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  • 昭和58年度|
  • 第2章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第6 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

漁港整備事業の計画と実施について、その適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(3) 漁港整備事業の計画と実施について、その適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁

(項)漁港施設費
(項)離島振興事業費

部局等の名称 水産庁
補助の根拠 漁港法(昭和25年法律第137号)等
事業主体 県9、町2、計11事業主体
補助事業 青森県鯵ヶ沢漁港ほか11漁港の漁港整備事業
事業の内容 漁業生産の確保と流通の円滑化及び漁業経営の安定に資することを目的として、漁港施設の整備を行う事業
上記に対する国庫補助金交付額の合計 1,521,263,000円(昭和48年度〜58年度)

 上記の漁港整備事業において、計画と実施が適切でなかったため、次のとおり、整備された施設が所期の機能を発揮していない事態や施設の利用が著しく低くなっている事態が見受けられた。

(1) 漁港整備長期計画の策定に当たり、漁港整備とこれに関連する諸施策等との間の調整を十分行わず、更に見直しも行わないまま事業を実施したため、所期の機能を発揮していないもの8漁港(事業費16億5896万余円、国庫補助金9億1169万余円)

(2) 漁港整備長期計画策定後において、漁業情勢が変化し計画の見直しの必要性が生じているのに、この見直しを行わなかったり、見直しの結果を事業の実施に反映させなかったりしたため、利用が著しく低いもの4漁港(事業費11億8463万余円、国庫補助金6億0957万余円)

 したがって、水産庁において、事業主体に対し、漁港整備の計画とその実施に関する基本的事項の調査検討の必要性について十分に理解させたうえで、その業務を適正に実施させるとともに、同庁においても、的確な計画の審査を行って、事業の適正な執行を期する要がある。

 上記に関し、昭和59年11月29日、水産庁長官に対して是正改善の処置を要求したが、その全文は以下のとおりである。

漁港整備事業の計画と実施について

 貴庁では、水産業の基盤である漁港について計画的な整備を行い、その機能の増進と安全性の確保を図り、漁業生産の確保と流通の円滑化及び漁業経営の安定に資することを目的として、漁港修築事業、漁港改修事業、漁港局部改良事業(以下「漁港整備事業」という。)を実施している。
 この漁港整備事業は、貴庁が定めた漁港整備長期計画(以下「長期計画」という。)に基づき、都道府県等が事業主体となって行うもので、昭和48年度から58年度までの間に、北海道ほか39都府県等が本事業により整備した防波堤、岸壁、物揚場、泊地等の事業費1兆6600億9452万余円に対し、1兆1077億2640万余円の多額の補助金が交付されている。

 しかして、長期計画の策定に当たっては、事業主体から、整備を要望する漁港について、計画目標時における水産物の陸揚量、漁船の利用の形態などの諸元に基づき、また、関連施策とも調整を行って作成した施設整備の計画資料を貴庁に提出させ、貴庁においてこれを審査し、陸揚量、利用漁船数、漁業従事者数等が一定の規模以上で、事業効果が大きいと見込まれる漁港を選定し、これを対象に策定することとしている。そして、長期計画の具体的実施に当たっては、事業主体において、長期計画で計画した内容が、事業実施時における漁業情勢等に適合しているかどうかの見直しを行い、これに基づいて作成した漁港整備に関する実施計画を提出させ、貴庁においてこれを審査することとしている。

 このように、漁港整備事業は、水産業の基盤整備事業として、長期にわたり計画的に実施されているものであるので、その計画と実施の状況について、本院で59年中に、北海道ほか21県(注1) の漁港整備事業110漁港、事業費1807億6678万余円(国庫補助金相当額1130億8525万余円)を調査したところ、下記のように不適切と認められる事態が、青森県ほか9県において12漁港、事業費28億4359万余円(国庫補助金相当額15億2126万余円)見受けられた。

 上記の事態を態様別に掲げると次のとおりである。

1 長期計画の策定に当たり、漁港整備とこれに関連する諸施策等との間の調整を十分行わず、更に見直しも行わないまま漁港整備を実施したため、整備した施設が所期の機能を発揮していないもの

