会計名及び科目 | 国立学校特別会計 (項)大学附属病院 |
部局等の名称 | 秋田大学ほか10大学(14附属病院) |
医薬品費の概要 | 国立大学の附属病院において患者の診療に使用する医薬品、検査用試薬、医療材料等の購入に要する経費 |
会計年度を越えて支払われた医薬品費の額 | 平成元年度 | 6,052,656円 |
平成2年度 | 1,598,012,237円 | |
平成3年度 | 3,784,487,566円 | |
平成4年度 | 2,790,605,174円 | |
計 | 8,179,157,633円 |
患者の診療に使用するため年度内に納入された医薬品、検査用試薬及び医療材料等の代金が年度を越えて翌年度又は翌々年度において当該年度の予算から支払われている事態が、秋田大学医学部附属病院ほか13大学病院において8,179,157,633円見受けられた。
このような事態が生じているのは、大学病院においては、重症・難症の患者が多く、多種多様な検査や、治療効果が高い高額な新薬等が多数必要であり、医薬品費の増こうが避けられないなど、予算執行を図る上での調整等に困難な事情があることにもよるが、主として次のようなことによると認められた。
(ア) 年度途中における薬品・材料の購入実績が、適時、適切に把握されないまま、従来からの慣例に依存して、診療科の購入要求に基づいた取得措置請求に従って契約・発注が行われるなど、基本的な予算会計上の統制が図られていなかったこと
(イ) 大学病院における予算の執行において、薬品・材料の毎年度の購入計画や予算執行残額、収入の状況など、大学病院の運営実態が、事務部門等から診療科に十分周知されることなく、診療科において薬品・材料の購入要求がなされていたこと
<是正改善の処置要求>
文部省において、病院運営の健全化に取り組みつつ、会計事務処理及び予算執行が適切に行われるよう、次の各項の処置を講ずる要があると認められた。
(ア) 大学病院に対して、年度途中における薬品・材料の購入実績を適時、適切に把握し、予算執行残額を確認した上で契約・発注を行うなど、正規の会計手続に従った適切な事務処理がなされるよう指導すること
(イ) 毎年度の購入計画や予算執行残額、収入の状況など、大学病院の運営実態について、診療科に十分周知するとともに、内部の連絡調整を密にして、示達額の範囲内で計画的な予算の執行がなされるよう指導すること
(ウ) 大学病院における医薬品費の増こうなどの事態を踏まえ、事務部門及び診療科が一体となって、適切な予算執行を図る上での病院運営の合理化などに一層取り組むよう指導するとともに、年度途中における予算の調整等に、適時、適切な対応がなされるよう緊密な連絡を図るなどして、適正な予算執行に万全を期すこと
上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成5年12月6日に文部大臣に対して是正改善の処置を要求した。
(平成5年12月6日付け 文部大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 制度の概要
貴省では、国立学校設置法(昭和24年法律第150号)等に基づき、国立大学又はその医学部及び歯学部並びに附置研究所に附属する病院(以下「大学病院」という。)を設置している。大学病院は、全国42の大学で65病院(平成5年8月以前は66病院)あり、臨床医学の教育・研究を行うほか保険医療機関として患者の診療を行っている。
大学病院の運営に係る収入支出は、国立学校特別会計(以下「特別会計」という。)において経理され、収入については、(項)附属病院収入に計上されることとなっている。この主なものは、患者の診療を行ったときに算定・請求する診療報酬請求額となっている。
一方、支出については、特別会計の歳出予算の(項)大学附属病院において予算措置されており、この中には、(目)医療費(大学病院における患者の診療に必要な経費。4年度の支出済額1785億9937万余円)、(目)学用患者費(大学病院における教育・研究のための学用患者の診療直接経費等。同100億5674万余円)、(目)校費(大学病院における光熱水費等一般管理運営経費、教育研究経費等。同763億1645万余円)等がある。
そして、患者の診療に使用する医薬品、検査用試薬、医療材料等(以下、これらを「薬品・材料」という。)を購入する費用(以下「医薬品費」という。)は、主として(目)医療費及び(目)学用患者費(以下、これらを「医療費等」という。)から支出されている。
