会計名及び科目 | 一般会計(組織)厚生本省(項)環境衛生施設整備費 |
部局等の名称 | 北海道ほか18県 |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 市37、町72、村14、計123事業主体 |
補助事業 | 合併処理浄化槽設置整備事業 |
事業の内容 | 生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として、市町村が、し尿と台所、風呂等からの雑排水とを併せて処理する合併処理浄化槽の設置者に対し、その設置費を助成するもの |
上記に対する国庫補助金交付額 | 2,339,974,000円 | (平成4、5両年度) |
過大に交付される結果となっていた国庫補助金額 | 391,616,000円 | (平成4、5両年度) |
<検査の結果> |
上記の補助事業において、合併処理浄化槽の規模の決定が居住人員の実情を考慮して行われていなかったため、国庫補助金3億9161万余円が過大に交付される結果となっていると認められた。 このような事態が生じていたのは、厚生省において、合併処理浄化槽の規模の決定が、建物の延べ面積だけでなく、必要に応じて居住人員の実情も考慮して行われるようにするために、JISの算定基準の適用について都道府県の建築行政担当部局などの関係機関と連絡・調整を図るよう、事業主体を指導していなかったことなどによると認められた。 |
<当局が講じた改善の処置> |
本院の指摘に基づき、厚生省では、平成7年10月に各都道府県に対して通知を発して、JISの算定基準の適用について関係機関との連絡・調整を図るとともに、合併処理浄化槽の設置者に対してその算定基準の内容を十分周知するよう、事業主体を指導するなどの処置を講じた。 |
1 補助事業の概要
厚生省では、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として、し尿と台所、風呂等からの雑排水とを併せて処理する合併処理浄化槽(以下「合併浄化槽」という。)の計画的整備を実施する市町村に対し、合併処理浄化槽設置整備事業費補助金(以下「補助金」という。)を昭和62年度から交付している。この合併浄化槽は、し尿浄化槽の一方式であるが雑排水をも併せ処理するものであること、従来のし尿のみを処理する単独処理浄化槽に比べて処理性能が良いこと、また、手軽に設置できることから、下水道が整備されない地域における公共用水域の水質汚濁防止の有効な手段として大きく期待され、生活排水対策の柱の一つとして整備が進められている。
そして、本件補助事業による設置基数及び補助金交付額も毎年大幅に増加しており、平成4年度では41千基、85億5183万余円、5年度では58千基、126億1794万余円となっている。
合併浄化槽は、建物の建築に際して設置する場合は建築基準法(昭和25年法律第201号)により、また、それ以外の場合は同法を準用する浄化槽法(昭和58年法律第43号)により、汚水の処理対象人員に応じ、通常の使用状況において、一定の性能を有し、かつ、衛生上支障のない構造としなければならないこととされている。このため、設置に当たっては、建築基準法による建築確認又は浄化槽法による届出を要することとされている。
そして、上記の処理対象人員については、建築基準法に基づき、日本工業規格の「建築物の用途別によるし(屎)尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS A 3302−1988)」(以下「JIS算定基準」という。)により、住宅(共同住宅を除く。)の場合、次式のとおり、建物の延べ面積により算定することとなっている。
この場合において、建物の延べ面積が100m2
以下の場合は処理対象人員を5人、延べ面積が220m2
を超える場合は10人とすることになっている。
このJIS算定基準では、ただし書において、建築物の使用状況により、算定人員が明らかに実情に添わないと考えられる場合は、人員を増減することができることとされている。
そして、このJIS算定基準に対応して、1人1日当たりの平均汚水量を200l(0.2m3
)として、5人分の汚水量を処理することを標準とする5人槽(1.0m3
)から、順次6人槽(1.2m3
)、7人槽(1.4m3
)、8人槽(1.6m3
)及び10人槽(2.0m3
)の合併浄化槽がある。
この補助金は、市町村が合併浄化槽の設置者に対し、その設置費と単独処理浄化槽の設置費との差額相当額を助成するのに要する費用を補助対象とし、国がその3分の1を負担するものである。そして、補助金の交付額は、合併浄化槽の人槽により、〔1〕 5人槽309千円(豪雪地帯等にあっては339千円)、〔2〕 6人槽及び7人槽463千円(同494千円)、〔3〕 8人槽及び10人槽824千円(同854千円)と3段階に区分して定められた基準額(以下「補助基準額」という。)と市町村の実支出額等とを比較して少ない方の額に3分の1を乗じて得た額となっている。
