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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等について


 第4 年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等について

要請を受諾した年月日 平成23年12月8日
検査の対象 年金積立金管理運用独立行政法人等
検査の内容 年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等についての検査要請事項
報告を行った年月日 平成24年10月4日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

 会計検査院は、平成23年12月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
  (一)   検査の対象
        年金積立金管理運用独立行政法人等
  (二)   検査の内容
        年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等に関する次の各事項
      〔1〕   年金積立金の管理運用に係る業務の状況
      〔2〕   契約方式等の状況
      〔3〕   委託先機関における運用実績の状況

(2) 年金積立金の概要

 我が国の公的年金制度は、現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるという世代間扶養の考え方(賦課方式)を基本として運営されている。
 しかし、現役世代の保険料のみで年金給付を賄うこととすると、保険料負担の急激な増加又は給付水準の急激な低下が避けられないことから、年金特別会計において一定の金額を年金積立金として保有し、その運用収入を年金給付の財源の一部として活用することとしている。
 そして、この年金積立金は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)により、厚生労働大臣が年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund。以下「GPIF」という。)に寄託して市場運用等されているものと、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)等により、年金特別会計で管理して財政融資資金に預託して運用等されているものとがある。
 GPIFが厚生労働大臣から寄託を受けて管理している年金積立金は、22年度末において116兆3058億円あり、年金特別会計で管理する年金積立金は5兆5868億円ある。これらを合計すると、年金積立金全体の資産額は、22年度末において121兆8926億円となる。

(3) GPIFの概要

 GPIFは、年金積立金管理運用独立行政法人法(平成16年法律第105号。以下「GPIF法」という。)に基づき、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理及び運用を行うとともに、その収益を国庫に納付することにより、厚生年金保険事業及び国民年金事業の運営の安定に資するために、年金積立金の管理運用を実施する機関として、18年4月1日に設立された。
 GPIFが行う年金積立金の管理運用に関して、厚生労働大臣は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)に基づき、GPIFが達成すべき業務運営に関する目標(以下「中期目標」という。)を定め、GPIFは、中期目標を達成するための計画(以下「中期計画」という。)を作成している。
 そして、GPIFは、中期計画において、年金積立金の運用に関して、運用の基本方針、長期的な観点からの資産構成割合(以下「基本ポートフォリオ」という。)等を定めるなどして、安全かつ効率的に管理運用業務を行うこととしている。

(4) 年金積立金の運用方法

 厚生労働大臣から寄託された年金積立金については、GPIFが中期計画に従って管理・運用する仕組みとなっており、GPIFは、中期計画の中で策定した基本ポートフォリオに基づき、国内債券を中心としつつ国内外の株式等を一定程度組み入れた分散投資を行っている。
 GPIFは、年金積立金を市場で運用する際は、民間の運用機関を活用しており、これらの運用機関を通じて、運用対象資産(国内債券、国内株式、外国債券、外国株式及び短期資産)ごとに資産構成割合が一定の範囲内に収まるよう管理している。

(5) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、年金積立金の管理運用に係る契約等を対象として、同契約は適切に実施されているか、また、同契約の実施に当たり競争性、公平性、透明性は十分に確保されているかなどに着眼して、参議院から要請のあった前記〔1〕 から〔3〕 の各事項について検査を実施した。
 検査に当たっては、厚生労働本省、GPIF、独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)、国家公務員共済組合連合会において会計実地検査を行うとともに、企業年金連合会、地方公務員共済組合連合会及び全国市町村職員共済組合連合会の担当者から年金の管理運用の実態を聴取するなどの方法で調査した。
 そして、GPIFから年金積立金の管理を委託されている4信託銀行(注1) (以下、年金積立金の管理を委託されている信託銀行等を「資産管理機関」という。)、年金積立金の運用を委託されている28運用機関(以下、年金積立金の運用を委託されている運用機関を「運用受託機関」という。)のうち22年度末の運用資産額の時価総額が1兆円を超えていた13運用受託機関(注2) 及び年金積立金の運用方法等に係る調査研究の委託先である6会社等(注3) において会計実地検査を行った。
 さらに、年金積立金の運用状況等について、在庁してその内容の分析を行った。
 なお、本件についての上記の会計実地検査等に要した人日数は、151人日である。

