科目 | (一般勘定) |
(収入) | |
(款)掛金 | (項)掛金 |
(款)都道府県補助金 | (項)都道府県補助金 |
(支出) | |
(項)退職手当給付金 |
部局等の名称 | 社会福祉・医療事業団 |
事業の概要 | 社会福祉施設職員等退職手当共済法(昭和36年法律第155号)に基づき、民間の社会福祉施設の職員及び特定社会福祉事業に従事する職員について退職手当金を支給する事業 |
適正でなかった掛金等及び退職手当金の額 | (1)掛金等の額 |
被共済職員に該当する者に係る分 | 5419万余円 |
被共済職員に該当しない者に係る分 | 3197万余円 |
(2)退職手当金の額 | 7756万余円 |
<検査の結果> |
この事業は、民間の社会福祉施設の職員及び特定社会福祉事業に従事する職員について退職手当金の支給を行うもので、その財源は事業収入としての共済契約者からの掛金及び都道府県からの補助金並びに国庫補助金となっている。この事業収入である掛金等の納付及び退職手当金の支給が適正に行われているかについて検査したところ、次のように適切でないと認められる事態が見受けられた。 (1) 掛金等の納付について ア 被共済職員に該当する者に係る掛金等が納付されていなかったものが、114共済契約者で延べ739人、掛金等の額5419万余円 イ 被共済職員に該当しない者に係る掛金等が納付される結果となっていたものが、9共済契約者で延べ446人、掛金等の額3197万余円 (2) 退職手当金の支給について 被共済職員に該当しない職員を加入させ、その者に退職手当金を支給していたり、被共済職員期間の算定等が適切でなく、退職手当金を過大に支給していたりしたものが、39共済契約者で494人、7756万余円 このような事態が生じているのは、社会福祉・医療事業団において、共済契約者等に対する退職共済事業の仕組み、手続についての周知徹底が十分でないこと、退職共済約款に定められた掛金名簿、退職届等の様式が適切でないなど、加入資格及び退職手当金の支給についての審査体制が十分でないことによると認められた。 |
<是正改善の処置要求> |
社会福祉・医療事業団において、掛金等の納付及び退職手当金の支給の適正を期するため、次の処置を執る要があると認められた。 (1) 共済契約者等に対し、本件退職共済事業の仕組み、手続について周知徹底を図ること (2) 被共済職員としての加入資格及び退職手当金の支給について審査するため、退職共済約款を見直し、共済契約者から提出させる各種届書に必要な事項を追加したり、新たに書類を添付させたりするなどして、審査体制を整備すること 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成5年11月19日に社会福祉・医療事業団理事長に対して是正改善の処置を要求した。 |
(平成5年11月19日付け 社会福祉・医療事業団理事長あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 制度の概要
貴事業団では、社会福祉・医療事業団法(昭和59年法律第75号)に基づき、社会福祉事業施設の設置等に必要な資金の融通、社会福祉施設職員等退職手当共済事業(以下「退職共済事業」という。)の実施、病院の設置等に必要な資金の融通などの業務を行っている。このうち、退職共済事業は、社会福祉施設職員等退職手当共済法(昭和36年法律第155号)こ基づき、民間の社会福祉施設の職員及び特定社会福祉事業に従事する職員について退職手当金の支給を行うものである。
この退職共済事業は、社会福祉事業の振興に寄与することを目的として、老人、児童、身体障害者、精神薄弱者等について都道府県又は市町村が行う援護、育成又は更生の措置の委託を受けている民間の社会福祉施設等の職員の待遇改善策の一環として創設されたものである。
そして、社会福祉施設及び特定社会福祉事業を経営する社会福祉法人その他の者が退職共済事業に加入するには、貴事業団との間で、社会福祉施設職員等退職手当共済約款(以下「退職共済約款」という。)の定めるところにより、掛金の納付及び退職手当金の支給を約した退職手当共済契約を締結することとなっている。
退職共済事業に加入できる者は、上記の制度創設の趣旨から、都道府県又は市町村から援護、育成又は更生の措置の委託を受ける特別養護老人ホーム、保育所、身体障害者・精神薄弱者更生施設等の施設及びこれに準ずる社会福祉施設等(以下「加入対象施設」という。)を経営する社会福祉法人その他の者となっている。
そして、退職手当共済契約を締結した社会福祉法人その他の者(以下「共済契約者」という。)に使用され、かつ、加入対象施設の業務に常時従事することを要するとされた次の者は、すべて被共済職員となるものとされている。
〔1〕 雇用期間の定めのない職員
〔2〕 1年の雇用期間を定めて使用されている職員、又は1年未満の雇用期間を定めて使用され更新により1年を経過した職員で、その勤務すべき労働時間が就業規則に定める所定労働時間の3分の2以上の者
共済契約者が、貴事業団に納付する掛金の額(年額)は、被共済職員数(4月1日現在)に所定の1人当たり掛金額(4事業年度は40,800円)を乗じた額となっている。
