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  • 平成10年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

少子化と義務教育費国庫負担金の現状等について


第4 少子化と義務教育費国庫負担金の現状等について

検査対象 文部省及び北海道ほか15都府県
会計名及び科目 一般会計(組織)文部本省(項)義務教育費国庫負担金
制度の概要 公立の小学校及び中学校並びに盲学校、聾(ろう)学校の小学部及び中学部に要する経費のうちの教職員給与費等に係る国庫負担
国庫負担の根拠 義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)
47都道府県に対する国庫負担金額の合計 平成10年度 2兆8778億余円

1 検査の背景

(1)義務教育費国庫負担制度

(国庫負担制度の概要)

 義務教育費国庫負担金は、義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号。以下「国庫負担法」という。)に基づき、都道府県が負担する公立の義務教育諸学校の教職員給与等の経費について、原則として、その実支出額を国庫負担対象額とし、その2分の1が都道府県に交付されるものである。国庫負担の対象とされているのは、公立の義務教育諸学校に要する経費のうちの教職員給与費等であり、教職員給与等の経費には、校長、教頭、教諭、養護教諭等の教員のほか、学校栄養職員及び事務職員に係る給与等が含まれることとなっている。ただし、〔1〕財政力指数(注1) が1を超える都道府県、〔2〕財政力指数が1以下で、かつ、教職員の実数が教職員定数(注2) を超えているか又は教職員の給与水準が国立の義務教育諸学校の教職員の水準を上回っている都道府県については、「義務教育費国庫負担法第二条但書の規定に基き教職員給与費等の国庫負担額の最高限度を定める政令」(昭和28年政令第106号。以下「最高限度政令」という。)により、国庫負担額の最高限度が定められている。

(義務教育費国庫負担金の推移)

 義務教育費国庫負担金(以下「国庫負担金」という。)の推移は、表1のとおりとなっており、平成10年度の国庫負担金の決算額は2兆8778億余円で、元年度の2兆4755億余円と比べて16.2%増加していて、10年度の一般会計における文教予算の決算額6兆3631億余円の45.2%を占めている。

表1 義務教育費国庫負担金等の推移(平成元年度から10年度)

年度 義務教育費国庫負担金 児童生徒数 教員数
(百万円) 元年度比% (千人) 元年度比% (人) 元年度比%
2,475,514 100.0 14,882 100.0 716,192 100.0
2 2,697,154 108.9 14,392 96.7 714,554 99.7
3 2,801,217 113.1 13,987 93.9 715,594 99.9
4 2,777,634 112.1 13,616 91.4 706,738 98.6
5 2,727,515 110.1 13,243 88.9 698,984 97.5
6 2,727,155 110.1 12,883 86.5 690,739 96.4
7 2,737,934 110.6 12,555 84.3 683,873 95.4
8 2,842,290 114.8 12,245 82.2 678,242 94.7
9 2,879,693 116.3 11,947 80.2 672,525 93.9
10 2,877,853 116.2 11,655 78.3 663,634 92.6

 (標準法と教職員定数)

 国庫負担金の対象額算定の基礎となる教職員定数は、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号。以下「標準法」という。)により、児童生徒数に応じて定まる学級数に基づき算定された数に、標準法が規定する一定の事情がある場合において文部大臣が定める数を加えて定めること(以下これを「定数加配」という。)とされており、このほか、最高限度政令により、充て指導主事(注3) についてもその一部が国庫負担対象とされている。

(2) 定数改善計画

(第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画)

 文部省では、昭和34年以降、第1次から第6次までの義務教育諸学校教職員定数等の改善計画に基づく教職員定数の改善(以下「定数改善」という。)を実施している。このうち、第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画(平成5年度から12年度まで、以下「第6次定数改善計画」という。)では、児童生徒数の減少等により教職員定数が78,600人の減少となるとしたうえで、計30,400人の定数改善を実施することとし、これにより、その間の定数の減少は差し引き48,200人となるとしている。

(定数改善の目的・内容)

 第6次定数改善計画は、児童生徒の個に応じた多様な教育の展開等を図るための指導方法の改善又は研修の充実等義務教育内容の充実改善を目的としている。そして、その内容は、複数の教諭等の協力による指導(ティームティーチング)、複式学級の改善等による効果的な教育指導の実施、教頭の複数配置などによる学校運営の円滑化、教員の長期にわたる研修等が実施される場合における定数加配などとなっている。

