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  • 第3 東京地下鉄株式会社、第4 北海道旅客鉄道株式会社、第5 四国旅客鉄道株式会社、第6 九州旅客鉄道株式会社|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

鉄道駅等の移動等円滑化に当たり、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合するなどして適切に整備されるよう改善の処置を要求し、及び整備の効果が十分に発現し、移動等円滑化が適切に実施されるよう意見を表示したもの


(1)—(4) 鉄道駅等の移動等円滑化に当たり、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合するなどして適切に整備されるよう改善の処置を要求し、及び整備の効果が十分に発現し、移動等円滑化が適切に実施されるよう意見を表示したもの

会社名 (1)  東京地下鉄株式会社
(2)  北海道旅客鉄道株式会社
(3)  四国旅客鉄道株式会社
(4)  九州旅客鉄道株式会社
科目 (1)  (款)建設仮勘定、(款)鉄道事業営業費
(2)  (款)建設勘定、(款)鉄道事業営業費、(款)建設部門費
(3)  (款)建設仮勘定、(款)受託工事勘定
(4)  (款)建設仮勘定、(款)鉄道事業営業費
部局等 (1)  本社
(2)  本社
(3)  本社
(4)  本社
鉄道駅等の移動等円滑化の概要 鉄道駅等において、エレベーター等の設置等による高齢者、障害者等の円滑な通行に適する経路の確保、転落防止設備の整備、誘導ブロックの整備等を実施するもの
検査の対象とした駅数 (1) 137駅  
(2) 32駅  
(3) 13駅  
(4) 53駅  
上記のうち平成18年度以降に移動等円滑化設備を整備していた駅における当該設備の整備に係る事業費 (1) 160億6860万余円 (平成18年度〜22年度)
(2) 28億7572万余円 (平成18年度〜22年度)
(3) 2億4740万余円 (平成18年度〜20年度)
(4) 35億5153万余円 (平成18年度〜22年度)
整備の効果が十分に発現していないなどの駅数 (1) 70駅 (1日当たりの平均的な利用者数計6,573,736人)
(2) 28駅 (1日当たりの平均的な利用者数計498,376人)
(3) 13駅 (1日当たりの平均的な利用者数計93,052人)
(4) 44駅 (1日当たりの平均的な利用者数計596,676人)
上記のうち平成18年度以降に移動等円滑化設備を整備していた駅における当該設備の整備に係る事業費 (1) 121億4231万円 (背景金額)(平成18年度〜22年度)
(2) 26億8993万円 (背景金額)(平成18年度〜22年度)
(3) 9043万円 (背景金額)(平成18年度〜20年度)
(4) 26億1023万円 (背景金額)(平成18年度〜22年度)

 本院は、東京地下鉄株式会社(以下「東京メトロ」という。)、北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)、四国旅客鉄道株式会社(以下「JR四国」という。)及び九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」といい、これらを合わせて「4会社」という。)における鉄道駅等の移動等円滑化について、平成23年10月28日に、4会社の代表取締役社長等に対して、「鉄道駅等の移動等円滑化について」として、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求し及び意見を表示した。
 これらの処置要求及び意見表示の内容は、4会社のそれぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これを総括的に示すと以下のとおりである。なお、本院は、4会社を含む鉄道事業者等が補助金により整備する移動等円滑化のための設備(以下「移動等円滑化設備」という。)について、23年10月28日に国土交通大臣に対して、「鉄道駅等の移動等円滑化について」として、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求している(前掲参照)

1 鉄道駅等における移動等円滑化の概要

(1) 鉄道駅等における移動等円滑化の促進

 国は、高齢者、障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性に鑑み、18年6月に制定された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「法」という。)に基づき、旅客施設等の構造及び設備を改善するための措置等を講ずることにより、鉄道駅等(以下、単に「駅」という。)の公共交通機関等における移動等円滑化(注1) の促進を図ることとしている。
 国は、法に基づき、18年12月に「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成18年国家公安委員会・総務省・国土交通省告示第1号。以下「基本方針」という。)を策定している。基本方針においては、駅の移動等円滑化の目標が定められており、1日当たりの平均的な利用者数(以下「1日当たり利用者数」という。)が5,000人以上の駅(以下「対象駅」という。)については、22年までに、原則として全ての駅について、エレベーター等の設置等による円滑な通行に適する経路の確保、ホームドア、点状ブロック等の転落防止設備の整備、視覚障害者誘導用ブロック(以下「誘導ブロック」という。)の整備、便所がある場合の障害者対応型便所の設置等の移動等円滑化を実施することとされている。