退職手当金の額は、退職前6箇月間の本俸月額の平均額に応じた計算基礎額に、被共済職員期間を乗ずるなどした額となっている。この場合、本俸月額には、調整手当、管理職手当、超過勤務手当等の額は含めてはならないこととなっている。
また、退職手当金の算定基礎となる被共済職員期間は、加入対象施設の業務に従事した期間のみであり、都道府県又は市町村から援護、育成又は更生の措置の委託を受けていない病院、義肢装具製作施設、老人福祉センター等の退職共済事業の対象とならない施設(以下「加入対象外施設」という。)の業務に従事した期間は含めてはならないこととなっている。
共済契約者は、退職共済約款の定めるところにより、新たに被共済職員となった者があるときは、貴事業団に被共済職員加入届(以下「加入届」という。)を提出することとなっている。また、毎年4月末日までに、同月1日現在における被共済職員について掛金納付対象職員名簿(以下「掛金名簿」という。)を提出し、5月末日までに掛金を納付することとなっている。
そして、共済契約者は、被共済職員が退職したときは、その氏名、被共済職員期間、退職前6箇月間の本俸月額等を記載した被共済職員退職届(以下「退職届」という。)を提出し、貴事業団では、この退職届により退職手当金の額を算定し、退職した被共済職員の請求に基づき支給することとなっている。
退職共済事業の財源は、事業収入としての共済契約者からの掛金及び都道府県からの補助金並びに国庫補助金となっている。都道府県補助金の額は、掛金の場合と同様に、被共済職員数(4月1日現在)に所定の1人当たり金額(4事業年度は37,080円)を乗じた額となっている。また、国庫補助金の額は退職手当金の支給に要する額の3分の1以内とされている。
退職共済事業の業務実績は、4事業年度で、共済契約者11,393法人等、被共済職員286,467人で、掛金の額116億8785万余円、都道府県補助金の額106億2219万余円となっている。また、国庫補助金の額105億3017万余円となっている。そして、同事業年度に退職手当金の支給決定をしたものは、30,210人、支給額315億9053万余円となっている。この退職手当金の支給額は平均で104万余円、最高1364万円(被共済職員期間31年)となっている。
2 本院の検査結果
近年、高齢化の進展等による加入対象施設の増加に伴い、被共済職員数及び退職手当金の支給額は年々増加傾向にある。そこで、事業収入である掛金の納付及び都道府県補助金の交付(以下「掛金等の納付」という。)並びに退職手当金の支給が適正に行われているかに着目して調査した。
掛金等の納付については、北海道ほか19都府県(注)
に所在する250共済契約者の4事業年度分(被共済職員13,592人、掛金等の額10億5854万余円)を対象に、掛金名簿、共済契約者の職員名簿等を基に調査した。また、退職手当金の支給については、上記都道府県に所在し4年4月から7月までの間に支給決定した退職者に係る222共済契約者(退職者1,710人、退職手当金の額28億4272万余円)を対象に、退職届、共済契約者の給与台帳等を基に調査した。
そして、この調査において適切とは認められない事態が見受けられた共済契約者については、調査対象期間を2事業年度から4事業年度の3箇事業年度に拡大した。
(1) 掛金等の納付について
ア 被共済職員に該当する者に係る掛金等が納付されていなかったものが、114共済契約者で延べ739人、掛金等の額5419万余円見受けられた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(ア) 雇用期間の定めのない職員として採用しているのに、被共済職員として加入させていなかったもの
雇用期間の定めのない職員については、採用時に加入届を提出しなければならないこととなっているのに、23共済契約者では、加入届の提出を怠っていたり、試用期間が終了した後に提出していたりしており、このため、各事業年度の4月1日現在で、延べ150人が未加入となっていた。この結果、これら職員に係る掛金等の額1108万余円が納付されていなかった。
(イ) 1年の雇用期間を定めて使用されている職員等で、労働時間が所定の時間以上の者を加入させていなかったもの
1年の雇用期間を定めて使用されている職員、又は1年未満の雇用期間を定めて使用され更新により1年を経過している職員については、その勤務すべき労働時間が就業規則に定める所定労働時間の3分の2以上であれば、その採用時又は1年経過時に加入届を提出しなければならないこととなっている。
しかし、95共済契約者(このうち4共済契約者は、上記(ア)と重複している。)では、上記の職員は被共済職員に該当しないものとして、加入手続きを執っておらず、このため、延べ589人が未加入となっていた。この結果、これら職員に係る掛金等の額4310万余円が納付されていなかった。
これについて一例を挙げると次のとおりである。
A県に所在する共済契約者である社会福祉法人では、保育園を経営しており、4年4月1日現在、雇用期間の定めのない職員13人、1年の雇用期間を定めて使用している職員8人をその業務に従事させている。そして、雇用期間の定めのない職員13人については全員被共済職員として加入手続きを執っていた。
