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  • 平成6年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

在宅福祉事業費補助金(ホームヘルプサービス事業分)の精算がホームヘルパーの活動の実績を反映して適正に行われるよう是正改善の処置を要求したもの


 在宅福祉事業費補助金(ホームヘルプサービス事業分)の精算がホームヘルパーの活動の実績を反映して適正に行われるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生本省(項)社会福祉諸費
部局等の名称 厚生本省、北海道ほか24都府県
補助の根拠 老人福祉法(昭和38年法律第133号)等
事業主体 市233、特別区22、町114、村10、計379事業主体
補助事業 在宅福祉業(ホームヘルプサービス事業)
補助事業の既要 在宅の寝たきり老人等の家庭に対してホームヘルパーを派遣し、老人等の日常生活の援助などを行うもの
上記に対する国庫補助金交付額の合計 235億9794万余円(平成4、5両年度)
過大に交付された国庫補助金 8億9608万余円(平成4、5両年度)
<検査の結果>

 在宅福祉事業費補助金(ホームヘルプサービス事業分)は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が行うホームヘルプサービス事業に要する経費の一部を補助するものであることから、その交付額については、老人等の家庭に対してホームヘルパーを実際に派遣しホームヘルプサービス活動を行った実績により算定することにしている。
 そこで、補助金の精算が、ホームヘルパーが実際に行った活動の実績により適正に行われているかを調査した。
 その結果、379市町村において、活動の実績が全くないか又は著しく低い常勤のホームヘルパーについて、その活動の実績を考慮することなく、一律に給料等の月額により補助対象事業費を計上していた。このため、補助金が平成4、5両年度で8億9608万余円過大に交付されたと認められた。
 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められた。
(1) 都道府県及び市町村において、補助金は活動の実績に応じて交付されるものであるとの理解が不足していること、また、都道府県における実績報告の内容の審査が十分でないこと
(2) 厚生省において、都道府県及び市町村に対して、常勤のホームヘルパーの活動の実績がない月や著しく低い月の具体的な取扱いについて、明確な基準を示しておらず、また、指導も十分でないため、十分周知徹底していないこと、さらに、実績報告の内容の審査も十分でないこと
 
<是正改善の処置要求>
 厚生省において、ホームヘルプサービス事業を効率的に運営し、ホームヘルパーの派遣回数の増加を図るため、補助金の適切な精算が行われるよう、次の処置を執る要があると認められた。
(1) 都道府県及び市町村に対して、補助金の趣旨に沿った活動延べ月数の計算等について
 具体的な取扱いの基準を明確に示し、その周知徹底を図ること、また、都道府県に対して実績報告の審査を十分行うよう指導すること
(2) 交付要綱における実績報告書の様式を改めるなどして、その内容を審査する体制を整備すること
 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成7年12月6日に厚生大臣に対して是正改善の処置を要求した。

是正改善の処置要求の全文

    在宅福祉事業費補助金(ホームヘルプサービス事業分)の精算について

 (平成7年12月6日付け 厚生大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 事業の概要

 (ホームヘルプサービス事業の概要)

 貴省では、老人福祉法(昭和38年法律第133号)等に基づき、在宅の寝たきり老人、介護を要する痴呆性老人などの要援護老人等(以下「老人等」という。)の福祉の推進を図ることを目的として、ホームヘルプサービス事業、デイサービス事業等の在宅福祉事業を行う市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、在宅福祉事業費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。
 このうちホームヘルプサービス事業は、老人等の家庭に対してホームヘルパーを派遣し老人等の日常生活の世話を行い、老人等が安らかな生活を営むことができるよう援助することなどを目的としている。このホームヘルパーが行うサービスの内容は、〔1〕 食事、入浴等における身体の介護、〔2〕 調理、洗濯、掃除等の家事、〔3〕 生活、身上等に関する相談、助言となっている。
 そして、市町村では、このホームヘルプサービス事業を直接又は社会福祉協議会等に委託して実施しており、これに対する補助金の交付額は、平成4年度337億7792万余円、5年度401億9790万余円となっている。

 (補助金の交付額の算定方法)

 補助金の交付額は、「在宅福祉事業費補助金の国庫補助について」(平成4年厚生省発老第19号厚生事務次官通知。以下「交付要綱」という。)により、次のように算定することとなっている。

〔1〕 所定の基準額と補助対象となる経費(以下「対象経費」という。)の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。

〔2〕 〔1〕 により選定された額と、総事業費から寄付金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額を選定する。

