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  • 平成23年度|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

水田活用の所得補償交付金について、適切な交付が行われるよう、交付対象作物ごとの作付面積を確認する際に、除外指定された農地に関する情報を活用するよう改善の処置を要求し、交付申請者が交付対象者であるかを確認する方法等を実施要綱等に明示するよう是正改善の処置を求めたもの


(4) 水田活用の所得補償交付金について、適切な交付が行われるよう、交付対象作物ごとの作付面積を確認する際に、除外指定された農地に関する情報を活用するよう改善の処置を要求し、交付申請者が交付対象者であるかを確認する方法等を実施要綱等に明示するよう是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業経営対策費
 

(平成22年度は、(項)戸別所得補償制度実証等実施費)

部局等 東北、中国四国両農政局
交付の根拠 予算補助

交付金事業の概要

農業経営の安定と国内生産力の確保を図り、もって食料自給率の向上と農業の多面的機能を維持するため、販売農家等に対して、作付面積に応じて交付金を交付するもの
除外指定されているのに十分確認しないまま交付金が交付された農地の面積 14,254a

上記に係る交付金交付額(1)

4954万円(平成22、23両年度)

交付申請者が交付対象作物を販売(耕作)していないのに交付金が交付された農地の面積

4,228a

上記に係る交付金交付額(2)

1434万円(平成22、23両年度)
(1)及び(2)の計 6388万円

【改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

 農業者戸別所得補償制度における水田活用の所得補償交付金等の交付について

(平成24年10月26日付け 農林水産大臣宛て)

 標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求し、及び同法第34条の規定により是正改善の処置を求める。

1 水田活用の所得補償交付金等の概要

(1) 事業の概要

 貴省は、「農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律」(平成18年法律第88号)、戸別所得補償モデル対策実施要綱(平成22年21政第190号農林水産事務次官依命通知)、農業者戸別所得補償制度実施要綱(平成23年22経営第7133号農林水産事務次官依命通知。以下、これらの実施要綱を合わせて単に「実施要綱」という。)等に基づき、販売価格が生産費を恒常的に下回っている作物を対象に、その差額を交付することにより、農業経営の安定と国内生産力の確保を図り、もって食料自給率の向上と農業の多面的機能を維持することを目的として、平成22年度に戸別所得補償モデル対策を実施した後、23年度からは農業者戸別所得補償制度を実施している。
 戸別所得補償モデル対策による水田利活用自給力向上事業の交付金及び農業者戸別所得補償制度による水田活用の所得補償交付金における交付対象者等の基本的な仕組みは、おおむね同様であり、実施要綱によると、いずれも水田で麦、大豆等の戦略作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家(注1) 及び集落営農(注2) (以下「販売農家等」という。)に対して交付することなどとされている。また、交付金額は、麦の場合、戦略作物に対する助成として交付単価10a当たり35,000円に交付対象面積(麦の作付面積)を乗じて算定した額、また、二毛作に対する助成として交付単価10a当たり15,000円に交付対象面積(二毛作として作付けする麦の作付面積)を乗じて算定した額等とされている(以下、戸別所得補償モデル対策による水田利活用自給力向上事業の交付金における戦略作物及び二毛作に対する助成を「モデル対策交付金」、農業者戸別所得補償制度による水田活用の所得補償交付金における戦略作物及び二毛作に対する助成を「水田活用交付金」といい、これらを合わせて「交付金」という。)。
 交付申請者は、交付金の交付申請に当たり、22年度については、「平成22年度(平成22年産)水稲生産実施計画書兼戸別所得補償モデル対策の交付金に係る作付面積確認依頼書」、23年度については、「農業者戸別所得補償制度の交付金に係る営農計画書」(以下、これらの書類を「営農計画書」と総称する。)等を地域農業再生協議会(注3) (以下「協議会」という。)に提出することとされている。営農計画書には、交付対象面積となる交付対象作物ごとの作付面積等を記載することとされており、協議会は、営農計画書に記載された交付対象作物ごとの作付面積等を確認するなどした上で、地域センター等(注4) に報告することとされている。
 そして、実施要綱によると、捨てづくり(注5) を防止するため、モデル対策交付金にあっては、交付申請者は、交付対象作物ごとに農業協同組合等の実需者等との出荷契約等を締結するとともに、収穫を行うことが原則とされており、また、水田活用交付金にあっては、交付対象作物について、地域の栽培方法等に則し、十分な収量が得られるように生産することが原則とされている。
 さらに、水田活用交付金にあっては、明らかに作付けや肥培管理(注6) が不適切な場合には、交付金を交付しないことが実施要綱に明記されており、協議会が肥培管理の不適切なものを把握した場合は、地域センター等に報告することとされている。