(注1)
 4信託銀行  資産管理サービス信託銀行株式会社、日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社、ステート・ストリート信託銀行株式会社、日本マスタートラスト信託銀行株式会社
(注2)
 13運用受託機関  旧住友信託銀行株式会社(平成24年4月1日以降は三井住友信託銀行株式会社)、DIAMアセットマネジメント株式会社、旧中央三井アセット信託銀行株式会社(24年4月1日以降は三井住友信託銀行株式会社)、東京海上アセットマネジメント投信株式会社、日興アセットマネジメント株式会社、野村アセットマネジメント株式会社、みずほ信託銀行株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社、明治安田アセットマネジメント株式会社、ブラックロック・ジャパン株式会社、株式会社りそな銀行、ノーザン・トラスト・グローバル・インベストメンツ株式会社、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社
(注3)
 6会社等  みずほ総合研究所株式会社、ラッセル・インベストメント株式会社、株式会社三井住友トラスト基礎研究所、タワーズワトソン株式会社、マーサージャパン株式会社、旧財団法人年金シニアプラン総合研究機構(平成24年4月1日以降は公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)

2 検査の結果

(1) 年金積立金の管理運用に係る業務の状況

ア 年金特別会計の基礎年金勘定における積立金と剰余金の運用

 年金特別会計の基礎年金勘定には、昭和61年4月の基礎年金制度創設時から、7246億円の積立金がある。この積立金は、被用者年金の被保険者の被扶養配偶者が、国民年金の任意加入者であった61年3月以前に納付した保険料を財源として積み立てられたものであるが、基礎年金の給付に充てるための具体的な取扱いについて結論が出なかったことから、積み立てられたままとなっている。
 また、当該積立金及び概算で受け入れた拠出金等を翌々年度に精算するまでの預り金等の運用から生ずる運用益についても、同様に基礎年金給付に充てられておらず、基礎年金勘定に生じた剰余金を積立金に積み立てるための根拠規定がなかったことから、これによる剰余金は、平成22年度末で、1兆0731億円に累増している。
 なお、24年8月に、「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成24年法律第63号。以下「被用者年金一元化法」という。)が成立した。そして、25年4月から、基礎年金勘定に生ずる剰余金を積立金とすることができることとなったため、今後、剰余金の累増は解消されると思料される。
 基礎年金勘定の積立金等は、長期間にわたって、具体的な取扱いについて結論が出されていないことから、被用者年金一元化法の成立を契機に速やかに今後の具体的な取扱いを検討し結論を出すなどして、年金給付に充てるなどの活用を図る必要がある。

イ 年金特別会計の国民年金勘定及び厚生年金勘定における余裕金の運用

 年金給付の財源である被保険者からの保険料等は、毎月、年金特別会計に納付されるなどする一方、年金給付は偶数月に行われるため、年金給付日から次の年金給付日までの2か月の間、年金特別会計において保険料等による余裕金が発生する。また、近年は、年金受給者の増加等に伴い、積立金を取り崩して年金給付に要する費用を確保しており、必要額を超えて積立金を取り崩した場合には余裕金が発生する。
 厚生労働省は、この余裕金を、年金給付に支障が生じない範囲内で、1か月以上3か月未満の財政融資資金に預託しており、22年度における運用益は、国民年金勘定で3億4810万円、厚生年金勘定で15億3379万円となっている。
 しかし、年金給付日から次の年金給付日の前日までの約2か月間において発生する両勘定の余裕金(上記の預託分を除く。)の状況を、22年4月15日から23年4月14日までの間についてみると、最も少ない日でも、国民年金勘定に数百億円、厚生年金勘定に数千億円規模の余裕金が発生していた。