この医療費等の予算については、患者の診療による収入支出は対応関係にあることから、診療報酬請求額に応じたものとすることが予算措置の原則となっており、貴省では、その所要額を、診療報酬請求見込額に、医薬品費の額の診療報酬請求額に対する所定の割合を乗ずるなどして算定している。
そして、年度途中において、患者数の増加等により、収入額が歳入予算額に比べて増加する一方、診療に要する費用が増加し、医療費等の増額が必要と認められるときは、補正予算や予算総則に定める弾力条項の適用、予算の移用・流用などにより医療費等を増額する措置が執られることになっている。また、収入額が減少し、医療費等の減額が必要と認められるときは、補正予算により医療費等を減額する措置等が執られることになっている。
貴省では、上記により予算措置された医療費等を、各大学病院に次のように示達している。
〔1〕 大学病院別に、診療報酬請求見込額に、医薬品費の額の診療報酬請求額に対する所定の割合を乗ずるなどして年間の医療費等の所要額を算定し、年度当初にその90%程度について、予算科目別に支出負担行為計画を示達している。その後、9月に各大学病院における診療報酬請求額の実績と見込により再度医療費等の所要額を算定し、これに基づき11月に、残額について支出負担行為計画を示達している。
〔2〕 また、(目)医療費については、1月の各大学病院における診療報酬請求額の実績と見込に基づき、年度末に最終調整を行う。そして、年度末における患者数の増減等に伴い、診療報酬請求額の実績が見込と相違することになった場合には、必要に応じ翌年度の予算によって7月に調整を行う。これは、年度末における医薬品費に過不足を生じた場合、通常、大学病院の在庫により対応されることから、在庫の増加分あるいは減少分に見合う措置であるとされている。
大学病院は、国の機関として、予算を執行するに当たっては、財政法(昭和22年法律第34号)、会計法(昭和22年法律第35号)等(以下「会計法令」という。)に従って、予算科目別に支出負担行為計画の示達を受けた予算の額(以下「示達額」という。)の範囲内で、適正に会計事務を処理しなければならないこととなっている。
そして、患者の診療等に必要な薬品・材料の購入については、会計法令の定めるところに従い、次のように契約等の会計事務を処理することとしている。
〔1〕 使用頻度の高い薬品・材料については、必要な時期に必要な数量が確保できるように、主として年度当初に、支出負担行為担当官が、購入の見込まれる品目を対象として単価契約を行う。そして、必要が生じたときは、物品管理官は、各診療科(薬剤部等を含む。)に配置された物品供用官の購入要求に基づき、支出負担行為担当官に対して取得措置請求を行い、これを受けて支出負担行為担当官は納入業者に発注し納品させる。そして、通常、翌月に納入業者から1箇月分をまとめた請求書が提出され、これを受けて支出負担行為の事務処理を行う。
〔2〕その他の薬品・材料については、物品管理官が、物品供用官の購入要求に基づき、支出負担行為担当官に対して取得措置請求を行い、これを受けて支出負担行為担当官は、品目及び数量を取りまとめ、その都度納入業者と総価による購入契約(以下「総価契約」という。)を行い納品させる。そして、この総価契約においては、通常、契約額が少額であることから、契約書の作成は省略され、契約時に支出負担行為の事務処理を行う。
〔3〕 そして、支出官は、支出負担行為差引簿を備え、予算科目別に示達額を超えることなどがないよう、支出負担行為の確認を行い予算の執行を管理するとともに、納入業者から提出された請求書を審査確認のうえ、所定の期日までに購入代金を支払う。
2 本院の検査結果
5年1月以降に、一部の大学病院等において薬品・材料の購入代金が長期間未払いとなっている事態が明らかとなった。
そこで、本院は、大学病院に示達された予算が会計法令に従って適正に経理され、執行されているかなどの観点から、大学病院の医療費等の予算の執行状況、特に、その大宗を占める医薬品費の支払実態等について調査を実施することとした。
調査は、大学病院が設置されている全国42大学のうち、21大学の28大学病院を対象として実施した。
(1) 医薬品費が年度を越えて支払われている事態
調査したところ、秋田大学医学部附属病院ほか13大学病院(注) (4年度における医療費等の支出済額510億2268万余円、うち医薬品費490億3209万余円。以下「14大学病院」という。)において、薬品・材料を当年度に購入したにもかかわらず、示達額を超えることになるため、当年度内に支出負担行為等の会計事務処理が行われておらず、翌年度又は翌々年度に持ち越されて、処理され支払われている(以下、この処理を「年度越処理」という。)事態が見受けられた。そして、その額は、次表のとおり、元年度から4年度に購入したもので合計81億7915万余円によっていた。
