検査対象 | 成田国際空港株式会社 | |||
成田国際空港株式会社の概要 | 成田国際空港の設置及び管理を効率的に行うことなどを目的として設立された法人 | |||
貸借対照表(連結)計上額(平成24年3月31日現在) |
資産額 |
9025億円 |
||
負債額 |
6662億円 |
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純資産額 |
2363億円 |
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損益計算書(連結)計上額(平成23年4月1日から24年3月31日まで) |
営業収益 |
1735億円 |
||
販売費及び一般管理費 |
245億円 |
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当期純利益 |
35億円 |
成田国際空港株式会社(以下「成田会社」という。)は、成田国際空港株式会社法(平成15年法律第124号。以下「成田会社法」という。)に基づき、成田国際空港を運営していた新東京国際空港公団が解散し、平成16年4月に全額政府出資の特殊会社として設立された。
成田会社設立の際、国は、新東京国際空港公団への政府出資金等3016億円のうち1000億円を資本金としており、520億円を成田会社の資本準備金に振り替え、残る1496億円を成田会社に対する無利子貸付金に振り替えている。無利子貸付金については、成田会社は、毎年国に111億円を償還しており、23事業年度末の残高は608億円となっている。そして、現在、国は表1
のとおり、資本金等と無利子貸付金とを合わせて2128億円を成田会社に投じている。
表1 国が成田会社に投じている資金額
(単位:百万円)
項目 |
成田会社設立時(平成16年4月) |
23 事業年度末(24年3月) |
資本金 |
100,000 | 100,000 |
資本準備金 |
52,000 | 52,000 |
無利子貸付金 |
149,653 | 60,853 |
計 |
301,653 | 212,853 |
成田会社と子会社が構成する企業集団(以下「成田会社グループ」という。)は、我が国の社会経済活動を支える国際拠点空港である成田国際空港を運営している。
国は、19年6月22日に閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画」等に基づき、成田会社の株式売却及び株式上場を検討しており、成田会社グループは着実に利益を上げることが求められている。
成田会社は、首都圏の旺盛な航空需要を反映した営業収益を基に純利益を上げており、これを基に政府に対する配当を17事業年度から行い、19事業年度から23事業年度までの間には年間8億円から25億円の配当を行っている。国が出資している関西国際空港株式会社(注1) (以下「関空会社」という。)及び中部国際空港株式会社(以下「中部会社」という。)がまだ配当を行っていないことと比較すると、成田会社は比較的良好な経営成績を上げていると認められる。しかし、自己資本利益率(注2) について、空港と同様の運輸関係のインフラ系企業である鉄道系企業16社(注3) (東京証券取引所第1部上場)の平均値と比較してみると、表2 のとおり、16社の平均値の方が高くなっており、株式売却及び株式上場が検討されている成田会社は更なる効率的運営による利益の拡大が求められる。
(注1) | 関西国際空港株式会社 関西国際空港株式会社は、平成24年7月以降は関西国際空港土地保有株式会社となり、関西国際空港の運営は大阪国際(伊丹)空港とともに新関西国際空港株式会社が行っている。
|
(注2) | 自己資本利益率(Return On Equity(ROE)) 当期純利益を自己資本で割った比率で、収益性分析の指標として用いられている。
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(注3) | 鉄道系企業16社 東武鉄道株式会社、京成電鉄株式会社、京王電鉄株式会社、小田急電鉄株式会社、東京急行電鉄株式会社、京浜急行電鉄株式会社、相鉄ホールディングス株式会社(平成21年9月相模鉄道株式会社より名称変更)、名古屋鉄道株式会社、近畿日本鉄道株式会社、南海電気鉄道株式会社、京阪電気鉄道株式会社、阪急阪神ホールディングス株式会社、西日本鉄道株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社
|
表2 自己資本利益率等の推移(平成19事業年度〜23事業年度)
(単位:百万円)
事業年度 |
平成19 |
20 | 21 | 22 | 23 |
営業収益 |
199,873 | 189,489 | 179,808 | 187,846 | 173,513 |
当期純利益 |
10,929 | 5,957 | 6,055 | 9,952 | 3,555 |
自己資本利益率(ROE) |
5.3% |
2.8% |
2.8% |
4.5% |
1.6% |
鉄道系企業16社平均ROE |
9.7% |
7.1% |
5.8% |
6.2% |
6.4% |
関空会社及び中部会社は、関西圏及び中部圏をそれぞれ背後圏として運営しており、航空需要の観点からみた背後圏の状況は成田会社と大きく異なるが、23事業年度の成田会社、関空会社及び中部会社(以下「3空港会社」という。)の連結決算における営業収益等(以下、特に断りがある場合を除き連結決算の額を示す。)の状況は、表3 のとおりとなっている。
表3 3空港会社における営業収益等の状況(平成22、23両事業年度)
(単位:百万円)
会社 |
成田会社 |
関空会社 |
中部会社 |
||||
事業年度 |
平成22 |
23 | 22 | 23 | 22 | 23 | |
営業収益(A) (成田会社を 100%とした割合) |
187,846 (100%) |
173,513 (100%) |
