科目 | 現金及び預金 | ||
部局等 | 独立行政法人造幣局本局 | ||
国から承継した貴金属の売却等に係る額 | (1) | 33億8070万余円 | |
国から承継した建物等の移転補償に係る額 | (2) | 1億0154万余円 | |
上記のうち不要財産と認められる額 | (1) | 21億1364万円 | |
(2) | 1035万円 | ||
計 | 21億2400万円 |
(平成23年10月28日付け 独立行政法人造幣局理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴局は、独立行政法人造幣局法(平成14年法律第40号。以下「造幣局法」という。)に基づき、平成15年4月に、貨幣、勲章、金属工芸品等の製造等の業務を行うことを目的として設立された独立行政法人である。貴局は、その際、業務を確実に実施するための財産的基礎として、国が有する権利及び義務のうち財務省造幣局の事務に関する権利及び義務の一部を承継している。そして、承継した権利に係る財産のうち、金属工芸品等の材料である地金等の承継時の帳簿価額は102億6221万余円、庁舎、工場、倉庫等の建物の承継時の帳簿価額は203億8717万円となっている。
貴局は、新技術の実用化・工業化や偽造防止技術を始めとする貨幣製造技術の維持・向上等のため、承継した地金等のうち金、銀、白金及びパラジウム(以下、これらの4種類しょうはいの貴金属を合わせて「承継貴金属」という。)を材料に使用して、章牌(しょうはい)(メダル)、記章(バッジ)、名誉章等の金属工芸品を製造し、販売している。
金属工芸品の販売価格は、材料費、製造及び販売に要する人件費等で構成されており、このうち貴金属の材料費については、承継時の帳簿価額等ではなく、製造時点の市場価格を基に算出した単価に重量を乗じて得た額が計上されている。
また、貴局は、独立行政法人整理合理化計画(平成19年12月閣議決定。以下「整理合理化計画」という。)を受け、20事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)に、金属工芸品のうち民間と競合する一般向け商品である金盃、銀盃及び装身具の製造から撤退している。
22年5月に、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)が改正され、独立行政法人が保有している重要な財産であって、主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととされ、不要財産であって政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るものについては、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて国庫に納付することとなった。
そして、政府は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定)において、各独立行政法人が、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことを掲げている。
独立行政法人の利益及び損失の処理については、通則法第44条第1項において、毎年度、損益計算において利益を生じたときは、前年度から繰り越した損失を埋めて、なお残余があるときは、その残余の額は、積立金として整理しなければならないこととされている。そして、同条第2項において、毎年度、損益計算において損失を生じたときは、同条第1項の規定による積立金を減額して整理し、なお不足があるときは、その不足額は、繰越欠損金として整理しなければならないこととされている。
また、貴局は、造幣局法第15条等の規定に基づき、中期目標期間の最終年度において上記による積立金の整理を行った後、積立金がある場合には、その2分の1の額を国庫に納付しなければならないなどとされている。
独立行政法人の保有している資産については、前記のとおり、通則法が改正され、不要財産は国庫に納付することとされたところである。
そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、貴局が保有している国から承継した資産が不要財産となっていないか、不要財産は適切に国庫に納付されているかなどに着眼して、貴局が保有している国から承継した資産を対象として、貴局本局及び東京支局において、財務書類等の関係書類、貴局に対して提出を求めた承継貴金属に関する調書等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、貴局は、整理合理化計画を受けて民間と競合する金属工芸品の製造から撤退したことなどから、その製造数量は、15年度において72,796個であったものが、22年度においては17,971個と縮小傾向にある。
貴局は、このような傾向の中で、承継貴金属について、効率的な業務運営に資するなどのため在庫量の見直しは行っているものの、会計実地検査時点において、金属工芸品の製造に係る業務を確実に実施していく上での必要量の検討までは行っていなかった。
そこで、15年度期首から22年度期末までの承継貴金属の使用状況をみたところ、表1
のとおり、金属工芸品として販売したり在庫量の見直しのために売却したり(以下、これらを合わせて「売却等」という。)するなどしていて、22年度期末における承継貴金属の在庫量は15年度期首に比べて減少していた。
