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  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第10 農林水産省|意見を表示し又は処置を要求した事項

(10)保証保険資金等緊急支援事業により代位弁済に要する経費の一部が助成された当該代位弁済に係る回収金について、国庫補助金相当額及び交付金相当額を適時適切に国庫に返還させるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
東日本大震災復興特別会計 (組織)復興庁 (項)農林水産業復興政策費
(平成23年度は、一般会計 (組織)水産庁 (項)漁業経営安定対策費)
部局等
水産庁
補助等の根拠
予算補助
補助事業者等
(事業主体)
独立行政法人農林漁業信用基金、3漁業信用基金協会
補助事業等
保証保険資金等緊急支援事業
補助事業等の概要
東北地方太平洋沖地震及びこれによる津波により被災した地区の漁業信用基金協会において、中小漁業者等の保証付融資の代位弁済を行った場合に当該協会及び独立行政法人農林漁業信用基金に対して代位弁済等に要する経費の一部を助成するもの
3漁業信用基金協会が保有している協会回収金の額
1億3464万余円(平成25年度末)
上記に係る国庫補助金相当額(1)
1億0367万円
独立行政法人農林漁業信用基金が保有している信用基金回収金の額
2億4821万余円(平成25年度末)
上記に係る交付金相当額(2)
2億3980万円
(1)及び(2)の計
3億4347万円

【改善の処置を要求したものの全文】

保証保険資金等緊急支援事業による代位弁済に係る回収金について

(平成26年10月9日付け 水産庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1)漁業信用保証保険制度の概要

漁業信用保証保険制度は、中小漁業者等が漁業協同組合等その他の融資を行う機関(以下「融資機関」という。)から受ける融資について、中小漁業融資保証法(昭和27年法律第346号)に基づき全国42の漁業信用基金協会(以下「協会」という。)がその債務を保証する信用保証と、同法に基づき当該信用保証に対して独立行政法人農林漁業信用基金(以下「信用基金」という。)が協会と締結した保険契約の契約金額の範囲内で保険を引き受ける信用保険とによって成り立っている。

そして、協会は、債務保証が付された融資(以下「保証付融資」という。)を受けた中小漁業者等が債務不履行に陥った場合に、当該中小漁業者等に代わって融資機関に債務の弁済(以下「代位弁済」という。)を行い、信用基金は上記の契約に基づき、協会が支払った代位弁済の額に填補率(主に70%又は80%)を乗じた額を協会に保険金として支払うこととなっている。協会は、代位弁済により取得した求償権の行使により、事後に資金を回収した場合には、回収金(以下「協会回収金」という。)のうち保険金に相当する額(以下「信用基金回収金」という。)を信用基金に納付することとなっている。

(2)保証保険資金等緊急支援事業の概要

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれによる津波(以下、これらを合わせて「大地震等」という。)により被災した地区(以下「被災地区」という。)の協会において、保証付融資を受けた中小漁業者等が債務不履行に陥って代位弁済が急増し極めて多額の経費が発生することが見込まれた。このため、貴庁は、23、24両年度に、中小漁業者等の活動再開に必要な資金の円滑な融通に支障を来さないよう、被災地区の協会が大地震等発生時点で引き受けていた保証付融資について大地震等を原因とした代位弁済を行った場合に、当該協会及び信用基金に対して代位弁済等に係る経費の一部を助成する保証保険資金等緊急支援事業(以下「緊急支援事業」という。)を行っている(図参照)。

図 緊急支援事業の仕組み

緊急支援事業の仕組み 画像

そして、貴庁は、岩手、宮城、茨城、千葉各県の協会(以下、これらを合わせて「4協会」という。)に対して、保証保険資金等緊急支援事業実施要綱(平成23年23水漁第327号農林水産事務次官依命通知)及び保証保険資金等緊急支援事業補助金交付要綱(平成23年23水漁第326号農林水産事務次官依命通知)(以下、これらを合わせて「補助金要綱等」という。)に基づき、代位弁済に係る経費の一部を助成するために、保証保険資金等緊急支援事業補助金(以下「補助金」という。)として、23年度24億0583万余円、24年度1億2779万余円、計25億3362万余円を交付している。また、信用基金に対しては、漁業信用保険事業交付金実施要綱(平成15年15水漁第1840号農林水産事務次官依命通知。以下「交付金要綱」という。)に基づき、代位弁済に係る保険金支払に要する経費を助成するために、保証保険資金等緊急支援事業交付金(以下「交付金」という。)として、23年度60億7335万余円、24年度1億8845万余円、計62億6180万余円を交付している。

補助金要綱等によれば、協会に対する補助金の対象は、大地震等の発生までに協会が行っていた保証のうち、大地震等により、その主要な事業用資産について滅失、損壊等の損害を受けた中小漁業者等に係る保証であって、23年5月2日から25年3月31日までの間に代位弁済が行われた保証とされている。また、その助成額は、協会が行った代位弁済額から、保険金の額、協会で保有している準備金の額等を控除して算定することとなっている。そして、協会は、緊急支援事業に係る全ての代位弁済案件に係る求償権の回収等が完了したときは、協会回収金に係る国庫補助金相当額を国庫に返還することとなっている。

また、交付金要綱によれば、信用基金に対する交付金の対象は補助金の対象となった代位弁済に係る保険金とされており、交付金の額は保険金の額から信用基金における23年3月31日の貸借対照表上の政府事業交付金(注)のうちの一部の期末残高に基づき算定された額等を控除して算定することとされている。そして、緊急支援事業に係る全ての求償権の回収等が完了する前であっても、信用基金は信用基金回収金に係る交付金相当額が生じた年度の年度末時点で当該交付金相当額を国庫に返還することとされている。