89,354 (47.6%) |
88,299 (50.9%) |
42,561 (22.7%) |
41,826 (24.1%) |
|
営業利益 |
32,023 | 21,324 | 19,039 | 17,770 | 4,136 | 3,685 | |
減価償却費(B) (営業収益に対する割合B/A) |
51,240 (27.3%) |
49,989 (28.8%) |
26,392 (29.5%) |
24,865 (28.2%) |
13,811 (32.4%) |
13,298 (31.8%) |
|
EBITDA(C) (営業利益+減価償却費) |
83,263 | 71,313 | 45,431 | 42,635 | 17,947 | 16,983 | |
EBITDAマージン(C/A) |
44.3% |
41.1% |
50.8% |
48.3% |
42.2% |
40.6% |
インフラ系企業は、通常、減価償却費等固定費の規模が大きく、収益が小さくなると利益の確保が困難となる。中部会社は、成田会社と比べて営業収益が22、23両事業年度で成田会社の22.7%、24.1%にとどまっており、営業収益に対する減価償却費の割合をみると32.4%、31.8%と成田会社に比べて5.1ポイント、3.0ポイントそれぞれ上回っている。そこで、減価償却の要因を除去して、営業活動により、どの程度効率的に現金を手許に残しているかをみるために、営業利益に減価償却費を加えたEBITDA(注4) を用いて、これを営業収益で除したEBITDAマージンを用いて3空港会社を比較すると、成田会社のEBITDAマージンは、中部会社と同程度の44.3%、41.1%にとどまっている。一方、関空会社は営業収益の規模が成田会社の1/2程度であるのに、EBITDAマージンは50.8%、48.3%と成田会社に比べ6.5ポイント、7.2ポイント上回っており、利益水準からみると、成田会社の経営成績は他の2空港会社と比べて優れているものの、営業収益からどの程度会社に現金を残しているかあるいはキャッシュフローを生み出しているかという事業運営の効率性の面からみると、必ずしも成田会社が優れている状況にはなっていない。
成田会社をとりまく環境は、東京国際空港の国際線の本格的運用、格安航空会社(LCC)の運航開始等大きく変わっている一方、国は、19年の閣議決定等に基づき成田会社の株式売却及び株式上場を検討しており、成田会社グループは着実に利益を上げることが求められている。
このため、19年度以降の収益、利益等の状況を踏まえ、本院は、経済性、効率性等の観点から、成田会社グループの事業はどのように運営されているか、子会社の経営状況はどのようになっているかなどに着眼して検査を実施した。
検査は、成田会社及び子会社において、経営状況等に関する資料を徴し、事業の実施状況等を調査、分析するなどして実施した。
成田会社は、その有価証券報告書によると、以下の部門(以下「セグメント」という。)の事業を行っているとしている。その具体的な内容は、〔1〕 航空機の発着、給油等に係る空港施設及び旅客サービス施設の整備・運営を行う空港運営事業、〔2〕 商業スペースの整備・運営、免税店、小売・飲食店及び取次店の運営、各種空港関連サービスの提供並びに広告代理業を行うリテール事業、〔3〕 航空会社等を主要顧客とした事務所及び貨物設備の整備・運営を行う施設貸付事業、〔4〕 鉄道事業となっている。
そして、各セグメントの事業は、成田会社と共にその子会社が行っており、23事業年度末においては、空港運営事業11社、リテール事業7社、施設貸付事業1社及び鉄道事業2社、計21社が有価証券報告書上、子会社(注5)
とされている。
ア セグメントごとの損益等の状況
19事業年度から23事業年度までの5か年度の四つのセグメントの損益及び資産の状況は、表4 のとおりである。
表4 セグメントの損益及び資産の状況(平成19事業年度〜23事業年度)
(単位:百万円)
事業年度 | 平成19 | 20 | 21 | 22 | 23 | |
空港運営事業 | 営業収益(A) 営業費用 営業利益(B) 営業利益率(B/A) |
118,017(56.8) 114,804(65.6) 3,213(9.8) 2.7% |
109,649(55.7) 113,480(65.4) △3,831(△16.3) △3.5% |
105,295(56.2) 109,160(65.7) △3,865(△18.1) △3.7% |
110,466(56.5) 105,707(64.7) 4,759(14.9) 4.3% |
103,085(56.8) 104,666(65.4) △1,581(△7.4) △1.5% |
総資産 | 727,732(73.3) | 723,561(71.5) | 716,129(69.2) | 688,065(73.7) | 665,374(73.9) | |
リテール事業 | 営業収益(A) 営業費用 営業利益(B) 営業利益率(B/A) |
54,413(26.2) 37,521(21.4) 16,892(51.2) 31.0% |
52,075(26.4) 37,176(21.4) 14,899(63.4) 28.6% |
48,862(26.1) 35,349(21.3) 13,513(63.3) 27.7% |
50,463(25.8) 36,134(22.1) 14,329(44.7) 28.4% |
44,498(24.5) 33,122(20.7) 11,375(53.3) 25.6% |
総資産 | 49,640(5.0) | 49,739(4.9) | 47,650(4.6) | 44,503(4.8) | 43,581(4.9) | |
施設貸付事業 | 営業収益(A) 営業費用 営業利益(B) 営業利益率(B/A) |
35,227(16.9) 21,796(12.5) 13,430(40.7) 38.1% |
34,889(17.8) 21,819(12.6) 13,070(55.7) 37.5% |
