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水田農業確立助成補助金の地域営農加算額の交付が適切に行われるよう是正改善の処置を要求したもの


(1) 水田農業確立助成補助金の地域営農加算額の交付が適切に行われるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)水田農業確立対策費
部局等の名称 農林水産本省、北海道ほか22府県
補助の根拠 予算補助
事業主体 北海道ほか22府県の69市町村に居住する農業者
補助事業 水田農業確立対策事業(地域営農加算)
事業の内容 農業者が自主的に地域の土地・水利用及び営農方式の調整を行い、地域の水田農業の確立を計画的に推進することを助成する目的で農業者に国庫補助金を交付するもの
不適正に交付された国庫補助金 平成2年度 1,190,130千円
平成3年度 833,075千円
平成4年度 669,761千円
2,692,967千円
<検査の結果>
 水田農業確立助成補助金の地域営農加算額は、農業者が自主的に土地・水利用及び営農方式の調整を行い、地域の水田農業の確立を計画的に推進することを助成する目的で交付されるものである。そして、これらの目的を達成するために、市町村、農業協同組合(以下「農協」という。)、農業者等が中心となって作成する水田利用合理化推進計画に農業者が参画し、自らが資金を拠出すること、この拠出額と地域営農加算額とを併せるなどして地域営農推進基金を造成すること、などの要件を満たす場合に交付することとされている。
 しかし、検査したところ、地域営農加算額が、交付要件に定める実施体制が整備されていない計画区域に対して交付されていたり、交付目的に沿って適切に使用されていなかったりしている事態が、北海道ほか22府県で、26億9296万余円見受けられた。このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められた。

(ア) 地域営農加算額の交付対象者である農業者、基金の管理主体である農協及び審査・指導機関としての市町村において、制度の趣旨、目的、交付要件等についての理解が十分でなく、それぞれの役割、責任を十分果していないこと

(イ) 道府県において、市町村が行う審査・確認事務に対する指導・監督が十分でないこと

(ウ) 農林水産省において、農業者、農協及び市町村の三者それぞれの役割や責任を十分明確にしておらず、基金に対する拠出方法及び基金の使途について、関係機関への周知徹底が十分でないこと、市町村等での有効な審査・確認体制を整備していないこと

<是正改善の処置要求>

  地域営農加算は、平成5年度からの水田営農活性化対策においても地域営農推進助成として今後も実施されることになっているのであるから、農林水産省において、制度の趣旨に沿った効果的な事業を執行するため、次のような処置を執る要があると認められた。

(ア) 要綱等において、農業者、農協及び市町村の三者それぞれの役割、責任を明確にし、基金への拠出方法及び基金の使途に関する規定を整備するとともに、市町村の審査が実効性のあるものとなるよう確認資料及び管理状況報告の書式を改める。

(イ) 農業者、農協及び市町村に対し、制度の趣旨、目的、交付要件等を周知徹底するとともに、現実的で、かつ事業効果の見込める計画を策定し、事業を実施するよう指導する。また、都道府県に対し交付要件の確認、基金の管理状況についてその実態を十分把握するよう指導する。

(ウ) 今後、不適切な事態が生じた場合には、具体的かつ厳正な措置を講ずるよう都道府県等に周知徹底する。

 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、5年11月26日に農林水産大臣に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処置要求の全文】

水田農業確立助成補助金の地域営農加算額の交付について

(平成5年11月26日付け 農林水産大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 水田農業確立助成補助金の概要

(水田農業確立助成補助金)

 貴省では、稲作と転作との合理的な組合せによる地域輪作農法を確立し、水田農業の体質強化を図ることを主眼として、水田農業確立対策の前期対策を昭和62年度から平成元年度まで、後期対策を2年度から4年度まで実施している。そして、これらの対策も踏まえて、上記の目的を達成するため、5年度からは、水田営農活性化対策に取り組んでいるところである。
 この水田農業確立対策を実施するに当たり、貴省では、都道府県、市町村を通じて農業者に対し転作等の目標面積の配分を行っている。そして、農業者が実施した転作等の面積に応じて水田農業確立助成補助金を都道府県に委任して交付することとしている。この補助金には、転作等が行われた水田等の面積に応じて交付される基本額のほか、地域の水田農業確立を計画的に推進するために加算される地域営農加算額と水田農業の生産性の向上を図るための生産性向上等加算額がある。

