会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 | (項)老人福祉費 (項)国民健康保険助成費 |
厚生保険特別会計(健康勘定) | (項)保険給付費 (項)老人保健拠出金 (項)退職者給付拠出金 |
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船員保険特別会計 | (項)老人保健拠出金 (項)退職者給付拠出金 |
部向等の名称 | 社会保険庁、北海道ほか30都府県 |
国の負担の根拠 | 健康保険法(大正11年法律第70号)、舶員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号) |
医療給付の種類 | 健康保険法、国民健康保険法及び老人保健法に基づく医療実施主体 |
国、市52、特別区5、町15、村1、国民健康保険組合4、計78実施主体 | |
施術所 | 62施術所 |
不適切に支払われた療養費 | 51,615,148円 |
上記に対する国の負担額 | 30,221,106円 |
しかし、北海道ほか35都府県に所在する施術所のうち支給額の多い94施術所について調査したところ、療養費が、柔道整復師の施術の対象とならない傷病について請求されていたり、患者の療養上必要な範囲及び限度を超えて行われた施術について請求されていたりなどしていると認められる事態が多数見受けられた。
このため、上記94施術所について、都道府県に対しより詳細な調査を要請し、都道府県が調査したところ、施術所において請求が不適切であったと認めて保険者等に返還した療養費が、62施術所で5,615,148円(これに対する国の負担額30,221,106円)あった。
このような事態が生じているのは、柔道整復師、保険者等が療養費制度及び受領委任制度の趣旨を十分認識していなかったこと、算定基準等が不備であること、保険者等による審査が十分行われていないことなどによると認められた。
<是正改善の処置要求>
厚生省において、柔道整復師、保険者等に療養費制度及び受領委任制度の趣旨を周知徹底させること、算定基準等について所要の改正を行うこと、審査体制の整備を図ることなどの要があると認められた。 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成5年12月3日に厚生大臣に対して是正改善の処置を要求した。
(平成5年12月3日付け 厚生大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 制度の概要
貴省では、健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等の医療保険各法及び老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づいて国、市町村等が行う医療給付に関し、その適正な実施を図るため、保険者、市町村に対する指導を行うとともに、医療 給付に要する費用の一部を負担している。
医療給付は、原則として各保険等の被保険者等(以下「患者」という。)が、その傷病につき、医療機関で療養の給付を受けることによって行われている。
しかし、健康保険法第44条の2の規定等に基づき、療養の給付を行うことが困難であると保険者等が認めたとき又は患者が医療機関以外の者により手当を受けたことを保険者等がやむを得ないと認めたときは、療養の給付に代えて療養費の支給を行うことができるとされている。そして、この療養費の一つとして柔道整復師に係る施術料が支給されている。
柔道整復師とは、柔道整復師法(昭和45年法律第19号)に基づき厚生大臣の免許を受けて柔道整復を業とする者であり、柔道整復とは、骨、筋、関節等に各種の外力が加わることにより生ずる骨折、脱臼、打撲、捻挫の患部を整復することであるとされている。
全国の柔道整復師数及び柔道整復の業務を行う施術所の数は、平成4年末でそれぞれ24,776人及び18,552箇所となっている。
柔道整復師の施術に係る療養費額は近年高い伸びを示しており、平成3年度の推計では1863億余円となっている。特に、老人保健法に係る療養費額の伸び率は毎年約15%と高率となっている。
柔道整復師の施術料は、療養の給付に代えて支給されるものであるので、医療機関の治療を受けている負傷部位についてはその支給対象とならず、また、神経痛、リウマチ等の内因性疾患については柔道整復師の施術対象とはならないこととされている。