32,919(17.6) 20,510(12.4) 12,408(58.1) 37.7% |
32,838(16.8) 19,606(12.0) 13,232(41.3) 40.3% |
31,310(17.3) 19,748(12.3) 11,562(54.2) 36.9% |
総資産 | 164,112(16.5) | 161,505(16.0) | 156,299(15.1) | 146,977(15.8) | 138,846(15.4) | |
鉄道事業 | 営業収益(A) 営業費用 営業利益(B) 営業利益率(B/A) |
290(0.1) 837(0.5) △546(△1.7) △188.0% |
284(0.1) 940(0.6) △656(△2.8) △231.2% |
283(0.1) 991(0.6) △708(△3.3) △250.4% |
1,716(0.9) 2,019(1.2) △302(△0.9) △17.6% |
2,511(1.4) 2,542(1.6) △31(△0.1) △1.3% |
総資産 | 51,013(5.2) | 77,194(7.6) | 115,300(11.1) | 53,592(5.7) | 52,491(5.8) | |
合計 | 営業収益 営業費用 営業利益 |
207,949(100) 174,959(100) 32,989(100) |
196,898(100) 173,416(100) 23,482(100) |
187,360(100) 166,012(100) 21,347(100) |
195,485(100) 163,468(100) 32,017(100) |
181,406(100) 160,081(100) 21,325(100) |
総資産 | 992,499(100) | 1,012,001(100) | 1,035,380(100) | 933,138(100) | 900,294(100) |
注(1) | 合計欄の営業収益及び営業利益の額は、セグメントの単純合計であるため、表2 及び表3 の数値とは異なる。 |
注(2) | ( )は合計に占める率(%) |
過去5事業年度の営業利益率をみると、空港運営事業はプラスマイナス数%程度、リテール事業及び施設貸付事業はプラス25%〜40%程度、鉄道事業はマイナスの状況である。
イ セグメントごとの経営の状況
3空港会社のセグメントを比較すると、成田会社では、四つのセグメントにしているが、関空会社では、空港運営事業、商業事業及び鉄道事業の三つのセグメントに、中部会社では、空港事業、商業事業及び交通アクセス施設事業の三つのセグメントにしている。3空港会社のセグメント(注6) は、細部まで一致するものではないが、おおむね成田会社の空港運営事業及び施設貸付事業を合わせたものが他の2空港会社の空港運営事業又は空港事業のセグメントに相当し、成田会社のリテール事業が他の2空港会社の商業事業に相当し、成田会社の鉄道事業が他の2空港会社の鉄道事業又は交通アクセス施設事業に相当するものと考えられる。これを前提に、3空港会社の各セグメントごとに経営状況を比較してみると表5 のとおりとなっている。
表5 3空港会社のセグメント損益等比較(平成22、23両事業年度)
(単位:百万円)
会社 | 成田会社 | 関空会社 | 中部会社 | |||
事業年度 | 平成22 | 23 | 22 | 23 | 22 | 23 |
区分 | 空港・施設事業計 | 空港運営事業 | 空港事業 | |||
営業収益(A) 減価償却費 営業利益(B) 営業利益率(B/A) EBITDAマージン |
143,304 47,785 17,991 12.6% 45.9% |
134,395 46,235 9,981 7.4% 41.8% |
60,720 22,258 10,050 16.6% 53.2% |
60,811 20,946 11,279 18.5% 53.0% |
26,358 11,173 2,411 9.1% 51.5% |
25,158 10,722 1,826 7.3% 49.9% |
区分 | (空港運営事業) | |||||
営業収益(A) 減価償却費 営業利益(B) 営業利益率(B/A) EBITDAマージン |
110,466 38,981 4,759 4.3% 39.6% |
103,085 37,663 △1,581 △1.5% 35.0% |
||||
区分 | (施設貸付事業) | |||||
営業収益(A) 減価償却費 営業利益(B) 営業利益率(B/A) EBITDAマージン |
32,838 8,804 13,232 40.3% 67.1% |
31,310 8,572 11,562 36.9% 64.3% |
||||
区分 | リテール事業 | 商業事業 | 商業事業 | |||
営業収益(A) 減価償却費 営業利益(B) 営業利益率(B/A) EBITDAマージン |
50,463 2,370 14,329 28.4% 33.1% |
44,498 2,358 11,375 25.6% 30.9% |
26,984 1,717 8,121 30.1% 36.5% |
26,157 1,560 5,725 21.9% 27.9% |
15,481 1,118 1,938 12.5% 19.7% |
15,932 1,114 1,887 11.8% 18.8% |
区分 | 鉄道事業 | 鉄道事業 | 交通アクセス施設事業 | |||
営業収益(A) 減価償却費 営業利益(B) 営業利益率(B/A) EBITDAマージン |
1,716 1,124 △302 △17.6% 47.9% |
2,511 1,440 △31 △1.3% 56.1% |
4,210 2,416 868 20.6% 78.0% |
4,078 2,358 766 18.8% 76.6% |
2,488 1,519 △249 △10.0% 51.0% |