(地域営農加算額の交付の趣旨)

 このうち、地域営農加算額は、地域における話し合いに基づいて土地・水利用及び営農方式の調整が十分に行われるよう、これらの活動の推進を助成する目的で、市町村、農業協同組合(以下「農協」という。)、農業者等が中心となって作成する水田利用合理化推進計画(以下「計画」という。)に参画する農業者に対し交付されるものである。
 地域営農加算額を受けようとする農業者は、農業者の自主的、計画的な事業への取り組みを図るという観点から、その責任や自主性を明確にするため、あらかじめ資金を拠出する必要がある。そして、農協等において、この拠出額と地域営農加算額とを併せるなどして地域営農推進基金(以下「基金}という。)を造成し、この基金を管理することになっている。基金は、上記の地域営農加算額の交付の趣旨に沿って、小規模な土地基盤整備事業、転作調整のための補償事業等を実施する場合の財源とすることとなっている。

(地域営農加算額の交付要件等)

 地域営農加算額の交付に当たっては、水田農業確立対策実施要綱(昭和62年農蚕第1820号)等(以下「要綱等」という。)において、次の要件が必要とされており、これらの要件が満たされているかを都道府県知事から確認事務の委託を受けた市町村長が確認した後に、地域営農加算額が交付されることとなっている。

(ア) 市町村又は農協の区域を単位として、当該区域の市町村、農協、農業者等が構成員となり、地域の水田利用の合理化を推進するための協議会が設置されていること

(イ) 協議会において計画が策定されていて、計画区域内(注1) に住所を有し、かつ、転作等の対象水田に係る農業者の3分の2以上が計画に参画していること

(ウ) 基金が計画区域を単位に造成されていて、地域営農加算額の合計額以上の額が所定の期日までに拠出されていて、その全部又は一部を計画に参画している農業者自らが拠出していること

(エ) 地域営農加算額の交付対象農業者が、当該地域営農加算額を基金に拠出することについてあらかじめ同意していること

 そして、農業者からの拠出金の全部又は一部が、拠出した農業者へ返還される場合は、その金額は、土地・水利用及び営農方式の調整に寄与することにならないので、基金造成額に算入できないこととなっている。また、地域営農加算額の全部又は一部を農業者へ転作面積当たりで一律に支出することは、同様の理由により認められていない。
 地域営農加算額の交付単価は、転作面積10a当たり10,000円となっていて、全国におけるその交付対象面積は、2年度35万ha、3年度35万ha、4年度29万haで、その交付額は2年度357億6693万余円、3年度352億9439万余円、4年度298億4352万余円、計1009億0485万余円となっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点)

 地域営農加算制度は、農業者の主体的取組みによる地域の土地・水利用及び営農方式の調整を図ることが目的となっていることから、事業が制度の趣旨に沿って実施されているかなどについて検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか24府県管内(注2) の281市町村において交付された地域営農加算額2年度2,266計画区域9,483,844,820円、3年度1,917計画区域9,408,992,130円、4年度1,080計画区域6,639,930,510円、延べ5,263計画区域計25,532,767,460円について検査した。

(検査の結果)

 検査の結果、北海道ほか22府県(注3) の69市町村において、次のとおり、不適切な事態が見受けられた。

(1) 計画が策定されていなかったり、農業者の3分の2以上が計画に参画していなかったりなど計画の策定が適切でないもの

市町村数 4 延べ計画区域数 70 不適切な地域営農加算額 150,127千円

<事例>

道府県名 市町村名
(計画区域名)
年度 地域営農加算額 不適切な地域営農加算額

A県

a町
(z区域)

2
千円
3,608
千円
3,608
3 3,911 3,911
4 3,970 3,970

 上記の計画区域の計画については、同区域内の農業者(2、3年度234名、4年度221名)のうち、3分の2以上の農業者(2年度165名、3年度166名、4年度150名)から計画に参画するとの承諾書を得たことにより、交付要件を満たしているとしていた。
 しかし、実際は、協議会を構成する町及び農協は、農業者からの基金への拠出、計画の内容及びこれらに対する農業者の同意が必要であるとの趣旨の説明を全く行わないまま、各農業者から印鑑を借用し、一方的に承諾書を作成していた。