ウ GPIFにおける資金運用事業等の処理

 年金積立金は、12年度まで、その全額を旧大蔵省資金運用部(以下「旧資金運用部」という。)に預託することが義務付けられていたが、預託金利が低下傾向になり、預託金利より高い利率で自主的に運用する必要性が国会において強く指摘されるようになった。
 年金積立金を自主的に運用する資金運用事業は、このような背景の下、旧年金福祉事業団(以下「旧事業団」という。)によって、昭和61年度から平成12年度までの間に、年金積立金の預託金利と同率で旧資金運用部から資金を借り入れ、これを市場で運用することにより借入金利を上回る有利な運用を図り、運用収益を国庫に納付することで年金の給付財源を確保するなどの目的で実施されていた。
 しかし、13年4月に旧資金運用部への預託義務が廃止され、年金積立金が旧年金資金運用基金(以下「旧基金」という。)により自主運用されることとなったことに伴い、旧事業団は解散し、資金運用事業も終了したが、既借入金の償還期限(最も遅いもので22年度)が到来するまでは、旧基金において、旧基金解散後はGPIFにおいて引き続き管理運用を行うこととなった。
 資金運用事業等の実績は、旧資金運用部からの長期借入金を全て償還した22年度末で2兆9907億円の損失となっており、GPIFは、この損失を、GPIF法等に基づき運用収益を原資とする利益剰余金、すなわち年金積立金を減額して処理している。
 多額の損失が発生したのは、経済情勢の変化に伴い高い金利で調達した資金を低い利回りで運用する結果となり、借入金利息額以上の運用収益を確保することができなかったことによるものであるが、損失が一定規模に達した場合にはその拡大を防ぐために事業自体を中止するなどの仕組みがあれば損失の増大を抑制できたと思料される。
 また、厚生労働省及びGPIFは、GPIFのホームページ等において、承継勘定の累積利差損の推移や承継勘定の負債等を総合勘定に帰属させることなどについては公表しているが、このような事態となった理由や損失を年金積立金で処理することとなったことについては被保険者等に対して平易かつ明確な説明が十分に行われていないと思料される。

エ 機構における承継債権の回収状況等

 機構は、旧基金(13年3月以前は旧事業団)が旧資金運用部からの長期借入金を財源に行っていた、被保険者等に対する住宅資金等の貸付けに係る債権を承継して(以下、旧基金から承継した貸付けに係る債権を「承継債権」という。)、その管理回収業務を行っている。
 承継に当たっては、GPIF法により、旧基金の解散の時までに旧資金運用部からの長期借入金を繰上償還することとされ、償還に要する資金は、政府が旧厚生保険特別会計等から出資等することとされた。
 これは、旧資金運用部からの長期借入金で行っていた貸付けを旧厚生保険特別会計等の保険料等を財源とした出資金に置き換えて行うもので、言わば、旧厚生年金特別会計等の保険料等が当該貸付けの原資となったものと考えられる。そして、国は、回収した承継債権の元本を年金特別会計に納付させることで、保険料等の回収を図るとともに、機構の承継債権管理回収勘定で生じた積立金を年金特別会計に納付させることで、利息収入を得ているものと考えられる。
 18年度から22年度までの間の納付金等の累計額をみると、納付金は2兆5402億円、回収元本額は1兆9934億円、積立金に相当する額は4759億円であり、担保物件の処理が終了し、かつ、債務者及び保証人が破産して免責決定がなされたため債権を回収する見込みがなくなるなどして貸倒償却したものは累計で27億円となっていた。
 承継債権の残高は、22年度末において1兆7355億円に上っており、その財源は被保険者からの保険料等であり、かつ、納付金として回収された元本等は将来の年金給付の財源となるものである。したがって、厚生労働省においては、今後とも機構が行う承継債権の回収状況等について適切に把握し管理することが重要である。

