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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第36 独立行政法人国立がん研究センター、第37 独立行政法人国立循環器病研究センター、第38 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター、第39 独立行政法人国立国際医療研究センター、第40 独立行政法人国立成育医療研究センター、第41 独立行政法人国立長寿医療研究センター|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

承継した建物及び器械備品の資産計上に当たり、建物の減価償却及び器械備品の価額の算定を適切に行い、財務諸表にこれらを反映させるとともに、資産管理に係る事務処理を適切に行うために体制の整備を図るよう改善させたもの


(1)—(6) 承継した建物及び器械備品の資産計上に当たり、建物の減価償却及び器械備品の価額の算定を適切に行い、財務諸表にこれらを反映させるとともに、資産管理に係る事務処理を適切に行うために体制の整備を図るよう改善させたもの

科目 有形固定資産
 建物(減価償却累計額)、医療用器械備品、その他器械備品
部局等 (1) 独立行政法人国立がん研究センター
(2) 独立行政法人国立循環器病研究センター
(3) 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
(4) 独立行政法人国立国際医療研究センター
(5) 独立行政法人国立成育医療研究センター
(6) 独立行政法人国立長寿医療研究センター
承継資産の概要 6国立高度専門医療研究センターが国から承継した権利及び義務のうち、その承継の際に、政府から各国立高度専門医療研究センターに出資されたものとされる権利に係る資産
承継した建物の減価償却累計額が過小になっていた金額(ア) (1) 2億4290万円
(2) 548万円
(3) 1830万円
(4) 1億0686万円
(5) 2億4055万円
(6) 2452万円
承継した器械備品の価額が過小になっていた金額(イ) (2) 6億1263万円
承継した器械備品の価額が過大になっていた金額(ウ) (2) 7943万円
器械備品の減価償却累計額が過小になっていた金額(エ) (2) 1億9584万円
(ア)から(エ)までの計 (1) 2億4290万円
(2) 8億9341万円
(3) 1830万円
(4) 1億0686万円
(5) 2億4055万円
(6) 2452万円

1 制度の概要

(1) 国立高度専門医療研究センターの設立

 6国立高度専門医療研究センター(注1 )(以下「研究センター」という。)は、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づき、平成22年4月1日に、国民の健康に重大な影響のある特定の疾患等に係る医療に関し、調査、研究及び技術の開発、これらの業務に密接に関連する医療の提供等を行うために設立された。  これに伴い、6国立高度専門医療センター(注2 )(以下「旧センター」という。)の経理を一般会計と区分して行うために設置されていた国立高度専門医療センター特別会計は廃止された。

(注1)
 6国立高度専門医療研究センター  独立行政法人国立がん研究センター、独立行政法人国立循環器病研究センター、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター、独立行政法人国立国際医療研究センター、独立行政法人国立成育医療研究センター、独立行政法人国立長寿医療研究センター
(注2)
 6国立高度専門医療センター  国立がんセンター、国立循環器病センター、国立精神・神経センター、国立国際医療センター、国立成育医療センター、国立長寿医療センター

(2) 権利義務の承継等

ア 国が有する権利義務の承継

 研究センターの成立の際、現に国が有する権利及び義務のうち、研究センターが行う業務に関するものは、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律施行令」(平成22年政令第41号。以下「政令」という。)で定めるところにより、政令で定めるものを除き、研究センターが承継するとされている。そして、研究センターが国の有する権利及び義務を承継したときは、研究センターに承継される権利に係る資産で政令で定めるもの(土地、建物、工作物等の国有財産、医療機器等の物品その他の資産。以下「承継資産」という。)の価額の合計額から、研究センターに承継される義務に係る負債で政令で定めるものの価額等の合計額を差し引いた額に相当する金額は、政府から研究センターに対し出資されたものとするとされている。