(2) 農業者から基金への拠出が行われていないなど基金の造成が適切でないもの

(ア) 農協等からの借入金により基金を造成したこととして、地域営農加算額の交付後当該借入金を返済するなどしていて、農業者から基金への拠出が行われているとは認められないもの

市町村数 12 延べ計画区域数 77 不適切な地域営農加算額 161,775千円

(イ) 農業者等からの拠出による基金が、所定の期日までに造成されていなかったり、基金の造成額が所要額である地域営農加算額相当額を下回っているもの

市町村数 21 延べ計画区域数 51 不適切な地域営農加算額 553,984千円

<事例>

道府県名 市町村名
(計画区域名)
年度 地域営農加算額 不適切な地域営農加算額

B県

b町
(x区域) 

2
千円
1,020
千円
1,020
3 1,049 1,049
4 994 994

 上記計画区域では、計画に参画する農業者から水田面積当たりで2年度1,021千円、3年度1,060千円、4年度1,000千円の拠出を行わせ、これに国から交付された地域営農加算額を加えて基金を造成したとしていた。
 しかし、実際は、同区域では、生産組合等から11月に拠出金の全額を借り入れ、その後同額を12月にそのまま返済していた。

(3) 農業者からの拠出金をそのまま農業者に返還していたり、国から交付された地域営農加算額相当額を農業者へ転作面積当たりで一律に支出したりしているもの

(ア) 農業者から水田又は転作面積当たりで基金に拠出させているが、拠出金の全部又は一部がそのまま農業者に返還されていて、基金が造成されたとは認められないもの

市町村数 9 延べ計画区域数 20 不適切な地域営農加算額 609,862千円

(イ) 地域営農加算額相当額の全部又は一部が、農業者へ転作面積当たりで一律に支出されているもの

市町村数 12 延べ計画区域数 54 不適切な地域営農加算額 498,138千円

(ウ) 農業者からの拠出金の全部又は一部が農業者に返還されており、かつ、地域営農加算額相当額の全部又は一部が、農業者へ転作面積当たりで一律に支出されているもの

市町村数 6 延べ計画区域数 38 不適切な地域営農加算額 412,299千円

<事例>

道府県名 市町村名
(計画区域名)
年度 地域営農加算額 不適切な地域営農加算額

C県

c町
(w区域) 

2
千円
170,351
千円
170,351
3 170,322 170,322
4 146,542 146,542

 上記の計画区域では、計画に参画する農業者から水田面積当たりと転作委託面積当たりで2年度177,694千円、3年度180,858千円及び4年度217,519千円を拠出させ、これに国から転作面積10a当たり10,000円で交付された地域営農加算額を加えて基金を造成し、このうち農業者からの水田面積当たりの拠出金相当額2年度60,852千円、3 年度60,704千円により、転作推進事業を実施したとしていた。
 しかし、実際は、上記の水田面積当たりの拠出金相当額について、それぞれ2年度は60,852千円の2分の1に当たる30,426千円を、3年度は60,704千円の全額を拠出した農業者に水田面積当たりで返還していた。この結果、拠出額が地域営農加算額を大幅に下回っていた。
 また、2年度、3年度及び4年度に、地域営農加算額相当額により、点在する転作田の集約化を図るため、団地を形成した転作田を対象として農業者に助成する事業を実施したとしていた。
 しかし、実際は、各年度とも地域営農加算額相当額を、団地を形成した転作田に関係なく、農業者に転作面積10a当たり10,000円で一律に支出していた。

(4) 地域営農加算額相当額を基金から計画区域内の集落等へ一括して支出しているが、集落等では農業者間で分配していたり、大部分が未使用になっていたり、他の資金と経理が区分されておらず使途が不明確となっていたりしているもの

市町村数 26 延べ計画区域数 137 不適切な地域営農加算額 371,469千円

<事例>

道府県名 市町村名
(計画区域名)
年度 地域営農加算額 不適切な地域営農加算額

D県

d村
(v区域) 

2
千円
17,006
千円
4,526
3 15,600 2,830
4 15,003 6,140

 上記の計画区域では、基金のうち地域営農加算額相当額を会議研修費等の名目で2年度は24集落に対して6,436千円、3年度は23集落に対して5,440千円、4年度は22集落に対して7,730千円をそれぞれ一括して支出していた。
 しかし、上記のうち、実際は各集落において農業者に転作面積当たりなどで一律に分配していたり、交付された額の全額が未使用になっていたり、領収書、帳簿等が整備されていないため、使途が特定できず不明確になっていたりしていたものが、2年度は22集落で4,526千円、3年度は17集落で2,830千円、4年度は19集落で6,140千円見受けられた。

