独立行政法人国立成育医療研究センター(以下「センター」という。)は、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づき、平成22年4月1日に、国立高度専門医療研究センターの一つとして設立され、成育に係る疾患に関する高度かつ専門的な医療の向上を図り、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的として、成育に係る疾患に関する医療の提供等を行っている。そして、センターは、医療の提供を行うために病床数490床(25年度末現在)の病院を運営しており、病院における患者の診療等のために、多品種の検査試薬及び医薬品を調達している。
医薬品の調達に関して、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)に基づき22年4月に厚生労働大臣が定めた各国立高度専門医療研究センターの中期目標に共同購入等による購入費用の適正化を進めることが掲げられていることなどから、センターは、検査試薬については、独立行政法人国立病院機構(以下「国立病院機構」という。)及び他の国立高度専門医療研究センターと、医薬品については、これらに加えて独立行政法人労働者健康福祉機構と、共通して使用する品目を共同購入により調達している。そして、共同購入の対象となった品目については、検査試薬及び医薬品のいずれについても国立病院機構が取りまとめて一般競争入札を実施し、その結果を踏まえて、センターは、品目ごとに落札した業者と単価契約を締結するなどして調達している。一方、共同購入の対象とならなかった品目については、センターが自ら契約手続を行い調達している(以下、センターが自ら調達した検査試薬及び医薬品(一時的に必要が生じて調達したものを除く。)に係る契約を「独自調達分の契約」という。)。
独立行政法人国立成育医療研究センター会計規程(平成22年規程第57号。以下「会計規程」という。)等によれば、センターは、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合には、原則として、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないこととされている。ただし、予定価格が160万円を超えない財産を買い入れる場合には、随意契約によることができることとされている(以下、予定価格が160万円を超えないことを理由とした随意契約を「少額随契」という。)。また、予定価格は、契約する事項の総額について定めなければならないこととされているが、一定期間継続して行う売買等の契約の場合においては、単価により算定することができることとされている。
また、厚生労働大臣からセンターに対して発した「調達の適正化について(依頼)」(平成22年厚生労働省発総0406第19号。以下「適正化通知」という。)によれば、センターは、少額随契を行う場合であっても特に合理的な理由なく分割されているものなどについては、一括するなどして一般競争入札に付さなければならないこととされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、検査試薬及び医薬品は会計規程等に従って適切に調達されているかなどに着眼して、センターにおける独自調達分の契約に係る24年4月から26年3月までの支払額計6億0346万余円を対象として、契約書、発注書、納品書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
センターは、独自調達分の契約のうち、医薬品については、24年7月から26年6月までの2年間を契約期間として、この間に調達する品目を取りまとめた上で一般競争入札を実施し、品目ごとに最低価格で入札した業者を契約の相手方として、単価契約を締結して調達していた。
一方、検査試薬については、在庫量を必要最小限とすることを目的として、使用して減少した分をその都度調達しているため、調達数量が少なく予定価格が160万円を超えないことから、全て少額随契により調達していた。センターは、これらの契約に当たって、品目ごとに複数の業者から見積書を提出させて見積合わせを行い、最低価格を提示した業者を当該品目の契約の相手方と決定して、これ以降2年を超えない期間内に新たに見積合わせを行うまでの間は、一度も見積合わせを行うことなく、同一の単価で同一の業者と少額随契により調達していた。そして、独自調達分の契約のうち、少額随契により調達した検査試薬211品目に係る24年4月から26年3月までの支払額は、16業者に対して計4601万余円となっていた。
しかし、検査試薬の211品目は、それぞれ同一の単価で同一の業者から継続して調達していることから、医薬品と同様に、契約期間を定めて一般競争入札を実施して単価契約を締結することは可能であり、在庫量を必要最小限とすることを目的として少額随契を行うことに合理的な理由があるとは認められない。そして、前記のとおり、売買契約を締結する場合には原則として競争に付さなければならないとされていること、少額随契の場合であっても特に合理的な理由なく分割されているものについては一括するなどして一般競争入札に付さなければならないとされていることなどから、検査試薬についても、医薬品と同様に、契約期間を定めて、その間に調達する品目を取りまとめた上で競争に付すべきであったと認められた。
このように、独自調達分の契約のうち、検査試薬について、競争に付さずに全て少額随契により調達していた事態は、会計規程等や適正化通知の趣旨に反することになるとともに、契約手続の公正性及び透明性が確保されておらず、競争による利益を十分に享受できないものとなっていて適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、独自調達分の契約のうち、検査試薬の契約に当たり、会計規程等を遵守するなどして適正に契約手続を行い、契約手続の公正性及び透明性を確保することについての認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、センターは、26年8月に関係部局に対して事務連絡を発して、少額随契による場合の取扱いをより厳格に行うことについて周知徹底するとともに、同年10月からの独自調達分の契約のうち、検査試薬の契約については、契約期間を定めて、その間に調達する品目を取りまとめた上で一般競争入札を実施する処置を講じた。