(注1)
 販売農家  戸別所得補償モデル対策及び農業者戸別所得補償制度の各種交付金の交付対象作物のうちのいずれか一つについて、販売実績がある者又は農業共済の加入者であり、法人を含む。
(注2)
 集落営農  複数の販売農家により構成される農作業受託組織であって、組織の規約及び代表者を定め、かつ、交付対象作物の生産・販売について共同販売経理を行っているもの
(注3)
 地域農業再生協議会  農業者戸別所得補償制度等を推進するために、原則として、市町村、農業協同組合、農業共済組合、農業委員会等を構成員として、市町村の区域を基本に組織された協議会
(注4)
 地域センター等  地方農政局又は北海道農政事務所の地域センター。ただし、地方農政局又は北海道農政事務所が所在する道府県のうち地方農政局又は北海道農政事務所の地域センターの管轄区域以外の区域にあっては当該区域を管轄する地方農政局又は北海道農政事務所。また、沖縄県にあっては沖縄総合事務局(平成23年8月31日以前は地方農政事務所、地方農政局が所在する府県にあっては地方農政局、北海道にあっては北海道農政事務所、沖縄県にあっては沖縄総合事務局)
(注5)
 捨てづくり  地域の普及組織等が指導する栽培方法等に則して十分な収量が得られるように生産せず、明らかに作付け、肥培管理等が不適切なこと
(注6)
 肥培管理  作物の生育を助けるための耕耘(こううん)、整地、播種(はしゅ)、かんがい、施肥、除草等の一連の作業

(2) 農業災害補償制度の概要

 貴省は、農業災害補償法(昭和22年法律第185号。以下「農災法」という。)に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補填して農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。そして、同制度の一環として、市町村等の地域ごとに設立された農業共済組合等が農作物共済等の共済事業を行うこととされている。
 農災法等によると、水稲、麦等の農作物について都道府県知事が定める基準(水稲20a〜40a、麦10a〜30a等)以上の規模で耕作の業務を営む者は、水稲、麦等を共済目的とする農作物共済に加入することとされており、農業共済組合等は、加入者に、毎年、農作物共済の共済細目書異動申告票(以下「申告票」という。)に農地ごとの農作物共済引受面積等を記入して提出させなければならないこととされている。
 そして、農業共済組合等は、加入者が提出した申告票に記載があった農地の農作物について、通常の肥培管理が行われず、又は行われないおそれがあるなどの場合には、これらの農地の現地確認等を行って、その結果、共済関係を成立させないことが適当と認められた農地について、当該農地のリスト等を作成し都道府県知事の認定を受けて指定(以下、農業共済組合等による指定を「除外指定」という。)を行い、除外指定を受けた農地の農作物については、共済関係は存しないものとすることとされている。

(3) 交付金の交付要件の確認方法と農業災害補償制度

 前記のとおり、交付金の目的は農業経営の安定の確保を図ることなどにあり、交付金の交付対象者は、交付対象作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家等とされている。一方、農業災害補償制度の目的も農業経営の安定を図ることにあり、農作物共済の加入者は、農災法により、一定の基準以上の規模で麦等の耕作の業務を営む者とされている。したがって、麦等を販売目的で生産(耕作)する販売農家等は、原則として農作物共済に加入することとなる。
 そして、戸別所得補償モデル対策及び農業者戸別所得補償制度の各種交付金の交付申請者は、出荷・販売状況が分かる書類又は農作物共済の加入者であることが確認できる書類として、各種交付金の交付対象作物のうちのいずれか一つについて、前年産の販売伝票の写し、当年産の申告票の写しなどの書類を交付申請書の添付書類として協議会に提出することなどとされている
 また、協議会は、肥培管理の状況を含めて、交付対象作物ごとの作付面積を確認することとされており、その際に、農業共済組合等から農作物共済引受面積等の情報提供を受けて行うことを基本とし、これにより確認できない場合には、現地で確認することとされている。