(3) 学級数、児童生徒数及び教員数の推移等

 近年における学級数、児童生徒数及び教員数の推移をみると、図1のとおりとなっている。

近年における学級数、児童生徒数及び教員数の推移をみると、図1のとおりとなっている。

 このように、近年における少子化傾向を反映して、昭和57年度以降、児童生徒数は急激に減少しており、これに伴い、学級数及び教員数も減少傾向を示している。すなわち、57年度で1722万4千人であった児童生徒数は、平成10年度で1165万5千人となっていて、昭和57年度と比べて32.3%の減少となっている。一方、57年度で73万1千人であった教員数は、第5次定数改善計画(注4) が平成3年度で終了した後、緩やかな減少傾向で推移し、10年度で66万3千人となっていて、9.2%の減少となっている。
 また、児童生徒数の減少及び定数改善に伴い、1学級当たりの児童生徒数及び教員1人当たりの児童生徒数も減少している。すなわち、昭和57年度で1学級当たり34.8人となっていた児童生徒数は、平成10年度では29.1人に、また、昭和57年度で23.5人となっていた教員1人当たりの児童生徒数は、平成10年度では17.6人に減少している。

2 検査の着眼点及び対象

(検査の着眼点)

 上記のように、近年における少子化傾向により児童生徒数及び教員数が減少しているのに、国庫負担金額は2兆8000億円前後で推移し、いわば高止まりの状態となっていることから(表1)、次のような点に着眼して検査した。

〔1〕  国庫負担制度の現状はどのようなものとなっているか。

〔2〕  教員に対する国庫負担は、国庫負担制度の趣旨に照らし適切に行われているか。

(検査の対象)

 北海道ほか15都府県(注5) (以下「16都道府県」という。)において、国庫負担金額並びに教員の年齢構成、教員数及びその配置状況の推移と現状等について検査した。

3 検査の状況

(1)教員及び児童生徒数の現状等

ア 児童生徒数及び教員数の推移

元年度から10年度までの児童生徒数及び教員数の推移等について調査したところ、表2のとおりとなっていた。

表2 児童生徒数及び教員数の推移(平成元年度から10年度)

区分
都道府県
児童生徒数の推移 教員数の推移
元年度 10年度 減少率 元年度 10年度 減少率

北海道

703,598

537,808
%
23.5

37,617

34,667
%
7.8
青森 195,938 152,485 22.1 10,910 10,119 7.2
群馬 248,200 196,136 20.9 11,788 11,109 5.7
東京 1,083,355 795,163 26.6 49,997 42,620 14.7
神奈川 889,033 676,536 23.9 36,986 33,537 9.3
愛知 818,041 654,615 19.9 35,998 33,363 7.3
京都 297,289 219,798 26.0 14,168 12,688 10.4
大阪 1,007,758 740,455 26.5 45,588 39,488 13.3
奈良 168,521 134,811 20.0 8,622 8,089 6.1
和歌山 128,055 105,341 17.7 7,800 7,415 4.9
徳島 98,911 78,583 20.5 5,922 5,596 5.5
香川 124,532 95,928 22.9 6,246 5,879 5.8
高知 93,453 70,425 24.6 6,558 6,211 5.2
福岡 600,604 482,853 19.6 27,465 25,052 8.7
大分 157,142 120,029 23.6 8,932 8,275 7.3
沖縄 188,084 167,336 11.0 8,932 9,191 △2.8
合計 6,802,514 5,228,302 23.1 323,529 293,299 9.3

(備考) 児童生徒数及び教員数は、学校基本調査による。

 このように、16都道府県における児童生徒数及び教員数の推移は、前記の全国的な傾向(表1)とほぼ同様となっている。すなわち、16都道府県における10年度の児童生徒数は、元年度と比べて23.1%の減少となっており、これに対し、教員数は9.3%の減少となっている。

イ 教員定数及び採用状況等の推移

(ア) 教員定数の推移

 教員定数の推移について調査したところ、16都道府県における教員定数の推移については表3のとおりとなっていて、漸減傾向で推移していた。

表3 教員定数の推移(平成元年、4年、7年及び10年度)

