適切なものとなるように定めるものとされている。また、岸壁等の係留施設の規模及び配置については、同施設を利用する船舶の種類、船型及び隻数、取扱貨物の種類及び量、荷役方式、水域施設の利用状況等を考慮して、港湾の機能及び係留施設の安全かつ効率的な運用その他の適正な運営が十分に確保されるように定めるものとされている。

 重要港湾  国際海上輸送網又は国内海上輸送網の拠点となる港湾その他の国の利害に重大な関係を有する港湾。平成23年4月以降は、法の改正により、重要港湾が、国際戦略港湾、国際拠点港湾又は重要港湾に変更されている。

(4) 港湾整備における技術上の基準

 法の規定によると、港湾施設は、「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」(平成19年国土交通省令第15号)で定める技術上の基準に適合するように、建設し、改良し、又は維持しなければならないとされている。そして、同省令を受けて定められた「港湾の施設の技術上の基準の細目を定める告示」(平成19年国土交通省告示第395号。以下「告示」という。)には、港湾施設に求められる性能が規定されており、航路及び泊地については対象船舶の喫水以上の適切な深さを有することとされている。また、岸壁等の前面の泊地については、原則として、年間を通じて荷役等が可能な日数が97.5%以上となるように静穏度(注2) を確保することとされている。

 静穏度  港内における航路及び泊地の静穏の度合いのこと。風、潮流等様々な要因によって変化し、船舶の操船・停泊・係留の安全性を判断する指標

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 貴省は、これまで多額の国費を投じて港湾施設の整備を実施してきており、さらに、港湾整備の選択と集中を進めて、限られた港湾整備事業費の投資効果をより効果的に発現させることにしている。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、港湾施設のうち、船舶を接岸及び係留させて貨物の積卸しなどに供する岸壁の整備は貨物の需要動向を踏まえて適切に実施されているか、整備された岸壁は有効に利用されているかなどに着眼して検査した。

 (検査の対象及び方法)

 重要港湾計126港のうち20都道府県(注3) における40港湾管理者(注4) が管理する57港において、一般公衆の利用に供されている岸壁のうち比較的大型の船舶が接岸可能な水深7.5m以上の486岸壁(直轄事業250岸壁、事業費計5079億9790万余円。補助事業等236岸壁、事業費計2821億4678万余円(国庫補助金等計1743億0556万余円))を対象として、港湾計画書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、貴省及び港湾管理者が、効果的な港湾整備事業を実施していないため岸壁の利用が低調となっていると認められるものが、次のとおり七尾港大田3号岸壁等4港8岸壁見受けられた。

(1) 船舶の大型化傾向により大水深岸壁を整備したものの航路及び泊地の整備がこれに対応していないもの

 貴省は、七尾港において、利用船舶の大型化に対して岸壁等の港湾施設が対応しておらず荷役に支障を来していることなどから、40,000トン級の船舶を対象とする大田3号岸壁(水深13.0m、延長260m、直轄事業費69億1764万余円)を整備しており、港湾管理者である石川県は、19年に水深10.0mで供用を開始している。
 この岸壁は、原木等を年間36万5000t取り扱うこととして整備されたものであるが、20年の実績貨物量は約7万9700tであり、上記の取り扱うこととしている貨物量に対する割合は21.8%となっていた。これは、同岸壁が水深13.0mで整備されているものの、その前面の航路及び泊地の水深が10.0mまでしか整備できていないため、対象船舶の入港に支障が生じていることが原因となっている。
 現在、同岸壁を利用している29,000トン級の船舶(必要水深12.0m、必要延長240m)は、貨物を満載にした状態では入港できないため貨物量を減らして入港してきており、効率的な輸送ができていない状況である。そして、今後も航路等の水深に対応する規模を超える船舶が同岸壁を利用する場合には、同様に貨物量を減らしたり、満潮まで沖待ちしたりして入港しなければならず、効率的な輸送ができない状況が長期間にわたり継続することとなる。
 これに対して、貴省は、段階的に航路及び泊地について13.0mの水深を確保すべく浚渫(しゅんせつ)を計画しているが、石川県との間で、浚渫土砂の受入れ場所の確保についての調整が十分図られていない状況となっている。
 このように、大型の船舶に対応する岸壁を整備したのに、航路及び泊地の浚渫工事が進捗していないことから対象船舶の入港に支障が生じており、岸壁の利用は低調となっている。