2,471 1,461 △75 △3.0% 56.1% |
(ア) 空港運営事業・施設貸付事業
成田会社の空港運営事業と施設貸付事業とを合わせて、関空会社の空港運営事業又は中部会社の空港事業と比較してみると、表5 のとおり、営業利益率は22、23両事業年度で関空会社を大きく下回っており、中部会社をやや上回っている。しかし、EBITDAマージンで比較してみると、成田会社は関空会社及び中部会社に対して数値が下回っている。このことは、減価償却費以外の営業費用が他の2空港会社に比べて高いことを示している。成田国際空港は、内陸に設置された空港であることや空港整備の経緯が関西、中部両国際空港とは大きく異なっており、経常的に経費がかかる要因があるものの、営業費用削減に改善の余地もあると考えられる。そこで、成田会社の空港運営事業及び施設貸付事業の二つのセグメントについてみると、次のとおりである。
a 空港運営事業
空港運営事業は、航空機の着陸料等を収入とし、滑走路、誘導路、旅客サービス施設、燃料給油施設等の整備運営及び保安の維持等の空港機能の確保に係るものが費用となっている。成田会社の空港運営事業のEBITDAマージンは、表5
のとおりとなっており、例えば23事業年度については35.0%となっていて、施設貸付事業のEBITDAマージンの64.3%を大きく下回っていることから、空港・施設貸付事業のEBITDAマージンを41.8%に引き下げており、この結果、関空会社の空港運営事業、中部会社の空港事業のEBITDAマージン53.0%、49.9%をそれぞれ下回っている。
なお、空港運営事業における主な収入である着陸料の料金設定についてみると、23事業年度末現在、関空会社では航空機の最大離陸重量1t当たり2,090円(国際線)、中部会社では同1t当たり1,660円(国際線、国内線ともにジェット機)となっている。一方、成田会社では航空機の騒音の程度により同1t当たり1,650円から2,100円(国際線)となっており、上限が関空会社の料金、下限が中部会社の料金とほぼ等しく、成田会社が最も低い料金設定をしている状況とはなっていない。
他方、成田会社では、主に(a)から(c)などのような、特有な業務を引き続いて現在も営んでおり、関空会社及び中部会社に比べて、この経費は追加的に空港運営事業に計上されている。
(a) 警備業務(23事業年度費用76億円)
成田国際空港は、空港整備の経緯により、警備が関西、中部両国際空港と比べて厳重で、23事業年度における空港施設に係る警備費(消防等含む。以下同じ。)は、関空会社28億円、中部会社10億円に対し成田会社は76億円となっている。旅客1人当たりに係る警備費をみても、表6 のとおりとなっており、成田会社の負担が重い状況となっている。
表6 3空港会社の警備費(平成23事業年度)
(単位:百万円)
項目 |
成田会社 |
関空会社 |
中部会社 |
警備費(A) |
7,612 | 2,806 | 1,006 |
旅客数(B) |
2885万人 |
1385万人 |
889万人 |
旅客1人当たりの警備費(A/B) |
263円/人 |
202円/人 |
113円/人 |
(b) 環境対策事業、用地取得等業務
成田国際空港は内陸に設置された空港であり、成田会社は、海上空港の関西、中部両国際空港にはない空港周辺地域に対する環境対策を成田会社法、特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法(昭和53年法律第26号)等に基づいて行っており、その事業費は23事業年度で73億円となっている。その内容は周辺対策交付金等に40億円、騒音対策区域内の家屋等の移転補償等に17億円等となっている。
また、成田国際空港は、空港用地等の取得に多大な困難を経て開港を迎えたが、開港後も空港敷地内に未買収地が残っており、23事業年度末現在で未買収地が3.4ha(うち用地内居住2戸)ある。このため、成田会社は、これらの空港敷地内の未買収地の買収等の業務を行っている。そして、未買収地を取得する際に、土地所有者の希望に応じて提供するための代替地10.8ha(簿価34億円)の保有及び管理を継続して行っている。
(c) 空港施設の保守管理を担当する子会社
空港運営事業において、空港施設の保守管理を担当する子会社が、関空会社及び中部会社の場合はそれぞれ1社であるのに対し、成田会社の場合は5社となっている。そして、それぞれの子会社が、土木・建築、旅客ターミナルビル設備、旅客ターミナルビルの防災設備、昇降機等特殊機械、旅客ターミナルビル以外の設備と業務内容を分担している。これらの子会社は、公団当時、空港施設の保守管理に係る委託業務を受注していた外部の会社を、株式取得等により子会社化するなどして現在に至っているものである。
これらは成田会社に特有の事情であり、空港運営事業において着実に利益を上げるためには、空港整備の経緯等を踏まえた上で引き続き経費削減の努力が重要であると認められる。
b 施設貸付事業
施設貸付事業は、航空会社や航空貨物事業者、その他空港内で事業を行う者に事務所、貨物施設等を貸し付けるものである。
23事業年度の施設貸付事業の営業利益は115億円と、成田会社の営業利益全体の54%を占めており、会社の利益確保のために重要な事業となっている。施設貸付事業における唯一の子会社である臨空開発整備株式会社は、成田会社の用地を借りて、臨空開発第1センタービルを建設して事務室の貸付けを行っている。
この会社は、新東京国際空港公団当時、騒音対策用地等の管理及び同用地の有効活用事業を行う目的で設立され、現在、ビル等の貸付収入を得るとともに、成田会社から委託を受け、騒音対策用地の植栽維持作業等を行っている。当該ビルの貸付先は成田会社及びその子会社が多くを占めていて、同社の23事業年度の単体売上げ9億円のうちビル貸付料収入は3億円となっており、施設貸付事業の収益313億円の僅かを占めるにすぎない。また、空港内の植栽維持作業等については、外部に発注している。後述のとおり、同社の売上高販管費率(注7)
