農林水産省は、農林漁業生産と加工・販売の一体化や地域資源を活用した新たな産業の創出を図るなどのために、「農山漁村6次産業化対策事業実施要綱」(平成24年23食産第4049号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、農山漁村6次産業化対策事業等を実施している。これらの事業は、農林水産本省(以下「本省」という。)及び地方農政局等が直接、民間事業者等の事業主体に対して、当該事業主体が行う事業に要した経費の一部について補助金等を交付する方式(以下、この方式による補助事業等を「直接採択事業」という。)により実施されており、平成20年度以降、機械、施設等の整備を内容としていて事業費が多額となる直接採択事業が多くなっている。そして、直接採択事業の事業主体は、主として、農業者、中小事業者等となっている。
本省及び地方農政局等は、直接採択事業の実施に当たり、各事業の公募要領、実施要領等(以下「公募要領等」という。)に基づいて事業主体が作成した事業実施計画を審査して承認を行うこととなっている。そして、審査に当たっては、事業主体において事業資金を確実に調達できることを証する資料により事業実施の確実性等を確認することとなっている。
また、実績報告時等の審査については、契約書、納品書、検査調書等により事業の完了と事業費の支払状況を確認するとともに、会計帳簿等により機械、施設等の納入業者、施工業者等(以下「納入業者等」という。)へ事業費の支払が適正に行われているか確認することとなっている。この際、事業費の支払が完了していないときは、契約書、請求書等により支払債務額の確認を行い、その支払状況について事業完了後に引き続き確認することとなっている。すなわち、「「実績に基づいて補助金等を交付する場合における精算額の解釈について」の照会について」(昭和30年大蔵省主計局法規課長通知)によれば、直接採択事業については、間接補助事業等(注1)と異なり、事務処理の必要上、補助事業等が事実上完了して支払債務額が確定した場合には事業費の支払が完了していなくても支払債務額により補助金等を交付することができることとされている。
そして、本省及び地方農政局等は、上記により確認した事業費に基づいて補助金等の額の確定を行い、補助金等を交付している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、事業主体において事業費の支払は速やかに完了しているか、本省及び地方農政局等においてその確認は適切に行われているかなどに着眼して、本省及び9農政局等(注2)において20年度から24年度までの間に実施された、機械、施設等の整備を内容とする直接採択事業418件(409事業主体。事業費計261億4791万余円、国庫補助金等交付額計120億5498万余円)を対象として、実績報告書、領収書等の支払関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、上記418件のうち、事業主体において補助金等の交付を受けた日から30日以内に事業費の全部又は一部の支払を完了していなかったものが、本省及び8農政局等(注3)で実施された6次産業化推進整備事業等10事業(注4)において43件(43事業主体。事業費計26億4089万余円、国庫補助金等交付額計11億5896万余円)見受けられ、支払を完了していなかった事業費は計8億8971万余円(国庫補助金等相当額計4億0540万余円)となっていた。
上記43件のうち、1件については事業費の支払を完了しないまま25年11月に事業を中止していて、4件については26年3月末時点で事業費の支払を完了していなかった。残りの38件については事業費の支払を完了していたが、補助金等の交付を受けてから事業費の支払を完了するまでに要した期間をみると、14件が90日超1年以内、4件が1年超となっていた。
そして、前記の43件について事業費の支払に遅延が生じた要因を確認したところ、表のとおり、事業資金の確保に支障が生じていたり、直接採択事業により整備した機械、施設等(以下「取得財産」という。)の試運転、調整等が完了していないことなどにより取得財産の引渡しを受けることを保留していたりしていたためなどとなっていた。
事業費の支払に遅延が生じた要因 | 事業数 (事業主体数) |
30日以内に支払が完了していなかった事業費 (国庫補助金等相当額) |
左のうち平成26年3月末時点において支払が完了していない事業数及び事業費(国庫補助金等相当額) | |
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〔1〕 | 融資を受けるための借入計画についての金融機関等との事前相談等が十分でなく融資が受けられなかったことなどにより、事業資金の確保に支障が生じていたため | 17件 (17事業主体) |
4億2475万余円 (2億0619万余円) |
3件 9960万余円 (4701万余円) |
〔2〕 | 取得財産の試運転、調整等を完了していないことなどにより、納入業者等に機械等の調整等を行わせて所期の性能を発揮するまで引渡しを受けることを保留するなどしていたため | 16件 (16事業主体) |
4億2154万余円 (1億7848万余円) |
1件 3148万余円 (496万余円) |
〔3〕 | 事業費のうち自己負担分について、支払期間が長期の割賦により支払うことなどとしていたため | 5件 (5事業主体) |
1660万余円 (801万余円) |
1件 311万余円 (148万余円) |
〔4〕 | 事業費の一部の支払を失念するなどしていたため | 6件 (6事業主体) |
2680万余円 (1271万余円) |
― |
また、前記の43件について、本省及び8農政局等における事業費の支払についての確認状況をみると、補助金等の交付後における事業費の支払状況について報告を求めることなどによる確認が十分に行われていなかった。
以上について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
合同会社にしはら食のふるさとづくり協議会(熊本県阿蘇郡西原村所在)は、平成21年度に、甘しょの規格外、余剰品等を加工、販売するために必要な設備の整備を行うために、食農連携促進施設整備事業を事業費2100万円(国庫補助対象事業費同額)で実施していた。そして、九州農政局は、同事業の実績報告に係る審査を22年4月に実施して、同月に補助金1050万円を交付していた。
しかし、同会社は、補助金の受領後に事業費の一部1500万円を設備の納入業者へ支払ったものの、残金600万円については、金融機関からの融資を受けられなかったことなどを理由に支払っておらず、その事実について同局は把握していなかった。そして、納入業者は、残金が支払われなかったことから、23年9月に同会社に納入した設備の一部を引き上げたため、同会社は、25年11月に同事業を中止していた。
以上のとおり、事業主体において、補助金等の受領後速やかに事業費の支払が完了していないなどしている事態は、交付された補助金等が事業主体に長期間滞留することとなったり、事業の効果の発現に支障が生じたり、補助金等が交付されてからその効果が発現するまでに遅れが生じたりすることにもなり、適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、26年3月末時点で事業費の支払が完了していなかった5件(25年11月に事業を中止した1件を含む。)のうち、改善の見込みのない2件について補助金の交付決定の取消しなどを行い、残りの3件について所管する地方農政局等に対して定期的に支払状況等を報告するよう事業主体に指導するとともに、今後の直接採択事業について、次のような処置を講じた。
ア 26年度の公募要領等において、事業主体は、補助金等の受領後、速やかに事業費の支払を完了するとともにその報告をすること、取得財産の試運転、調整等を事業実施期間内に完了することなどを明記した。
イ 26年7月に地方農政局等に対して通知を発して、審査担当者に対して、事業資金の確保の確実性、事業費の支払状況等についての確認及び事業主体に対する指導等を適切に行うこと、取得財産の試運転、調整等を事業実施期間内に完了しないことが確実な場合には補助事業に係る繰越手続をとることなどについて周知徹底を図った。