1 本院が要求した改善の処置
労働省では、労働者災害補償保険について労災事故が発生してはじめて加入手続がとられる事態の防止を図るとともに、事業主間の負担の公平を確保するなどのために、故意又は重大な過失により加入手続をとっていなかった事業主から保険給付に要した費用の全部又は一部を徴収することとする費用徴収制度を設けている。
しかし、この費用徴収制度の実施状況を検査したところ、保険給付の請求を受けた労働基準監督署から都道府県労働基準局に対し費用徴収の決定に必要な所定の通知が行われていなかったり、加入手続をとっていない事業主の故意又は重大な過失の判断に当たり、加入勧奨の有無だけを検討するにとどまっていたりなどしていた。このように、費用徴収制度は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)の趣旨に沿って適切に実施されておらず、所期の目的を達していないと認められた。
このような事態が生じているのは、労働省において、制度の運用等の実態把握が十分でなく、各労働基準局等に対する指導、監督が行われていないこと、通達で、故意又は重大な過失の要件等を明確に示していなかったり、加入手続をとった日以後の給付額を費用徴収の対象としていなかったりしていることなどによると認められた。
費用徴収制度を適切かつ効果的に実施するために、労災事故発生後の保険加入の実態及び費用徴収制度の運用の実態について調査、把握した上で、故意又は重大な過失の要件、費用徴収の範囲等について通達等の見直しを行うよう、労働大臣に対し平成3年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
2 当局の処置状況
労働省では、本院指摘の趣旨に沿い、労災事故発生後の保険加入の実態及び費用徴収制度の運用の実態について調査を実施し、現在その結果を踏まえて故意又は重大な過失の要件、費用徴収の範囲等について検討を行っている。