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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

土砂災害警戒区域等の指定等に関する基礎調査の結果をより早期に活用できるよう改善の処置を要求したもの


(10) 土砂災害警戒区域等の指定等に関する基礎調査の結果をより早期に活用できるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)国土交通本省  (項)急傾斜地崩壊対策等事業費 等
  社会資本整備事業特別会計(治水勘定) (平成19年度以前は、治水特別会計)
    (項)総合流域防災事業費 等
部局等 19道府県
補助の根拠 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)
補助事業者(事業主体) 道、府1、県17、計19事業主体
基礎調査の概要 土砂災害から国民の生命及び身体を保護するため、急傾斜地の崩壊等のおそれがある土地に関する地形等の状況及び土砂災害の発生のおそれがある土地の利用の状況等について調査するもの
基礎調査費 289億1571万余円 (平成13年度〜22年度)
上記に対する国庫補助金交付額 96億1911万余円  
基礎調査の結果を受領後2年以上警戒区域等の指定が行われていない地点及びその地点に係る基礎調査費(1) 23,524地点  
41億5213万余円 (平成14年度〜20年度)
上記に対する国庫補助金交付額 13億8844万円  
基礎調査の結果を受領後3年以上土砂災害防止法で定める所定の手続が行われていない区域及びその区域に係る基礎調査費(2) 27,112区域  
35億5890万余円 (平成13年度〜19年度)
上記に対する国庫補助金交付額 11億8630万円  
(1)及び(2)の計 77億1103万余円 (平成13年度〜20年度)
上記に対する国庫補助金交付額 25億7474万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

  土砂災害警戒区域等の指定等に関する基礎調査の活用について

(平成23年10月28日付け 国土交通大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

 貴省は、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)等に基づき、土砂災害から国民の生命及び身体を保護するため、急傾斜地の崩壊、土石流又は地滑りのおそれがある土地に関する地形、地質、降水等の状況及び土砂災害の発生のおそれがある土地の利用の状況等について基礎調査を行う都道府県に対し補助を行っている。
 この基礎調査は、都道府県が過去に調査した急傾斜地の崩壊等を原因とする土砂災害が発生するおそれがある箇所(以下「土砂災害危険箇所」という。)等の中から、土砂災害防止対策基本指針(平成13年国土交通省告示第1119号)に基づくなどして都道府県が優先順位を定めて実施するものである。そして、土砂災害防止対策基本指針では、過去に土砂災害が発生した土地及びその周辺の土地、地域開発が活発で住宅、社会福祉施設等の立地が予想される土地等について優先的に調査を行うこととされている。
 都道府県知事は、この基礎調査に基づき土砂災害の被害を防止するため土砂災害警戒区域及び土砂災害特別警戒区域(以下、それぞれ「警戒区域」及び「特別警戒区域」といい、これらを合わせたものを「警戒区域等」という。)を指定することができる。警戒区域は、基礎調査の結果により、土地の傾斜度が30度以上であって、高さが5m以上の区域等の条件に当てはまる区域について、災害情報の伝達や避難が早期に行われる警戒避難体制を整備すべき区域として指定するものである。また、特別警戒区域は、警戒区域内において、基礎調査の結果により、土石等の移動により生ずる力の大きさなどが一定の条件に当てはまり、住民等に著しい危害が生ずるおそれのある区域について、一定の開発行為の制限、建築物の構造規制等をすべき区域として指定するものである。
 そして、市町村(特別区を含む。以下同じ。)に置かれる市町村防災会議(市町村防災会議を設置しない市町村にあっては、当該市町村長。以下同じ。)は、警戒区域の指定があったときは、土砂災害防止法第7条第1項により、市町村地域防災計画(災害対策基本法(昭和36年法律第223号)による市町村地域防災計画。以下「防災計画」という。)において、警戒区域ごとに、土砂災害に関する情報の収集及び伝達、予報又は警報の発令及び伝達、避難等の当該警戒区域における土砂災害を防止するために必要な警戒避難体制に関する事項を定めることとなっている。
 また、市町村防災会議は、警戒区域内に社会福祉施設や医療施設等の災害時要援護者関連施設がある場合には、土砂災害防止法第7条第2項により、当該施設の利用者の円滑な警戒避難が行われるように土砂災害に関する情報、予報及び警報の伝達方法を定めることとなっている。
 さらに、市町村の長は、土砂災害防止法第7条第3項により、防災計画に基づき、土砂災害に関する情報の伝達方法、急傾斜地の崩壊等のおそれがある場合の避難地に関する事項等を住民に周知させるため、これらの事項を記載した印刷物(以下「土砂災害ハザードマップ」という。)を配布するなど必要な措置を講ずることとなっている。
 都道府県による基礎調査の実施箇所の決定から市町村防災会議による土砂災害防止法に基づく所要事項の防災計画への記載等までの手続は、おおむね次のような手順で行われている。
〔1〕  都道府県は、管内の土砂災害危険箇所の中から所定の項目により定められた優先順位に基づいて基礎調査の実施箇所を決定して、業務を業者に発注し、受領した基礎調査の結果を市町村長に通知する。
〔2〕  都道府県は、市町村とともに基礎調査の結果に基づく警戒区域等の指定等について、地元住民等に対する説明会を開催する。
〔3〕  都道府県知事は、基礎調査の結果に基づく警戒区域等の指定等について、市町村長に意見照会するなどした後、警戒区域等の指定を行い、都道府県の公報に公示する。
〔4〕  市町村防災会議は、土砂災害防止法に基づく所要事項を防災計画に記載するとともに、市町村長は、地元住民等に土砂災害ハザードマップを配布する。
 そして、貴省は、都道府県及び市町村に対する支援として、基礎調査を実施する都道府県に対して費用の一部を補助するほか、平成22年7月に、「土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域等の指定の促進等について」(平成22年国河砂第58号国土交通省河川局砂防部砂防計画課長通知)を都道府県に発して、基礎調査を促進すること、警戒区域等の指定を促進すること及び市町村が行う警戒避難体制の整備に対し支援することを周知するなどしている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 我が国では、毎年多数の土砂災害が各地で発生しているが、土砂災害危険箇所に対する工事等のハード対策については、膨大な時間と費用が必要になることが見込まれている。このため、警戒区域等の指定、災害情報の伝達や避難が早期に行われる警戒避難体制の整備等のソフト対策の推進が必要となっており、これらに不可欠なデータの収集を行う基礎調査の結果を十分に活用していくことが重要となっている。
 そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、基礎調査の結果を活用し、速やかに警戒区域等の指定が行われているか、警戒区域の指定後に市町村において土砂災害防止法に定められた所定の手続が行われているかなどに着眼して検査した。