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 22年度の戸別所得補償モデル対策による水田利活用自給力向上事業の交付金の交付総額は1890億余円、23年度の農業者戸別所得補償制度による水田活用の所得補償交付金の交付 総額は2218億余円と多額に上っている。
 そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、交付対象作物のうち作付面積が大きい麦について、交付金の額の算定の基礎となる作付面積の確認が協議会において適切に行われているかなどに着眼して、6地方農政局等(注7) 及びこのうちの5地方農政局等管内の37協議会並びに15農業共済組合連合会等(注8) において、営農計画書、申告票等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの1地方農政局管内の35協議会から調書の提出を受けるなどして、22、23両年度に、上記の計72協議会が作付面積を確認した農地について交付された交付金計50億2330万余円(22年度25億0486万余円、23年度25億1844万余円)を対象として検査した。

(注7)
 6地方農政局等  北海道農政事務所、東北、関東、東海、近畿、中国四国各農政局
(注8)
 15農業共済組合連合会等  北海道、青森県、秋田県、山形県、茨城県、栃木県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、兵庫県、島根県、岡山県各農業共済組合連合会、神奈川県農業共済組合

 (検査の結果)

 検査したところ、22、23両年度に計延べ147件18,482aの農地に交付された交付金計6388万余円について次のような事態が見受けられた。

(1) 除外指定された農地を対象に、肥培管理の状況等について十分な確認をしないまま交付金を交付しているもの

 検査の対象とした交付金のうち、交付対象作物につき通常の肥培管理が行われず、又は行われないおそれがあることを理由に除外指定された農地を対象に交付金が交付されていたものは、22、23両年度計延べ96件、20,988a、交付金額合計7311万余円(22年度91件、17,390a、交付金額計6052万円、23年度5件、3,598a、交付金額計1259万余円)となっていた。これらの農地の実際の生産量を調査したところ、県ごとの平均的な生産量の2分の1に満たなかったものが22、23両年度計延べ43件、14,254a、交付金額合計4954万余円(22年度39件、10,818a、交付金額計3751万余円、23年度4件、3,436a、交付金額計1202万余円)あり、このうち収穫が皆無であったものが延べ4件あった。
 これらのいずれの農地についても、農業共済組合が申告票の提出を受けて現地確認を実施しており、その現地確認において生育状況が悪いこと、排水管理が不適切であること及び適切な措置を執らないまま麦の連作を行っていることを確認するなどした結果に基づいて除外指定を行っていた。一方、協議会は、作付面積について現地で確認して水田に麦が作付けされていた状況を確認したとしているが、除外指定の情報が活用されていなかったことなどから、生産量の減少が見込まれても、その原因を自然災害と考えるなどしており、肥培管理の状況等について十分な確認をしていなかった。

<事例1>

 交付申請者Aは、平成23年度に水田391aに小麦を作付けしたとして五所川原市農業再生協議会に営農計画書を提出し、同協議会は、23年7月に作付面積について現地で確認していたが、肥培管理の状況等について十分な確認をしないまま、作付面積の確認を終えたとして東北農政局に報告し、同農政局は交付金1,368,500円を交付していた。
 しかし、この水田は、津軽広域農業共済組合が現地確認をしており、生育状況が悪く、排水の管理が不適切であること、同一の農地で小麦を7年以上連作していることから、除外指定の認定を青森県知事に申し出て、同年4月にその認定を受けた水田であった。そして、播種前に農業協同組合と締結した出荷契約における数量が7,200kgであったのに対し、実際の生産量は844kgとこれを大幅に下回っていた。

<事例2>

 交付申請者Bは、平成22、23両年度に水田計361a(22年度235a、23年度126a)に大麦を作付けしたとして出雲市農業再生協議会に営農計画書を提出し、同協議会は、作付面積について現地で確認していたが、肥培管理の状況等について十分な確認をしないまま、作付面積の確認を終えたとして中国四国農政局に報告し、同農政局は交付金計1,263,500円(22年度822,500円、23年度441,000円)を交付していた。
 しかし、この水田のうち計254a(22年度156a、23年度97a)は、出雲広域農業共済組合が、22、23両年度とも現地確認をしており、都道府県等が作成している大麦の栽培指針から大きく外れていて、通常の肥培管理が行われないおそれがあることなどから、除外指定の認定を島根県知事に申し出て、22年2月及び23年2月にそれぞれその認定を受けた水田であった。そして、22、23両年度とも、当該水田の大麦の収穫は皆無であった。