(注1)
移動等円滑化  高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上することをいう。

(2) 駅における移動等円滑化の基準等

 法によると、鉄道事業者等は、旅客施設等を新たに建設し又は旅客施設等について大規模な改良を行うときは、「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第111号。以下「円滑化基準」という。)に適合させなければならないこととされており、また、既存の旅客施設等については、円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないこととされている。円滑化基準は、例えば次のような移動等円滑化設備等が適合すべき基準について示すものである。
〔1〕  公共用通路と車両等の乗降口との間の経路であって、高齢者、障害者等の円滑な通行に適するもの(以下「移動等円滑化経路」という。)を乗降場ごとに1以上設けなければならないこと
〔2〕  傾斜路(スロープ)の勾配部分は、接続する通路との色の明度差等が大きいことにより容易に識別できるものであること
〔3〕  階段は、手すりが両側に設けられていること、また、階段の通ずる場所を示す点字を、手すりの端部の付近に貼り付けること
〔4〕  階段、傾斜路及びエスカレーターのそれぞれの上端及び下端に近接する通路等には、警告のため、点状ブロック(以下「警告ブロック」という。)を敷設しなければならないこと
〔5〕  出入口の付近等に、駅の構造及び主要な設備の配置を音、点字その他の方法により視覚障害者に示すための設備(以下「触知案内図」という。)を設けなければならないこと
 また、国土交通省は、19年7月に、「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(平成19年7月国土交通省。以下「ガイドライン」という。)を定めている。ガイドラインは、例えば次のような旅客施設の標準的な整備内容や、これ以外の望ましい整備内容等を示すものである。
〔1〕  エレベーターロビー付近に下りの段差や傾斜が近接しているなどの危険な状況を作り出さないこと
〔2〕  上り又は下り専用のエスカレーターの場合、乗降口付近の通路の床面等の分かりやすい位置等において、進入の可否を示すこと
〔3〕  階段への誘導ブロックの敷設経路は、手を伸ばせば手すりに触れられる程度の距離を離した位置とすること
〔4〕  警告ブロックと1本の線状突起を組み合わせたホーム縁端警告ブロックを、プラットホーム(以下「ホーム」という。)縁端部の警告のために敷設すること

(3) 4会社における移動等円滑化設備の整備状況等

 4会社は、表1 のとおり、18年度から22年度まで(JR四国は18年度から20年度まで)の間に、計175駅について、駅の移動等円滑化を図るため、交通施設バリアフリー化設備整備費補助金(注2) 、地下高速鉄道整備事業費補助(以下、これらを合わせて「補助金」という。)及び自己資金等によりエレベーター等の移動等円滑化設備を整備している。なお、上記の175駅について、移動等円滑化設備の整備に係る事業費は計227億4326万余円、移動等円滑化設備を整備するために交付された補助金は計57億3695万余円(補助対象事業費計216億4321万余円)となっている。