イ 承継資産の指定

 旧センターは、承継資産を特定するに当たり、国有財産については国有財産台帳と突合するなどして口座別使用現況内訳表等を作成し、また、物品については物品管理簿と突合するなどして承継一覧等を作成し、厚生労働省に提出した。そして、厚生労働大臣は、これらの口座別使用現況内訳表、承継一覧等に記載されたものを承継資産として指定した。

ウ 国有財産の評価

 承継資産の価額は、研究センターの成立の日現在における時価を基準として、厚生労働大臣が承継資産の価額を評価するために任命した評価委員が評価した価額とすることとされている。
 厚生労働省は、評価委員が承継資産の価額を評価するために、国有財産のうち、土地、建物及び工作物の22年4月1日現在における時価評価の鑑定を、不動産鑑定士に委託して行った。
 不動産鑑定士の鑑定評価書等によれば、工作物のうち、建物の効用に寄与することでその建物と一体で経済価値を有していると判断された水道、冷暖房装置等(以下「付帯部分」という。)は、その建物に含めて評価されている。そして、各建物の評価額の算定に当たっては、主体部分及び付帯部分それぞれの耐用年数に応じた減価額を算出し、再調達原価から減価額を減ずるなどした金額を評価額としている。

エ 物品の評価

 物品の価額については、その取得年月日、数量、取得価格等を基にして、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号。以下「省令」という。)に定める減価償却資産の耐用年数を適用した定額法により、取得時点から承継時点までの減価償却を行い、その未償却残高を評価額とするなどしている。そして、医療用器械備品及びその他器械備品については、未償却残高が50万円以上のものを承継資産としている。

(3) 会計基準と財務諸表の作成

 独立行政法人の会計については、「独立行政法人会計基準」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。平成23年6月改訂。以下「会計基準」という。)に従うものとされ、会計基準に定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計原則に従うものとされている。そして、独立行政法人は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)により、毎事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表を作成し、当該年度の終了後3月以内に主務大臣に提出し、その承認を受けなければならないとされている。

(4) 業績評価の実施

 主務大臣は、3年以上5年以下の期間において独立行政法人が達成すべき業務運営に関する中期目標を定め、独立行政法人はこの中期目標に基づき中期計画及び年度計画を作成し、これらの計画に基づき、適正かつ効率的にその業務を運営することとされている。そして、独立行政法人は、各年度及び中期目標に係る業務実績についての独立行政法人評価委員会等の評価(以下「業績評価」という。)を受けなければならないとされている。研究センターは、それぞれの22年度の年度計画の中で、可能な限り収支相償の経営を目指すなどとしている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 独立行政法人の業務運営については、その自律性及び自発性の発揮の見地から、国による事前統制を極力排除し、事後チェックに重点を置くこととされている。この事後チェックを適切に行うためには、独立行政法人の会計は、その財政状態及び運営状況に関して、真実な報告を提供する必要がある。
 そこで、本院は、正確性等の観点から、研究センターの財政状態及び運営状況が22年度の財務諸表に適切に反映され、財務諸表の真実性が確保されているかなどに着眼して、研究センターが承継した建物、医療用器械備品、その他器械備品等を対象として、研究センターにおいて、口座別使用現況内訳表、承継一覧等の関係書類と鑑定評価書等との照合を行ったり、現場の確認を行ったりなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 建物について

 研究センターが承継した建物計56件については、主体部分のほか、それぞれに付帯部分が含まれているが、研究センターでは一律に主体部分の耐用年数を適用し、減価償却を行っていた。
 しかし、研究センターの会計規程によれば、耐用年数等については省令に定める基準を勘案して、減価償却を行うものとされており、省令では、建物とその附属設備(給排水設備、冷暖房設備等)の耐用年数は異なっている。したがって、研究センターが承継した建物については、主体部分と付帯部分に分割した上で、それぞれの耐用年数を適用して、別々に減価償却を行うべきであると認められた。
 この結果、表のとおり、研究センターの建物の減価償却累計額が計6億3864万余円過小に計上され、減価償却費及び損益外減価償却累計額が計4億2066万余円及び計2億1797万余円過小に計上されていた。

