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租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの


(5) 租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
(項)各税受入金
部局等の名称 麹町税務署ほか161税務署
納税者 450人
徴収過不足額 徴収不足額 1,580,963,580円
徴収過大額 29,604,100円
 上記の162税務署において納税者450人から租税を徴収するに当たり、課税資料の収集・活用が的確でなかったなどのため、徴収額が不足していたものが445事項1,580,963,580円、徴収額が過大になっていたものが5事項29,604,100円あった。これらについては、本院の指摘により、すべて徴収決定又は支払決定の処置が執られた。

1 租税の概要

 源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税、消費税等の国税については、法律により、納税者の定義、納税義務の成立の時期、課税する所得の範囲、税額の計算方法、納付の方法などが定められている。
 平成4年度国税収納金整理資金の各税受入金の徴収決定済額は63兆0692億余円に上っている。このうち源泉所得税は19兆9949億余円、申告所得税は5兆1562億余円、法人税は14兆9238億余円、相続税・贈与税は4兆4869億余円、消費税は8兆2337億余円となっていて、これら各税の合計額は52兆7958億余円となり、全体の83.7%を占めている。

2 検査の結果

(徴収過不足の事態)

 上記各税の課税内容に重点をおいて検査したところ、麹町税務署ほか161税務署において、納税者450人から租税を徴収するに当たり、徴収額が不足していたものが445事項1,580,963,580円、徴収額が過大になっていたものが5事項29,604,100円あった。
 これを、税目別にみると次表のとおりである。

税目 徴収不足の事項数
徴収過大の事項数
徴収不足額
徴収過大額(△)

源泉所得税

20

68,364,180
- -
申告所得税 174 327,235,400
3 △ 13,738,000
法人税 197 884,758,900
2 △ 15,866,100
相続税・贈与税 44 271,503,200
- -
消費税 7 26,267,000
- -
その他 3 2,834,900
- -
445 1,580,963,580
5 △ 29,604,100

 なお、これらの徴収不足額及び徴収過大額については、本院の指摘により、すべて徴収決定又は支払決定の処置が執られた。

(発生原因)

 上記の162税務署において、徴収不足又は徴収過大の事態を生じた原因は、納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤っているのに、課税資料の収集・活用が的確でなかったり、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりして、誤ったままにしていたことなどによるものである。

(税目ごとの態様)

 この450事項のうち、源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税及び消費税に関するものについて、その態様を示すと次のとおりである。

(1) 源泉所得税に関するもの

 源泉所得税では徴収不足となっていたものが20事項あった。この内訳は、配当に関するもの11事項及びその他に関するもの9事項である。

ア 配当に関するもの

 配当の支払者は、支払の際に、所定の方法により計算した源泉所得税を徴収し、これを徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならないこととなっている。また、支払が確定した日から1年を経過した日において未払となっている配当については、その日に支払があったものとみなし、支払者が配当に対する税額を徴収してその翌月10日までにこれを国に納付しなければならないこととなっている。そして、この法定納期限までに納付がない場合には、支払者に対して、納税の告知をしなければならないこととなっている。
 この配当に関し、徴収不足となっている事態が11事項あった。その主な内容は、法定納期限を経過した後、長期間にわたって源泉所得税が納付されていないのに、これを見過ごしたため、納税の告知をしていなかったものである。 (事例1参照)

イ その他に関するもの

 上記アのほか、給与等及び退職手当に関し、徴収不足となっている事態が9事項あった。

源泉所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  配当に関する源泉所得税について納税の告知をしていなかったもの

 A会社は、平成2年1月決算期の利益の配当29,600,000円に対する源泉所得税を納付していなかった。
 しかし、上記の配当は、同会社から提出された元年2月から2年1月までの事業年度分の法人税の申告書等によれば、2年3月29日に支払が確定し、その日から未払のまま1年を経過しているので、3年3月30日に支払があったものとみなされる。したがって、同年4月10日までに同配当に対する源泉所得税が納付されていなければならないのに、上記の申告書等からこの事実を把握していなかったため、長期間にわたって納税の告知をしておらず、源泉所得税額5,920,000円が徴収不足になっていた。

(2) 申告所得税に関するもの

 申告所得税では徴収不足又は徴収過大となっていたものが177事項あった。この内訳は、不動産所得に関するもの74事項、譲渡所得に関するもの33事項、配当所得に関するもの27事項、雑所得に関するもの20事項及びその他に関するもの23事項である。