年度
都道府県
4 7 10
元年比

北海道

36,857

36,385

35,318

33,876
%
91.91
青森 10,570 10,599 10,080 9,724 92.00
群馬 11,211 11,242 10,869 10,576 94.34
東京 46,940 43,642 41,135 39,435 84.01
神奈川 35,328 34,398 32,831 32,176 91.08
愛知 33,935 33,426 32,250 31,647 93.26
京都 13,473 13,073 12,454 12,169 90.32
大阪 42,486 39,714 37,806 36,424 85.73
奈良 8,110 8,121 7,923 7,725 95.25
和歌山 7,321 7,306 7,145 6,957 95.03
徳島 5,666 5,618 5,458 5,313 93.77
香川 5,913 5,846 5,679 5,597 94.66
高知 6,071 6,054 5,934 5,755 94.79
福岡 25,903 25,857 24,941 23,974 92.55
大分 8,460 8,520 8,116 7,839 92.66
沖縄 8,689 8,884 8,866 8,805 101.34
合計 306,933 298,685 286,805 277,992 90.57

(イ) 教員の退職者数の推移

教員の退職者数の推移について調査したところ、表4のとおりとなっていた。

表4 教員の退職者数の推移(平成元年、4年、7年及び10年度)

年度
都道府県
4 7 10  
年度
都道府県
4 7 10  
元年比 元年比

北海道


1,943

1,702

1,266
%

奈良

212

164

137

114
%
53.7
青森 489 522 417 315 64.4 和歌山 137 176 139 125 91.2
群馬 336 234 164 徳島 198 166 149 85 42.9
東京 2,138 1,494 1,205 948 44.3 香川 236 129 83 72 30.5
神奈川 1,087 819 689 637 58.6 高知 211 196 144 84 39.8
愛知 1,628 1,746 1,452 1,643 100.9 福岡 628 453
京都 431 301 210 201 46.6 大分 335 299 246 193 57.6
大阪 1,047 843 775 907 86.6 沖縄 280 253 383

(備考) 斜線の箇所は、関係資料が保存されていなかったことなどによるものである。

 このように、教員の退職者数は、近年、ほとんどの都道府県において大幅に減少している状況である。

(ウ) 教員の新規採用者数の推移

 教員の新規採用者数について調査したところ、16都道府県における新規採用者数は、表5のとおりとなっていた。

表5 教員の新規採用者数の推移(平成元年、4年、7年及び10年度)

年度
都道府県
4 7 10  
年度
都道府県
4 7 10  
元年比 元年比

北海道

1,377

1,496

1,547

949

68.9
和歌山
87

145

67

79

90.8
青森 351 489 287 265 75.4 徳島 221 216 90 67 30.3
群馬 403 371 202 145 35.9 香川 275 164 95 38 13.8
東京 1,264 761 514 679 53.7 高知 239 201 190 57 23.8
神奈川 996 266 307 359 36.0 福岡 876 632 336 210 23.9
愛知 928 680 518 490 52.8 大分 265 311 101 128 48.3
京都 324 314 117 141 43.5 沖縄 356 423 258 215 60.3
大阪 188 478 461 365 194.1





奈良 148 216 97 60 40.5 合計 8,298 7,163 5,187 4,247 51.1

 このように、教員の新規採用者数は、教員定数の減少及び退職者数の減少に伴い減少傾向で推移していて、10年度の教員採用者数を元年度と対比すると、多くの都道府県において大幅に減少している状況である。例えば、香川県における10年度の小・中学校の教員採用数は38名で元年度の275名の13.8%、高知県における10年度の小・中学校の教員採用数は57名で元年度の239名の23.8%に激減していた。

ウ 教員の年齢構成

 16都道府県における小・中学校の教員の年齢構成について調査した。その結果、大都市圏を中心に、多くの都府県において若い世代の教員が少なくなり、中・高年の教員の構成比が高まって、教員の年齢構成が不均衡となっており、かつ、その高年齢化が進行している状況が認められた。
 このような教員の年齢構成の高年齢化の状況について、東京都における元年度から10年度までの小学校の教員の例でみると、図2のとおりとなっている。

少子化と義務教育費国庫負担金の現状等についての図1

 このような教員の年齢構成の不均衡及び高年齢化は、地方の道県よりも、主として大都市圏を中心に顕著となっている傾向が認められる。例えば、年齢構成の不均衡及び高年齢化が特に著しい大阪府において、10年度の小学校の教員の年齢構成をみると、40歳以上の教員の占める割合が84.5%となっているのに対し、20歳代の教員の占める割合は6.1%となっていた(図3参照) 。これに対し、大都市圏以外の道県のうち、青森県を例にとると、同じく10年度における小学校の教員の年齢構成は、40歳以上43.4%、20歳代19.1%となっていて、教員の年齢構成に格別の不均衡及び高年齢化の状況は認められなかった(図4参照)