(2) 交付対象作物を販売していない交付申請者に交付金を交付しているもの

 検査の対象とした交付金のうち、農作業等の受委託契約や口頭での農地の貸借を行っていることを理由に、交付申請者が農作物共済に加入していない農地を対象に交付金が交付されていたものが、22、23両年度計延べ114件、7,180a、交付金額合計2467万余円(22年度62件、3,865a、交付金額計1332万余円、23年度52件、3,315a、交付金額計1135万余円)あった。このうち、交付申請者が当該交付対象作物に係る農作業及び販売をしていなかったものが、22、23両年度計延べ104件、4,228a、交付金額合計1434万余円(22年度57件、2,428a、交付金額計829万余円、23年度47件、1,800a、交付金額計604万余円)あった。
 前記のとおり、実施要綱によると、交付金は販売価格が生産費を恒常的に下回っている作物を対象にその差額を交付するものであり、交付対象者は交付対象作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家等とされているが、協議会等がこれについての確認を十分にしていなかったことから、上記の交付金額合計1434万余円は、農作業及び販売をしておらず交付対象作物を販売目的で生産(耕作)しているとは認められない者に交付されていた。

<事例3>

 交付申請者Cは、平成23年度に水田69aに二条大麦を作付けしたとして、出雲市農業再生協議会に営農計画書を提出し、同協議会は23年5月に作付面積を現地で確認するなどして、中国四国農政局に報告し、同農政局は交付金241,500円を交付していた。
 しかし、交付申請者Cは、農作業受委託契約により、交付対象となっている水田における麦の耕起・整地、播種及び収穫を農業者Dに委託し、麦の販売も農業者Dが行い、農作物共済についても農業者Dが加入していた。
 したがって、交付対象の水田69aにおいて交付対象作物を販売目的で生産(耕作)しているのは農業者Dであると認められるのに、同農政局は、農作業及び販売をしておらず交付対象作物を販売目的で生産(耕作)しているとは認められない交付申請者Cに交付金241,500円を交付していた。

 (改善及び是正改善を必要とする事態)

 原則として協議会の構成員となっている農業共済組合等が、農災法に基づき、通常の肥培管理が行われず、又は行われないおそれがあることを理由に除外指定した農地を対象に、十分な確認をしないまま交付金を交付している事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。また、農作業等の受委託契約や口頭での農地の貸借により、交付対象作物に係る農作業及び販売をしておらず、交付対象作物を販売目的で生産(耕作)しているとは認められない者に交付金を交付している事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア 協議会が交付対象作物ごとの作付面積を確認する際に、農業共済組合等により除外指定された農地に関する情報を活用することについて実施要綱等に明示していないこと

イ 交付金の交付申請手続において交付申請者が交付対象作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家等であることを協議会等が確認する方法等について、実施要綱等に明示していないこと

ウ 協議会等に対して、交付対象農地における肥培管理の状況等について除外指定の情報を十分活用して確認すること及び交付申請者が交付対象作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家等であることを適切に確認することについて十分指導していないこと

3 本院が要求する改善の処置及び求める是正改善の処置

 貴省は、22年度に水田を対象に戸別所得補償モデル対策を実施した後、23年度からは農業者戸別所得補償制度を実施し、これを今後も継続していくこととしている。
 ついては、貴省において、交付金の交付を適切なものとするよう、次のとおり改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

ア 協議会が交付対象作物ごとの作付面積を確認する際に、農業共済組合等により除外指定された農地に関する情報の提供を受けて、これを活用するよう実施要綱等において明示すること(会計検査院法第36条による改善の処置を要求するもの)

イ 交付金の交付申請手続において交付申請者が交付対象作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家等であることを協議会等が確認する方法等について、実施要綱等において明示すること(同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)

ウ 協議会等に対して、〔1〕 アの処置について周知徹底を図った上で、除外指定された農地については、実際の生産量を把握することとするなどにより、交付対象農地における肥培管理の状況等について適切に確認するよう指導するとともに、〔2〕 イの処置について周知徹底を図った上で、交付申請者が交付対象作物を販売目的で生産(耕作)する販売農家等であることを適切に確認するよう指導すること(〔1〕 について同法第36条による改善の処置を要求し及び〔2〕 について同法第34条による是正改善の処置を求めるもの)