 (検査の対象及び方法)

 19道府県(注1) において、13年度から22年度までの間に実施した基礎調査2,384契約、基礎調査地点210,829地点(注2) 、これに係る費用(以下「基礎調査費」という。)計289億1571万余円(国庫補助金計96億1911万余円)を対象として、基礎調査の契約書、土砂災害に関する災害報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 警戒区域等の指定

 全国47都道府県には土砂災害危険箇所が525,307か所あるが、検査を実施した19道府県は、管内の土砂災害危険箇所217,352か所等のうちから133,527か所における基礎調査の結果、基礎調査地点210,829地点のうち201,297地点が警戒区域等の指定の条件に当てはまるとし、このうち138,792地点について、警戒区域98,804区域、特別警戒区域39,988区域、計138,792区域の指定を行っていた。
 しかし、19道府県は、上記201,297地点のうち138,792地点を差し引いた残りの62,505地点について、22年度末現在、指定のための事務を実施しているなどのため警戒区域等の指定を行っておらず、このうち23,524地点(基礎調査費計41億5213万余円、国庫補助金相当額計13億8844万余円)については、基礎調査の結果を受領後2年以上経過(22年度末現在での経過年数をいう。以下同じ。)していた。
 この23,524地点について、基礎調査の結果により警戒区域等の指定の条件に当てはまるとした前記の201,297地点(警戒区域等に指定済みのものを含む。)に対する割合を道府県別にみると、山口県の0%から沖縄県の59%まで道府県によって大きな差が見受けられた。また、基礎調査の結果を受領した後の期間別にみると、2年以上3年未満が46%、3年以上4年未満が25%となっていて、中には8年以上経過しているのに警戒区域等の指定が行われていない地点が北海道で109地点(0.5%)見受けられた。
 そして、前記の基礎調査の結果を受領後2年以上経過している地点について、警戒区域等の指定が行われていない理由別に分類すると、市町村の要望に基づき地区単位で一括指定するなどしているため同一地区内の残りの地点の基礎調査の完了を道府県が待っているもの、建築物の構造規制が厳しくなるなどのため地元住民等が反対しているもの、住民説明会の日程を調整するなど地元住民等との対応に時間を要しているもの及び住民説明の前に土地所有者等を調べるなど行政側による準備で時間を要しているもので計20,883地点となり、前記23,524地点の88%を占めていた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 A県は、平成17年度から20年度までの間に、B市管内において基礎調査(基礎調査費計668万余円、国庫補助金計222万余円)を実施している。そして、基礎調査の結果、警戒区域等の指定の条件に当てはまるとした地点は37地点となっていた。
 しかし、同県は、同市の警戒区域等の指定について、同市から、残りの地点の調査が完了した後、住民説明会を実施して一括指定することを求められていることから、いまだに住民説明会を行っておらず、このため、上記の37地点については、基礎調査の結果を受領後2年以上が経過しているのに警戒区域等の指定を行っていなかった。そして、この中には基礎調査の結果を受領後4年を経過しているものも見受けられた。