しかし、1年の雇用期間を定めて使用している職員8人については、これら職員の労働時間が、雇用期間の定めのない職員と全く同様であり、加入対象施設の業務に常時従事しているものであると認められるのに、加入手続きを執っていなかった。この結果、これら職員に係る掛金等の額62万余円が納付されていなかった。
イ 被共済職員に該当しない者に係る掛金等が納付される結果となっていたものが、9共済契約者で、延べ446人、掛金等の額3197万余円見受けられた。
これは、被共済職員は加入対象施設の職員に限られているのに、共済契約者において、その経営する病院、義肢装具製作施設等の加入対象外施設の業務に従事している職員を被共済職員として加入させていたものである。
(2) 退職手当金の支給について
被共済職員に該当しない職員を加入させていたため、その者に退職手当金を支給していたり、被共済職員期間の算定等が適切でなかったため、退職手当金を過大に支給していたりしたものが、39共済契約者で、494人、7756万余円見受けられた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(ア) 加入対象外施設の業務に従事していて、受給資格のない職員に退職手当金を支給していたもの
加入対象外施設の業務に従事している職員は、被共済職員となることはできず、退職手当金の支給も受けることができないこととなっているのに、6共済契約者では、これら職員を被共済職員として加入手続きを執っていて、これら職員のうち、退職した26人について退職届を提出していた。そして、貴事業団では、これら受給資格のない職員に対して1750万円の退職手当金を支給していた。
これについて一例を挙げると次のとおりである。
B県に所在する共済契約者である社会福祉法人では、肢体不自由児施設、特別養護老人ホーム等の加入対象施設のほかに、病院、義肢装具製作施設及び老人福祉センターの加入対象外施設を経営している。これら加入対象外施設の業務に従事している職員(4年4月1日現在106人)は、被共済職員とはならないのに、加入対象施設である肢体不自由児施設等の業務に従事していることとして、被共済職員の加入手続きを執っていて、2事業年度から4事業年度の間に退職した20人について退職届を提出していた。そして、貴事業団では、これら受給資格のない職員に対して、1098万余円の退職手当金を支給していた。
(イ) 加入対象外施設の業務に従事していた期間を含めて退職手当金を過大に算定し支給していたもの
加入対象施設の業務に従事し被共済職員である職員が加入対象外施設に異動し、その業務に従事するときは被共済職員にはならないこととなっている。しかし、6共済契約者(このうち4共済契約者は、上記(ア)と重複している。)では、加入対象外施設に異動した職員を引き続き加入対象施設の業務に従事していることとして掛金名簿を提出し、これら職員のうち退職した18人について、退職届を提出していた。そして、貴事業団では、この加入対象外施設の業務に従事していた期間についても被共済職員期間として退職手当金を算定し、1598万余円過大に支給していた。
(ウ) 本俸月額に含めてはならない手当の額を含めて退職手手当金を過大に算定し支給していたもの
退職手当金の算定の基礎となる本俸月額には、調整手当等の額は含めてはならないこととなっているのに、31共済契約者では、退職した450人について、これらの手当の額を本俸月額に含めた退職届を提出していた。そして、貴事業団では、これに基づき退職手当金を算定し、4407万余円過大に支給していた。
以上のとおり、被共済職員として加入させなければならないのに加入手続きを執っていなかったり、受給資格のない職員に対して退職手当金を支給していたり、退職手当金を過大に算定し支給していたりなどしている事態が多数見受けられた。これらの事態は適切とは認められず、是正改善を図る必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、共済契約者が制度を十分理解していないことにもよるが、貴事業団において、次のとおり適切でない点があることによると認められる。
(1) 共済契約者等に対する退職共済事業の仕組み、手続きについての周知徹底が十分でないこと
(2) 退職共済約款に定められた掛金名簿、退職届等の様式が適切でないなど、被共済職員としての加入資格及び退職手当金の支給についての審査体制が十分でないこと
3 本院が要求する是正改善の処置
ついては、貴事業団において、次のような是正改善の処置を執り、掛金等の納付及び退職手当金の支給の適正を期し、もって退職共済事業の適切な実施を図る要があると認められる。
(1) 共済契約者等に対し、本件退職共済事業の仕組み、手続きについて周知徹底を図ること
(2) 被共済職員としての加入資格及び退職手当金の支給について審査するため、退職共済約款を見直し、共済契約者から提出させる各種届書に必要な事項を追加したり、新たに書類を添付させたりするなどして、審査体制を整備すること
(注) 北海道ほか19都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、宮城、山形、福島、栃木、千葉、神奈川、新潟、富山、愛知、三重、広島、愛媛、福岡、佐賀、長崎各県