(注2)
平成22年度は交通施設バリアフリー化設備等整備費補助金

表1  4会社における移動等円滑化設備の整備状況 (単位:百万円)
会社 年度 平成18 19 20 21 22
東京メトロ 事業費 2,846 2,327 389 4,327 6,176 16,068
国庫補助金交付額 731 598 100 1,112 1,587 4,130
整備駅数 46駅 44駅 16駅 39駅 95駅 114駅
JR
北海道
事業費 123 184 214 266 2,086 2,875
うち補助対象事業費 123 120 214 266 1,051 1,775
うち自己資金等による事業費 64 1,035 1,100
国庫補助金交付額 41 40 42 88 333 546
整備駅数 1駅 3駅 1駅 3駅 5駅 12駅
JR
四国
事業費 6 83 156 247
国庫補助金交付額 2 16 52 71
整備駅数 1駅 5駅 1駅 3駅 9駅
JR
九州
事業費 372 519 769 722 1,168 3,551
国庫補助金交付額 107 135 160 197 387 988
整備駅数 5駅 7駅 9駅 9駅 12駅 40駅
注(1)
東京メトロにおける事業費及び国庫補助金交付額は、大規模改良のうち移動等円滑化設備の整備に係るものを計上しており、整備駅数は、新線建設に係る4駅を含んでいる。
注(2)
各年度の事業費等は、支出した年度(不明のものは事業完了年度)に計上している。
注(3)
自己資金等による事業費は、JR北海道を除いて、移動等円滑化設備の整備に係る分を特定できないことから計上していない。なお、JR北海道については、移動等円滑化設備の整備に係る分として把握している金額を計上している。
注(4)
複数年度にわたり整備している駅があるため、各年度の整備駅数を合計しても計欄の駅数とは一致しない。

 4会社のうち、東京メトロはエレベーター及びエスカレーターの整備についての方針を定め、中期経営計画及び各年度の事業計画の中で駅の移動等円滑化を推進することとしており、JR北海道は中期経営計画及び各年度の事業計画の中で移動等円滑化を推進することとしている。そして、これらを除くと、4会社は、それぞれ移動等円滑化に関する全社的な方針、計画等は策定していないが、駅の移動等円滑化に努めてきた結果、表2のとおり、22年度末における対象駅計241駅のうち計189駅についてエレベーター等により円滑な通行に適する経路が確保されているなどとしている。

表2  4会社における駅の移動等円滑化の状況

会社 平成22年度末における対象駅  
うち移動等円滑化している駅 うち移動等円滑化を要する駅  
うち23年度中に移動等円滑化することとしている駅
東京メトロ 137駅 99駅 38駅 5駅
JR北海道 32駅 26駅 6駅

2駅

JR四国 6駅 6駅
JR九州 66駅 58駅 8駅 3駅
241駅 189駅 52駅 10駅
(注)
東京メトロについては、移動等円滑化している駅とは、エレベーター等により円滑な通行に適する経路が確保されている駅のことをいい、他の欄についても同様である。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 我が国においては、本格的な高齢社会を迎えるなどして、高齢者、障害者等が自立した日常生活及び社会生活を営むことができる社会を構築することが求められており、駅における移動等円滑化は一層重要性を増してきている。そして、駅において、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインの標準的な整備内容に沿って(以下、単に「ガイドラインに沿って」という。)適切に整備されれば、高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性が向上し、当該駅の適切な移動等円滑化に資するものとなる。
 そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、駅の移動等円滑化を図るために整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインに沿って(注3) 適切に整備され、かつ、管理が適切に行われ、高齢者、障害者等の利便性及び安全性が確保されているか、駅前広場等の公共用通路までの移動等円滑化経路の確保が図られているかなどに着眼して検査した。

(注3)
円滑化基準の施行前については、「移動円滑化のために必要な旅客施設及び車両等の構造及び設備に関する基準」(平成12年運輸省・建設省令第10号)に適合していることをいい、ガイドラインの策定前については、「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」(平成13年8月国土交通省。追補版(14年12月)を含む。)の標準的な整備内容に沿っていることをいう。

 (検査の対象及び方法)

 本院は、4会社の駅のうち計235駅を対象として検査した。
 検査に当たっては、計159駅において、移動等円滑化実績等報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの計76駅については関係書類の提出を受けるなどして検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないなどしていて、整備の効果が十分に発現していないもの

ア 法の施行された18年度以降に整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないもの

(注4)
東京メトロ  37駅 (1日当たり利用者数計 4,001,228人) 事業費計 67億1593万余円
JR北海道  11駅 (1日当たり利用者数計 279,652人) 事業費計 26億0000万余円
JR四国  6駅 (1日当たり利用者数計 13,326人) 事業費計
JR九州  30駅 (1日当たり利用者数計 396,426人) 事業費計 23億2728万余円

 4会社の計84駅において、表3 のとおり、傾斜路の勾配部分が接続する通路との色の明度等の差により容易に識別できなかったり、触知案内図による案内が適切でなかったりなどしていて、法の施行された18年度以降に整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていない事態が見受けられた。