は17.0%と成田会社の子会社の中でも高くなっており、必要とされる業務を効率的に実施するための体制について再度検討する余地があると思料される。
(イ) リテール事業
リテール事業は、外部業者や子会社に飲食・物販店を旅客ターミナルビル等に出店させて、その構内営業料収入や売上収入を得るなどする事業である。
23事業年度における営業収益は444億円となっており、子会社の店舗の売上げ297億円や外部業者の店舗の構内営業料71億円等が主な収入である。
一方、費用は、子会社の店舗の仕入れ190億円、旅客ターミナルビルの店舗部分等の減価償却費17億円、販売費及び一般管理費94億円等である。
成田会社のリテール事業の状況を他の2空港会社と比較してみると、表7
のとおりである。
会社 |
成田会社 |
関空会社 |
中部会社 |
|||
事業年度 |
平成22 | 23 | 22 | 23 | 22 | 23 |
営業収益(A)(百万円) |
50,463 | 44,498 | 26,984 | 26,157 | 15,481 | 15,932 |
営業利益(B)(百万円) |
14,329 | 11,375 | 8,121 | 5,725 | 1,938 | 1,887 |
旅客数(C)(万人) |
3,252 | 2,885 | 1,418 | 1,385 | 921 | 889 |
旅客1人当たりの営業収益(A/C)(円/人) |
1,551 | 1,542 | 1,902 | 1,888 | 1,680 | 1,792 |
旅客1人当たりの営業利益(B/C)(円/人) |
440 | 394 | 572 | 413 | 210 | 212 |
成田会社は、旅客数自体が他の2空港会社より非常に多いことから、収益規模が大きく、営業利益は他の2空港会社より高くなっている。成田会社の営業収益は、外部業者の場合は外部業者の売上全額が計上されるのではなく、外部業者が成田会社に支払った構内営業料が計上される一方、子会社の場合は、リテールの売上全額が計上される。こうした計上方法の相違等のため、3空港会社についてそれらの構成割合等の詳細な比較をしないと営業収益の厳密な比較は困難であるが、成田会社の旅客1人当たりの営業収益は他の2空港会社よりも低くなっている。この一因としては、成田国際空港における旅客数に占める国際線トランジット客の割合が2割と、関西、中部両国際空港が数%であるのに比べて高く、成田会社においてはトランジット客の1人当たり売上高がトランジット客以外の1人当たり売上高より低いことがある。しかし、このことはトランジット客に係る収益額を増加させる工夫の余地があるとも考えられる。
また、旅客1人当たりの営業利益がどの程度確保されているかについて22、23両事業年度の状況でみると、成田会社は中部会社よりは高くなっているが、関空会社と同程度若しくは低くなっている。
以上のことから、他の2空港会社との比較において、成田会社については、収益の拡大を図る余地があると認められることから、収益の拡大を通した利益の拡大についてもその余地があると思料される。
しかし、成田国際空港においては、空港の安全運営のために、全ての来港者に対し身分及び所持品の確認を行っており、旅客以外の集客面での抑制要因となっており、この点は、関西、中部両国際空港と比べて、商業、イベント等における弱点となっており、安全性を確保しつついかに集客を図るかが、リテール事業にとって課題となっている。
(ウ) 鉄道事業
鉄道事業は、成田会社では子会社2社が経営しており、14年10月に開業した東成田から芝山千代田までの区間2.2kmの芝山鉄道の運営と22年7月に開業した印旛日本医大から土屋(成田空港高速鉄道接続点)までの区間10.7kmの成田高速鉄道アクセス線の軌道等の貸付けを行っている。
a 芝山鉄道
芝山鉄道は、成田国際空港を運営する上での地域共生策としての事業であり、子会社である芝山鉄道株式会社が運営を行っており、19事業年度から23事業年度までの単体決算を見ても、表8 のとおり、毎期営業損失が生じている。その収益は、鉄道乗客の運賃等であり、営業距離が短く沿線住民等の数が限られており、大幅な増収を図ることは困難である。費用は、運行を委託している京成電鉄株式会社への運行委託費等の固定費が多くを占めている。このような経営環境下で、芝山鉄道株式会社は、16事業年度から沿線自治体による補助金を毎期計1億7000万円受け、特別利益に計上している。
表8 芝山鉄道株式会社の営業損失の推移
(単位:百万円)
事業年度 | 平成19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
営業損失 |
110 | 187 | 163 | 259 | 241 |
なお、芝山鉄道株式会社は、14、15両事業年度決算での鉄道事業の営業利益は2期連続でマイナスになり、今後も利用者数が大幅に増加する見込みがないとして、16事業年度に鉄道事業資産のほぼ全額となる51億円の減損損失を計上していることから、17事業年度以降、減価償却費は鉄道資産以外のものに限定されている。
上記のとおり、芝山鉄道については、乗客数の大幅な増加は見込めない状況にあり、今後、施設の大規模修繕の時期を迎える際に資金手当を新たに行う必要がある。
b 成田高速鉄道アクセス線
成田高速鉄道アクセス株式会社は、成田高速鉄道アクセス線の軌道等を建設し、管理している。成田高速鉄道アクセス線は、表9 のとおり、従来、東日本旅客鉄道株式会社と京成電鉄株式会社がそれぞれ成田国際空港と都心との間を結んでいたものを、都心と空港間の時間短縮を図る目的で新たに旧成田新幹線予定ルートの一部区間を利用して建設したものである。そして、京成電鉄株式会社が、従来の京成本線による特急スカイライナー等の運行に代えて、成田高速鉄道アクセス線を経由して特急スカイライナー等を運行している。
鉄道運行事業者名 |
都心・空港間主要ルート |
経路路線名 |
所要時間 |
東日本旅客鉄道株式会社 |
東京駅〜千葉駅経由〜空港第2ビル駅(78.2km) |