表 過小に計上されていた建物減価償却累計額
(単位:件、千円)

国立高度専門医療研究センター名 別々に減価償却を行う必要がある建物 当初の減価償却累計額


別々に減価償却を行った場合の減価償却累計額
  過小に計上されていた減価償却累計額

A−B
件数 金額 うち主体部分 うち付帯部分
国立がん研究センター 14 12,812,117 459,296 702,205 424,819 277,385
242,909

国立循環器病研究センター 4 309,441 10,854 16,343 9,806 6,537
5,488

国立精神・神経医療研究センター 13 2,587,417 79,202 97,503 73,922 23,581
18,300

国立国際医療研究センター 8 6,711,625 219,245 326,115 195,669 130,446
106,869

国立成育医療研究センター 14 16,405,257 530,437 770,988 466,085 304,903
240,551

国立長寿医療研究センター 3 314,612 11,380 35,903 9,104 26,798
24,522

56 39,140,471 1,310,416 1,949,059 1,179,407 769,652
638,642

(注)
 各研究センターの名称中「独立行政法人」は記載を省略した。

(2) 器械備品について

ア 承継価額が過小になっているもの

 独立行政法人国立循環器病研究センター(以下「循環器病センター」という。)は、承継資産に該当する物品を承継一覧に記載していなかったり、誤った取得価格を基にして減価償却を行って承継価額を算定していたりしたため、承継時点において、医療用器械備品の価額が計320件、2億4078万余円、その他器械備品の価額が計215件、3億7185万余円、合計535件、6億1263万余円過小になっていた。

イ 承継価額が過大になっているもの

 循環器病センターは、既に廃棄済の物品を承継一覧に記載していたり、誤った取得価格を基にして減価償却を行って承継価額を算定していたりしたため、承継時点において、医療用器械備品の価額が計5件、2203万余円、その他器械備品の価額が計30件、5740万余円、合計35件、7943万余円過大になっていた。
 この結果、循環器病センターの医療用器械備品及びその他器械備品の価額が2億1875万余円及び3億1445万余円過小に計上されていた。
 また、そのため、医療用器械備品及びその他器械備品の減価償却累計額が1億0075万余円及び9509万余円、計1億9584万余円過小に計上され、減価償却費及び損益外減価償却累計額が1億0362万余円及び9222万余円過小に計上されていた。

 上記のように、研究センターにおいて承継した建物の減価償却が正しく行われず、建物の減価償却累計額が過小に計上されるなどしている事態及び循環器病センターにおいて承継した器械備品の価額計上等が正しく行われず、器械備品の価額が過小に計上されるなどしている事態は、財務諸表において研究センターの財政状態及び運営状況が適切に表示されていないものであり、ひいては業務運営の効率化に係る業績評価が適正に行われないおそれもあることから適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

ア 建物について

 研究センターにおいて、承継した建物については主体部分と付帯部分に分割して減価償却を行うことの認識が十分でなかったこと

イ 器械備品について

(ア) 循環器病センターにおいて、物品の把握・管理が適切に行われておらず、承継すべき物品の確認が十分でなかったこと
(イ) 厚生労働省において、承継一覧等の確認が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、研究センターは、次のような処置を講じた。
ア 研究センターは、承継した建物計56件について、主体部分と付帯部分に分割した上で、それぞれの耐用年数を適用して、別々に減価償却を行い、22年度の財務諸表にこれを反映させた。
イ 循環器病センターは、承継時点で過小又は過大に計上していた器械備品570件について、価額の修正を行った上で、減価償却を行い、22年度の財務諸表にこれを反映させた。
ウ 循環器病センターは、今後、新たに取得する器械備品についても、その把握・管理が適切に行われるよう、決算及び資産管理に係る事務処理を適切に行うための体制を整備した。