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  • 平成4年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費における入院室料加算の算定及び審査が適切に行われるよう是正改善の処置を要求したもの


労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費における入院室料加算の算定及び審査が適切に行われるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等の名称 労働本省(支出庁)
北海道労働基準局ほか18労働基準局(審査庁)
支払の根拠 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)
入院室料加算の概要 指定医療機関が傷病労働者を一定の設備等を備えた個室等に収容した
場合に算定できる労災診療費
入院室料加算の支払額 66指定医療機関 158,863,840円
上記のうち不適正支払額 56指定医療機関 138,870,940円

<検査の結果>

 上記の56指定医療機関において、病室の設備又は構造に関する入院室料加算の算定要件を満たしていない個室又は2人部屋の病床に傷病労働者を収容しているのに、入院室料加算を算定している不適切な事態が見受けられ、2,064件、138,870,940円が不適正に支払われていた。
 このような事態が生じているのは、労働省において、各労働基準局に発した留意事項事務連絡が特定病床等の確認を指示するにとどまり、入院室料加算の審査について、確認すべき事項の内容、審査の方法、算定要件にいう設備又は構造上の配慮の内容等を具体的に示していなかったことなどによると認められた。
<是正改善の処置要求>
労働省において、入院室料加算の算定及び支払の適正を期するため、次のような改善の処置を執る要があると認められた。

(ア) 労働省において、各労働基準局に対し、入院室料加算の審査について、確認すべき事項の内容、審査の方法、算定要件にいう病室の設備又は構造上の配慮の内容等を具体的に示すこと

(イ) 各労働基準局において、入院室料加算の審査体制を整備して的確な審査等を行うこと
 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成5年11月30日に労働大臣に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処置要求の全文】

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費における入院室料加算の算定及び審査について

(平成5年11月30日付け 労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(労働者災害補償保険における療養の給付)

 貴省では、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤により、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)に対して療養の給付等の保険給付を行っている。療養の給付は、都道府県労働基準局長の指定する病院若しくは診療所又は同法に基づく労働福祉事業の一環として設置された病院(以下「指定医療機関」という。)において、傷病労働者に対する診察、薬剤の支給等(以下「診療」という。)を行うものである。

(療養の給付に要する診療費の支払)

 診療を行った指定医療機関は、都道府県労働基準局に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働基準局では請求の内容を審査し、その結果に基づき、貴本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、貴省労働基準局長が定めた「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によれば、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、初診料、再診料、入院室料等特定の診療項目については、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表(以下「健保点数表」という。)の点数とは異なる点数又は金額を別に定め、これにより算定することなどとなっている。

(労災診療費における入院室料加算)

 労災診療費における入院室料については、昭和39年以降、傷病労働者を指定医療機関の個室等に収容した場合、当該指定医療機関の所定室料と健保点数表に基づき算定した室料との差額について、一定の限度額の範囲内でこれを支払うこととしてきていた。その後、56年に健保点数表において重症者室料特別加算が設けられたことに伴い、従前の室料差額の算定に代えて、重症者室料特別加算に準じた入院室料加算が労災診療費に設けられた。
 健保点数表における重症者室料特別加算は、都道府県知事から重症者の収容の基準の承認を受けた医療機関(以下「特別収容病院」という。)において都道府県知事の承認を受けた病床(以下「特定病床」という。)に重症者を収容した場合に算定できるものである。そして、特別収容病院の特定病床は、「重症者の収容の基準の承認に関する取扱い」(昭和56年厚生省保険局長通知保発第42号)等によると、重症者の容態を常時監視できるような設備又は構造上の配慮、すなわち、テレビ、モニター等による患者監視装置の整備等がなされていることとされている。
 これに対し、労災診療費における入院室料加算は、特別収容病院である指定医療機関の特定病床に加え、特別収容病院以外の指定医療機関が特定病床に準じた取扱いにより傷病労働者を収容した場合にもこれを算定できることとされている。

(入院室料加算の算定方法及び算定要件)

 労災診療費における入院室料加算は、算定基準によると、病室の設備又は構造に関する次の要件を満たすなどの場合に、1日につき個室6,500円、2人部屋3,200円(昭和63年5月から平成4年4月までは個室5,500円、2人部屋2,700円)を限度として、各指定医療機関が定めている金額により算定できることとされている。