図3  大阪府における小学校の教員の年齢構成(平成10年度)

図3大阪府における小学校の教員の年齢構成(平成10年度)

図4  青森県における小学校の教員の年齢構成(平成10年度)

図4青森県における小学校の教員の年齢構成(平成10年度)

 このように、大都市圏を中心に多くの都府県において教員の年齢構成の不均衡及び高年齢化の状況が認められる背景としては、次のような事情が挙げられる。

〔1〕児童生徒数の減少に伴う学級数の減少により教員定数が漸減傾向で推移しており、また、近年、教員の退職者数が多くの都道府県において大幅な減少傾向で推移しているため、教員の採用者数が多くの都道府県において大幅な減少傾向で推移していること

〔2〕かつての大都市圏における人口増に伴う児童生徒の急増期に大量採用された世代の教員層が年々高年齢化してきていること
 なお、東京都、大阪府等においては、地方財政上その他の理由から、教員についても勧奨退職年齢を45歳まで引き下げたり、早期退職の場合に最高30%まで退職金の割増措置を講じたりしている。

(2) 教職員給与と国庫負担金の現状等

 教職員給与の支払総額、国庫負担金決算額、教職員1人当たりの平均給与額並びに教職員1人当たり及び児童生徒1人当たりの国庫負担金額等の推移について調査したところ、北海道ほか9都府県(注6) におけるこれらの状況は、表6のとおりとなっていた。

表6 国庫負担金額等の推移等の状況(平成2年度及び9年度)

区分
都道府県
教職員給与の支払総額 国庫負担金 平均年齢
2年度 9年度 増加率 2年度 9年度 増加率 元年度 10年度
北海道 百万円
269,354
百万円
275,817
%
2.3
百万円
179,548
百万円
169,555
%
△5.5

43.4

39.9
青森 72,254 74,604 3.2 48,249 44,349 △8.0 42.8 40.1
群馬 67,304 79,374 17.9 44,711 44,562 △0.3 38.8 39.9
東京 348,607 384,319 10.2 180,746 184,046 1.8 40.5 43.7
神奈川 252,679 295,856 17.0 128,517 157,414 22.4 39.0 43.5
愛知 248,678 287,869 15.7 116,644 144,705 24.0 39.2 42.2
大阪 308,083 348,263 13.0 148,619 186,762 25.6 39.9 44.7
奈良 51,123 62,298 21.8 30,164 34,091 13.0 37.5 42.1
大分 53,060 60,675 14.3 34,014 35,044 3.0 39.6 40.6
沖縄 57,301 66,256 15.6 36,382 39,891 9.6 43.0 42.8
合計 1,728,448 1,935,335 11.9 947,599 1,040,421 9.8

(備考1) 教職員給与の支払総額は、各都道府県における教職員給与のうちの本俸、俸給の調整額、教職調整額及び諸手当(退職手当を除く。)の支払額の合計額である。

(備考2) 東京都、大阪府、神奈川、愛知両県を除く道県の国庫負担金額は、盲・聾(ろう)学校分を含まない。

(備考3) 平均年齢は、教員の平均年齢である。

区分
都道府県
教職員1人当たりの平均給与額 教職員1人当たりの国庫負担金額 児童生徒1人当たりの国庫負担金額
2年度 9年度 増加率 2年度 9年度 増加率 2年度 9年度 増加率
北海道 千円
6,895
千円
7,386
%
7.1
千円
4,596
千円
4,540
%
△1.2
千円
263
千円
305
%
15.8
青森 6,341 6,936 9.3 4,234 4,123 △2.6 251 282 12.2
群馬 5,587 6,836 22.3 3,712 3,838 3.4 186 222 19.3
東京 6,785 8,427 24.2 3,518 4,035 14.7 175 226 29.2
神奈川 6,665 8,418 26.3 3,390 4,479 32.1 150 228 51.6
愛知 6,692 8,289 23.8 3,138 4,166 32.7 148 217 47.0
大阪 6,555 8,317 26.8 3,162 4,460 41.0 155 246 58.3
奈良 5,728 7,277 27.0 3,380 3,982 17.8 184 245 33.0
大分 5,716 6,866 20.1 3,664 3,965 8.2 223 283 26.9
沖縄 6,096 6,880 12.8 3,870 4,142 7.0 197 235 19.0
平均 6,558 7,929 20.8 3,595 4,262 18.5 180 243 34.7

