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雇用促進住宅の貸与契約の締結等に関する業務を実施するための統括事務所について、雇用促進住宅の施設を有効活用することなどにより、その設置に係る費用の低減を図るよう是正改善の処置を求めたもの


雇用促進住宅の貸与契約の締結等に関する業務を実施するための統括事務所について、雇用促進住宅の施設を有効活用することなどにより、その設置に係る費用の低減を図るよう是正改善の処置を求めたもの

科目 宿舎等勘定
部局等 独立行政法人雇用・能力開発機構本部
契約名 貸室賃貸借契約等17件
契約の概要 雇用促進住宅の貸与契約の締結等に関する業務を実施するための統括事務所として受託者に無償で使用させるために、民間業者から貸事務所を借り上げるもの
統括事務所数 7か所
統括事務所に係る貸事務所の賃借料の支払額 6億7013万円 (平成20年4月分〜22年12月分)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

  雇用促進住宅の貸与契約の締結等に関する業務を実施するための統括事務所の設置について

(平成23年6月13日付け 独立行政法人雇用・能力開発機構理事長宛て)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 雇用促進住宅等の概要

(1) 雇用促進住宅を取り巻く状況

 貴機構(平成11年10月1日から16年2月29日までは雇用・能力開発機構、11年9月30日以前は雇用促進事業団)は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)、独立行政法人雇用・能力開発機構法(平成14年法律第170号。11年10月1日から16年2月29日までは雇用・能力開発機構法(平成11年法律第20号)、11年9月30日以前は雇用促進事業団法(昭和36年法律第116号))等に基づき、公共職業安定所の広域職業紹介により移転就職する者に貸与するための宿舎(集会所等の附属施設を含む。以下「雇用促進住宅」という。)を労働保険特別会計からの出資金により昭和36年度から平成11年度までの間に設置し、22年12月末現在で1,368住宅、128,878戸を管理運営している。
 雇用促進住宅については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月19日閣議決定)においてできるだけ早期に廃止することとされ、「規制改革推進のための3か年計画」(平成19年6月22日閣議決定)では貴機構は、雇用促進住宅の売却を着実に推進し、これを可能な限り前倒しできるよう取り組み、遅くとも33年度までに全ての処理を完了することとされている。
 そして、独立行政法人雇用・能力開発機構法を廃止する法律(平成23年法律第26号)において、貴機構は23年10月1日に廃止され、雇用促進住宅に係る業務については、民間等への譲渡・廃止をするまでの間、暫定的に、関連する独立行政法人に移管することとされている。

(2) 雇用促進住宅の管理運営等に係る委託業務の概要

 貴機構は雇用促進住宅の管理運営業務及び譲渡・廃止業務を実施しており、これら業務の一部については、19年度までは随意契約により財団法人雇用振興協会(以下「協会」という。)に委託して実施していた(以下、委託して実施する管理運営業務及び譲渡・廃止業務を「委託業務」という。)。
 その後、「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月24日閣議決定)において、協会への委託業務については、随意契約を改め、20年度はブロック単位、21年度以降は都道府県単位ごとの競争性のある入札方式へ移行することとされた。
 これにより、貴機構は、20年度の委託業務の契約に当たっては、表1 のとおり、全国を7つの管轄地域に分割したブロック単位で企画競争を実施し、その結果、7ブロックとも協会に委託していた。
 そして、21、22両年度の委託業務の契約に当たっては、契約を都道府県単位に分割することとし、47都道府県のうち40府県(表1注(2)参照) では、雇用促進住宅の巡回・訪問、譲渡・廃止に係る入居者への連絡調整等に関する業務(以下「入居者サービス業務」という。)について、一般競争入札を実施した。また、7都道府県(表1注(2)参照) では、入居者サービス業務と、20年度にはブロック単位で実施されていた管轄地域内における貸与契約の締結、家賃等の収納・督促、雇用促進住宅管理システム(以下「システム」という。)の運用、譲渡・廃止に係る立ち退き料等の支払等に関する業務や入居者サービス業務の集約業務(以下、20年度にブロック単位で実施していたこれらの業務も含めて「総合サービス業務」という。)とを合わせた委託業務について、一般競争入札を実施した。その結果、総合サービス業務を実施する7都道府県では委託業務を協会に委託していた。

表1
 全国7ブロックの管轄地域

区分 管轄地域(都道府県名)
Aブロック 北海道
Bブロック 青森、岩手、宮城 、秋田、山形、福島各県
Cブロック 東京都 、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野各県
Dブロック 富山、石川、福井、岐阜、静岡、愛知 、三重各県
Eブロック 京都、大阪 両府、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、徳島、香川、愛媛、高知各県
Fブロック 鳥取、島根、岡山、広島 、山口各県
Gブロック 福岡 、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
注(1)  平成20年度は、上記のブロックごとに、21、22両年度は、都道府県ごとにそれぞれ委託していた。
注(2)  平成21、22両年度の委託業務は、下線を引いた7都道府県については入居者サービス業務及び総合サービス業務、残りの40府県については入居者サービス業務のみである。
注(3)  Cブロックに係る委託業務には、入居者サービス業務及び総合サービス業務に加え、全国の総合サービス業務の集約に関する業務を含む。