都道府県 漁港数 事業費 左に対する国庫補助金
宮城県ほか5県(注2)

8

千円
1,658,964
千円
911,692

 これらの事態は、長期計画策定時における検討が十分でなかったことによるものである。

 すなわち、長期計画の策定に当たっては、(ア)陸揚岸壁等は、別途の事業で設置される荷さばき所等の関連施設と一体となってはじめてその機能が発揮されるのであるから、両者の整備時期を整合させ、(イ)陸揚港の指定の有無など漁港の利用に関する法的規制、漁港の利用に関する地域の漁業従事者の意向などは、漁港整備の内容を決定する重要な要因であるから、これらの検討、調整を十分図り、(ウ)整備対象の漁港とそれに隣接する漁港、港湾との間においては、相互が干渉して漁船の利用の形態などに影響が生じることがあるから、その整備状況等を把握するなど留意する要があるものである。

 しかしながら、上記の8漁港については、これらの検討が十分でなかったため、漁港施設の整備と関連施設の整備が関連なく行われていたり、陸揚港の指定を受けないまま陸揚港なみの施設整備を行っていたり、隣接する港湾の存在を十分に評価しないで漁船の利用の実態に沿わない施設整備を行っていたりなどしていて、整備した施設が所期の機能を発揮していないものとなっていた。

 このうち主な事例を挙げると次のとおりである。

<事例1>

事業名 事業主体 施設名 事業内容 年度 事業費

左に対する国庫補助金


高倉漁港修築事業

石川県

係留施設

-4.5m岸壁延長390m

53〜55
千円
225,500
千円
112,750
水域施設 -4.5m泊地浚渫
面積8,340m2
53〜55 73,900 36,950

299,400 149,700

 この漁港施設の整備は、第6次長期計画(昭和52年度〜57年度)目標時の57年度までに、産地市場を兼ねた荷さばき所を設置し、あわせて、中型いか釣漁業の漁獲物等の陸揚港としての指定を受けることにより、隣接の小木港を利用している地元の50〜100tの中型いか釣漁船が移転してくるものと見込み、第6次長期計画に基づき実施したものである。

 しかして、上記の荷さばき所は他の事業で整備を行うものとしていて、52年度の卸売市場整備計画では60年度に整備されることになっていたが、その後56年度には計画が変更されてその整備が見合わされている。また、同漁港は中型いか釣漁業の陸揚港としての指定を受けていないため、漁獲物等の陸揚げを実施できず、一方、小木港では、従来から同港を利用している50〜100tの漁船を対象に港湾整備を51年度から実施している状況である。

 このため、移転してくるものとした地元漁船は、引き続き小木港を利用しており、本件施設は所期の機能が発揮されていない。

<事例2>

事業名 事業主体 施設名 事業内容 年度 事業費

左に対する国庫補助金


豊浜漁港修築事業

愛知県

係留施設

-2.0m物揚場延長290m

52、54
千円
94,864
千円
47,432
-5.0m岸壁延長143m 48、49 89,944 44,972
水域施設 -5.0m泊地
浚渫
面積19,580m2
48、49 60,246 30,123
245,054 122,527

(1) この漁港施設のうち、岸壁及び泊地浚渫の整備は、和歌山県の勝浦漁港を根拠としていた100〜200tの遠洋まぐろ船が豊浜漁港に移転してくるものと見込み、第5次長期計画(昭和48年度〜52年度)に基づいて実施したものである。

 しかして、長期計画において遠洋まぐろ船の利用を見込んだのは、計画策定のための調査を行った46年当時において勝浦漁港に冷蔵施設がなかったため、本漁港に冷蔵施設を整備することにより、移転してくるとしたものである。

 しかし、勝浦漁港においても、第5次長期計画で冷蔵施設の整備を計画し、これに基づいて50年度に整備を実施しているため、移転してくるものとした遠洋まぐろ船は、引き続いて勝浦漁港を利用している状況であり、豊浜漁港の上記施設は所期の機能が発揮されていない。