オ 中期目標及び中期計画

 GPIFの第1期(18年4月から22年3月まで)の中期目標は、16年の財政検証等の経済前提を基に、実質的な運用利回り1.1%を確保するために、基本ポートフォリオを定め、これに基づいて年金積立金の管理を行うこととされていた。
 一方、第2期(22年4月から27年3月まで)の中期目標においては、21年の財政検証等の経済前提や運用利回りなどの数値目標は示されていない。そして、今後年金制度の抜本的な見直しを予定していることなどから、暫定的に安全、効率的かつ確実を旨とした基本ポートフォリオを定め、これに基づき管理を行い、その際は、市場に急激な影響を与えないようにすることとされている。
 このため、GPIFは、第2期の中期計画において、年金制度の抜本的な見直しなどが行われるまでの間は、第1期の基本ポートフォリオを暫定的に利用することとしている(以下、この基本ポートフォリオを「暫定ポートフォリオ」という。)。
 しかし、年金制度の在り方については、社会保障と税の一体改革として引き続き検討を行うこととされていることから、この暫定期間は、既に2年以上に及んでいる。また、暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実か、特に策定時に想定した運用環境が現実からかい離していないかなどについては、中期目標期間中に定期的に検証されることにはなっていない。
 したがって、厚生労働省及びGPIFにおいて、暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実かなどについて、中期目標期間中に定期的に検証することを検討するとともに、暫定の期間が既に2年以上に及んでいることから、暫定ポートフォリオのリターンとリスク等がどのような状況になるまでこれを利用するのかについて検討することが重要である。

カ GPIFの役員

(ア) 役員等の任命

 100兆円を超える巨額の年金積立金を運用する機関であるGPIFの理事長等の人選に当たっては、公正な任命が行われるよう、また、その任命における意思決定等については可能な限り透明性が確保されるよう十分留意する必要がある。
 このため、理事長等の経歴等の公表に当たっては、大まかな経歴だけではなく、被保険者等が理事長等の適性を十分確認できるよう、任命後において必要な経歴等を積極的に公表するなどしてより一層の透明性を確保することが重要である。

(イ) 他の団体の役員との兼職

 GPIFの役員の他の団体役員との兼職の状況について検査したところ、理事が、営利を目的とする団体ではないが、契約の相手先となっていた団体の非常勤理事を兼職していた事態が見受けられた。

キ GPIFのガバナンスの課題

(ア) 厚生労働省とGPIFの関係

 GPIFは、国民年金法、厚生年金保険法等により、専ら被保険者の利益のために年金積立金を運用することとされており、投資等に係る意思決定等について独立性を保つ必要があるが、前記のとおり、厚生労働大臣による理事長等の任命については、透明性を確保するための取組が必ずしも十分ではない状況となっている。
 また、理事長の意思決定には、基本ポートフォリオのように、厚生労働大臣が指示する運用目標等により実質的に内容の大枠が決まると思料されるものがあるが、このときの理事長の意思決定については、両者で十分な意思疎通が図られる必要があり、責任の所在が曖昧にならないよう留意することが重要であると思料される。

(イ) 運用委員会

 GPIFには、理事長が意思決定を行う際の諮問機関として、かつ、GPIFの業務の監視機関として、厚生労働大臣が任命した委員で構成される運用委員会が設置されている。
 運用委員会は、慎重かつ透明な意思決定過程を確保する意味で重要な機関であるが、制度上の権限等をみると、運用委員会の意見等には理事長等を拘束する権限はなく、関与した意思決定に対する責任も明確にされていない。
 また、運用委員会の委員は全て非常勤であり、市場の急激な変動に対して適時の意見等を示したり、GPIFからの報告書のみに依存せずに原資料等により運用状況を監視したりすることは難しいと思料される。

ク 随意契約に関する情報の公表状況

 厚生労働省は、運用・管理業務契約は支出原因契約に該当しないとする考え方が19年10月に、総務省から示されたため、GPIFに対して、運用・管理業務契約を随意契約の見直し計画の対象外とするよう通知していた。
 その後、厚生労働省は、運用・管理業務契約が支出原因契約に該当するのかについて改めて総務省に確認したところ支出原因契約に整理し得るとの回答を得たことから、23年10月、GPIFに対して運用・管理業務契約が支出原因契約に該当すると通知した。これを受けて、GPIFは、運用・管理業務契約を随意契約の見直し計画の対象とすることについて検討を行うとともに、今後新たに締結する運用・管理業務契約について、契約件名、随意契約によることとした根拠等の情報を公表することとした。
 本院は、業務の透明性をより一層確保するため、運用・管理業務契約について、上記の情報に加え、これまで締結した契約に係る情報並びに予定価格を設定していない旨及びその理由を公表するよう厚生労働省及びGPIFに検討を促したところ、GPIFはこれらの情報を公表することとした。