ア 不動産所得に関するもの

 個人が不動産を貸し付けた場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を不動産所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。
 そして、貸付けの用に供する不動産を取得する際に支払った仲介手数料は、その取得した不動産の取得価額に含め、不動産所得の計算上必要経費に算入しないこととなっている。
 また、不動産所得の計算に当たって、貸付料等の収入、建物等の取得などに係る経費の各項目の金額に消費税を含めて経理している場合には、経費に係る消費税額が収入に係る消費税額を超えるときに生じる消費税の還付金は、不動産所得の計算上総収入金額に算入することとなっている。
 この不動産所得に関し、徴収不足となっている事態が74事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で、貸し付けた不動産の取得価額に含めるべき仲介手数料や翌年以降の経費となる借入保証料などが必要経費に算入されているのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていた。 (事例2参照)

(イ) 申告書等で、収入、経費に消費税を含めて経理している場合の消費税の還付金が総収入金額に算入されていないのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていた。

イ 譲渡所得に関するもの

 個人が資産を譲渡した場合には、その総収入金額から譲渡した資産の取得費や譲渡に要した費用の額などを差し引いた金額を譲渡所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。ただし、土地建物等の譲渡による所得については、他の所得と分離して課税することとなっていて、その所有期間に応じて長期譲渡所得(注1) と短期譲渡所得(注2) とに分けてそれぞれ特別な計算方法により税額を算出している。また、所有期間が10年を超える居住用財産に係る長期譲渡所得については、その他の長期譲渡所得より低い税率で課税することとなっている。
 この譲渡所得に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が33事項あった。その主な内容は、申告書等で譲渡所得に対する税額の計算に誤りがあるのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、税額を過小のままとしていたものである。 

(事例3参照)

(注1) 長期譲渡所得 譲渡した年の1月1日において土地建物等の所有期間が10年(昭和62年10月1日から平成9年3月31日までの間の土地等の譲渡又は2年1月1日から9年3月31日までの間の建物等の譲渡については5年)を超えるものの譲渡による所得をいう。
(注2) 短期譲渡所得 土地建物等の譲渡による所得のうち長期譲渡所得以外のものをいう。

ウ 配当所得に関するもの

 個人が法人から配当を受けた場合には、源泉分離選択課税(注) の適用を受けた配当などを除いて、配当所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。
 この配当所得に関し、徴収不足となっている事態が27事項あった。その主な内容は、個人に法人から受けた配当による所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、この所得を他の所得と総合して課税していなかったものである。

(注)  源泉分離選択課税  配当について、その支払を受ける者が法人の発行済株式の総数(又は出資金額)の100分の5以上を有する場合又は法人から支払を受ける配当の金額が1回25万円(年間50万円)以上の場合を除いて、その者の選択により他の所得と分離し100分の35の税率を適用して源泉所得税を課すことをいう。

エ 雑所得に関するもの

 個人が貸付金の利子(事業所得に該当するものを除く。)などを受けた場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を雑所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。
 この雑所得に関し、徴収不足となっている事態が20事項あった。その主な内容は、個人に貸付金の利子による所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、この所得を他の所得と総合して課税していなかったものである。

オ その他に関するもの

 上記のアからエのほか、事業所得、給与所得、一時所得等に関し、徴収不足となっている事態が23事項あった。

申告所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例2>  不動産所得の必要経費を誤っていたもの

 納税者Bは、平成3年分の申告に当たり、不動産貸付けに係る必要経費64,871,747円と総収入金額15,250,000円との差額49,621,747円を不動産所得の損失額としていた。この損失額を事業所得等と損益通算し、総所得金額は、185,038,223円であるとしていた。そして、同人の申告書等によれば、同年中に貸家の用に供するための土地建物を取得する際に支払った仲介手数料13,500,000円を不動産所得の計算上必要経費に算入していた。
 しかし、仲介手数料は取得した土地建物の取得価額に含めるべきであるから、不動産所得の必要経費に算入することはできない。したがって、同金額を土地建物の取得価額に含め、これに伴い増加する建物の償却費を必要経費に算入すると、不動産所得の損失額は36,177,199円となるのに、これを見過ごしたため、申告所得税額6,722,500円が徴収不足になっていた。

