ページトップ
  • 平成23年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

生活保護事業の実施において、特別児童扶養手当等の受給資格の有無を調査して確実に収入認定するための体制を整備することにより、生活保護費等負担金の交付が適正なものとなるよう是正改善の処置を求めたもの


(1) 生活保護事業の実施において、特別児童扶養手当等の受給資格の有無を調査して確実に収入認定するための体制を整備することにより、生活保護費等負担金の交付が適正なものとなるよう是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費(平成11年度以前は、一般会計 (組織)厚生本省 (項)生活保護費)
部局等 厚生労働本省(平成13年1月5日以前は厚生本省)、9都道県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者
(事業主体)
県1、市19、特別区6、計26事業主体
生活保護事業の
概要
生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するためにその困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
特別児童扶養手当等の収入認定が適正に行われていなかった被保護世帯 71世帯
上記の被保護世帯に係る収入未認定額 9557万余円 (昭和61年度〜平成24年度)
特別児童扶養手当等の収入認定が適正に行われていなかったため過大に支給された保護費に係る国庫負担金相当額 7168万円 (昭和61年度〜平成24年度)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

 生活保護における特別児童扶養手当等の収入認定について

(平成24年10月19日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1) 生活保護制度の概要

 生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
 生活保護法による保護(以下「保護」という。)は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策等の活用を図ることとされている。
 そして、貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金(平成19年度以前は生活保護費負担金。以下「負担金」という。)を交付している。
 全国の事業主体に対する負担金の交付額は、21年度で2兆2582億余円、22年度で2兆4216億余円に上っている。

(2) 保護費の支給基準及び収入認定

 事業主体は、厚生労働大臣の定める「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号厚生事務次官通知)等に基づき、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として算定される生活費の額から被保護世帯における就労に伴う収入、手当収入等を基に収入として認定(以下「収入認定」という。)される額を控除して決定された保護費の額を支給することとなっている。
 このため、被保護世帯は、収入状況等に変動があった場合には、その旨を速やかに事業主体に届け出なければならないこととなっている(以下、この届出を「収入申告」という。)。
 また、事業主体は、当該世帯の預金、現金等の資産の状況、世帯員の生活歴、社会保険その他社会保障的施策による受給資格の有無及びその世帯における金銭収入等の全てについて綿密な調査を行い、必要に応じて関係機関に対して調査を行うなどして収入源について直接に把握することとなっている。
 そして、事業主体は、収入申告について、あらかじめ被保護世帯に申告の要領、手続等を十分理解させることとなっており、また、不実の申請その他不正な手段により保護を受けた被保護者からは、不正に受給した額を徴収することとなっている。

(3) 手当収入

 収入認定の対象となる収入のうち、手当収入には、特別児童扶養手当等の支給に関する法律(昭和39年法律第134号)に基づき障害児等に支給される特別児童扶養手当(注1) 、障害児福祉手当(注2) 、特別障害者手当(注3) 及び経過的福祉手当(注4) (以下、これらを「特別児童扶養手当等」という。)があり、これらについては都道府県や市の福祉事務所等が支給事務等を行っている。

(注1)
 特別児童扶養手当  障害児(20歳未満であって障害等級1級及び2級に該当する程度の障害の状態にある者)を監護又は養育している扶養義務者として都道府県知事の認定を受けた者に対して支給されるもの
(注2)
 障害児福祉手当  重度障害児(障害児のうち政令で定める程度の重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時の介護を必要とする者)として都道府県知事、市長等の認定を受けた者に対して支給されるもの
(注3)
 特別障害者手当  特別障害者(20歳以上であって政令で定める程度の著しく重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時特別の介護を必要とする者)として都道府県知事、市長等の認定を受けた者に対して支給されるもの
(注4)
 経過的福祉手当  昭和61年3月31日において20歳以上であり、現に従来の福祉手当の受給者であった者のうち、特別障害者手当の支給要件に該当せず、かつ障害基礎年金も支給されない者に対して支給されるもの

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、特別児童扶養手当等の収入認定は適正に行われているか、特別児童扶養手当等を受給している被保護世帯間で収入認定が公平なものとなっているかなどに着眼して、貴省及び22都道府県(注5) の92事業主体の111福祉事務所において、22年4月1日時点で特別児童扶養手当等を受給している世帯のうち、保護を受けている2,864世帯を対象として、保護費の支給決定等に係る関係書類により会計実地検査を行った。

 22都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、群馬、埼玉、新潟、山梨、岐阜、静岡、愛知、和歌山、岡山、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島、沖縄各県

 (検査の結果)

 検査したところ、9都道県(注6) の26事業主体の30福祉事務所において、71世帯の被保護世帯が、特別児童扶養手当等を受給しているのに、事実と相違した収入申告を行っているなどしており、また、事業主体も特別児童扶養手当等の受給状況について十分な確認を行っていなかった。このため、次のとおり、保護費計9557万余円が過大に支給され、負担金相当額7168万余円が過大に交付されている事態が見受けられた。