(2) 契約方式等の状況

ア 運用受託機関及び資産管理機関の選定、管理、評価並びに解約

(ア) 運用受託機関及び資産管理機関の選定

 GPIFの管理運用方針によると、運用受託機関については、原則として3年ごとに見直しを行うこととされており、その際には、新たな運用受託機関の選定が行われることとなっている。しかし、運用受託機関の見直しの実施状況をみると、見直しが3年ごとに行われていないものが多かった。これらの中には、18年度以降見直しが全く行われていないものもあった。

(イ) 運用受託機関の選定における審査過程

 運用受託機関を選定する際の審査過程において、審査結果書等に総合評価点は記載されていたものの、投資方針、運用プロセス、組織・人材等の評価事項ごとの評価点数が記載されていないものが多数見受けられるなど、選定の過程の妥当性を事後的に検証することが困難となっている事態が見受けられた。
 GPIFは、22年度以降は評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出しており、現在では選定の過程の妥当性を事後的に検証することが可能になっているとしている。

イ 株主議決権

 GPIFは、外国株式の運用を行っている運用受託機関に対して、シェア・ブロッキング制度(注4) を廃止した国の株式に係る株主議決権の行使を求めている。しかし、運用受託機関の中には、資産管理機関から参考情報として提供される報告書に記載されているシェア・ブロッキング制度の廃止等に関する情報を十分に活用していなかったり、同制度の廃止により実効的に株主議決権の行使が可能になったのかの確認に時間を要したりして、同制度が廃止された後に株主議決権を行使するのが遅れている運用受託機関があり、株主議決権の行使により経営の効率化を促すなどして企業価値を高めさせる機会を逸している事態が見受けられた。

 シェア・ブロッキング制度  株主総会が終了するまでの一定期間、議決権を行使する株主の株式売買が凍結される制度

ウ 業務運営に係る契約の状況

 GPIFが企画競争により契約者を選定して締結した委託調査研究契約に係る予定価格の算定について検査したところ、予定価格の算定の参考とするために徴取した参考見積りについて、それが市場の価格等を反映した妥当なものであるのかを十分に検証することなく予定価格の算定に使用していて、予定価格の適正性に疑義があるものが一部見受けられた。
 また、予定価格を算定する際に用いた参考見積りなどの根拠資料が保存されていない事態が一部見受けられ、これらの契約については、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証することが困難となっている。

(3) 委託先機関における運用実績の状況

 ア 自主運用開始以降の運用実績の状況等

(ア) 収益額の状況について

 年金積立金は、13年度以降自主運用されており、累積収益額(運用手数料等控除前)は、23年度末では13兆9986億円となっており、13年度から23年度までの運用手数料等を控除すると、運用上の累積収益額は11兆1047億円となっている。

(イ) 中期目標期間における運用利回りの状況等

 公的年金では、名目賃金上昇率を上回る実質的な運用利回りが確保される限り年金財政は影響を受けないとされている。GPIF発足後の18年度から23年度までの6年間の実質的な運用利回りの状況をみると、その平均は0.72%となっており、財政計算上の前提における実質的な運用利回りの平均である0.00%を上回っていた。また、同期間におけるベンチマーク(注5) を超過した収益率(以下「超過収益率」という。)の状況をみると、全ての資産区分において±0.1%の範囲内であり、GPIFは、おおむね市場の平均である「ベンチマーク並み」であるとしていた。

 ベンチマーク  株価指数や債券インデックス等の市場の動きを表す指標

イ 運用受託機関別運用実績等

(ア) 近年における運用スタイルの傾向

 市場運用分(短期資産を除く。)におけるパッシブ運用(注6) の比率は、13年度において50%程度であったが、厚生労働大臣が旧基金に対して定めた運用の基本方針及びGPIFに対して定めた中期目標において、パッシブ運用を中心とするとされたことから、15年度に75%を超え、20年度以降は80%を超えて推移している。