<事例3>  居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の税額計算を誤っていたもの

 納税者Cは、平成2年分の申告に当たり、長期譲渡所得として課税される金額355,605,000円のうち居住用財産に係る金額113,123,000円について、所有期間が10年を超える居住用の家屋及びその敷地の用に供されている土地を譲渡した場合に適用される低い税率により税額を計算していた。そして、その他の長期譲渡所得金額242,481,000円に係る税額と合わせて税額を73,588,700円としていた。
 しかし、同人の申告書等によれば、その譲渡した家屋の所有期間は1年2箇月であるので、上記の譲渡所得金額113,123,000円についてこの低い税率を適用することはできない。したがって、長期譲渡所得として課税される金額355,605,000円に対する税額は86,901,250円となるのに、居住用財産を譲渡した場合の課税の特例の適用の検討が十分でなかったため、申告所得税額13,312,500円が徴収不足になっていた。

(3) 法人税に関するもの

 法人税では徴収不足又は徴収過大となっていたものが199事項あった。この内訳は、法人税額の特別控除に関するもの37事項、土地等の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの35事項、同族会社の留保金に関するもの31事項、退職給与引当金に関するもの20事項及びその他に関するもの76事項である。

ア 法人税額の特別控除に関するもの

 青色申告書を提出する法人のうち中小企業者等(発行済株式の総数の2分の1以上が同一の大規模法人の所有に属しているなどの法人を除く。)が電子機器利用設備を取得し又は賃借した場合には、その設備を事業に使用した最初の事業年度において、次の金額のうちいずれか少ない金額を限度として法人税額から控除する特例を適用できることなどとなっている。

〔1〕 取得価額又は賃借期間中に支払う費用の総額に一定の割合を乗じて得た金額

〔2〕 確定申告書の法人税額の100分の20に相当する金額

 この法人税額の特別控除(以下「税額控除」という。)に関し、徴収不足となっている事態が37事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で、特例が適用できる中小企業者に該当しない法人が税額控除をしているのに、これを見過ごしたため、法人税額を過小のままとしていた。 

(事例4参照)

(イ) 申告書等で、前期以前に既に税額控除された金額が当期の法人税額から重複して控除されるなどしているのに、これを見過ごしたため、法人税額を過小のままとしていた。

イ 土地等の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの

 法人の長期所有土地等(注1) 、短期所有土地等(注2) 、超短期所有土地等(注3) の譲渡等について、それぞれ区分し、収益の額から原価と経費の額を差し引いて譲渡利益金額が算出される場合には、通常の法人税のほか、それぞれの譲渡利益金額に対し特別税率の法人税を課すこととなっている。そして、この特別税率の法人税額は、長期所有土地等、短期所有土地等及び超短期所有土地等の譲渡利益金額のそれぞれ100分の10、100分の20及び100分の30に相当する金額などとなっている。
 この土地等の譲渡等に係る譲渡利益に関し、徴収不足となっている事態が35事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で、超短期所有土地等の譲渡利益金額が短期所有土地等の譲渡利益金とされているなどし、超短期所有土地等の譲渡利益金額が記載されていなかったり、少なく記載されていたりしていた。しかし、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、超短期所有土地等の譲渡利益金額に特別税率の法人税を課していなかったり、譲渡利益金額を過小のままとしたりしていた。

(事例5参照)

(イ) 申告書等で経費の額に誤りがあり、譲渡利益金額が記載されていなかったり、少なく記載されていたりしていた。しかし、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、特別税率の法人税を課していなかったり、譲渡利益金額を過小のままとしたりしていた。

(注1) 長期所有土地等 法人が所有する土地等のうち短期所有土地等、超短期所有土地等以外の土地等をいう。
(注2) 短期所有土地等 譲渡した年の1月1日までに所有していた期間が10年(昭和62年10月1日から平成9年3月31日までの譲渡では5年)以下である土地等をいう。ただし、超短期所有土地等に該当するものを除く。
(注3) 超短期所有土地等 昭和62年10月1日から平成9年3月31日までに譲渡した土地等のうち、譲渡した年の1月1日までに所有していた期間が2年以下である土地等をいう。

ウ 同族会社の留保金に関するもの 

 特定の同族会社(注1) については、通常の法人税のほか、利益のうち社内に留保した金額が一定の金額を超える場合には、その超える部分の金額(以下「課税留保金額」という。)に対し特別税率(注2) の法人税を課すこととなっている。
 この同族会社の留保金に関し、徴収不足となっている事態が31事項あった。その内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で課税留保金額が算出されるのに、これを見過ごしたため、特別税率の法人税を課していなかった。