そして、施術は患者の療養上適切かつ妥当なものでなければならず、また、療養上必要な範囲及び限度で行うものとし、とりわけ、長期又は濃厚な施術とならないように努めなければならないとされている。
療養費は、患者が療養に要した費用を支払ったとき保険者等に支給の申請を行い、保険者等がその内容を審査のうえ支払うのが原則である。
しかし、柔道整復師の施術に係る療養費の支給については、都道府県知事等と柔道整復師の団体との間の協定等に基づき、患者が療養費の受領を柔道整復師に委任すること(以下「受領委任」という。)が認められている。
すなわち、柔道整復師が施術を行った場合、柔道整復師は、施術料金のうち患者負担分については患者に請求し、残りの施術料金については、患者からの受領委任に基づいて、柔道整復施術療養費支給申請書(以下「申請書」という。)により各保険者等に対して請求することになっている。受領委任は、請求金額等が記載された申請書に、患者の自筆で住所、氏名等を記入し、押印して行うこととされている。保険者等は、この申請書の提出を受けて、審査委員会(注)
又は国民健康保険団体連合会に審査を委嘱している場合にはこれらによる審査を経て、自ら審査を行ったうえ、柔道整復師に療養費を支給することとされている。
(注) 審査委員会 都道府県の保険主管部(局)長等により委員の委嘱が行われている第三者機関で、昭和63年から各都道府県において設置が進められてきている。
柔道整復師の施術料金は、「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準」(昭和33年保険局長通知保発第64号。以下「算定基準」という。)に基づいて算定することとなっている。すなわち、施術料金には、初検料、往療料、再検料のほか、施術行為に係るものとして、整復料、固定料、施療料、後療料の4種類があり、このうち実際の療養費の請求の大部分は、打撲、捻挫の治療であるマッサージ等の手技療法を行った場合に算定される後療料となっている。この後療料は、1負傷部位について、平成2年6月以降は430円、4年6月以降は440円を算定することとなっている。
2 本院の検査結果
近年、柔道整復師の施術に係る療養費は、高い伸び率を示していることなどから、〔1〕 療養費は柔道整復師の施術の対象となる負傷について支給されているか、〔2〕 療養費は患者の療養上必要な範囲及び限度で行われた施術について支給されているかなどの観点から調査した。
北海道ほか35都府県(注) の札幌市ほか70市区町に所在する施術所のうち療養費の支給額が多い94施術所の柔道整復師に支払われている、2年度から4年度までの療養費の支給額合計65億6678万余円について調査した。
(注) 北海道ほか35都府県 北海道、東京都、大阪府、青森、岩手、宮城、栃木、群馬、千葉、神奈川、富山、石川、福井、長野、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
上記94施術所で長期にわたり継続して施術を行っている患者について、申請書と医療機関からの診療報酬明細書とを突合したり、市区町等の担当者を通じて患者及び柔道整復師に負傷部位、負傷原因、施術内容等を照会したりなどして、柔道整復師の施術及び療養費の請求について調査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 柔道整復師の施術について
(ア) 施術の対象についてみると、同時期に同一負傷部位について医療機関の治療を受けている患者及び内因性疾患の患者に施術を行っている施術所が65施術所(全体の69.1%)あった。
(イ) 請求負傷部位数についてみると、通常は1部位又は2部位であるのに3部位以上の患者が全患者数の50%以上(最高は97.4%)となっている施術所が22施術所(全体の23.4%)あった。また、ほとんどの患者について負傷部位名を1月、2月又は3月ごとに定期的に変更して療養費を請求している施術所が28施術所(全体の29.7%)あった。
(ウ) 施術日数についてみると、患者の中にはほとんど毎日施術を行っている者が多数見受けられ、1月当たりの患者1人に対する平均施術日数が10日以上となっている施術所が29施術所(全体の30.8%)あった。
(エ) 施術期間についてみると、3箇月を超える長期施術を行っている患者の割合が全患者の50%以上(最高は72.7%)となっている施術所が16施術所(全体の17.0%)あった。