〔3〕 〔2〕 により選定された額から利用者負担金を控除した額を補助対象事業費とし、これに補助率の2分の1を乗じて得た額を交付額とする。

 そして、上記の算定方式における基準額及び対象経費の実支出額は、それぞれ次により算出することとなっている。

(1) 基準額は、次のとおり算出したホームヘルパーの給料、賃金等の額に、市町村の運営事務費等を加えた額による。

 (ア) 常勤のホームヘルパー(以下「常勤ヘルパー」という。)については、所定の給料等の月額単価と交通費等の活動費の月額単価とを加えた額(以下「給料等の基準月額」という。)に、年間の活動延べ月数を乗じて得た額

 (イ) 非常勤のホームヘルパーについては、

  〔1〕 市町村が直接又は社会福祉協議会に委託して実施する場合は、サービスの内容により身体の介護及び家事の援助の別に定められた賃金の日額又は時間単価に所定の活動費の日額又は時間単価を加えた額に、それぞれ年間の活動延べ日数(半日の場合は0.5日として算入する。)又は活動延べ時間数を乗じて得た額

  〔2〕 社会福祉協議会以外の者に委託して実施する場合は、身体の介護及び家事の援助の別に定められた派遣対象者1人当たりの単価(以下「派遣対象者基準単価」という。)に年間の延べ対象者数を乗じて得た額

(2) 対象経費の実支出額は、ホームヘルパーの設置、市町村の運営事務等に要した報酬、給料、職員手当等、共済費、賃金、報償費、旅費、需用費、役務費、委託料及び備品購入費の年間の合計額による。

 (補助金算定上の常勤ヘルパーの取扱い)

 貴省では、この補助金がホームヘルプサービス事業に要する経費の一部を補助するものであることから、その交付額については、ホームヘルパーを実際に派遣しホームヘルプサービス活動(訪問から辞去までの実質サービス)を行った実績により算定することにしている。そして、常勤ヘルパーの給料等の額については、各ヘルパーの各月における実際の活動状況に応じて、次のように取り扱うことにしている。

(ア) 年度の途中で採用され又は退職し、その前後において常勤ヘルパーとして在籍しておらず活動の実績がない月はもとより、一般事務等に従事し又は休暇により活動の実績がない月については、

 〔1〕 基準額の算出において、当該月は活動延べ月数に算入しない。

 〔2〕 対象経費の実支出額の算出において、当該月の給料等の支払月額は実支出額に含めない。

(イ) 一般事務等に従事するなどして、その活動の実績が、市町村においてホームヘルパーの派遣体制を整備するに当たっての標準として貴省が示している1人当たりの活動時間(1週当たり延べ18時間)の2分の1以下と著しく低い月、すなわち1週当たり延べ9時間以下として1月当たりでは延べ36時間以下の月については、

 〔1〕 基準額の算出は、給料等の基準月額によることなく、派遣対象者基準単価に月間の延べ対象者数を乗じて得た額による。

 〔2〕 対象経費の実支出額の算出は、給料等の支払月額によることなく、支払月額のうち活動時間数に見合った額による。

2 本院の検査結果

 (調査の観点)

 貴省の統計によると、ホームヘルプサービスの利用を要望する者が多いのに、全国の市町村に設置されているホームヘルパーの増加数に対して実際の利用者数はそれほど増加していないことから、常勤ヘルパーの中には、その活動実績が低い者もいると考えられた。
 そこで、このような場合において、その常勤ヘルパーの活動状況に応じて適正に補助金の精算がなされているかを調査した。

 (調査の対象)

 北海道ほか24都府県(注) の601市町村に交付されたホームヘルプサービス事業に係る補助金4年度163億0597万余円、5年度198億7091万余円について調査した。

 (調査の結果)

 調査した結果、北海道ほか24都府県の379市町村(補助金交付額4年度102億7870万余円、5年度133億1923万余円)において、補助金の精算に当たり、次のとおり、常勤ヘルパーに係る基準額等の算出が適切でない事態が見受けられ、このため、補助対象事業費が過大となり、補助金が過大に交付されていると認められた。

(ア) 年度の途中で採用され又は退職し、その前後において常勤ヘルパーとして在籍しておらず活動の実績が全くない月、又は一般事務等に従事し若しくは休暇により活動の実績が全くない月について、〔1〕 基準額の算出において活動延べ月数に算入し、また、〔2〕 対象経費の実支出額の算出においてその給料等の支払月額を含めていたもの

177市町村 活動実績が全くない月数 延べ 1,229月
うち、在籍していない者に係るもの 延べ  206月
一般事務等に従事していた者に係るもの 延べ  304月