(注4)
事業費は、該当する駅において整備の効果が十分に発現していないなどしている移動等円滑化設備の整備に係る分を特定できないことから、平成18年度から22年度までの間に移動等円滑化に関して実施された当該駅の事業に係る事業費の総額を計上している。また、自己資金等による事業費は、JR北海道を除いて、移動等円滑化設備の整備に係る分を特定できないことから計上していない。なお、JR北海道については移動等円滑化設備の整備に係る分として把握している金額を計上している。以下同じ。

表3  平成18年度以降に整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないもの

会社 東京メトロ JR北海道 JR四国 JR九州
事態 上段 円滑化基準に適合していないもの
下段 ガイドラインに沿っていないもの
〔1〕  傾斜路の勾配部分が接続する通路との色の明度等の差により容易に識別できないなど、傾斜路の安全性が十分に確保されていないもの 16駅 2駅 3駅 3駅
1駅
〔2〕  階段又は傾斜路の手すりに点字による案内が貼付されていないなどしていて適切でないもの 4駅 2駅 3駅
4駅 1駅 1駅 8駅
〔3〕  誘導ブロック、警告ブロック等の敷設方法等が円滑化基準等に示されたものと相違するなどしていて、その敷設が適切でないもの 8駅 2駅 3駅
8駅 8駅 4駅 6駅
〔4〕  触知案内図等による案内が駅の主要な設備の配置等と相違するなどしていて適切でないもの 21駅 2駅 1駅 19駅
4駅 5駅 2駅
〔5〕  その他 3駅 2駅
2駅 6駅
(注)
複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。

 これらの事態は、整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っておらず、高齢者、障害者等の利便性又は安全性が十分に確保されていない状況になっていて、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。

イ 18年度以降に整備された移動等円滑化設備の周辺の整備等が適切でなく、当該設備の利用に当たっての安全性が十分に確保されていないもの

JR九州  2駅 (1日当たり利用者数計 17,246人) 事業費計 2億6474万余円

 JR九州の2駅において、整備されたエレベーターの前に下り傾斜があり、乗降ロビーが十分に確保されていなかったり、整備された誘導ブロックの横に手すりが突き出ていたりしている事態が見受けられた。
 これらの事態は、整備された移動等円滑化設備の周辺の整備等が適切でないため、当該設備の利用に当たっての安全性が十分に確保されていない状況になっていて、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。

ウ 18年度以降に整備された移動等円滑化設備に対する案内設備の整備等が適切でなく、整備の効果が十分に発現していないもの

東京メトロ  41駅 (1日当たり利用者数計 3,986,290人) 事業費計 80億8062万余円
JR北海道  4駅 (1日当たり利用者数計 196,666人) 事業費計 12億9026万余円
JR四国  4駅 (1日当たり利用者数計 16,934人) 事業費計 9043万余円
JR九州  14駅 (1日当たり利用者数計 101,208人) 事業費計 11億5063万余円

 4会社の計63駅において、表4 のとおり、触知案内図が整備されていなかったり、触知案内図は整備されているものの、18年度以降に整備された移動等円滑化設備が表示されていなかったりなどしている事態が見受けられた(これらのうち13駅はアの事態と重複している。)。

表4  平成18年度以降に整備された移動等円滑化設備に対する案内設備の整備等が適切でなく、整備の効果が十分に発現していないもの

会社
事態
東京メトロ JR北海道 JR四国 JR九州
〔1〕  触知案内図が整備されていないもの 37駅 4駅 6駅
〔2〕  触知案内図に18年度以降に整備した移動等円滑化設備が表示されていないなどしているもの 4駅 2駅 7駅
〔3〕  その他 2駅 1駅 1駅
(注)
 複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。

 これらの事態は、18年度以降に整備された移動等円滑化設備の利用のための案内設備の整備等が適切でないため、高齢者、障害者等が利用しやすいものとなっておらず、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。

エ 17年度以前に整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないままとなっているなどしていて、安全性が十分に確保されていないもの