(イ) 申告書等で課税留保金額や税額の計算に誤りがあり、特別税率の法人税額が少なく記載されているのに、これを見過ごしたため、特別税率の法人税額を過小のままとしていた。

(注1) 特定の同族会社 発行済株式の総数(又は出資金額)の100分の50以上が、3人以下の株主等(株主等に同族会社でない法人がある場合はその法人を除く。)及びこれらと特殊の関係にある個人・法人によって所有されている会社をいう。
(注2) 特別税率 課税留保金額が年3000万円以下の部分については100分の10、年3000万円を超え1億円以下の部分については100分の15、年1億円を超える部分については100分の20となっている。

エ 退職給与引当金に関するもの

 退職給与規程を定めている法人は、その使用人の退職の際に支給する退職給与に充てるための金額を退職給与引当金勘定に繰り入れることができる。そして、この繰り入れた金額については、次の金額のうちいずれか少ない金額を限度として、損金に算入できることとなっている。

〔1〕 期末退職給与の要支給額(注) から前期末退職給与の要支給額を差し引いた金額(又は給与総額の100分の6に相当する金額)

〔2〕 期末退職給与の要支給額の100分の40に相当する金額から、前期から繰り越された退職給与引当金勘定の期末における金額を差し引いた金額

 また、使用人が退職した場合には、退職給与引当金勘定の金額から、退職者の前期末退職給与の要支給額に相当する金額を取り崩して益金に算入することとなっている。
 この退職給与引当金に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が20事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で期末や前期末の退職給与の要支給額に誤りがあり、限度額を超えて繰り入れた金額が損金に算入されているのに、これを見過ごしたため、繰入額を過大のままとしていた。

(イ) 申告書等で使用人に対する退職給与の支払額が記載されていながら、退職者の前期末退職給与の要支給額に相当する金額が、退職給与引当金勘定の金額から取り崩され益金に算入されていないのに、これを見過ごしたため、この要支給額に相当する金額を益金に算入しないままとしていた。

(注)  期末退職給与の要支給額 期末において在職する使用人の全員が自己の都合で退職するものと仮定した場合に、各使用人について退職給与規程により計算される退職給与の合計額をいう。

オ その他に関するもの

 上記のアからエのほか、新規取得土地の負債利子、役員賞与等に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が76事項あった。

法人税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例4>  電子機器利用設備を賃借した場合の税額控除の特例の適用を誤っていたもの

 D会社は、平成2年3月21日から3年3月20日までの事業年度分の申告に当たり、税額控除の特例を適用して、電子機器利用設備の賃借期間中に支払う費用の総額に一定の割合を乗じて算出した金額5,493,600円を法人税額から控除していた。
 しかし、申告書等によれば、同会社の発行済株式の総数の2分の1以上が同一の大規模法人の所有に属しているので、同会社は中小企業者に該当しない。したがって、税額控除の特例は適用できず、税額控除の金額はないのに、これを見過ごしたため、法人税額5,493,600円が徴収不足になっていた。

<事例5>  超短期所有土地等の譲渡を短期所有土地等の譲渡としていたもの

 E会社は、平成元年10月から2年9月までの事業年度分の申告に当たり、期中に譲渡した土地3件について、いずれも短期所有土地等に該当するとして、その譲渡利益金額314,989,444円に対し特別税率(100分の20)の法人税を課していた。
 しかし、申告書等によれば、期中に譲渡した土地3件のうち1件は、所有期間が2年以下であり超短期所有土地等に該当する。したがって、上記の譲渡利益金額314,989,444円のうち、この土地1件に係る譲渡利益金額104,477,510円に対しては、超短期所有土地等に係る特別税率(100分の30)の法人税を課すこととなるのに、これを見過ごしたため、法人税額10,447,500円が徴収不足になっていた。

(4) 相続税・贈与税に関するもの

 相続税・贈与税では徴収不足となっていたものが44事項あった。この内訳は、相続税については土地建物等の価額に関するもの23事項、その他に関するもの9事項、贈与税については12事項である。