表1 | 承継貴金属の使用状況 | (単位:kg) |
区分 | 平成 15年度期首在庫量 (A)
|
減少要因 | 22年度期末在庫量 (A)−(E)
|
|||
金属工芸品として販売した量 (B)
|
在庫量の見直しのために売却した量 (C)
|
精製により他の金属に振り替わったものなどの量 (D)
|
計 (E)
=(B)+(C)+(D) |
|||
金 | 1,835 | 327 | — | 57 | 384 | 1,450 |
銀 | 66,760 | 22,641 | — | — | 22,641 | 44,118 |
白金 | 360 | 104 | 229 | — | 333 | 26 |
パラジウム | 69 | 注(1)
— |
69 | — | 69 | — |
計 | 69,023 | 23,073 | 298 | 57 | 23,428 | 45,595 |
注(1) | パラジウムについては、平成15年度期首に69kgを承継したが、承継時に予定されていたパラジウム製の金属工芸品の製造は行われなかった。 |
注(2) | 金として分類されていた金合金を精製したことにより金以外の金属に振り替わったもの |
注(3) |
単位未満を四捨五入しているため、各項を集計しても計と一致しないものがある。 |
そして、売却等に係る収入額(以下「売却等収入額」という。)及び売却等収入額と承継時の帳簿価額等との差額、すなわち利益に相当する額を、貴局の中期目標期間の別(第1期は15年4月から20年3月まで、第2期は20年4月から25年3月まで)にみると、表2 のとおり、売却等収入額は33億8070万余円となっており、このうち16億0867万余円が利益に相当する額となっている。
表2 | 売却等収入額と利益に相当する額の状況 | (単位:千円) |
区分 | 中期目標期間 | 売却等をした量 | 売却等収入額 (A)
|
売却等をした量に係る承継時の帳簿価額 (B)
|
売却等費用 (C)
|
利益に相当する額 (D)=(A)−(B)−(C)
|
国庫に納付された額 (E)=(D)/2
|
利益に相当する額の残額 (F)=(D)−(E)
|
留保されている額 (B)+(F)
|
金 | 第1期 | 167kg | 390,255 | 222,237 | — | 168,017 | 84,008 | 84,008 | 306,246 |
第2期 | 160kg | 500,196 | 212,571 | — | 287,624 | \ | 287,624 | 500,196 | |
計 | 327kg | 890,451 | 434,809 | — | 455,642 | 84,008 | 371,633 | 806,442 | |
銀 | 第1期 | 17,293kg | 511,911 | 316,456 | — | 195,454 | 97,727 | 97,727 | 414,184 |
第2期 | 5,349kg | 249,423 | 97,881 | — | 151,542 | \ | 151,542 | 249,423 | |
計 | 22,641kg | 761,334 | 414,337 | — | 346,996 | 97,727 | 249,269 | 663,607 | |
白金 | 第1期 | 268kg | 1,292,649 | 682,275 | 815 | 609,558 | 304,779 | 304,779 | 987,055 |
第2期 | 65kg | 331,156 | 174,669 | — | 156,487 | \ | 156,487 | 331,156 | |
計 | 333kg | 1,623,805 | 856,945 | 815 | 766,045 | 304,779 | 461,266 | 1,318,211 | |
パラジウム | 第1期 | 67kg | 102,708 | 63,437 | 90 | 39,180 | 19,590 | 19,590 | 83,027 |
第2期 | 2kg | 2,409 | 1,600 | — | 808 | \ | 808 | 2,409 | |
計 | 69kg | 105,117 | 65,038 | 90 | 39,989 | 19,590 | 20,399 | 85,437 | |
合計 | 第1期 | 17,795kg | 2,297,523 | 1,284,407 | 905 | 1,012,211 | 506,105 | 506,105 | 1,790,513 |
第2期 | 5,576kg | 1,083,185 | 486,723 | — | 596,462 | \ | 596,462 | 1,083,185 | |
計 | 23,371kg | 3,380,709 | 1,771,130 | 905 | 1,608,673 | 506,105 | 1,102,568 | 2,873,698 |
注(1) | 第2期は平成20年4月から23年3月までの3年間の数値である。 |
注(2) | 売却等費用は、承継貴金属の売却等の際に貴局が負担した費用である。 |
注(3) |
売却等をした量は単位未満を四捨五入しているため、各項を集計しても計と一致しないものがある。 |