(注)
政府事業交付金  燃油等資材価格高騰、魚価低迷等の影響から資金繰りに窮している中小漁業者等の資金繰りを円滑にするために、平成21年度に信用基金に交付された漁業緊急保証対策事業交付金

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、効率性、有効性等の観点から、協会回収金に係る国庫補助金相当額は長期間滞留していないか、信用基金回収金のうち交付金相当額は適時適切に国庫に返還されているかなどに着眼して、前記の4協会に交付された補助金計25億3362万余円及び信用基金に交付された交付金計62億6180万余円を対象として、貴庁において補助金等に係る実績報告書等の記載内容等を確認したり、4協会及び信用基金において協会回収金等の処理状況等について財務諸表等を確認したりするなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)協会が保有している協会回収金の状況

4協会のうち、既に緊急支援事業に係る全ての求償権の回収等を完了して協会回収金のうち国庫補助金相当額を国庫に返還した千葉県の協会を除く3協会(以下「3協会」という。)においては、表1のとおり、協会回収金が26年3月末までに計3億9895万余円あり、このうち保険金相当額計2億6431万余円を控除した残額計1億3464万余円が26年3月末時点で各協会の預貯金として保有されていた。

表1 3協会における協会回収金の額等(平成26年3月末現在)

(単位:千円)
協会名 協会回収金の額
A
保険金相当額
B
保有されていた協会回収金の額
C=A-B
協会回収金のうち国庫補助金相当額 求償権の回収等完了期日
岩手県協会 129,010 89,550 39,459 35,418 期日の定めがない
宮城県協会 246,824 158,578 88,246 65,629 平成55年3月31日
茨城県協会 23,121 16,185 6,936 2,623 41年3月31日
398,957 264,314 134,643 103,671
注(1)
協会回収金のうち国庫補助金相当額は、保有されていた協会回収金の額を基に補助金の助成額の算出方法に準じて試算している。
注(2)
岩手県協会の求償権の回収等完了予定日は返済計画に定められていないが、平成24年12月から年1回10万円ずつ分割払することとなっている求償権1120万円の回収を完了したときに全ての求償権の回収等が完了することになる。

このように、上記の保有されていた残額計1億3464万余円のうち国庫補助金相当額計1億0367万余円は、国庫に返還することが可能な状況となっているにもかかわらず、補助金要綱等により協会回収金のうち国庫補助金相当額を国庫に返還する時期が緊急支援事業に係る全ての代位弁済案件に係る求償権の回収等を完了したときとされているため、これらの国庫補助金相当額は国庫に返還されないまま協会に滞留していた。

また、協会が求償権の取得時に債務者と合意した債権回収計画によれば、求償権の回収等の完了期日は、表1のとおり、41年3月31日等となっていることから、求償権の回収等が完了するまでには長期間を要することが見込まれており、このため協会回収金に含まれる国庫補助金相当額も長期間協会に滞留することになる。

(2)信用基金が保有している信用基金回収金の状況

前記のとおり、信用基金は、緊急支援事業に係る全ての求償権の回収等が完了する前であっても、信用基金回収金に係る交付金相当額が生じた年度の年度末に、当該交付金相当額を国庫に返還することとなっている。

しかし、交付金要綱にはそのような場合に国庫に返還すべき額を算定するなどのための基準が特段定められていなかったため、信用基金は表2のとおり、3協会から26年3月末までに納付された信用基金回収金計2億4821万余円を預貯金として保有していた。

表2 信用基金における信用基金回収額等(平成26年3月末現在)

(単位:千円)
信用基金回収金の額 信用基金回収金のうち交付金相当額
248,215 239,800
注(1)
信用基金回収金のうち交付金相当額は、保有されていた信用基金回収金の額を基に交付金の助成額の算出方法に準じて試算している。
注(2)
表1の保険金相当額計(264,314千円)と表2の信用基金回収金の額(248,215千円)とに差があるのは、例えば、平成25年度において協会が信用基金に未納付分がある場合、協会の保険金相当額は25年度に計上されるものの、信用基金回収金の額は26年度に計上されるためである。

このように、上記の保有されていた残額2億4821万余円のうち交付金相当額計2億3980万余円は国庫に返還されないまま信用基金に年度を越えて滞留していた。

(改善を必要とする事態)

預貯金として保有されていた協会回収金に係る国庫補助金相当額が国庫に返還することが可能となっているにもかかわらず3協会に滞留していたり、信用基金回収金に係る交付金相当額が年度末において生じているにもかかわらず国庫に返還されないまま信用基金に年度を越えて滞留していたりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴庁において、協会が協会回収金に係る国庫補助金相当額を適時適切に国庫に返還するための規定を整備していないこと、信用基金が信用基金回収金に係る交付金相当額を国庫に返還する場合の返還額算定等のための基準を定めていないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

前記のとおり、緊急支援事業に係る3協会の求償権の回収等が完了するまでには、長期間を要することが見込まれている。そして、3協会は、求償権を行使して、今後とも引き続き協会回収金を取得し、信用基金は信用基金回収金を取得することとなる。

ついては、貴庁において、協会回収金に係る国庫補助金相当額及び信用基金回収金に係る交付金相当額を適時適切に国庫に返還させるなどして国費の効率的及び効果的使用に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 協会回収金に係る国庫補助金相当額を適時適切に国庫に返還することが可能となるよう、補助金要綱等を速やかに改正して3協会に周知すること。そして、改正された補助金要綱等に基づき、3協会に滞留している国庫補助金相当額を国庫に返還させること
  • イ 信用基金回収金に係る交付金相当額を適時適切に国庫に返還することが可能となるよう、国庫に返還する場合の返還額算定等のための基準を速やかに定めて信用基金に周知すること。そして、この基準等に基づき、信用基金に滞留している交付金相当額を国庫に返還させること