(1) 被保護世帯から特別児童扶養手当等の受給について収入申告がなく、事業主体も受給状況について確認を行っていなかったもの

8都道県の23事業主体の27福祉事務所における53世帯
過大に支給された保護費7850万余円
(うち負担金相当額5888万余円)

 上記の事業主体は、被保護世帯が特別児童扶養手当等を受給しているのに、被保護者から受給についての収入申告がなく、事業主体も受給状況について確認を行っていなかったため、特別児童扶養手当等の収入認定を行っていなかった。

<事例1>

 事業主体Aは、平成11年10月に世帯Bを対象として保護を開始し、引き続き保護を実施している。そして、17年1月から24年3月までの保護費の支給に当たり、収入認定額の算定において、同世帯からの収入はないとの申告に基づき、保護費の額を決定していた。
 しかし、実際には、世帯Bは、この間に特別障害者手当計230万余円を受給していたにもかかわらず、これについて収入申告を行っていなかった。また、事業主体Aも受給状況の確認を行っていなかった。この結果、同世帯の収入230万余円が認定されておらず、230万余円(負担金相当額172万余円)の保護費が過大に支給されていた。

(2) 事業主体が被保護世帯の特別児童扶養手当等の申請又は受給について把握していたにもかかわらず、収入認定を行っていなかったもの

5都道県の11事業主体の11福祉事務所における18世帯
過大に支給された保護費1706万余円
(うち負担金相当額1280万余円)

 上記の事業主体は、被保護世帯から特別児童扶養手当等について申請を受けたり、受給の報告を受けたりなどしていたにもかかわらず、その受給状況について確認を行わず、特別児童扶養手当等の収入認定を行っていなかった。

<事例2>

 事業主体Cは、平成18年6月に世帯Dを対象として保護を開始した際に、当該世帯の長男が身体障害者手帳1級を所持していることから、特別児童扶養手当等の申請を行うよう助言した。世帯主は、申請を行った結果、20年12月から当該手当を受給することとなったが、事業主体Cの助言に従って当該手当の支給を担当する部署に申請書等を提出したため、当該手当の受給については事業主体内で把握されているものと考え、手当収入について事業主体Cへの申告を行わなかった。一方、事業主体Cは、当該世帯が特別児童扶養手当等を受給する可能性を把握していたにもかかわらず、申請後の手当の受給状況について、支給を担当する部署等に確認を行っていなかった。
 この結果、20年12月から24年5月までの保護費の算定に当たり、同世帯の特別児童扶養手当等に係る収入計268万余円が認定されておらず、268万余円(負担金相当額201万余円)の保護費が過大に支給されていた。
 そして、前記の71世帯に係る過大に支給されていた保護費9557万余円のうち、32世帯に係る3737万余円については、長期間にわたって特別児童扶養手当等の受給に係る調査確認等が行われておらず、保護費の不適正な支給から5年以上が経過していることから、時効(5年)等により返還を求める権利が消滅しており、収入認定が適正に行われていなかったことにより保護費が過大に支給されていたことが確認された場合でも、その返還を命じることができなくなっていた。

 9都道県  東京都、北海道、秋田、群馬、埼玉、新潟、静岡、岡山、沖縄各県

 (是正改善を必要とする事態)

 このように、特別児童扶養手当等の収入認定が適時かつ適正に行われていない事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、特別児童扶養手当等を受給しているのに収入申告を行っていない被保護世帯がいることにもよるが、主として次のことなどによると認められる。

ア 事業主体において、特別児童扶養手当等の受給状況について関係部署に適時かつ適正に確認を行うなどして確実に把握できるような体制が必ずしも十分に整備されていないこと

イ 貴省において、保護費の算定に当たり、特別児童扶養手当等の収入を認定するために、受給状況をより確実に把握できる取組を実施することについて、事業主体に対して徹底していないこと

3 本院が求める是正改善の処置

 近年、被保護世帯数及び負担金の交付額は増加傾向にあり、引き続き保護の適正な実施が強く求められている。また、特別児童扶養手当等を受給している被保護世帯間において、収入申告を適正に行わなかった被保護世帯が過大な保護費を受給することとなる事態を回避する必要があることなどから、事業主体が収入認定を適正に行うことは極めて重要である。
 ついては、貴省において、特別児童扶養手当等の収入が適時かつ適正に認定されるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

ア 事業主体に対して、特別児童扶養手当等の受給資格の有無を必要に応じて関係部署に対して調査して確実に収入認定を行えるようにするため、認定手続に係る組織的な業務管理を徹底するなど更なる体制の整備を図るよう、技術的助言を行うこと

イ 貴省、都道府県等が事業主体に対して行う生活保護法施行事務監査の際に、特別児童扶養手当等の受給の確認や収入認定が適正に行われていない事業主体に対する指導を徹底すること