(備考4) 教職員1人当たりの平均給与額及び国庫負担金額は、それぞれ教職員給与の支払総額又は国庫負担金額を、義務教育費決算額の関係調書に記載されている小・中学校教職員の5月1日現在の数を基礎として次の方法により算出した教職員実数で除したものである。

教職員実数=教職員の身分を有する者の数(総数)

− 教育委員会事務局等勤務者数 − 育児休業者数
+ 休職者数(団体専従者を除く) + 産休補助教職員数
+ 育休補助教職員数

 このように、10都道府県における9年度の教職員給与の支払総額、国庫負担金決算額は、2年度と比べてそれぞれ平均11.9%、9.8%の増となっており、また、教職員1人当たりの平均給与額は20.8%の増となっていた。さらに、教職員1人当たり及び児童生徒1人当たりの国庫負担金額は、それぞれ18.5%、34.7%の増となっていた。

(3) 教員の配置及び定数改善の状況

ア 教員の配置状況

 教員の配置状況について調査したところ、神奈川県ほか7府県(注7) における教員の配置状況は表7のとおりとなっていた。

表7 教員の配置状況(平成5年度及び10年度)

年度
区分
5年度(人) 10年度(人)
小学校 90,374 86,323
中学校 56,297 52,907
盲・聾(ろう)学校 1,406 1,387
充て指導主事 593 540
長期研修生 640 718
  教育センター等 219 241
大学、大学院 333 343
その他 88 134
事務局勤務者等 2,396 2,627
  教育委員会事務局等 1,843 2,017
知事部局 38 29
その他 515 581
合計 154,742 147,847

 このように、これらの府県において、相当数の教員が、研修に派遣されたり、教員の身分を有したまま又は教員の身分を離れて各府県教育委員会又は市町村教育委員会等に勤務している状況となっていた。
 また、教員の身分を有しながら各府県教育委員会等に勤務している者(ただし、国庫負担の対象とされていない者に限る。)及び教員の身分を離れて各府県の教育委員会事務局等に勤務し又は他部局等に出向している者の数は、5年度の計2,396人が10年度では計2,627人となっていて、教員数が減少している中で緩やかな増大傾向にあると認められた。

イ 定数加配の実施状況

 16都道府県における第6次定数改善計画に基づく定数加配の実施状況について調査したところ、10年度については表8のとおりとなっていて、定数加配の状況は、各都道府県ごとに区々となっていた。これは、この定数改善計画に基づく定数加配が、各部道府県におけるティームティーチング等又は研修の実施状況等に応じて行われることとされているためである。

表8 定数加配の実施状況(平成10年度)

区分
都道府県
指導方法改善 通級指導等 長期研修生 研究指定校 初任者研修 合計

北海道

691

172

50

23

260

1,196
青森 185 66 41 5 84 381
群馬 235 143 71 5 53 507
東京 877 145 82 17 22 1,143
神奈川 645 182 105 18 49 999
愛知 706 169 32 33 154 1,094
京都 297 170 57 6 44 574
大阪 893 171 128 10 142 1,344
奈良 170 37 35 5 6 253
和歌山 112 34 68 4 42 260
徳島 136 48 126 5 33 348
香川 203 42 108 7 18 378
高知 102 26 73 26 27 254
福岡 573 51 171 52 74 921
大分 142 46 54 8 37 287
沖縄 196 48 107 9 85 445
合計 6,163 1,550 1,308 233 1,130 10,384

ウ 長期研修生に係る国庫負担措置状況

 教員は、研修派遣期間中についても国庫負担の対象とされている。そこで、長期研修生(注8) に係る定数加配の状況について調査したところ、北海道ほか10府県(注9) (以下「11道府県」という。)における10年度の長期研修生の計1,070人のうち、76.9%に当たる823人分について定数加配が行われていた。

エ 充て指導主事の国庫負担措置状況

 充て指導主事の一部については、最高限度政令に基づき国庫負担対象となっていることから、充て指導主事に対する国庫負担措置状況について調査した。その結果、16都道府県別の国庫負担措置の状況については表9のとおりとなっていて、充て指導主事に対する国庫負担措置は各都道府県ごとに区々となっていた。