(3) 統括事務所の設置に係る賃貸借契約の概要

 総合サービス業務の委託に当たっては、業務の実施に必要となる貸与契約書等の管理やシステムの管理サーバ等の運用を行うための場所が必要となる。そして、貴機構は、20年度以降に競争性のある入札方式へ移行するに当たり、総合サービス業務の受託者の変更に伴って、その都度書類の保管場所を変更したり、システムの管理サーバ等を移設したりする必要がないように、表2のとおり、全国7か所で民間業者から借り上げた貸事務所(駐車場等の付随する物件を含む。以下同じ。)に総合サービス業務を実施するための事務所(以下「統括事務所」という。)を設置し、これらを受託者に無償で使用させることにした。
 そして、貴機構は、20年度以降、7都道府県で統括事務所の設置に係る賃貸借契約を締結しており、表2 のとおり、統括事務所の設置に係る費用として20年4月分から22年12月分まで(33か月分)の貸事務所の賃借料計6億7013万余円を支払っている。

表2  7都道府県の統括事務所の設置場所及び貸事務所の賃借料の支払額 (単位:円)
統括事務所が設置されている都道府県名 統括事務所の設置場所(最寄駅) 貸事務所の賃借料の支払額(平成20年4月分〜22年12月分)
北海道 札幌市北区北7条(札幌駅) 59,727,723
宮城県 仙台市青葉区中央(仙台駅) 74,972,535
東京都 千代田区鍛冶町(神田駅) 239,869,248
愛知県 名古屋市中区錦(名古屋駅) 89,565,894
大阪府 大阪市中央区南本町(堺筋本町駅) 87,598,302
広島県 広島市中区本通(本通駅) 65,491,965
福岡県 福岡市博多区博多駅前(博多駅) 52,909,857
670,135,524

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 貴機構が統括事務所として受託者に無償で使用させている貸事務所の賃借料の支払額は多額となっている。また、前記のとおり、雇用促進住宅は遅くとも33年度までには廃止されることになっており、今後は雇用促進住宅の売却も推進され、管理運営する雇用促進住宅は入居者が減少することに伴って空室が増加し、家賃等の収入も減少する一方、立ち退き料等の支出が増大していくことが予想され、これまで以上に管理運営業務及び譲渡・廃止業務の経済的な運営が求められている。
 そこで、本院は、経済性、有効性等の観点から、統括事務所の設置に係る費用や設置場所が適切なものとなっているか、また、統括事務所の設置場所として雇用促進住宅の施設等を有効に活用できないかなどに着眼して、統括事務所の設置に係る賃貸借契約(貸室賃貸借契約等17件、20年4月分から22年12月分までの賃借料の支払額計6億7013万余円)及び貴機構が管理運営する雇用促進住宅を対象として検査した。
 検査に当たっては、貴機構本部において賃貸借契約書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、7統括事務所及びその周辺の雇用促進住宅に赴き総合サービス業務の実施状況や施設の利用状況等について検査した。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 統括事務所の設置場所について

 貴機構は、前記のとおり、20年度以降に競争性のある入札方式へ移行するに当たり、全国7か所の都道府県庁所在地等の中心街に貸事務所を借り上げて、統括事務所を設置している。
 これらの統括事務所は、いずれも19年度までは委託業務を実施するための事務所として協会が借り上げていた貸事務所を引き続き使用したものである。また、協会が借り上げていた当時、これらの貸事務所の賃借料は貴機構が支出した委託費から支払われていたものである。そして、協会がそれらの貸事務所を都道府県庁所在地等の中心街に借り上げていたのは、家賃等の滞納者に対する督促や家賃改定等の業務を実施していた貴機構の都道府県センターと業務の連携を図るために、都道府県センターと同一のビル又は近隣のビルに事務所を設置する必要があったことによるとしている。
 しかし、貴機構の都道府県センターで実施していた上記の業務は、11年10月以降は、訴訟等の一部の業務を除き委託業務に含めて受託者である協会が自ら実施することになっていた。また、都道府県センターは、貴機構の職業能力開発促進センターと業務の一元化・機能の統合を進めることなどの理由で愛知センターを除いて統括事務所の設置されているビル等から18年4月までに順次移転していたが、協会においてその後の委託業務の実施に特段の支障は生じていなかった。
 したがって、業務の連携を図るために都道府県センターと同一のビル又は近隣のビルに事務所を設置する必要があったとする理由は、貴機構が統括事務所を設置するために貸事務所の借上げを始めた20年度には既に失われていたと認められる。
 また、統括事務所で実施する総合サービス業務は、前記のブロック単位で実施していて、複数の府県にまたがる地域を管轄とした業務であるが、入居者側からみても、統括事務所に対する問合せや貸与契約書の提出等は、電話等を利用したり、雇用促進住宅を管理している現地の管理事務所を通じて行ったりすることにより可能であることなどから、統括事務所を多額の賃借料を支払って都道府県庁所在地等の中心街に設置する必要はないと認められる。