ア 相続税に関するもの

(ア)土地建物等の価額に関するもの

 個人が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その取得した財産の価額に対し相続税を課すこととなっている。そして、取得した財産の価額は、その財産の取得の時における時価とされていて、土地建物等の価額については、路線価、固定資産税評価額等を基にして計算することとなっている。ただし、被相続人が相続開始前3年以内に取得した土地建物等(被相続人が居住の用に供していたものを除く。)については、取得価額によることとなっていて、この場合、借地権相当額、借家権相当額等の控除はできないこととなっている。
 この土地建物等の価額の計算に関し、徴収不足となっている事態が23事項あった。その主な内容は、申告書等で相続により取得した建物等の価額の計算において、被相続人が相続開始前3年以内に取得した建物等の取得価額から借家権相当額を控除しているのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、建物等の価額を過小のままとしていたものである。

(イ)その他に関するもの

 上記(ア)のほか、有価証券の価額、相続税額の加算(注) 等に関し、徴収不足となっている事態が9事項あった。 

(事例6参照)

(注)  相続税額の加算  相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者であるときは、所定の方法により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算して得られる金額をその者の相続税額とすることをいう。

イ 贈与税に関するもの

 個人が贈与により財産を取得した場合には、その取得した財産の価額に対し贈与税を課すこととなっている。そして、同族会社である株式会社が新株を発行する際、従前の株主が新株の引受けをせず、その株主の親族が新株引受権を取得し、有利な発行価額による新株の引受けをした場合には、その親族が従前の株主から新株引受権を贈与により取得したものとみなされることとなっている。
 この贈与税に関し、徴収不足となっていたものが12事項あった。その主な内容は、同族会社における従前の株主からその親族が新株引受権を贈与により取得しているのに、これに係る資料の収集・活用が的確でなかったため、贈与税を課していなかったものである。

相続税・贈与税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例6>  相続税額の加算をしていなかったもの

 納税者Fは、平成元年7月相続分の申告に当たり、被相続人から相続した財産に係る相続税額を286,531,100円としていた。
 しかし、申告書等によれば、相続人Fは被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者であるから、所定の方法により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算して得られる金額がその相続税額となるのに、これを見過ごしたため、相続税額57,306,200円が徴収不足になっていた。

(5) 消費税に関するもの

 消費税では徴収不足となっていたものが7事項あった。この内訳は、簡易課税制度の適用に関するもの5事項及びその他に関するもの2事項である。

ア 簡易課税制度の適用に関するもの

 事業者は、課税期間(個人事業者は暦年、法人は事業年度)における課税売上高に対する消費税額から仕入れに係る消費税額を差し引いた額を消費税として納付することとなっている。そして、この場合、その課税期間の基準期間(個人事業者については前々年、法人については前々事業年度)における課税売上高が4億円(平成3年9月30日までに開始する課税期間については5億円)以下であるときは、課税売上高に対する消費税額に所定の率(注) を乗じて得られる金額を仕入れに係る消費税額とみなして税額を計算する簡易課税制度を適用することができることとなっている。
 この簡易課税制度の適用に関し、徴収不足となっている事態が5事項あった。その内容は、3年9月30日までに開始する課税期間において、基準期間における課税売上高が5億円を超えている事業者が簡易課税制度を適用していて、納付する税額が少なくなっているのに、これを見過ごしたため、消費税額を過小のままとしていたものである。

(事例7参照)

(注)  所定の率  事業の種類ごとに次のとおり定められている。

第一種事業(卸売業) 100分の90
第二種事業(小売業) 100分の80
第三種事業(製造業等) 100分の70
第四種事業(サービス業等) 100分の60

イ その他に関するもの

 上記アのほか、仕入れに係る消費税額の控除に関し、徴収不足となっている事態が2事項あった。

消費税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例7>  簡易課税制度の適用を誤っていたもの

 G会社は、平成2年10月から3年9月までの課税期間分の申告に当たり、簡易課税制度を適用して、納付する消費税額を4,398,500円としていた。
 しかし、同会社の法人税の申告書等によれば、基準期間(昭和63年10月から平成元年9月までの事業年度)における課税売上高は5億円を超えているので、簡易課税制度は適用できない。したがって、簡易課税制度を適用せず、仕入れ等の金額を基に仕入れに係る消費税額を算出するなどして納付する税額を計算すると7,869,700円となるのに、これを見過ごしたため、消費税額3,471,200円が徴収不足になっていた。

(国税局等別の徴収過不足額)

 これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局等別に示すと次のとおりである。

これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局等別に示すと次のとおりである。