(イ) 一般事務等に従事するなどして、その活動の実績が、1月当たりで延べ36時間以下と著しく低い月について、〔1〕 派遣対象者基準単価によることなく、給料等の基準月額により基準額を算出し、また、〔2〕 その活動時間に応じた支払額によることなく、給料等の支払月額により対象経費の実支出額を算出していたもの

358市町村 活動実績が著しく低い月数 延べ 7,747月

うち、一般事務等に従事していた者に係るもの 延べ 6,387月

 以上の活動実績が全くない月及び著しく低い月の合計は延べ8,976月で、このうち一般事務等に従事していた者に係るものが6,691月と、全休の約4分の3を占めている。

 (過大に交付された補助金)

 前記の379市町村について、常勤ヘルパーの活動の実績に応じて適正に基準額等を算出し、それから得られる補助対象事業費により補助金の交付額を修正計算すると、4年度98億9037万余円、5年度128億1148万円となる。したがって、交付済額4年度102億7870万余円、5年度133億1923万余円との差額4年度3億8833万円、5年度5億0775万余円、計8億9608万余円が過大に交付されたと認められる。
 上記の事態について事例を挙げると、次のとおりである。

<事例>

 A県B市では、5年度の精算に当たり、1年間に69名の常勤ヘルパーが在籍してホームヘルプ活動を行っていたとして、その活動延べ月数を828月とするなどして基準額等を算出し、このうち少ない方の基準額を補助対象事業費として、補助金の精算を行っていた。
 しかし、上記活動延べ月数の中には、次のとおり、算入すべきでない月が計延べ86月算入されており、このため、基準額が過大に算定されていた。

〔1〕 年度途中の採用者に係る採用前の月や退職者に係る退職後の月等で、常勤ヘルパーとして在籍していない月及び在籍していても休暇をとっていて活動の実績が全くない月 延べ73月

〔2〕 常勤ヘルパーの活動時間が1月当たり延べ36時間以下と著しく低い月 延べ13月

 そして、この86月について、活動延べ月数から除外するなどして補助金額を修正計算すると、2億3087万余円となり、交付済額2億4248万余円との差額1160万余円が過大に交付されたと認められる。

 (是正改善を必要とする事態)

 ホームヘルプサービスについては、その要望も多く、より一層のサービスの提供が求められている。そして、本件補助事業においても、ホームヘルパーの派遣がより多くなされるよう、実際に活動した場合にその実績に応じて補助金を交付することとしている。
 したがって、活動の実績がないか又は著しく低い常勤ヘルパーについて、その活動の実績を考慮することなく、一律に給料等の月額により基準額等を算出して補助対象事業費を過大に計上し、補助金が過大に交付されているのは適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

(1) 都道府県及び市町村において、補助金は活動の実績に応じて交付されるものであるとの理解が不足していること、また、都道府県における実績報告の内容の審査が十分でないこと

(2) 貴省において、都道府県及び市町村に対して、常勤ヘルパーの活動の実績がない月や著しく低い月についての前記の取扱いに関して、明確な基準を示しておらず、また、指導も十分でないため、十分周知徹底していないこと、さらに、実績報告の内容の審査も十分でないこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 貴省では、老人に対するホームヘルパーの派遣活動について、利用者の要望が多い一方で、十分な派遣体制が整備されていないことから、緊急にその整備を行う必要があるとして、高齢者保健福祉推進10か年戦略(ゴールドプラン)の中核に位置付け、ホームヘルパーの増強等を図ることとしている。そして、ホームヘルパーの活動に対しては、その実績に応じて補助金を交付することとしており、今後その活動及び補助金の交付額はますます拡大する状況となっている。
 したがって、貴省において、ホームヘルプサービス事業を効率的に運営し、ホームヘルパーの派遣回数の増加を図るため、補助金の適正な精算が行われるよう、次の処置を執る要があると認められる。

(1) 都道府県及び市町村に対して、補助金の趣旨に沿った活動延べ月数の計算等についての具体的な取扱いの基準を明確に示し、その周知徹底を図ること、また、都道府県に対して実績報告の審査を十分行うよう指導すること

(2) 交付要綱における実績報告書の様式を改めるなどして、その内容を審査する体制を整備すること

 (注)  北海道ほか24都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、宮城、山形、福島、茨城、栃木、千葉、神奈川、新潟、富山、福井、愛知、三重、鳥取、広島、愛媛、福岡、佐賀、長崎、熊本、沖縄各県