(2) 雇用促進住宅の施設の有効活用等について

 前記のとおり、貴機構が管理運営する雇用促進住宅は入居者が減少することに伴って空室が増加していくことが予想される。そこで、各地の雇用促進住宅における施設の利用状況について検査したところ、複数の雇用促進住宅において、19年度以前から遊休している売店等の施設が見受けられた。また、雇用促進住宅の住戸のうち空室となっているもの(譲渡等を目的として廃止決定されている雇用促進住宅の住戸の空室等を除く。)を前記のブロック単位でみると、19年度末において、1,677戸から4,968戸まで見受けられた。さらに、貴機構の廃止の際に国及び他の独立行政法人等に業務の一部を移管又は廃止することに伴い、貴機構の施設にも空きが生じると考えられる。
 したがって、雇用促進住宅の遊休している施設や住戸の空室を利用して機能を確保することにより空きが生じる集会所等の施設を有効活用するなどして、これらの施設に統括事務所を設置することが可能であると認められた。
 これらについて事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 貴機構は、北海道内を管轄地域とする統括事務所を設置するため、札幌駅前に所在するビルに貸事務所(事務所面積399.0m )を借り上げ、その賃借料として平成20年4月分から22年12月分までの計5972万余円を支払っていた。
 しかし、北海道内の雇用促進住宅のうち札幌市内の雇用促進住宅において、敷地内の施設を確認したところ、別棟で管理棟が整備されており、管理棟には売店(291.6m )、理容室(41.1m )、美容室(39.8m )、管理事務所等が設置されていたが、売店は7年6月末に閉鎖し、理容室及び美容室も18年3月末に閉鎖していていずれも遊休していた。
 したがって、これらの遊休している売店等計372.5m については、統括事務所として有効活用することが可能であると認められた。

 上記のように、雇用促進住宅の遊休している施設や住戸の空室を利用して機能を確保することにより空きが生じる集会所等の施設を有効活用するなどして統括事務所を設置することにすれば、これらの施設の改修工事の費用等を考慮しても、統括事務所を設置するための費用を低減できると認められる。

 (是正改善を必要とする事態)

 雇用促進住宅の遊休している施設や住戸の空室を利用して機能を確保することにより空きが生じる集会所等の施設があるのにこれらの施設を有効活用することなく、統括事務所を都道府県庁所在地等の中心街に多額の賃借料を支払って設置している事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。

 (発生原因)

  このような事態が生じているのは、都道府県庁所在地等の中心街に貸事務所を借り上げて統括事務所を設置する理由が既に失われるなどしていたにもかかわらず、貴機構において、20年度に統括事務所を設置する際に、統括事務所の経済的な設置場所や雇用促進住宅の施設の有効活用についての検討を十分に行うことなく19年度まで協会が使用していた貸事務所をそのまま統括事務所として使用することにしたことによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

 雇用促進住宅については、東日本大震災(23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害をいう。以下同じ。)に伴い、全国の雇用促進住宅の住戸の空室を被災者に対して緊急避難のため一時的に提供(原則として23年9月末日まで。ただし、被災者が希望すれば、6か月ごとに最長2年間(25年3月末日まで))することとされ、主に東北及び関東甲信越地域における雇用促進住宅の住戸の空室の一部に被災者が入居しているところである。
 このため、雇用促進住宅の住戸の空室については被災者に対する提供を優先する必要があるが、一方で、雇用促進住宅については、遅くとも33年度までに廃止の上、全ての処理を完了するという方針が閣議決定されていて、今後は管理運営する雇用促進住宅数は減少することが見込まれる。また、雇用促進住宅の家賃等の収入が減少する一方、立ち退き料等の支出が増大していくことが予想され、これまで以上に管理運営業務及び譲渡・廃止業務の経済的な運営が求められている。
 ついては、貴機構において、東日本大震災の被災者への支援に十分留意しつつ、経済的な業務の運営を行うため、多額の賃借料を支払って設置している統括事務所について、雇用促進住宅の遊休している施設、住戸の空室を利用して機能を確保することにより空きが生じる集会所等の施設又は貴機構の廃止に伴って空きが生じると考えられる貴機構の施設を有効活用するなどして、これらの施設に統括事務所を設置することにより、統括事務所の設置に係る費用の低減を図るよう是正改善の処置を求める。