(イ) 近年の各資産区分における各運用スタイルの運用実績の傾向

 市場運用分の各資産区分における超過収益率について、パッシブ運用とアクティブ運用(注7) とを比較すると、GPIF発足後の18年度から23年度までの6年間の平均では、アクティブ運用がパッシブ運用を上回る結果となったのは、外国債券のみとなっていた。一方、第2期の中期目標期間開始以降の22、23両年度の2年間の平均では、全ての資産区分においてアクティブ運用がパッシブ運用を上回る運用実績となっていた。
 なお、13年度から23年度までの11年間の市場運用分についてみると、国内債券はアクティブ運用とパッシブ運用の超過収益率がおおむね同程度となっており、国内株式及び外国株式はアクティブ運用がパッシブ運用を下回る結果となっていて、アクティブ運用がパッシブ運用を上回る結果となっているのは、外国債券のみとなっていた。

(注6)
 パッシブ運用  市場の動きを表す指標を構成する全ての銘柄又は代表的な銘柄群を保有することにより、市場の動きと同程度の運用実績を目指す運用
(注7)
 アクティブ運用  業績予想、価格動向、市場見通しなどを踏まえた運用を行って、市場の動きを上回る運用実績を目指す運用

(ウ) 各運用受託機関のアクティブ運用の運用実績

 23年度末時点で3期以上アクティブ運用の運用実績がある国内債券10ファンド、国内株式18ファンド、外国債券7ファンド及び外国株式13ファンド、計48ファンドについて分析をすると、23年度までの平均年率(最長5年)で超過収益率を確保していないファンドは22ファンドとなっていた。また、21年度から23年度までの3期全てにおいて超過収益率を確保していないファンドが4ファンドあった。
 このような状況となっていることについて、GPIFは、超過収益率等の運用実績の定量的な数値のみで運用受託機関の運用能力を判断するためには、数十年間のデータが必要であると一般的に考えられていることから、運用受託機関に対する評価を運用受託機関の運用体制等に基づく定性評価及び超過収益率等に基づく定量評価を内容とする総合評価によって行っていることによるものとしていた。

(エ) 各運用受託機関のパッシブ運用の運用実績

 GPIFは、パッシブ運用のリスク管理指標は実績トラッキングエラー(注8) とし、これを運用ガイドラインに定める管理目標値の範囲内にすることなどを運用目標として示している。会計実地検査を行った28ファンドのうち、運用実績が22年度からの外国債券3ファンド及び外国株式2ファンドを除いた23ファンドの実績トラッキングエラーについて、19年度から23年度までの5年間(平均年率)の状況をみると、21ファンドが管理目標値の範囲内に収まっていた。また、直近の21年度から23年度までの3年間(平均年率)の状況をみると、全ファンドが管理目標値の範囲内に収まっていた。

 実績トラッキングエラー  ポートフォリオのリスクを測定する基準の一つで、この数値が小さいほどベンチマークに近い運用といえる。

ウ 寄託金償還等の状況

(ア) 寄託金償還等の方法

 GPIFは、厚生労働省の指示に基づき、21年度以降、厚生労働省から通知された額を年金特別会計に償還している。そして、GPIFは、この通知内容に基づく資金需要に対応するため、財投債の満期償還金及び利金をまず充当し、更に資金が不足する場合は、運用受託機関から資金を回収していた。
 なお、資金回収の対象となる運用受託機関の選定及び回収金額の決定について、GPIFは、基本ポートフォリオからのかい離状況、運用スタイルの構成状況、総合評価の結果等を勘案の上、市場への影響等を考慮して数回に分けて回収することなどをその都度判断するとしている。

(イ) 資金回収等の対象機関の選定

 GPIFは、資金回収の対象機関の選定について、上記のように総合評価の結果等を勘案して行っている。このため、アクティブ運用を行っているファンドにおいて、最長5年の超過収益率(平均年率)がマイナスの場合であっても、資金を回収していないファンドがあり、中には追加資金を配分しているファンドもあった。
 しかし、アクティブ運用は超過収益の獲得を目的としているものであることから、GPIFにおいては、超過収益率を確保していないファンドに追加資金の配分を行う場合等は、その妥当性に対する説明責任をより的確に果たすために、引き続き、その判断根拠となる総合評価のより一層の充実を図るとともに、その結果に基づき透明性の高いプロセスにより意思決定を行うことが重要であると思料される。