(2) 貨物需要が十分見込めるものの静穏度が確保されていないため荷役障害が発生しているもの

 那覇港の港湾管理者である那覇港管理組合は、新港ふ頭地区の取扱貨物量が増加したことにより、安全性を確保しつつ、効率的な荷役を行うことが困難になっていることから、同地区の取扱貨物量の一部を隣接する浦添ふ頭地区へ移行させるなどの港湾機能の再配置を進めている。
 浦添ふ頭地区においては、1号岸壁から7号岸壁までがそれぞれ水深7.5m、延長130mで整備されており、1号岸壁及び2号岸壁は8年度に、3号岸壁から5号岸壁までは12年度に、6号岸壁及び7号岸壁は18年度にそれぞれ供用されている。このうち3号岸壁から7号岸壁までの事業費は直轄事業費計28億6500万円、補助事業費計12億6122万余円(国庫補助金計11億3509万余円)となっている。
 そして、船会社1社及び荷役会社1社が、16年に、新港ふ頭地区から浦添ふ頭地区の1号岸壁及び2号岸壁の背後地へ移転し、この時点までに整備が完了していた1号岸壁から5号岸壁までの利用を開始した。
 しかし、利用を開始した上記各岸壁前面の泊地の静穏度は、87.3%から94.1%までとなっていて、いずれも告示において必要とされている97.5%を確保できておらず、荷役障害が生じていることなどから、その後新港ふ頭地区からの船会社等の移転は進捗していない。
 このように、1号岸壁から5号岸壁までのいずれの岸壁においても荷役障害が生じて効率的な荷役ができない状況であり、これらのうち他岸壁より荷役障害の少ない1号岸壁及び2号岸壁に荷役が集中した結果、3号岸壁から5号岸壁までのそれぞれの岸壁で取り扱うこととしている貨物量に対する18年から20年までの平均実績貨物量の割合(以下「実績貨物量割合」という。)は2.2%から29.0%までとなっている。
 また、6号岸壁及び7号岸壁は、18年に供用を開始したものの、他岸壁同様所要の静穏度が確保できておらず荷役障害が生じているなどのため、実績貨物量割合はいずれも0.6%となっている。
 このような状況を踏まえ、内閣府沖縄総合事務局は、上記の岸壁における所要の静穏度を確保するため、24年度までに既設の浦添第一防波堤(延長1,350m)の北側200mの延伸工事を完了することとしているが、会計実地検査(23年2月)時点で本体工事に着手していない状況となっている。
 このように、所要の静穏度が確保されず荷役障害が発生しているのに、その対策が進捗していないことから岸壁の利用は低調となっている。
 なお、福井県が管理している敦賀港鞠山北B岸壁(直轄事業費18億1733万余円)についても同様の事態が見受けられる。

(3) 岸壁の整備を一括して行っていたため貨物需要の動向の変化に対応できていないもの

 大阪府が港湾管理者となっている阪南港の新貝塚2号岸壁は、連続するAからFまでの6バース(注5) (全て水深7.5m、総延長780m)から構成されており、同府の港湾整備事業として昭和56年度から平成10年度までの間に、金属、機械、化学工業品等109万3000tを取り扱うこととして、事業費32億9700万円(国庫補助金16億4850万円)で整備されている。
 同府は、当該岸壁の整備を一括して行うこととし、昭和59年から63年までにケーソン据付工を実施して、その後にエプロン部分の舗装工等を実施し、平成7年から18年までの間に全バースを供用している。
 この間、取扱いを想定していた金属、機械、化学工業品等の需要が減少したことから、同府は、16年に阪南、宮崎間のフェリー航路を誘致したが、燃料費の高騰により、2年後の18年に運航が休止となり、同岸壁の実績貨物量割合は5.8%となっている。
 このように、連続するバースから成り供用までに長期間を要する岸壁の整備を一括して行っていたため、貨物需要の動向の変化に対応することができず、岸壁の利用は低調となっている。

 (改善を必要とする事態)

 以上のとおり、船舶の大型化傾向により大水深岸壁を整備したものの、航路及び泊地の整備がこれに対応していなかったり、貨物需要が十分見込めるものの所要の静穏度が確保されていないため荷役障害が発生していたり、連続するバースから成り供用までに長期間を要する岸壁の整備を一括して行っていたため貨物需要の動向の変化に対応できていなかったりしていたため、多額の国費を投資して整備した岸壁の利用が低調となっていて十分に利活用されていない事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴省及び港湾管理者において、港湾整備に関する調整が相互間で図られていないため、入港船舶の大型化に対応した大水深岸壁を整備したものの、航路及び泊地の水深が同岸壁の水深に対応したものとなっておらず、整備した岸壁を十分に活用させるような対策が執られていないこと
イ 貴省及び港湾管理者において、所要の静穏度が確保されていないため荷役障害が生じている岸壁について、早期に整備の効果を発現させるための対策が十分執られていないこと
ウ 港湾管理者において、連続するバースから成り供用までに長期間を要する岸壁の整備を一括して行っていたため、貨物需要の動向の変化に対応できなくなっていること

3 本院が表示する意見

 近年、港湾整備事業の事業費が減少傾向にある中、限られた予算を効率的に投資することが求められている。
 ついては、貴省において、次のような処置を講ずるなどして、今後整備される岸壁が十分に利用されるよう、また、既に整備された岸壁が有効活用されるよう、意見を表示する。
ア 岸壁、航路及び泊地が一体として機能し、対象船舶が支障なく入港できるよう、港湾整備に関する貴省との相互間の調整が十分に図られる体制を整えることについて港湾管理者に助言等をすること。また、既に整備された岸壁に係る航路及び泊地については、投資の重点化を図るなどの対策を講ずること
イ 所要の静穏度が確保されていないことによる荷役障害が生ずることがないよう、貨物需要の動向等を十分踏まえて防波堤等の整備を促進する体制を整えることについて港湾管理者に助言等をすること。また、既に整備された岸壁に係る防波堤については、投資の重点化を図るなどの対策を講ずること
ウ 連続するバースから成り供用までに長期間を要する岸壁を整備する際には、一括して整備することなく、既に供用している岸壁等の利用状況を踏まえ、利用が低調な場合は残りの整備を延期又は中止することができるような貨物需要の動向に柔軟に対応できる整備方法を採ることについて港湾管理者に助言等をすること

(注3)
 20都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、神奈川、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、島根、山口、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、宮崎、沖縄各県
(注4)
 40港湾管理者  東京都、京都、大阪両府、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、島根、山口、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、宮崎、沖縄各県、網走、室蘭、小樽、留萌、横浜、川崎、横須賀、大阪、神戸、下関、今治、福岡、北九州、佐世保、宮古島、石垣各市、苫小牧港、石狩湾新港、名古屋港、四日市港、那覇港各管理組合、新居浜港務局
(注5)  バース  岸壁等の係留施設において、一隻の船舶が占める施設の単位

(参考図)

港湾施設概念図

港湾施設概念図