発生年度
\
大学病院 |
平成 元 |
2 | 3 | 4 | 計 |
秋田 |
千円 - |
千円 - |
千円 258,964 |
千円 237,841 |
千円 496,806 |
筑波 | - | 69,877 | 328,268 | 532,854 | 930,967 |
群馬 | - | 80,972 | 424,159 | 207,795 | 712,928 |
東京(本院) | 6,052 | 961,797 | 806,883 | - | 1,774,733 |
東京(分院) | - | 72,355 | 127,684 | - | 200,040 |
東京(医研) | - | 173,326 | 181,004 | - | 354,330 |
新潟 | - | 231,571 | 323,421 | 167,300 | 722,293 |
山梨医科 | - | - | 227,209 | 254,653 | 481,862 |
滋賀医科 | - | - | 159,711 | 132,521 | 292,233 |
京都(医) | - | - | 464,931 | 837,833 | 1,302,765 |
京都(胸研) | - | - | 104,587 | 113,978 | 218,565 |
鳥取 | - | - | 256,484 | 305,825 | 562,310 |
佐賀医科 | - | 8,143 | 23,228 | - | 31,372 |
琉球 | - | - | 97,947 | - | 97,947 |
合計 | 6,052 | 1,598,012 | 3,784,487 | 2,790,605 | 8,179,157 |
(注1) | 東京(医研)は、東京大学医科学研究所附属病院、京都(医)は京都大学医学部附属病院、京都(胸研)は京都大学胸部疾患研究所附属病院である。 |
(注2) | 千円未満を切り捨てて計上したため、各欄の計は合計と一致しないことがある。 |
そして、これらについて会計事務処理が行われた年度及び支出された予算科目の内訳は、次表のとおりであった。
処理年度
\
予算科目 |
平成3 | 4 | 5 | 計 | ||||
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |
(目) 医療費 |
件 2,288 |
千円 1,173,238 |
件 8,863 |
千円 3,611,333 |
件 6,702 |
千円 2,631,654 |
件 17,853 |
千円 7,416,226 |
(目) 学用患者費 | 56 | 5,389 | 227 | 58,323 | - | - | 283 | 63,713 |
(目) 工費 | 3,057 | 1,312,785 | 1,919 | 406,109 | 888 | 158,950 | 3,520 | 699,217 |
計 | 3,057 | 1,312,785 | 11,009 | 4,075,767 | 7,590 | 2,790,605 | 21,656 | 8,179,157 |
内訳 | 25 3,032 |
6,052 1,306,732 |
415 10,594 |
291,279 3,784,487 |
7,590 |
2,790,605 |
440 21,216 |
297,332 7,881,825 |
(注1) | 内訳の上段は前々年度購入分、下段は前年度購入分の処理額である。 |
(注2) | 千円未満を切り捨てて計上したため、各欄の計は合計と一致しないことがある。 |
(2) 会計事務処理の実態
年度越処理の事態が見受けられた14大学病院について、支出負担行為等の会計事務処理の実態をみると、次のようになっていた。
(ア) 支出負担行為担当官は、診療科の購入要求を受けた物品管理官からの取得措置請求に従い、多種・多様な品目の購入を、単価契約に基づく発注や総価契約によって、年度当初から継続的あるいは断続的に行っている。そして、年度が進行して示達額の残額が減少してくると、1箇月分をまとめた形で規則的に処理される単価契約に係る会計事務を優先的に処理していた。一方、総価契約については、契約の都度支出負担行為の事務処理を行うことになっているところであるが、契約の頻度が一様でなく件数も極めて多いことから、補助簿等に発注年月日等を記載しておき、その事務処理を後回しにしている。そして、示達額の残額が更に減少すると、これらについては、納品されても、支出負担行為の事務処理を行わないことがある。