 上記の(1)から(4)の各事態には重複しているものがあるので、その分を整理すると、不適切な地域営農加算額は、北海道ほか22府県において、2年度は63市町村182計画区域で1,190,130千円、3年度は55市町村142計画区域で833,075千円、4年度は45市町村102計画区域で669,761千円、計2,692,967千円となる。

(是正改善を必要とする事態)

 上記のように、地域営農加算額が、計画の策定、基金の造成などの交付要件に定める実施体制が整備されていない計画区域に対して交付されていたり、交付目的に沿って適切に使用されていなかったりしている事態が多数見受けられた。このような事態は、農業者の主体的取組みにより、地域における話し合いに基づいて、土地・水利用及び営農方式の調整を図り、もって稲作と転作とが合理的に組み合わされた土地利用方式、生産方式に誘導していくという地域営農加算額の交付目的からみて適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次の理由などによると認められる。

(1) 農業者において、計画に参画し地域営農加算額の交付対象者となっているにもかかわらず、計画への参画意識や制度の趣旨、目的、交付要件等についての理解が十分でないこと

(2) 農協において、拠出金の拠出方法や事業内容について、農業者との間で十分な合意を得ないまま計画を策定していること、また、計画を実質的に策定し、かつ基金を管理する主体であるとの自覚が十分でなく、事業内容の選定や事業効果の確認が適切でないこと

(3) 市町村において、交付要件の確認事務や基金管理状況報告の審査を十分に行っておらず、審査・指導機関としての役割を十分に果たしていないこと

(4) 道府県において

(ア) 農業者、農協に対して制度の趣旨、目的、交付要件を周知徹底していなかったり、計画の策定及び事業の実施について指導・監督が十分でなかったりしていること

(イ) 市町村が行う審査・確認事務に対する指導・監督が十分でないこと

(5) 貴省において

(ア) 地域営農加算額の交付対象者である農業者、協議会の主要構成員及び基金の管理主体である農協、審査・指導機関としての市町村の三者それぞれの役割、責任を十分明確にしていないこと

(イ) 基金に対する拠出方法及び基金の使途について、関係機関への周知徹底が十分でないこと

(ウ) 交付要件の確認や事業実施状況の報告の様式が不十分であったり、これら事務に関する指導が十分でなかったりして、市町村等での有効な審査・確認体制を整備していないこと

(エ) 前記のような不適切な事態に対し、これを防止するための実効性のある指導を欠いていること

3 本院が要求する是正改善の処置

 地域営農加算制度は水田営農活性化対策においても「地域営農推進助成」として今後も実施されることになっているのであるから、制度の趣旨に沿った効果的な事業を執行するため、貴省において次のような是正改善の処置を執る必要がある。

(ア) 要綱等において、農業者、農協及び市町村の三者それぞれの役割、責任を明確にし、基金への拠出方法及び基金の使途に関する規定を整備するとともに、市町村が行う交付要件の確認事務や基金管理状況報告の審査が実効性のあるものとなるよう確認資料及び管理状況報告の書式を改める。

(イ) 農業者、農協及び市町村に対し、制度の趣旨、目的、交付要件等を周知徹底するとともに、現実的で、かつ事業効果の見込める計画を策定し、事業を実施するよう指導する。また、都道府県に対し交付要件の確認、基金の管理状況についてその実態を十分把握するよう指導する。

(ウ) 今後、不適切な事態が生じた場合には、具体的かつ厳正な措置を講ずるよう都道府県等に周知徹底する。

(注1) 計画区域  土地・水利用及び営農の調整を行おうとする区域をいい、最も小さい区域は集落単位の区域であり、最も大きい区域は農協又は市町村単位の区域として設定されている。
(注2) 北海道ほか24府県  北海道、京都府、青森、岩手、宮城、秋田、福島、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、滋賀、奈良、島根、広島、愛媛、福岡、熊本、宮崎各県
(注3) 北海道ほか22府県  北海道、京都府、青森、岩手、宮城、秋田、福島、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、奈良、島根、愛媛、福岡、熊本、宮崎各県