表9 充て指導主事の国庫負担措置状況(平成5年度及び10年度)

年度
都道府県
5 10
年度
都道府県
5 10

北海道

98

96

和歌山

35

31
青森 41 39 徳島 35 33
群馬 37 36 香川 27 27
東京 13 13 高知 39 37
神奈川 13 13 福岡 78 76
愛知 13 13 大分 36 34
京都 27 26 沖縄 34 32
大阪 13 13      
奈良 23 22 合計 562 541

(4) 本院の過去の検査状況

 本院は、これまでの義務教育費国庫負担金の検査において、多数の不当事項を指摘し、毎年度、決算検査報告に掲記している。そのうち、5年度から9年度までの決算検査報告に不当事項として掲記したものの主な態様は、次のとおりである。

〔1〕学校以外の教育機関(各県教育センター等)に研修派遣されていることとされていた長期研修生が、実際には研修をしておらず派遣先機関の行政事務に従事していたもの

〔2〕充て指導主事が、各県の教育事務所や各市町村教育委員会等に勤務し、義務教育に関係のない職務(県又は市町村の行政事務)に従事していたもの

〔3〕県において、教員を市町村等に出向させ、その行政事務に従事させているのに、当該教員について小・中学校に名目上の教員籍を残しておき、教員として当該小・中学校に勤務していることとして国庫負担対象者に含めていたもの
なお、文部省では、都道府県及び政令指定都市(以下「県市」という。)が初任者に対する校内研修の内容充実のため研修機関に教員を派遣して研修を行わせる場合、各県市3人を限度として教員定数を加配している。しかし、10年次の本院の検査では、これらの教員が実際には研修機関の業務に従事するなどしていて、定数加配の趣旨が必ずしも徹底していなかった事態が広範に見受けられた。これに対し、同省では、上記の定数加配の趣旨徹底を図るなどしている。
このように、定数改善計画に基づく定数加配等の運用については、国庫負担制度の趣旨に沿わず、結果として、各地方公共団体の行政事務に係る人件費補助となっていて、所期の効果を上げていないなどの不適切な事態が多数見受けられる状況である。

(5) 小規模校の現状と統廃合の状況

ア 小規模校の現状

 比較的小規模な小・中学校については、学級数及び児童生徒数は少ないのに、学級編制及び教育課程等の関係から、一定数の教員配置が必要とされるという事情がある。そして、このような事情から、標準法上も、比較的小規模の小・中学校に係る教員定数の算定について一定の配慮がなされている。
ちなみに、青森県ほか13都府県(注10) における小・中学枚数計11,795校のうち、6学級以下の小学校及び3学級以下の中学校の学校数は、10年度で計2,046校となっている。

イ 統廃合の実施状況

 元年度から10年度までの間に実施された小・中学校の統廃合(注11) の実績及び統廃合による学校数、学級数及び教員数の減少について調査した。その結果、表10のとおり、北海道ほか13都府県(注12) において、統廃合が実施された場合に、学級数及び教員数が大幅に減少している状況が認められた。

表10 統廃合の実施状況(平成元年度から10年度)

学校数 学級数 教員数
統廃合前 統廃合後 統廃合前 統廃合後 減少率 統廃合前 統廃合後 減少率
878 410 4,755 3,615 23.9% 8,213人 5,968人 27.3%

 (備考) 学校数、学級数及び教員数は、統廃合を実施した小・中学校について、その実施前の年度における数と、実施後の数を集計したものである。
 このうち、京都市中心部における統廃合の実施状況をみると、表11のとおり、統廃合後の学級数及び教員数は、統廃合前と比べて、いずれもおおむね半減している状況となっている。

表11 統廃合の実施状況(京都市)

年度
区分
3年度 4年度 5年度 6年度 7年度 8年度 9年度  
3年度比
学校数 29 23 19 19 13 12 9
児童数(人) 4,258 4,036 3,922 3,819 3,685 3,565 3,556 83.5%
学級数 192 168 155 153 135 126 110 57.2%
教員数(人) 312 277 254 249 211 201 177 56.7%