JR総武本線・JR成田線 |
最速50分(特急成田エクスプレス) |
京成電鉄株式会社 |
日暮里駅〜京成津田沼駅経由〜空港第2ビル駅(66.2km) |
京成本線 |
最速51分(特急スカイライナー:従来) |
京成電鉄株式会社 |
日暮里駅〜東松戸駅経由〜空港第2ビル駅(61.0km) |
京成本線・北総線・成田高速鉄道アクセス線 |
最速36分(特急スカイライナー:新規) |
同社は、22年7月に同線が開業したことにより、その運行事業者である京成電鉄株式会社との協定等に基づいて線路使用料を収受することとなった。
線路使用料は、成田高速鉄道アクセス線の運行に伴い京成電鉄株式会社に発生した追加的利益を基礎に支払われることになっており、同線の開業以降、一定の利益見通しを基に使用料が計算され、成田高速鉄道アクセス株式会社に定期的に収納されているが、25年4月以降に係る線路使用料については、開業後の京成電鉄株式会社の収益及び費用を精査するなどして見直すものとされている。
成田高速鉄道アクセス株式会社の23事業年度営業収益は13億円(うち鉄道線路使用料収入98.9%)、営業費用は16億円(うち減価償却費10億円)で、3億円の営業損失を計上している。
成田高速鉄道アクセス線の乗客数は、現在のところ、当初の予測を下回っており、25年4月以降に係る線路使用料の見直しは、成田会社の連結財務上のリスク要因となっており、見直しの結果によっては、その対応を検討する必要がある。
鉄道事業については、上記のように将来の損益に不確定要素があり、増収の可能性を探る一方、経費削減に向けた一層の努力が重要であると認められる。
成田会社グループは、前記のとおり、23事業年度において、子会社が21社あり、23事業年度決算における成田会社の連結営業利益は213億円、単体での営業利益は186億円となっている。
子会社21社の23事業年度決算における内部取引消去等後の営業費用における営業原価の合計額は488億円、販売費及び一般管理費の合計額は107億円となっていて、営業原価は連結の額(1276億円)の38.2%、販売費及び一般管理費は連結の額(245億円)の43.7%を占めている。
また、子会社は親会社の委託業務の多くを受託しており、親会社の委託業務のうち子会社が受託した委託業務は23事業年度で268億円、その比率は81.1%になっている。
このように、成田会社グループの経営においては、子会社の果たす役割が大きく、グループ全体の経費の削減を行う上でも重要と考えられる。そこで、子会社の状況についてみると、以下のとおりである。
ア 子会社の設置状況
成田会社は、その設立の際、外部委託会社の株式取得による子会社化、子会社の新設等により、グループ会社を形成し、23事業年度末現在、空港施設の運営、保守等の業務を21の子会社等に委託している。
3空港会社のセグメントごとの子会社の状況を比較すると、表10
のとおりとなっている。
表10 3空港会社のセグメントごとの子会社の状況
(平成24年3月現在)
成田会社 |
関空会社 |
中部会社 |
||||
空港運営事業 |
施設保守管理 |
エアポートメンテナンスサービス(株) (株)成田エアポートテクノ ネイテック防災(株) (株)NAAエレテック (株)NAAファシリティーズ |
空港運営事業 |
関西国際空港施設エンジニア(株) |
空港事業 |
中部国際空港施設サービス(株) |
情報通信 |
空港情報通信(株) (株)NAAコミュニケーションズ |
関西国際空港情報通信ネットワーク(株) |
中部国際空港情報通信(株) |
|||
給油 |
成田空港給油施設(株) |
関西国際空港給油(株) |
中部国際空港給油施設(株) |
|||
警備消防 |
NAAファイアー&セキュリティー(株) NAA成田空港セコム(株) |
関西国際空港セキュリティ(株) |
— |
|||
人材派遣 |
(株)成田空港ビジネス |
— |
— |
|||
熱供給 |
(株)NAAファシリティーズ(再掲) |
関西国際空港熱供給(株) |
中部国際空港エネルギー供給(株) |
|||
用地造成 |
— |
関西国際空港用地造成(株) |
— |
|||
リテール事業 |
(株)NAAリテイリング NAA&ANAデューティーフリー(株) (株)NAA&JAL—DFS (株)グリーンポート・エージェンシー 成田空港サービス(株) 成田空港ロジスティックス(株) |
商業事業 |
(株)関西エアポートエージェンシー |
商業事業 |
中部国際空港旅客サービス(株) |
|
広告代理 |
(株)メディアポート成田 |
|||||
施設貸付事業 |
臨空開発整備(株) |
— |
— |
|||
鉄道事業 |
芝山鉄道(株) 成田高速鉄道アクセス(株) |
鉄道 事業 |
(親会社で実施) |
交通アクセス 施設 事業 |
(中部国際空港施設サービス(株)再掲) |
3空港会社を比較すると、成田会社は、同一セグメント内の同じ業種に複数の子会社を設立しているという特徴がある。
イ 子会社の経営状況
(ア) 子会社の数及び規模
前記のとおり、空港運営事業における施設保守管理の業種では、子会社5社が事業を実施している。
また、警備消防の業種においては、子会社が一括して受託した業務をその子会社や子会社以外に再委託している。リテール事業及び情報通信の業種についても、関空会社及び中部会社はそれぞれ1社ごとで事業を実施しているが、成田会社は複数の子会社で事業を実施している。
子会社21社には、23事業年度末で従業員数が200名を上回る会社が7社ある一方、30名を下回る会社が5社ある状況となっている。
(イ) 子会社の経営効率の状況
子会社を多数抱えて事業を実施することが、少数の子会社で事業を実施することよりも、事業を効率的・効果的に運営する面で優位性を発揮するとは限らない状況が以下のとおり見受けられた。
すなわち、成田会社の子会社の売上高販管費率についてみると、2.8%から75.5%までと分散しており、平均値は21.3%となっている。
