1 本院が要求した是正改善の処置
国立大学又はその医学部及び歯学部並びに附置研究所に附属する病院(以下「大学病院」という。)は、臨床医学の教育・研究を行うほか保険医療機関として患者の診療を行っている。
そして、患者の診療に使用する医薬品、検査用試薬、医療材料等(以下、これらを「薬品・材料」という。)を購入する費用(以下「医薬品費」という。)は、主として(目)医療費及び(目)学用患者費(以下、これらを「医療費等」という。)から支出されている。
そこで、この医療費等の予算の執行状況、特に、その大宗を占める医薬品費の支払実態等について調査した。
その結果、秋田大学医学部附属病院ほか13大学病院(以下「14大学病院」という。)において、当年度に購入した薬品・材料について、当年度内に支出負担行為等の会計事務処理が行われておらず、翌年度又は翌々年度に持ち越されて、処理され支払われている(以下、この処理を「年度越処理」という。)事態が、平成元年度から4年度に購入したもので合計81億7915万余円見受けられた。
その会計事務処理の実態をみると、14大学病院においては、年度が進行して予算の残額が減少してくると、単価契約に係る会計事務が優先的に処理され、年度末において、その支出済額が予算の示達額に達したときは、残る総価契約等に係る支出負担行為等の会計事務処理が翌年度に持ち越されていた。そして、翌年度に契約・納品が行われたように一連の会計事務処理が行われていた。
このような事態が生じているのは、大学病院においては、患者診療がすべてに優先するという考え方の中で、予算執行を図る上での調整等に困難な事情があることにもよるが、主として次のようなことによると認められた。
(ア) 年度途中における薬品・材料の購入実績が、適時、適切に把握されないまま、診療科(薬剤部等を含む。)の購入要求に基づいた契約・発注が行われるなど、基本的な予算会計上の統制が図られていなかったこと
(イ) 大学病院の運営実態が、事務部門等から診療科に十分周知されることなく、診療科において薬品・材料の購入要求がなされていたこと
大学病院において、会計事務処理及び予算執行が適切に行われるよう、次のとおり、文部大臣に対し5年12月に、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を要求した。
(ア) 大学病院に対して、年度途中における薬品・材料の購入実績を適時、適切に把握し、予算執行残額を確認した上で契約・発注を行うなど、正規の会計手続に従った適切な事務処理がなされ、遅滞した処理がなされることがないよう指導すること
(イ) 毎年度の購入計画や予算執行残額、収入の状況、在庫高など、大学病院の運営実態について、診療科に十分周知して、示達額の範囲内で計画的な予算の執行がなされるよう指導すること
(ウ) 大学病院における医薬品費の増こうなどの事態を踏まえ、事務部門及び診療科が一体となって、適切な予算執行を図る上での病院運営の合理化などに一層取り組むよう指導するとともに、年度途中における予算の調整等に、適時、適切な対応がなされるよう、緊密な連絡を図るなどして、適正な予算執行に万全を期すこと
2 当局が講じた是正改善の処置
文部省では、本院指摘の趣旨に沿い、5年12月、附属病院を置く各国立大学に対して通知を発するなどして、次のような処置を講じた。
(ア) 大学病院において、薬品・材料に係る調達担当者ごとに購入実績を適時、適切に把握できるよう、補助簿等を備えるなどし、予算執行残額を確認した上で、その範囲内で法令に従って契約・発注を行い、また、支出負担行為等の事務処理を速やかに行うよう指導の徹底を図った。
(イ) 大学病院において、診療科長会議等を通じて定期的に診療科に対して予算執行計画及び予算執行残額、収入の状況、在庫高などが十分周知されるとともに、診療科に対しても医療費等に係る歳入・歳出予定枠を設定するなど、的確な予算執行計画を策定し、示達額の範囲内で計画的な予算の執行がなされるよう指導した。
(ウ) 大学病院に対して、薬品・材料の管理方法の見直しなどについて、病院内の委員会等でさらに検討を行うとともに、事務部門及び診療科が一体となって病院運営の合理化、効率化に、より一層取り組むよう指導した。また、年度途中における予算調整等に適時、適切な対応がなされるよう、従来の予算調整に加えて、予算執行状況等に関するヒアリングを一層充実するなど、大学病院と連絡を密にして適正な予算執行を図る体制を整備した。
さらに、文部省では、5年6月以降、大学病院関係者及び学識経験者の協力を得て、調査研究協力者会議を設け、大学病院の運営の合理化、効率化を図るため、大学病院の運営改善に関する調査研究を行った。その結果、同省では、6年9月、上記協力者会議において、大学病院における運営改善のための一般的留意事項及び一部の大学病院で取り組まれている改善事例がとりまとめられたのを受けて、これを全国の大学病院に送付し周知を図った。