(2) また、物揚場の整備は、3〜5tの小型漁船の増加に対応して、第6次長期計画に基づいて実施したものである。

 しかし、上記の物揚場は、豊浜漁港を構成する中洲地区と豊浜地区との2地区における漁船の利用に対して、中洲地区に集約して整備することとしたものであるが、両地区の漁業従事者との調整が十分行われなかったため、豊浜地区の漁業従事者の利用が低く、所期の機能が発揮されていない。

2 長期計画策定後において、漁業情勢が変化し計画の見直しの必要性が生じているのに、この見直しを行わなかったり、見直しの結果を事業の実施に反映させなかったりしたため、整備した施設の利用が著しく低いもの

都道府県 漁港数 事業費 左に対する国庫補助金
青森県ほか3件(注3)


4

千円
1,184,632
千円
609,571

 これらの事態は、長期計画策定後の見直しが十分でなかったことによるものである。

 すなわち、漁港整備事業は、事業完成までに長年月を要することから、その間、漁業の動向を勘案しつつ事業が弾力的に実施できるよう随時計画の見直しを行う要があるとして、貴庁では必要の都度長期計画策定後の見直しにより整備事業を実施しており、特に、第6次長期計画については、計画策定後に大きな漁業情勢の変化があったため、55年に長期計画見直しのための総点検作業を実施しているところである。

 しかしながら、上記の4漁港については、漁船の利用が減少したなどのため計画の縮小が必要であったにもかかわらず、見直しを行わず、又は見直しの結果を事業の実施に反映させることなく、長期計画のまま事業を実施しており、そのため整備した施設の利用が著しく低いものとなっていた。

 このうち主な事例を挙げると次のとおりである。

<事例3>

事業名 事業主体 施設名 事業内容 年度 事業費

左に対する国庫補助金


鰺ヶ沢漁港修築事業

青森県

係留施設

-5.0m岸壁
延長320m


56、57

千円
321,234
千円
160,617

 この漁港施設の整備は、いか釣漁船を中心とする50〜200tの漁船が将来とも増加するものとして、整備の数量を水深5.0mの岸壁を延長610mとする第6次長期計画に基づいて、昭和53、54両年度に290mを新設したのに引き続き、56、57両年度に320mの岸壁の新設を実施したものである。

 しかして、本施設については、55年に長期計画の見直しを図るために総点検作業を実施し、その結果次の長期計画の目標時の62年度において必要な岸壁の延長を119mとされたが、既に54年度までに整備を完了した岸壁の延長は290mとなっていて、62年度までは岸壁を新設する要がない状況であったにもかかわらず、当初の長期計画の残延長320mを56、57両年度に実施している。

 現に、第6次計画目標時の57年度における50〜200tの漁船の利用は著しく低い状況となっている。

 このような事態を生じているのは、

 事業主体において、

(1) 事業の長期計画の策定及びその実施に当たり、これに大きな影響を与える可能性のある関連施策との調整や漁港を利用する漁業従事者との意見の調整が十分でなかったこと

(2) 漁業情勢の変化に対応して、長期計画の見直しを随時行い、その見直しに基づいて適正に事業を実施する要があるのに、この配慮を欠いたこと

 また、貴庁において、事業主体から提出された長期計画に関する資料及び実施計画に対する審査が十分でなかったことなどによると認められる。

 ついては、漁港整備事業は、基本的な施策として今後とも実施されるものであるから、このような不適切な事態の発生にかんがみ、事業主体に対して、漁港整備の計画とその実施に関する基本的事項の調査検討の必要性、すなわち関連施策との調整や漁業従事者との意見調整を行うことの必要性、適時的確な計画の見直しを行うことの必要性について十分に理解させたうえで、その業務を適正に実施させるとともに、貴庁においても、的確な計画の審査を行って、もって、多額の国庫補助金を投じて実施する漁港整備事業の適正な執行を期する要があると認められる。

 よって、会計検査院法第34条の規定により、上記の処置を要求する。

(注1)  北海道ほか21県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、千葉、新潟、富山、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、島根、香川、愛媛、福岡、大分、鹿児島各県

(注2)  宮城県ほか5県 宮城、秋田、石川、愛知、香川、鹿児島各県

(注3)  青森県ほか3県 青森、岩手、兵庫、島根各県