 一方、19道府県が作成した災害報告書で土砂災害の発生状況について確認したところ、基礎調査の結果を受領した後2年以上経過しているのに警戒区域等の指定が行われていない前記の23,524地点において、基礎調査の結果を受領した後、1年未満の期間に7件、1年以上2年未満の期間に16件、2年以上3年未満の期間に8件、3年以上4年未満の期間に3件、4年以上経過後に1件、計35件の土砂災害が発生しており、基礎調査の結果の早期の活用が望まれる状況が見受けられた。
 このように、土砂災害の被害を防止するためには、警戒区域等の指定が早期に行われることが望まれ、また、基礎調査を行っていない土砂災害危険箇所が多数残っているにもかかわらず、警戒区域等の指定が行われずに基礎調査の結果が長期間活用されていない地点が多数見受けられる状況となっていた。

(2) 警戒区域の指定後の状況

 警戒区域の指定があったときは、市町村は前記のとおり、土砂災害防止法で定める所定の手続を行うことになっており、この手続を行うことでソフト対策が推進され、基礎調査を実施した効果が発現することになる。
 しかし、19道府県が指定した警戒区域98,804区域のうち基礎調査の結果を受領後3年以上経過している60,457区域について、土砂災害防止法で定める所定の手続の実施状況をみると、その25%に当たる16道府県(注3) 管内の155市町村に所在する15,154区域について、当該市町村防災会議は、人員不足等により事務処理が遅延しているなどとして、土砂災害の防止に必要な警戒避難体制に関する事項を防災計画に定めていなかった。
 また、警戒区域内に災害時要援護者関連施設があるのは1,862区域となっているが、このうち10%に当たる11道県(注4) 管内の49市町村に所在する194区域について、当該市町村防災会議は、災害時要援護者関連施設の利用者が円滑に警戒避難するための土砂災害に関する情報、予報及び警報の伝達方法を防災計画に定めていなかった。
 さらに、前記60,457区域の40%に当たる18道府県(注5) 管内の181市町村に所在する24,441区域について、当該市町村の長は、市町村全域の警戒区域の指定が完了した段階で作成する予定としているなどとして、土砂災害ハザードマップを配布していなかった。
 そして、上記のいずれかに該当する区域は、60,457区域の44%に当たる18道府県管内の214市町村に所在する27,112区域(これらの指定の基となった基礎調査費計35億5890万余円、国庫補助金相当額11億8630万余円)となっていた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

 C県は、平成16、17両年度に、D町を対象に含めた基礎調査(基礎調査費計3357万余円、国庫補助金計1119万余円)を実施している。このうち、同町管内で警戒区域等の指定の条件に当てはまるとした20地点に関する基礎調査の結果を17年3月及び18年3月に受領し、これに基づき20地点全てについて18年3月及び19年3月に警戒区域等の指定及び公示を行っている。
 しかし、同町は、22年度末現在においても、上記警戒区域の指定を行った区域については、人員不足及び技術不足による事務処理の遅延を理由として、警戒避難体制に関する事項を防災計画に定めておらず、さらに、土砂災害ハザードマップの地元住民等への配布も行っていなかった。