そして、この平均値を関空会社及び中部会社の子会社と比較してみると、関空会社6.2%、中部会社6.5%であり、成田会社の子会社の数値が高くなっている。この要因としては、成田会社のリテール事業の子会社7社において、子会社の店舗の販売員の給与や構内営業料等が販売費に係る経費として販売費及び一般管理費に計上されていることから、売上高販管費率が16.3%から75.5%までと高くなっていることが一因と思料される。一方、関空会社及び中部会社の子会社は店舗の運営部分を親会社から受託しており、販売員の給与等は売上原価に計上されている。
このような違いがあることから、リテール事業の7社を除いて残り14社全体の売上高販管費率を計算してみると、成田会社の子会社は7.9%となる。子会社の管理業務を子会社が行っているのか、あるいは親会社が行っているかなど様々な要因によって影響を受け単純に比較はできないが、同様にリテール事業を除いて計算した関空会社の子会社の6.0%、中部会社の子会社の5.1%と比較しても依然として高い状況にある。
そこで、販売費及び一般管理費の費用の構成を3空港会社で比較してみると表11
のとおりとなっている。
表11 販売費及び一般管理費の構成と売上高に対する比率(平成23事業年度)
(単位:百万円)
構成費用種別 |
成田会社 |
関空会社 |
中部会社 |
|||
(リテール以外14社) |
対売上高比率 |
(リテール以外6社) |
対売上高比率 |
(リテール以外4社) |
対売上高比率 |
|
報酬、給与等人件費 |
2,316 | 5.7% |
532 | 2.8% |
178 | 3.0% |
地代家賃、賃借料 |
315 | 0.7% |
316 | 1.7% |
42 | 0.7% |
その他 |
557 | 1.3% |
269 | 1.4% |
81 | 1.4% |
販売費及び一般管理費計 |
3,190 | 7.9% |
1,118 | 6.0% |
302 | 5.1% |
売上高 |
40,294 | — |
18,544 | — |
5,826 | — |
成田会社の子会社は、役員報酬や従業員の給与等の人件費の対売上高比率(以下「人件費率」という。)が5.7%と他の2空港会社の2.8%、3.0%と比べて、3ポイント弱高くなっており、これが、売上高販管費率を高めている要因であると認められる。
そこで、成田会社の人件費率が高い要因について子会社の売上高の規模と、子会社の業務処理体制に着目して分析したところ、次のような状況になっていた。
a 子会社の売上高販管費率について
リテール事業の上記の7社を除いた14社を売上高で区分して売上高販管費率をみると、表12 のとおりとなっている。
表12 売上高ごとの売上高販管費率(平成23事業年度)
(単位:百万円)
売上高 |
20億円未満 (7社) |
20億円以上40億円未満 (3社) |
40億円以上 (4社) |
|
売上高合計額(A) |
7,199 | 10,422 | 22,672 | |
販売費及び一般管理費合計額 |
889 | 1,017 | 1,283 | |
うち人件費合計額(B)(売上高に対する割合B/A) |
662 (9.1%) |
711 (6.8%) |
943 (4.1%) |
|
売上高販管費率 |
平均12.3% |
平均9.7% |
平均5.6% |
表12 によると、子会社の売上高が少ないほど売上高販管費率が高い傾向が見受けられる。売上高が20億円未満の7社の人件費率が9.1%であるのに対して、売上高が40億円以上の子会社の人件費率が4.1%と人件費率は売上高が小さいほど高くなっている。売上高が小さい子会社の売上高販管費率が高いのは、販売費及び一般管理費のうちの人件費の負担が、売上高に比べて重くなっていることが要因であると認められる。
成田高速鉄道アクセス株式会社は、平成14年4月に設立され、現在成田会社の出資比率が53.7%の会社であり、成田高速鉄道アクセス線の軌道等の貸付けを行っている。
22年7月に同線が開業し、立上り期である23事業年度の売上高は13億4406万円にとどまっている一方、販売費及び一般管理費は2億5359万円となっており、売上高販管費率は18.8%となっている。この売上高販管費率18.8%は、リテール事業を除いた14子会社の中で最も高くなっている。これらのことから、当期の営業損失は3億2013万円となっている。同社の人員構成等をみると、24年3月31日現在の従業員数は、社員8人、臨時雇用者2人で、これらの人件費は全て販売費及び一般管理費に計上されている。人材派遣費等を含む従業員給与等は9619万円、常勤役員数7人(ほかに非常勤役員が7人いる。)に対する役員報酬等は8016万円となっており、販売費及び一般管理費のうち69.5%を人件費が占めている。
臨空開発整備株式会社は、平成元年11月に設立され、現在成田会社の全額出資子会社であり、前記のとおり、空港敷地内の賃貸ビル等の経営、騒音対策用地の植栽維持作業等の業務を行っており、その賃貸ビルには他の子会社等が入居している。23事業年度に成田会社と結んだ植栽維持作業等の委託契約7件(2億7531万円)のうち6件(2億6659万円)を外部へ再委託しており、その契約は47件(2億1532万円)となっており、その差額の約5100万円が同社の手数料等となっている。
23事業年度の同社の売上高は9億5855万円に対し、販売費及び一般管理費は1億6361万円で、売上高販管費率は17.0%となっている。そのうち人件費についてみると、24年3月31日現在の常勤役員数5人(ほかに非常勤役員が2人いる。)で、23事業年度における役員報酬等は5498万円、従業員給与等は8489万円となっている。このように、販売費及び一般管理費のうち85.4%を人件費が占めている。
また、前記の分析において対象から外したリテール事業の子会社のうち、免税品販売等、類似の店舗運営を行っている株式会社NAAリテイリング(以下「NAAR」という。)、NAA&ANAデューティーフリー株式会社(以下「NADF」という。)及び株式会社NAA&JAL—DFS(以下「NJDS」という。)の3社について比較してみると、同様に売上高が低いほど売上高販管費率が高い傾向がみられる。