東京メトロ  57駅 (1日当たり利用者数計 5,779,568人)
JR北海道  21駅 (1日当たり利用者数計 445,870人)
JR四国  7駅 (1日当たり利用者数計 79,726人)
JR九州  23駅 (1日当たり利用者数計 289,548人)

 4会社の計108駅において、表5 のとおり、ホーム縁端警告ブロック等が敷設されていない部分があるなどホームにおける転落防止措置が適切でなかったり、階段、エスカレーター等の上下端等に警告ブロックが敷設されていなかったりなどしていて、17年度以前に整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないままとなっているなどしている事態が見受けられた(注5)

(注5)
これらの事態については、平成17年度以前の整備に係る事業費が確認できないことから事業費を示していない。オ及び(2)の事態の一部についても同様のものがある。

表5  平成17年度以前に整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないままとなっているなどしているもの

会社
事態
東京メトロ JR北海道 JR四国 JR九州
〔1〕  誘導ブロックが障害物に近接して敷設されているなどしているもの 23駅 3駅 1駅 2駅
〔2〕  階段、エスカレーター等の上下端等に警告ブロックが敷設されていないもの 17駅 9駅 2駅 7駅
〔3〕  ホーム縁端警告ブロック等が敷設されていない部分があるなど、ホームにおける転落防止措置が適切でないもの 45駅 17駅 7駅 20駅
〔4〕  その他 12駅 4駅
(注)
複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。

 これらの事態は、高齢者、障害者等の安全性が十分に確保されていない状況になっていて、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないなどと認められる。

オ 移動等円滑化設備の管理が適切でないもの

東京メトロ  13駅 (1日当たり利用者数計 1,648,470人) 事業費計 11億9626万余円
JR北海道  15駅 (1日当たり利用者数計 344,486人) 事業費計 3億7586万余円
JR四国  2駅 (1日当たり利用者数計 17,932人) 事業費計
JR九州  12駅 (1日当たり利用者数計 312,918人) 事業費計 3億8714万余円

 4会社の計42駅において、表6 のとおり、誘導ブロックによる誘導経路上に案内板等の移動の支障になる物が置かれていたり、警告ブロックが破損したままとなっていたりなどしている事態が見受けられた。

表6  移動等円滑化設備の管理が適切でないもの

会社
事態
東京メトロ JR北海道 JR四国 JR九州
〔1〕  誘導経路上に移動の支障になる物が置かれているなどしているもの 13駅 6駅 2駅 7駅
〔2〕  警告ブロック等が破損等したままとなっているもの 12駅 3駅
〔3〕  その他 1駅 2駅
(注)
複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。

 これらの事態は、移動等円滑化設備の管理が適切でないため、移動等円滑化設備の安全性が十分に確保されていない状況になっているなどしていて、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。

(2) 移動等円滑化設備の利用に制限があるため、移動等円滑化経路が十分に確保されていなかったり、他の企業等が管理する移動等円滑化設備が円滑化基準に適合していなかったりなどしているもの

東京メトロ  10駅 (1日当たり利用者数計 1,521,380人) 事業費計 27億7673万余円
JR北海道  4駅 (1日当たり利用者数計 211,792人) 事業費計 8億8259万余円
JR四国  1駅 (1日当たり利用者数 7,732人) 事業費
JR九州  2駅 (1日当たり利用者数計 52,317人) 事業費計

 4会社の計17駅において、表7 のとおり、円滑化基準において、駅の営業時間内に、隣接した他の施設のエレベーターを利用することにより、公共用通路までの円滑な移動ができる場合は移動等円滑化経路に代えることができる旨の規定があるが、駅に隣接する他の施設のエレベーターの稼働時間に制限が設けられていて、駅の営業時間内に移動等円滑化経路が確保されていない時間がある状態になっていたり、駅に隣接する他の施設のエレベーターの扉に窓がなく、円滑化基準に適合していなかったりなどしている事態が見受けられた。

表7  移動等円滑化設備の利用に制限があるため、移動等円滑化経路が十分に確保されていなかったり、他の企業等が管理する移動等円滑化設備が円滑化基準に適合していなかったりなどしているもの