上記の利益に相当する額のうち、第1期中期目標期間に係る10億1221万余円の2分の1の額である5億0610万余円は、造幣局法第15条等の規定に基づき、同期間の終了に伴い、国庫に納付されているが、残る2分の1の額及び第2期中期目標期間に係る利益に相当する額計11億0256万余円並びに売却等をした量に係る承継時の帳簿価額17億7113万余円、合計28億7369万余円は、貴局に留保されていることになる。
貴局は、上記の留保されている額について、パラジウムを除き、売却等をした承継貴金属を補充するための額に充てるとしていた。
そこで、貴局に対して、貴金属の種類ごとに、金属工芸品の製造に係る業務を確実に実施する上で必要となる量(以下「適正保有量」という。)の検討及びその結果の報告を求め、その内容を確認したところ、表3
のとおり、適正保有量は計49,458kgとなっていて、計3,813kgの貴金属を補充する必要があることが判明した。
表3 | 貴金属の適正保有量と補充することが必要な量 | (単位:kg) |
区分 | 適正保有量 (A)
|
平成 22年度期末在庫量 (前表1
より再掲)
(B) |
品位証明業務(注(1)
)等により増加した量 (C)
|
補充することが必要な量 (A)−{(B)+(C)}
|
金 | 1,535 | 1,450 | — | 84 |
銀 | 47,883 | 44,118 | 48 | 3,716 |
白金 | 41 | 26 | 2 | 13 |
計 | 49,458 | 45,595 | 50 | 3,813 |
注(1) | 品位証明業務とは、貴金属製品の製造業者又は販売業者からの依頼に応じて、貴金属製品から試料を採取し、使用されている貴金属の純度についての試験を行い、合格した製品にそれを証明する印を打刻する業務をいう。 |
注(2) | 単位未満を四捨五入しているため、各項を集計しても計と一致しないものがある。 |
したがって、前記の貴局に留保されている28億7369万余円のうち、適正保有量に比べて不足している3,813kgの貴金属を補充するための額(以下「必要購入資金額」という。)が必要であると認められる。
そこで、貴金属ごとの22年度末における市場価格を基に必要購入資金額を算定すると、表4
のとおり、7億6005万余円となり、上記の留保されている額との差額21億1364万余円から売却等の際に貴局が負担した費用を控除した額は、不要財産であると認められる。
区分 | 補充することが必要な量 (前表3
より再掲)
(A) |
平成22年度末における市場価格 (B)
|
必要購入資金額 {(A)×1000}×(B)
|
金 | 84kg | 3,826円/g | 322,786千円 |
銀 | 3,716kg | 101円46銭/g | 377,064千円 |
白金 | 13kg | 4,780円/g | 60,200千円 |
計 | 3,813kg | \ | 760,051千円 |
貴局は、東京支局が管理している国から承継した資産である建物のうち7棟及び工作物等について、東京都豊島区が行う道路整備事業用地の取得に支障となるとして、22年4月に、同区と移転補償契約を締結し、1億0154万余円の収入を得ている。
そして、貴局は、上記の移転補償契約による収入は不要財産の譲渡により生じた収入ではないとして国庫に納付していない。
しかし、貴局は、前記の建物7棟のうち、福利厚生施設であった2棟の建物については、今後、再建築しないこととしていて、当該2棟に係る1035万余円から移転補償の手続の際に貴局が負担した費用を控除した額は、不要財産であると認められる。
(改善を必要とする事態)
以上のように、貴局において、必要購入資金額以上に前記の留保されている額を保有しているのに、この差額を不要財産として国庫に納付していなかったり、再建築しないこととしている建物の移転補償に係る額を国庫に納付していなかったりしている事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴局が保有している国から承継した資産の必要性について、通則法の改正を契機とした見直しを十分に行っていなかったことなどによると認められる。
前記のとおり、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」では、各独立行政法人が幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことを掲げており、また、不要と認められるものは速やかに国庫に納付することなどを求めている。
貴局においても、中期計画等に基づき、効率的な業務運営に努めているところであるが、保有している資産、特に承継貴金属については、金属工芸品の製造数量の減少が今後も予想されることから、更に不要財産と認められるものが発生する可能性がある。
そして、貴局は、前記の事態についての本院の指摘に基づき、白金及びパラジウム計277kgの売却に係る8億6850万余円を23年7月に国庫に納付している。
ついては、貴局において、承継貴金属の売却等収入額から上記の国庫納付額、必要購入資金額等を控除した額12億4514万余円及び再建築しないこととしている建物の移転補償に係る額1035万余円のそれぞれから貴局が負担した費用を控除した額を不要財産として国庫に納付するとともに、前記通則法の改正の趣旨を踏まえて、必要購入資金額等の見直しを行う体制を整備するよう、改善の処置を要求する。