NAAR、NADF及びNJDSの3社について、平成23事業年度で比較すると、NAARは売上高が230億4882万円に対し、NADF、NJDSは17億5037万円、25億7618万円とNAARの10分の1程度の規模となっている。そして、NAARを除く2社は売上高が低いことから、販売費及び一般管理費の負担が重くなっており、売上高販管費率はNAARの30.6%に比べNADFは49.3%、NJDSは44.5%と高くなっている。NADF及びNJDSはNAARに対し収益性が低くなっており、NAARが24年3月までに利益剰余金を34億2111万円計上しているのに対し、NADF及びNJDSは累積損失をそれぞれ7億6093万円、4億7433万円計上している。
なお、NADF及びNJDSは、仕入、店舗及び販売を一元的に管理運営する体制を整えて、効率的・機動的な組織体制の構築を目指すために、24年4月1日にNAARが両社を吸収合併している。
これらのことから、営業収益が小規模の子会社については、一般管理費のうち特に人件費の負担が重くなっており、小規模の子会社を維持して委託業務を行わせることについて経費削減を図る余地がないか検討する必要があると認められる。
b 子会社の業務処理体制の状況
3空港会社の子会社の業務処理体制の状況をみると、表13 のとおりとなっている。
表13 子会社の業務処理体制の状況
(平成24年3月現在)
成田会社 |
関空会社 |
中部会社 |
・子会社の経理処理は各社が各々の会計システムを用いて個別に行う。(本社単体、連結、グループ各社個別となっている会計システムを見直し、統一された会計システムの導入を進めている。) |
・統一した経理システムをグループ内で共同使用して行う。 ・子会社が実施する調達案件のうち、一定金額以上の契約に係る手続、見積り、価格交渉等について、親会社が業務を受託 |
・子会社は調達事務、経理処理等を親会社に委託している。 |
中部会社は、調達事務、経理処理等を受託するなどしてグループ会社の調達事務等を一括して取り扱い、親会社が子会社を統制しながら合理化を図っており、関空会社も、経理システムの統一を図るほか、グループ会社の調達事務の一部を受託するなどしている。さらに、中部会社は、親会社と一体的に子会社経営を行うために、子会社の代表取締役を親会社の代表取締役が兼務している。
成田会社は、21事業年度に新たに各子会社に調達規程を制定又は改正させるなどするとともに、規程を成田会社の承認事項とするなどして成田会社グループ内の手続等の統制を図ったとしているが、経理、調達等の業務は各子会社が個別に実施している。
このように他の2空港会社は、子会社の業務処理をグループで一括して行うなどしており、これらの対応も子会社の売上高販管費率を下げる要因であると思料される。
成田会社は、子会社とともに成田会社グループを形成し、日本の社会経済活動を支える国際拠点空港である成田国際空港を運営している。国は、成田会社の株式売却及び株式上場を検討しており、成田会社グループは着実に利益を上げることが求められている。
今回、本院は、経済性、効率性等の観点から、成田会社グループの事業はどのように運営されているか、子会社の経営状況はどのようになっているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 成田会社グループのセグメントごとに、次のとおり、置かれている経営環境及び経営課題が大きく異なっている。
〔1〕 空港運営事業・施設貸付事業では、成田国際空港が内陸空港であることや、空港整備の経緯等から、厳重な警備体制、環境対策事業、用地取得等の業務を抱えている。これらの業務は、現在必要とされている業務ではあるものの、空港施設の保守管理を担当する子会社が5社あることを含めて、整理統合等、更に合理化の余地がないか検討するなど、引き続き経費削減の努力が必要であると認められる。
〔2〕 リテール事業では、他の2空港会社との比較において、事業範囲が異なっているため厳密な比較は困難ではあるが、旅客1人当たり営業収益及び営業利益について、それぞれ増加を図る余地があると思料され、安全性を確保しつつ旅客以外の集客を図ることが重要な課題であると認められる。
〔3〕 鉄道事業では、将来の損益に不確定要素があり、増収の可能性を探る一方、経費削減に向けた一層の努力が重要であると認められる。
イ 成田会社には、23事業年度において21の子会社があり、セグメント内の同じ業種に複数の子会社が設立されており、子会社の経営規模は子会社によって大きく異なっているため、子会社の在り方について検討する余地があると認められる。
成田会社の子会社の売上高販管費率を関空会社及び中部会社の子会社と比較してみると、成田会社の子会社の売上高販管費率が高くなっており、その費用として人件費の負担が重くなっていると認められ、特に成田会社の子会社のうち、規模の小さい子会社の売上高販管費率が高い傾向にあると見受けられた。
そして、子会社の販売費及び一般管理費に費用が計上される業務処理等に関し改善を行う余地があると認められる。
したがって、成田会社においては、今後、次のような点に留意して、成田会社グループ全体として着実に利益を上げていくことが重要である。
ア 空港運営事業・施設貸付事業は、業務の合理化の余地はないか検討するなどして、経費節減努力を継続すること。リテール事業は、安全性を確保しつつ旅客以外の集客を図る努力をすること。鉄道事業は、増収の可能性を探る一方、経費削減に向けた一層の努力を行うこと
イ 他会社の状況も参考にしつつ、子会社の整理統合、子会社の業務処理の共通化等について検討するなどして、一層の合理化に努めること
本院としては、我が国の社会経済活動を支える国際拠点空港である成田国際空港の運営を担っている成田会社グループの経営の状況について、引き続き検査していくこととする。