1 本院が表示した改善の意見
農林水産省では、農業経営の規模の拡大、農地の集団化その他農地保有の合理化を促進するため、一般事業、特別事業等の農地保有合理化促進事業を実施している。このうち特別事業は、農用地の開発等を行う事業と連携して実施される事業であり、自立経営を志向する農家を生産組織の中核的担い手として育成することなどを目的として、利用増進特別事業と開発関連特別事業に分けて実施されている。
そこで、農地保有合理化法人(以下「合理化法人」という。)における特別事業の実施状況について、農業経営の規模の拡大に寄与しているかどうかに着目して調査した。
その結果、利用増進特別事業において、農用地の売渡し後の経営面積が、近い将来に経営規模拡大の目標である経営面積(以下「目標経営面積」という。)に達すると見込まれることとなっているのに、これに達していなかったり、売り渡した農用地が転売、転貸、転用などされたりしているものが見受けられた。また、開発関連特別事業において、農用地開発事業等により造成され換地処分された農用地が売り渡されないままとなっているものが見受けられた。
このような事態が生じているのは、主として次のようなことによると認められた。
(ア) 利用増進特別事業について
〔1〕 農林水産省において、農用地の売渡し後の目標経営面積について、その達成時期を具体的に定めていないこと、また、売り渡した農用地の利用状況を把握する体制の整備について、合理化法人等に対する指導が十分でないこと
〔2〕 合理化法人において、売渡し相手方についての営農計画の審査等が十分でないこと
(イ) 開発関連特別事業について
農林水産省において、換地処分がされた農用地の売渡しの促進について、合理化法人等に対する指導が十分でないこと
農林水産省では、平成5年8月、農業経営基盤強化促進法によって、農地保有合理化促進事業を農地保有合理化事業とし事業内容を拡充した。そして、特別事業についても事業規模を拡大するなどして、農地の流動化を一層促進することとしていることから、その実施について、次のような処置を執るなどして事業の効果が発現するよう、農林水産大臣に対し5年12月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
(ア) 農用地の売渡し後の目標経営面積の達成時期を具体的に定めるとともに、合理化法人にその達成状況や農用地の利用状況を把握する体制を整備させること
(イ) 合理化法人に対し売渡し相手方の営農計画の審査等を十分に行わせること
(ウ) 合理化法人及び都道府県に対し、農用地の売渡しを促進するよう適切な指導を行うこと
2 当局が講じた改善の処置
農林水産省では、本院指摘の趣旨に沿い、6年10月に地方農政局等に通達を発するなどして、事業効果の発現を図るため、次のような処置を講じた。
(ア) 農用地の売渡し後の目標経営面積の達成時期を売渡し後おおむね5年以内とするとともに、合理化法人に対し、その達成状況や農用地の利用状況について市町村等に委託するなどして把握する体制を整備させることとした。
(イ) 合理化法人に対し、売渡し相手方の営農計画の審査等について、必要に応じて実地調査を行うことを含め十分に行わせることとした。
(ウ) 合理化法人及び都道府県に対し、関係機関と十分連絡調整を図ることにより農用地の売渡しを効果的に促進するよう指導を行った。