我が国は、開発途上国の経済開発及び福祉の向上に寄与することを主たる目的として、その自助努力を支援するため政府開発援助を実施しており、その額は無償資金協力や直接借款などいずれも多額に上っている。この政府開発援助について、本院は、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成3年中においては5ヵ国の76事業について現地調査を実施した。これらの援助に対する検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施したものであるが、現地調査を行った事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。しかし、援助した機材の修理が十分行えなかったり、関連事業の進ちょくが遅延しているなどのため、援助の効果が十分発現していない事態が見受けられることから、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに相手国が実施する事業に対する支援のための措置をより一層充実させることが重要である。
東日本旅客鉄道株式会社が施行していた東北新幹線の御徒町トンネル工事において、平成2年1月に、トンネル内部から圧縮空気が大量に噴出するとともに道路の陥没事故が発生して通行人が負傷するなどの事故が発生した。その後、この工事においてトンネル掘削時に補助工法として施工した薬液注入工について、薬液の注入不足が明らかになったので、本院は、その施工の実態、施工管理体制、工事費の支払などを中心に調査した。しかし、一部の工事関係書類が押収されていることなどに加えて、薬液の実際の注入量等を事後に検証することができなかったため、これらの点について明確な結論を下すまでには至らなかった。薬液注入工事においては、その特殊性から、施工の隅々まで常時監視する体制を執ることや薬液の注入量等を事後に検証することが困難である。したがって、監督体制の充実のほか、薬液注入を常時自動的に管理することにより不正操作ができないようにして、この種事態の根絶を図ることが今後の課題である。