(オ) 施術所における患者数についてみると、柔道整復師自身が1日に扱える患者数は、患者1人当たり10分程度の手技療法を行うとすると1日で40人程度となるのに対し、柔道整復師1人の1日当たり取扱い患者数が50人以上(最高は183人)となっている施術所が51施術所(全体の54.2%)あった。
イ 療養費の請求について
(ア) 受領委任状の作成実態についてみると、患者自身が施術日数、施術内容、療養費額等について確認し署名、押印を行っているとしているのは7施術所(全体の7.4%)にすぎず、大部分の施術所では患者自身による確認がないまま作成されていたり、施術所が署名及び押印を行っていたりしていた。
(イ) はり師、きゅう師のいる施術所における請求についてみると、はり、きゅうの施術に係る療養費の請求は医師の同意がある場合に限られているのに、医師の同意なしに行ったはり、きゅうの施術について、その料金を患者から徴収しないで、これらを柔道整復の施術料金として請求していると思料される施術所が26施術所(全体の27.6%)あった。
(ウ) 申請書についてみると、負傷原因が、具体的に記載されていなかったり、全く記載されていなかったりしているため、療養費の支給の適否を確認することができない施術所が90施術所(全体の95.7%)あった。
そして、94施術所は上記の事態のいずれかに該当していた。
したがって、94施術所における療養費の請求が適切に行われたとは認められなかった。
このため、都道府県に対し、94施術所を対象にして、より詳細に、患者に対する面接調査、施術所に対する実地調査等を行うよう要請した。
都道府県では、これらの施術所の療養費の請求に疑義があるとして調査したが、期間が経過しているため施術日、施術内容等の事実の確認が難しいこと、施術所の施術録、経理関係帳簿等が十分な内容となっていないことなどから、療養費の請求の適否について確認が困難であるとの報告を受けた。
しかし、このように調査が困難であったものの、施術所において療養費の請求が不適切であったと認めて保険者等に返還したものが、次のとおりあった。
〔1〕 架空請求や付増し請求をしていたもの
3施術所 |
1,186件 | 22,698,263円 |
〔2〕 現に医療機関の診療を受けている患者(主として内因性疾患の患者)を施術の対象として請求していたもの
48施術所 |
1,912件 | 17,361,258円 |
〔3〕 医師の同意なしで行ったはり、きゅうの施術を柔道整復の施術をしたこととして請求していたもの
4施術所 |
840件 | 6,801,853円 |
〔4〕 負傷部位を作為的に変更し、その都度、初検、再検を行ったこととして、初検料等を請求していたものなど
29施術所 |
2,023件 | 4,753,774円 |
(注) |
5,961件 | 51,615,148円 |
(注) 1施術所で複数の事態に該当するものがあるため施術所の計は合わない。
これらの療養費に係る国の負担額は、30,221,106円である。
上記のとおり、柔道整復師の施術に係る療養費の請求が不適正であったり、請求内容に疑義があったりしているのにこれに対し十分に審査、確認しないまま療養費が支給されている 事態は適切ではなく、是正改善を図る必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことによると認められる。
(ア) 柔道整復師、保険者等が療養費制度及び受領委任制度の趣旨を十分認識していなかったこと
(イ) 算定基準等では、負傷部位数が多ければ多いほど療養費を多く請求できるようになっていて、実際より多い負傷部位数による請求を防止できない仕組みになっていること
(ウ) 申請書の負傷原因等の記載内容が不備となっており、また、審査基準が整備されていないことなどから、保険者等による審査が十分に行われていないこと
(エ) 施術所に対する指導、監査の基準が明確にされていなかったり、施術所の施術録等が不備であったりなどしているため、施術所に対する指導、監査が十分に行われていないこと
3 本院が要求する是正改善の処置
貴省において、柔道整復師の施術に係る療養費について、その適正な支給を期するため、 次のような改善の処置を執る要がある。
(ア) 柔道整復師、保険者等に対し、療養費制度及び受領委任制度の趣旨を周知徹底させること
(イ) 不適正な請求を防止するために算定基準等について所要の改正を行うこと
(ウ) 審査委員会の設置を更に推進するとともに、審査基準を明確にするなど審査体制の整備を図ること
(エ) 施術所に対する指導、監査の基準を明確にしたり、施術所の施術録等の作成、保管を徹底させたりなどして指導、監査の体制の整備を図ること