(ウ) 短期資産ファンドの活用状況

 GPIFは、運用受託機関から回収した資金を年金特別会計に償還するまでの間、国庫短期証券、譲渡性預金等による短期資産運用を行っており、23年度末の短期資産の残高は4兆5486億円となっていた。短期資産の運用状況について、自家運用で運用しているBPI国債型パッシブファンド(注9) (以下「BPI国債型ファンド」という。)と比較すると、BPI国債型ファンド(自家運用)の時間加重収益率が3.12%であるのに対して短期資産の時間加重収益率は0.10%となっていた。
 したがって、GPIFにおいては、短期資産ファンドは必要な流動性確保のためのファンドであることを踏まえて、資金回収の市場への影響を考慮するなどしつつ、引き続き、運用受託機関から回収する資金が短期資産に組み込まれる期間を可能な限り短くするよう努めることが重要であると思料される。

 BPI国債型パッシブファンド  野村證券株式会社金融市場調査部が提供する日本国債を対象とする指標をベンチマークとしてパッシブ運用を行うファンド

エ 委託運用と自家運用に係る運用体制、割合、運用方針、収益率等

(ア) 運用受託機関の運用体制

 国内債券のパッシブ運用を行っている8ファンドの23年度末時点における運用体制等について検査したところ、個別の銘柄選定を行うファンドマネージャーが、GPIF以外から運用委託されたファンドにおいても、ファンドマネージャーを兼任していた。
 ただし、ファンドマネージャーのファンド間の兼任及び他業務の兼任は、運用ガイドライン等において禁止されているものではなく、GPIFの自家運用においても、複数のファンドのファンドマネージャーを兼任するなどしている。
 また、国内債券パッシブファンドについて、委託金額が増加した場合の影響について、運用受託機関に聴取したところ、パッシブ運用を行うためのシステム面での変更は必要ないとのことであり、運用体制についても現状で足りるとの回答が多数であった。

(イ) 国内債券パッシブファンドの手数料等

 パッシブ運用は、目標とするベンチマークが同じであれば、運用成績に差は生じないと言われており、実際、GPIFにおける自家運用も含んだパッシブ運用の運用成績をみると、委託運用及び自家運用において超過収益率等は、おおむね同程度となっており、大きな差は生じていなかった。
 そして、自家運用ではGPIFの運用体制等に変更が生じた際にのみ人件費等の増減が見込まれるのに対して、委託運用では運用受託機関の運用体制等に変更がなくても運用資産残高の増減に応じて運用委託手数料も増減するものとなっていた。
 したがって、自家運用及び委託運用において運用成績に大きな差が生じないパッシブ運用においては、自家運用の割合を大きくすることによって運用に要する費用の低減を図る方が経済的になると思料される。
 また、委託運用においても、運用受託機関を集約するなどして、1ファンド当たりの資産規模を大きくすると、規模の拡大による逓減効果によって運用委託手数料は低下すると思料される。
 しかし、運用受託機関を集約するなどして1ファンド当たりの資産規模を大きくすることについては、運用受託機関が債券の売買を行えなくなった場合にGPIFの運用管理に大きな支障が生ずるおそれがあるなどの懸念もあるとされている。
 なお、GPIFにおいては、自家運用についても運用受託機関の総合評価と同様の基準による評価を行っているところであるが、引き続き他の運用受託機関と同様の基準による評価を行い、効率的な自家運用の推進に努めることが重要であると思料される。

3 検査の結果に対する所見

 公的年金制度は、国民全体の連帯による世代間扶養の仕組みによって終身にわたる確実な所得保障を行い、国民の老後等の生活設計の柱としての役割を果たすものである。そして、具体的には、高齢者に対する年金の支給に要する費用をそのときの現役世代の負担によって賄うという賦課方式を基本としつつ、一定の積立金を保有しそれを運用することにより将来の受給世代について一定水準の年金額を確保するという財政方式の下で運営されている。
 しかし、我が国は、近年、少子高齢化が急速に進行しており、本格的な人口減少社会を迎えようとしている。そして、今後とも増加することが見込まれる年金給付の財源については、その確保に向けて様々な議論が行われているところである。
 したがって、年金積立金の管理運用については、年金積立金が国民から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の年金給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら被保険者である国民の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うことにより、将来にわたって、公的年金制度の運営の安定に資することが、従来にも増して強く求められている。また、GPIFは、業務運営の財源に年金積立金の運用益等を充てていることから、その業務運営について規律の確保と透明性の向上がより強く求められるものとなっている。
 ついては、厚生労働省においては、次の各点に留意することとし、また、GPIFにおいては、(1)のア、イ及びエを除く各点にそれぞれ留意することとし、もって年金積立金の適切な管理運用に努める必要があると認められる。