 このように、警戒区域の指定後に市町村が土砂災害防止法に基づく所定の手続を行っておらず、基礎調査の結果が長期間活用されていない区域が多数見受けられる状況となっていた。

 (改善を必要とする事態)

 前記のように、基礎調査の結果の受領後長期間にわたり道府県が警戒区域等の指定を行っていなかったり、警戒区域の指定後に市町村が土砂災害防止法に定められた所定の手続を行っていなかったりしていて、基礎調査の結果が長期間活用されていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴省において、
(ア) 基礎調査の実施後に、警戒区域等の指定が進捗していない都道府県を把握して、その原因を分析した上で、その後の基礎調査において警戒区域等の指定の進捗を図るような具体的な対策について都道府県に対する助言が十分でないこと
(イ) 警戒区域の指定後に、土砂災害防止法で義務付けられている手続を行うに当たり、都道府県が適切な支援を行うための具体的な対策についての助言が十分でないこと
イ 道府県において、
(ア) 基礎調査の実施後長期間にわたって警戒区域等の指定が行われていないのに、その解消を図るため、基礎調査を行う地区単位の設定や基礎調査終了後に行われる事務のうち、あらかじめ対応が可能なものについて実施するなどの検討を行わないまま、従来の事務処理等により基礎調査を継続していること
(イ) 基礎調査の実施箇所を検討するに際し、警戒区域等の指定に関する地元住民の意識等の把握が十分でないこと
(ウ) 警戒区域の指定後に、土砂災害防止法で義務付けられている手続について、市町村が実施しているかなどについての把握が十分でないこと
ウ 市町村において、警戒区域の指定後に、土砂災害防止法で義務付けられている手続について遅滞なく実施することに対する認識が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

 我が国は、国土の約7割を山地・丘陵地が占め、地質的にもぜい弱で、台風に伴う豪雨、梅雨期の集中豪雨等により、急傾斜地の崩壊、土石流又は地滑りを原因とする土砂災害が全国各地で発生しており、毎年多数発生する土砂災害から国民の生命及び身体を保護するためのソフト対策を、土砂災害危険箇所において基礎調査の実施後に早期かつ適切に実施することは、今後においても重要である。
 ついては、貴省において、ソフト対策に不可欠なデータの収集を行う基礎調査の結果をより早期に活用できるよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 都道府県に対して、今後の基礎調査の実施に当たっては、警戒区域等の指定が早期に行えるよう、基礎調査を行う地区単位の適切な設定や、基礎調査終了後に行われる事務のうち、あらかじめ対応が可能なものについて実施するなどの検討を行うよう助言すること
イ 都道府県に対して、今後の基礎調査の実施に当たっては、土砂災害が発生するおそれがある土地のうち過去に土砂災害が発生した土地等について優先的に調査することはもとより、警戒区域等の指定が早期に行えるよう、基礎調査の実施箇所を検討するに際し、地元市町村と十分な意見調整を行い、必要に応じて地元住民の意識を把握するよう助言すること
ウ 都道府県に対して、警戒区域等の指定後に、市町村が行う土砂災害防止法に基づく所定の手続について市町村に周知するとともに、その実施状況について市町村との情報共有・連携を図り、適切な支援に努めるよう助言すること

(注1)
 19道府県  北海道、京都府、群馬、埼玉、富山、福井、静岡、三重、兵庫、奈良、鳥取、山口、徳島、香川、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注2)
 地点  危険箇所1か所に、警戒区域及び特別警戒区域の指定条件に関する基礎調査の両方を行う場合があることなどから、危険箇所の箇所数との混同を避けるため、基礎調査については「地点」を用いている。
(注3)
 16道府県  北海道、京都府、群馬、埼玉、富山、福井、静岡、兵庫、奈良、鳥取、徳島、香川、長崎、大分、宮崎、沖縄各県
(注4)
 11道県  北海道、群馬、埼玉、富山、静岡、鳥取、徳島、長崎、大分、宮崎、沖縄各県
(注5)
 18道府県  北海道、京都府、群馬、埼玉、富山、福井、静岡、三重、兵庫、奈良、鳥取、徳島、香川、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県