(備考) 京都市上京区、中京区及び下京区の小学校の統廃合について集計したものである。

ウ 近隣関係にある小規模校

(ア) 調査の対象

 大都市部の比較的近隣にある学校間で統廃合を実施した場合、児童生徒の通学その他の学習環境等に重大な支障を来すおそれは比較的少ないものと考えられる。そこで、上記ア及びイの事態を踏まえ、東京23区並びに川崎、横浜、名古屋、大阪、北九州及び福岡の6政令指定都市において、次のような方法により、該当する学校(以下「近隣関係にある小規模校(注13) 」という。)が、小学校、中学校の別にそれぞれどの程度存在しているかについて調査した。

〔1〕9学級以下の小学校又は6学級以下の中学校を把握する

〔2〕半径1kmの範囲内に位置している上記〔1〕 の小学校、中学校のそれぞれのグループ(注14) 数及びそのグループ内の校数等を把握する

(イ) 調査の結果

 調査した結果、表12のとおり、川崎市、横浜市などでは、近隣関係にある小規模校に該当する小学校又は中学校がほとんどないのに、例えば、東京23区では、該当する小学校は計43グループで136校、また、その学級数は計963学級、教員数は計1,870人となっていた。

表12 近隣関係にある小規模校

(東京23区、川崎、横浜、名古屋、大阪、北九州、福岡各市)
区分
特別区及び市
小学校 中学校
グループ数 学校数 学級数 教員数(人) グループ数 学校数 学級数 教員数(人)
東京23区 43 136 963 1,870 4 11 52 152
川崎市 1 2 14 20 0 0 0 0
横浜市 1 2 17 23 1 2 12 24
名古屋市 4 17 114 208 0 0 0 0
大阪市 14 47 324 638 1 2 12 55
北九州市 1 2 15 26 0 0 0 0
福岡市 3 11 73 137 1 2 10 35

 小規模校については、教師が児童生徒一人一人の個性を把握し、個別の指導ができ、生徒指導も充実すること、児童生徒数に比べて施設整備面で恵まれていることなど、少人数教育によるメリットも指摘されている。しかし、学校が一定の規模以下に小規模化すると、切磋琢磨の機会が少なくなるなど、集団的な教育活動等において十分な教育効果が得られなくなるなどのデメリットが生ずるともいわれている。
 小・中学校について統廃合等を検討する場合、教育上の効果の向上及び児童生徒の通学上の負担その他の学習環境の整備等についての十分な配慮が必要であり、また、地域住民の理解を得ることが不可欠であるなどの事情も認められる。しかし、大都市部の近隣関係にある小規模校等一定の条件の下にある小規模校については、統廃合を進めることなどにより、上記のような点にも十分配慮しつつ、適正な学級規模の下で教員配置をより効率的なものとする余地があると認められる。現に、上記イのとおり、京都市を始め一部の都市において、地域住民の理解を得るなどして小・中学校の統廃合を行い、教員配置がより効率的なものとなった結果、国庫負担措置の効率性も向上していると認められる。

4 本院の所見

 我が国における少子化傾向を反映し、近年、児童生徒数及び学級数が減少していることに伴い、教員定数が減少するなどして新規採用教員数が減少していることから、学校現場で若い世代の教員が少なくなるなど、義務教育を担う教員の年齢構成の不均衡及び高年齢化が進行している状況が認められる。
 そして、国庫負担制度の受益者である児童生徒の数が大幅に減少しているため、教員1人当たりの児童生徒数が減少し、一面では教育条件の一定の向上が図られる結果となっている。しかし、国庫負担金額が高止まりとなっているため、児童生徒1人当たりの国庫負担金額は大幅に増大することとなり、同制度のいわゆる事業コストが上昇する結果となっていると認められる。

 その背景としては、前記のとおり、〔1〕 かつて大量採用された世代の教員層が高年齢化するに伴い教員給与が全体として高号俸化し、これが給与改定と相まって国庫負担対象額の高止まりを招来していること、〔2〕定数改善計画に基づく定数加配等の実施により、義務教育内容の充実改善が着実に図られている一方で、児童生徒数の減少に伴う教員定数の減少が抑制される結果となっていること、〔3〕現実に多数の小規模校が存在しており、これらの小規模校については、学級数及び児童生徒数は少ないのに、学級編制及び教育課程等の関係から一定数の教員配置を要する事情があるため、標準法上も教員定数の算定について一定の配慮がなされていることなどが挙げられる。