会社 事態 駅数
東京メトロ 東京メトロ又は他の企業等が管理するエレベーターの稼働時間に制限が設けられていて、駅の営業時間内に移動等円滑化経路が確保されていない時間がある状態になっているもの 10駅
JR北海道 駅と一体として整備されている子会社の管理する駅ビルを経由する公共用通路までの経路上において、階段等の上下端等に警告ブロックが敷設されていないなどしているもの 1駅
地方公共団体が管理する自由通路と駅との境界で誘導ブロックが途絶しているもの 3駅
JR四国 地方公共団体が管理する駅前広場に設置した触知案内図に対して誘導ブロックが敷設されていないもの 1駅
JR九州 駅に隣接し、駅前広場への経路となっている子会社の管理する駅ビル内のエレベーターの扉に窓がなく、円滑化基準に適合していないもの 2駅

 これらの事態は、移動等円滑化経路が十分に確保されていなかったり、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していなかったり、子会社が管理する駅ビルにおいて適切に移動等円滑化設備を整備するよう働きかける必要があったりしているものと認められる。上記の各項目に係る駅には重複しているものがあり、その重複を除くと、表8 のとおりである。

表8  4会社における整備の効果が十分に発現していないなどの駅数等

会社 駅数計 1日当たり利用者数計 事業費計
東京メトロ 70駅 6,573,736人 121億4231万円
JR北海道 28駅 498,376人 26億8993万円
JR四国 13駅 93,052人 9043万円
JR九州 44駅 596,676人 26億1023万円

 (改善を必要とする事態)

 以上のように、4会社において整備された移動等円滑化設備等について、駅における高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の確保が十分に図られておらず、整備の効果が十分に発現していないなどの事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、4会社において、駅の全面的な改修が困難な場合があることにもよるが、円滑化基準及びガイドラインの理解が不足していたり、移動等円滑化を適切に実施することに対する認識が十分でなかったりしていることなどによると認められる。

3 本院が要求した改善の処置及び表示した意見

 国は、23年3月に基本方針を見直して、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国家公安委員会・総務省・国土交通省告示第1号)を策定している。これによれば、1日当たり利用者数が3,000人以上である駅については、32年度までに、原則として移動等円滑化を実施することなどとされている。
 移動等円滑化設備の整備は、高齢者、障害者等の交通弱者の安全や安心の確保とも密接に関わるものであり、4会社においても、様々な制約条件の中で駅の移動等円滑化に努めているところではあるが、移動等円滑化設備を適切に整備するとともに、整備された移動等円滑化設備が老朽化するなどして、その整備の効果が薄れていないかについても、不断に点検し改善していく必要がある。
 ついては、4会社において、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインに沿って適切に整備されるよう、また、整備の効果が十分に発現し、移動等円滑化が適切に実施されるよう、それぞれの代表取締役社長等に対して、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示した。
ア 移動等円滑化設備を整備する際に、当該設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインに沿って、高齢者、障害者等にとって安全で利用しやすいものとなるよう、円滑化基準及びガイドラインについて会社内に周知するとともに、円滑化基準に適合し又はガイドラインに沿っていることを確認するなどの手続の整備を図ること(会計検査院法第36条による改善の処置を要求したもの)
イ 整備した移動等円滑化設備について、その効果が十分に発現するよう、当該設備周辺の整備を適切に実施したり、当該設備を適切に管理したりするため、点検等の充実を図ること(同法第36条による意見を表示したもの)
ウ 高齢者、障害者等の安全性が確保されていない状況になっている箇所を把握し、優先度の高い箇所から移動等円滑化設備を整備していくなどの安全性確保のための方策について検討すること(同法第36条による意見を表示したもの)
エ 他の企業等が管理する移動等円滑化設備により駅前広場等への経路を確保しているなどの場合において、移動等円滑化経路を十分に確保したり、当該設備を円滑化基準に適合したものとしたりして、駅の移動等円滑化設備の整備の効果を十分に発現させるように、他の企業等に適切に働きかけを行うなどすること(同法第36条による意見を表示したもの)
オ 駅の移動等円滑化を計画的に推進するよう、移動等円滑化の方針、計画等の策定について検討すること(同法第36条による意見を表示したもの)