海上自衛隊は、任務の遂行に必要な無線通信等を行うために、多くの無線設備を運用している。
海上幕僚監部は、東日本大震災において災害派遣及び基地警備に当たり個々の隊員が使用する携帯無線機が不足した経験等を踏まえて、新たに遠距離の通信等が可能で秘匿性が高い小型の携帯無線機(以下「新型無線機」という。)を全国の部隊等に装備することとした。そして、同大震災と同様の大規模災害等が発生した場合における災害派遣体制、基地警備体制等を想定して、従来災害派遣等に従事し無線設備を運用している部隊等に加えて、従来無線設備を運用していない部隊等でも運用することとし、平成24年3月に新型無線機2,924台を173,197,500円で調達して、これらを132部隊等に装備させている。
また、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等によれば、自衛隊が携帯無線機等の無線設備で一定の規格を有するものを運用するに際しては、当該無線設備に関する無線局の開設(既に開設されている無線局にあっては無線設備の種類や数量等の変更。以下、これらを合わせて「開設等」という。)について、部隊等ごとに防衛大臣に申請してその承認を受けるなど所定の手続を経た後でなければ、運用を開始してはならないとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、大規模災害等に備えて調達した新型無線機が、速やかに運用を開始できるよう手続が行われているかなどに着眼して、新型無線機を装備した132部隊等を対象として検査した。検査に当たっては、海上幕僚監部、地方総監部、航空基地等において、132部隊等のうちの114部隊等について無線局の開設等に必要な手続に関する書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、残りの18部隊については、海上幕僚監部を通じて同手続の実施状況に関する報告を求めてその内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
新型無線機を装備した部隊等のうち47部隊等において、24年3月の納入後約2年を経過していたにもかかわらず、無線局の開設等に必要な所定の手続が行われていなかった。このため、これらの部隊等が装備した新型無線機753台(調達価格4460万余円)は、その運用を開始できない状況となっていた。
このように、新型無線機を装備した部隊等において、無線局の開設等に必要な手続が適切に行われず、大規模災害等に備えて調達した多数の新型無線機が、その運用を開始できない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上幕僚監部は、全ての新型無線機の運用を開始できるようにするために、26年3月に部隊等に対して通知を発して、無線局の開設等に必要な手続を速やかに行うよう指示した。そして、部隊等は同年6月までに手続を完了して、全ての新型無線機の運用を開始する処置を講じた。