(1) 年金積立金の管理運用に係る業務の状況

ア 年金特別会計の基礎年金勘定の積立金等については、長期間にわたって、それらの具体的な取扱いについて結論が出されていないことなどから、被用者年金一元化法の成立を契機に、速やかに今後の具体的な取扱いを検討し結論を出すなどして、年金給付に充てるなどの活用を図ること

イ 年金特別会計の国民年金勘定及び厚生年金勘定の積立金の取崩しに当たっては、多額の余裕金を保有し、長期資金として運用する機会を失うこととならないよう、年金収支の見通しを的確に把握して、積立金の取崩しを必要最小限の額にとどめ多額の余裕金を保有することのないように努めること

ウ 資金運用事業等の損失については、その負債を年金積立金で処理することとなったこと及びこのような事態となった理由について、被保険者等に対して平易かつ明確に説明を行うことについて検討するとともに、資金運用事業の実施に当たり損失の増大を抑制するための仕組みが作られていなかったことなどを重く受け止め、今後同様な事態が発生することのないように努めること

エ 機構の承継債権の財源は被保険者等からの保険料等であり、かつ、納付金として回収された元本等は将来の年金給付の財源となるものであることから、今後とも機構が行う承継債権の回収状況等について適切に把握し管理すること

オ 暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実かなどについて、中期目標期間中に定期的に検証することを検討するとともに、暫定の期間が既に2年以上に及んでいることから、暫定ポートフォリオのリターンとリスク等がどのような状況になるまでこれを利用するのかについて検討すること

カ 理事長、理事及び運用委員会の委員の任命に当たっては、被保険者等が理事長等の適性を十分確認できるよう、任命後において必要な経歴等を積極的に公表するなどしてより一層の透明性を確保するための取組を検討すること

キ GPIFの役員が契約相手先である団体の役員を兼職することは、被保険者等から、当該役員の職務の公正かつ中立な執行及び職務の信用の確保について疑念を抱かれるおそれがあることから、営利を目的としない団体であっても、GPIFの役員が利害関係のある団体の役員を兼職することを制限する内部規程を定めることについて検討すること

(2) 契約方式等の状況

ア 22年度以降に行っている評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出する取組を今後とも徹底して、運用受託機関の選定の過程の妥当性を事後的に容易に検証できるようにすること

イ 運用受託機関に対して、資産管理機関から提供される情報を十分に活用すること及びシェア・ブロッキング制度が廃止された際には速やかに株主議決権を行使するよう努めることについて指導管理を徹底すること

ウ 企画競争に係る予定価格の算定において参考見積りを徴取する場合は、当該見積りが市場の価格等を反映した妥当なものであるのかを十分に検証することにより、算定の合理性の一層の向上を図ること。また、予定価格を算定する際に用いた根拠資料を保存して、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証できるようにすること

(3) 委託先機関における運用実績の状況

ア アクティブ運用については、市場を上回る運用実績を目指す手法であることから、直近3期全てにおいて超過収益率を確保していないファンド及び3期以上の平均において超過収益率(平均年率)を確保していないファンドについては、超過収益率が低迷していることについて、引き続き原因の分析に努めるとともに、総合評価を適切に行うことにより、継続の是非等について検討すること

イ 国内債券のパッシブ運用については、自家運用の割合を高めて経済的な運用を行うことについて、運用資産残高、自家運用に要する費用、運用受託機関に支払う手数料率の水準等を総合的に勘案して検討すること。また、その際に、運用受託機関に委託したり自家運用を行ったりする運用資産の規模が適切なものとなっているのかについて、1ファンド当たりの資産規模を大きくした場合の運用委託手数料の低減の可能性や運用資産の規模を大きくする際の懸念事項を考慮した上で、適時に検討すること

 本院としては、今後とも、年金積立金の管理運用が適切に実施されているかなどについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。