 現在、顕在化している教員の年齢構成の不均衡及び高年齢化は、我が国社会の少子高齢化等という構造的問題を反映している側面があり、また、現下の財政状況の下で、その年齢構成の平準化を図るため、教員の新規採用者数の大幅な増加を図ることは困難である。また、義務教育諸学校以外の場において教員の活用を図ることには、教員として採用されているという特殊性などから、現状では様々な制約が伴っている。
 教職員の定数改善については、義務教育内容の充実改善のための重要な施策として、今後とも多額の財政資金を投入して展開されることが予想されるが、本院の検査において、定数改善計画に基づく定数加配等の運用について、国庫負担制度の趣旨に沿わない不適切な事態が多数見受けられる。
 小規模校の統廃合等を進めるに当たっては、児童生徒の教育を受ける権利に対する配慮、教育効果の向上及び学習環境等に関する諸条件の整備等並びに地域の実情に対する配慮等も欠かせないものである。
 しかし、前記のような国庫負担金の高止まり、事業コストの上昇等の事態が継続すると、義務教育に関する教育諸条件の改善施策の弾力的な実施等にも支障を来すおそれがあると認められる。
 今後、義務教育に関する教育諸条件の改善施策等を巡る論議に当たっては、上記のような義務教育費国庫負担制度の現状も踏まえ、幅広い見地から議論されることが望まれる。

(注1)  財政力指数 地方交付税法(昭和25年法律第211号)第14条の規定により算定した基準財政収入額を同法第11条の規定により算定した基準財政需要額で除して得た数値で当該年度前3年度内の各年度に係るものを合算したものの3分の1の数値

(注2)  教職員定数 公立の小学校、中学校等に置くべき教職員の総数として、標準法上算定される教員(校長、教頭、教諭、養護教諭、講師等)、学校栄養職員及び事務職員の数

(注3)  充て指導主事 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第19条の規定により、大学以外の公立学校の教員の身分を保有したまま指導主事に充てる旨の発令を受けて、学校における教育課程、学習指導その他学校教育に関する専門事項の指導に関する事務(指導主事の事務)に従事している者

(注4)  第5次定数改善計画 第5次公立義務教育諸学校学級編制及び教職員定数改善計画(昭和55年度から平成3年度まで)により、いわゆる40人学級が実現された。

(注5)  北海道ほか15都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、群馬、神奈川、愛知、奈良、和歌山、徳島、香川、高知、福岡、大分、沖縄各県

(注6)  北海道ほか9都府県 東京都、北海道、大阪府、青森、群馬、神奈川、愛知、奈良、大分、沖縄各県

(注7)  神奈川県ほか7府県 大阪府、神奈川、愛知、奈良、和歌山、徳島、香川、大分各県

(注8)  長期研修生 教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第20条第3項に規定する長期にわたる研修に従事する教員

(注9)  北海道ほか10府県 北海道、大阪府、青森、群馬、神奈川、愛知、奈良、徳島、香川、高知、大分各県

(注10)  青森県ほか13都府県 東京都、京都、大阪両府、青森、群馬、神奈川、愛知、奈良、和歌山、徳島、香川、福岡、大分、沖縄各県

(注11)  統廃合 既設校への統合のほか、既設校の廃止と新設校の開校を行う場合及び分校を廃止する場合を含む。

(注12)  北海道ほか13都府県 東京都、北海道、京都府、青森、群馬、神奈川、愛知、奈良、和歌山、徳島、香川、福岡、大分、沖縄各県

(注13)  近隣関係にある小規模校 半径1km以内の位置関係にある小・中学校のうち比較的小規模なものについては、統廃合の現実的可能性を否定できないことから、このような学校のうち、小学校で9学級以下、中学校で6学級以下の学校を近隣関係にある小規模校として調査対象とした。
 ちなみに、義務教育諸学校施設費国庫負担法施行令(昭和33年政令第189号)第3条第1項によると、公立の小・中学校の適正な学校規模の条件は、〔1〕学級数がおおむね12学級から18学級までであること、〔2〕通学距離が小学校にあってはおおむね4km以内、中学校にあってはおおむね6km以内であることとされている。

(注14)  グループ 東京23区並びに川崎、横浜、名古屋、大阪、北九州及び福岡の6政令指定都市において、9学級以下の小学校又は6学級以下の中学校のうち、任意の1校を基点とした場合に半径1kmの範囲内の位置関係に存在する小学校、中学校のそれぞれの該当校群(ただし、該当校が複数のグループに重複することのないよう整理した)