(イ) このように、単価契約に係る会計事務が優先的に処理され、その購入代金が逐次支払われ、年度末においてその支出済額が示達額に達したときは、残る総価契約等に係る支出負担行為等の会計事務処理が翌年度に持ち越され、翌年度に契約・納品等が行われたように一連の会計事務処理が行われていた。
14大学病院における薬品・材料の納品から支払までの期間(以下「支払期間」という。)を、4年度に年度越処理が行われた11,009件、40億7576万余円のうち、総価契約に係る10,506件、37億9089万余円についてみたところ、次表のようになっていた。
(単位:千円)
支払期間 | 計 | |||
3箇月以内 | 3箇月超 6箇月以内 |
6箇月超 1年以内 |
1年超 | |
(669件) 207,723 |
(3,581件) 1,142,435 |
(4,240件) 1,422,020 |
(2,016件) 1,018,712 |
(10,506件) 3,790,891 |
このように、薬品・材料が納品されてから、6箇月を経過した後に購入代金が支払われているものが、6,256件、24億4073万余円に上っており、中には1年を経過した後に支払われているものが、2,016件、10億1871万余円と多数あった。
示達額を超えて、薬品・材料の購入がなされ、会計事務処理が当年度未処理となって翌年度以降において処理され、会計年度を越えて購入代金が支払われている事態は、会計法令及び予算に違背するもので、適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、大学病院においては、患者診療がすべてに優先するという考え方の中で、重症・難症の患者が多く、多種多様な検査や治療効果が高く、高額な新薬等が多数必要であり、医薬品費の増こうが避けられないなど、予算執行を図る上での調整等に困難な事情があることにもよるが、主として次のようなことによると認められる。
(ア) 年度途中における薬品・材料の購入実績が、適時、適切に把握されないまま、従来からの慣例に依存して、診療科の購入要求に基づいた取得措置請求に従って契約・発注が行われ、支払財源が確保されてから支払が行われるなど、基本的な予算会計上の統制が図られていなかったこと
(イ) 大学病院における予算の執行において、薬品・材料の毎年度の購入計画や予算執行残額、収入の状況など、大学病院の運営実態が、事務部門等から診療科に十分周知されることなく、診療科において薬品・材料の購入要求がなされていたこと
3 本院が要求する是正改善の処置
大学病院は、教育・研究機関としての役割のほか、地域の中核的病院としての機能も併せ持っており、医療の高度化や医療技術の向上の分野での役割が期待されている。
ついては、今後とも大学病院の果たすべき使命が重要であることにかんがみ、貴省においては、大学病院の診療実態を反映した予算配分の方途を更に考究するなどして、病院運営の健全化に取り組みつつ、特に、大学病院の管理運営の基本となる会計事務処理及び予算執行において、前記の事態が再発することのないよう、次の各項の処置を講ずる要があると認められる。
(ア) 大学病院に対して、薬品・材料の購入に当たって、年度途中における購入実績を適時、適切に把握し、予算執行残額を確認した上で契約・発注を行うなど、正規の会計手続に従った適切な事務処理がなされ、遅滞した処理がなされることがないよう指導すること
(イ) 毎年度の購入計画や予算執行残額、収入の状況、在庫高など、大学病院の運営実態について、事務部門等から診療科に十分周知するとともに、大学病院内部の連絡調整を密にして、診療科は購入要求を行い、示達額の範囲内で計画的な予算の執行がなされるよう指導すること
(ウ) 大学病院において、新薬の採用等による医薬品費の増こうなどの事態を踏まえ、事務部門及び診療科が一体となって、適切な予算執行を図る上での病院運営の合理化、効率化に一層取り組むよう、指導するとともに、年度途中における予算の調整等に、適時、適切な対応がなされるよう、緊密な連絡を図るなどして、適正な予算執行に万全を期すこと
(注) 秋田大学医学部附属病院ほか13大学病院 秋田、新潟、山梨医科、滋賀医科、京都、鳥取、佐賀医科、琉球各大学の医学部附属病院、群馬、東京各大学の医学部附属病院本院、筑波大学附属病院、東京大学医学部附属病院分院、東京大学医科学研究所附属病院、京都大学胸部疾患研究所附属病院