ア 特別収容病院である指定医療機関において、個室又は2人部屋の特定病床に収容した場合

イ 特別収容病院以外の指定医療機関において、次の要件を満たす個室又は2人部屋に収容した場合

(ア) 当該個室又は2人部屋が看護婦詰所に近い場所にあること

(イ) 当該個室又は2人部屋に傷病労働者の容態が常時監視できるような設備又は構造上の配慮がなされていること

(入院室料加算の審査等)

 貴省では、前記のとおり、入院室料加算が56年に設けられたことに伴い、都道府県労働基準局に対し、その算定に係る適切な審査を実施するため「労災診療費算定基準の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(昭和56年労働省労働基準局補償課長事務連絡第39号及び昭和63年同事務連絡第9号。以下、両事務連絡を「留意事項事務連絡」という。)の通達を発している。
 そして、留意事項事務連絡によると、入院室料加算の審査について、次のように指示している。

(ア) 特別収容病院である指定医療機関については、指定医療機関として指定(3年ごとに更新する再指定を含む。以下同じ。)する際に、特定病床をあらかじめ確認しておくこと

(イ) 特別収容病院以外の指定医療機関については、指定医療機関として指定する際に、施設に関する平面図、配置図等の資料を提出させること等により、あらかじめ確認しておくこと

(ウ) 入院室料加算の算定に当たっては、指定医療機関に対し、労災診療費請求内訳書(以下「レセプト」という。)に入院室料加算を算定した日、加算額、個室又は2人部屋の別、個室又は2人部屋に収容した理由及び部屋番号を明記させること

2 本院の検査結果

(調査の対象)

 北海道労働基準局ほか18労働基準局(注) における平成4年度の支払に係る労災診療費のうち、66指定医療機関の入院室料加算(2,518件、158,683,840円)について、その算定及び審査の状況をレセプト等に基づき調査した。

(調査の結果)

 調査の結果、上記19労働基準局における56指定医療機関に係る2,064件の入院室料加算の算定について、次のような不適切な事態が見受けられ、138,870,940円が不適正に支払われていた。

ア 特別収容病院である指定医療機関において、特定病床でない個室又は2人部屋の病床に傷病労働者を収容しているのに、これを算定しているもの

19医療機関 863件 48,469,940円


イ 特別収容病院以外の指定医療機関において、特定病床に準じた設備又は構造上の配慮がなされていない個室又は2人部屋に傷病労働者を収容しているのに、これを算定しているもの

37医療機関 1,201件 90,401,000円


<事例>

 A労働基準局管内における特別収容病院以外の指定医療機関であるB病院は、4年度に、入院室料加算として41件1,715,000円を算定して請求し、支払を受けていた。しかし、この算定の対象となった病室には、いずれも患者監視装置が設置されておらず、また、当該病室は、看護婦詰所からガラス越しに傷病労働者の容態を常時監視できるような構造となっていなかった。さらに、B病院が保有する移動式の患者監視装置を、当該病室に設置した事実もなかった。
 したがって、B病院の入院室料加算の算定は適切とは認められず、上記算定額1,715,000円が不適正に支払われていた。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。

ア 貴省が各労働基準局に発した留意事項事務連絡は、指定医療機関の指定時において特定病床等の確認を指示するにとどまり、入院室料加算の審査について、確認すべき事項の内容、確認結果の記録、その保存及び審査の方法、算定要件にいう病室の設備又は構造上の配慮の内容等を具体的に示していなかったこと

イ 各労働基準局において、入院室料加算の審査に当たり、指定医療機関から提出させていた平面図等の資料の保存体制が十分でなくその利活用を図っていなかったり、各指定医療機関に対する留意事項事務連絡の趣旨の周知徹底が図られていなかったためその指示内容が励行されていなかったりしたこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 入院室料加算の算定及び支払の適正を期するため、次のような改善の処置を執る要がある。

ア 貴省において、各労働基準局に対し、入院室料加算の審査について、確認すべき事項の内容、審査の方法、算定要件にいう病室の設備又は構造上の配慮の内容等を具体的に示すこと

イ 各労働基準局において、確認結果の記録、その保存体制の整備を図って、入院室料加算の的確な審査を行い、各指定医療機関に対し留意事項事務連絡等の趣旨の周知徹底を図り、その指示内容を励行させること

(注) 北海道ほか18労働基準局  北海道、岩手、福島、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、愛知、京都、大阪、兵庫、鳥取、島根、山口、高知、福岡、沖縄各労働基準局