2 検査の結果
JIS算定基準の算定式では、建物の延べ面積によって合併浄化槽の処理対象人員を算定するようになっている。
しかし、合併浄化槽が設置されるような住宅にあっては、年々、その1戸当たりの延べ面積が大きくなっている反面、核家族化・少子化等により居住人員は少なくなっている。したがって、前記の算定式により算定される処理対象人員をそのまま適用した場合には、居住人員に対して過大な合併浄化槽を設置する結果となる場合も考えられる。
そこで、合併浄化槽の規模の決定に当たって、必要に応じてJIS算定基準のただし書を適用し、居住人員の実情も考慮しているかという観点から調査した。
平成4、5両年度に、北海道ほか18県(注) の123市町村が、その設置費を助成した合併浄化槽11,103基(これに対する国庫補助金計23億3997万余円)を対象として、その人槽と設置者世帯の居住人員について調査した。また、水道水の使用量と汚水量とは密接に関連しているので、設置者世帯の水道水の使用量についても調査した。
調査したところ、上記の11,103基のうち、設置者の判断等によりJIS算定基準のただし書を適用して処理対象人員を増減していたものはごく一部で、ほとんどすべては、同基準の算定式により建物の延べ面積を基に算定された処理対象人員をそのまま適用して、合併浄化槽の規模を決定していた。
そして、これらの合併浄化槽の人槽と設置時点の居住人員の状況は、次表のとおりとなっていた。
(単位:基、(%))
人槽
\
居住人数 |
10 | 8 | 7 | 6 | 5 |
11〜 | 2(0.1) | 14(0.5) | 23(1.1) | 50(2.3) | 21(3.0) |
10 | 12(0.4) | ||||
9 | 49(1.4) | ||||
8 | 173(5.1) | 71(2.6) | |||
7 | 495(14.5) | 254(9.3) | 106(5.1) | ||
6 | 823(24.2) | 480(17.6) | 239(11.5) | 108(4.9) | |
5 | 685(20.1) | 513(18.8) | 397(19.1) | 285(13.0) | 682(97.0) |
4 | 500(14.7) | 624(22.9) | 609(29.3) | 712(32.5) | |
3 | 373(11.0) | 413(15.1) | 394(19.0) | 486(22.2) | |
2 | 253(7.4) | 326(11.9) | 261(12.6) | 441(20.1) | |
1 | 38(1.1) | 36(1.3) | 47(2.3) | 108(5.0) | |
計 | 3,403(100.0) | 2,731(100.0) | 2,076(100.0) | 2,190(100.0) | 703(100.0) |
うち人槽の1/2以下 | 1,849(54.3) | 1,399(51.2) | 702(33.8) | 1,035(47.3) | |
このように、10人槽ではその過半数が居住人員5人以下、8人槽でもその過半数が居住人員4人以下となっているなど、居住人員と合併浄化槽の人槽との間に著しい開差を生じていた。
そこで、調査の対象とした11,103基から最小規模の5人槽703基を除く10,400基について、居住人員が合併浄化槽の人槽の2分の1以下となっていて、かつ、設置時点から居住人員が増加していないものを上げると、次表のとおり約4割を占める状況となっている。
(単位:基、(%))
人槽
\
区分 |
10 | 8 | 7 | 6 | 計 |
調査対象 | 3,403 | 2,731 | 2,076 | 2,190 | 10,400 |
うち人槽の1/2以下 | 1,634(48.0) | 1,237(45.2) | 612(29.4) | 917(41.8) | 4,400(42.3) |
また、4年度に設置した合併浄化槽4,862基のうち5年度の水道水使用量が判明している世帯における3,249基について、その水道水使用量が最大の月における1日当たり使用量をみると、次表のとおりとなっており、調査したうち40%以上のものが最小規模の5人槽の標準処理量である1.0m3 以下となっていた。
(単位:基、(%))
人槽 |
10 | 8 | 7 | 6 | 5 | 計 |
標準処理量 |
2.0m3 | 1.6m3 | 1.4m3 | 1.2m3 | 1.0m3 | |
区分 | ||||||
調査対象 | 851 | 796 | 643 | 719 | 240 | 3,249 |
うち水道水使用量1.0m3 以下 | 260 (30.5) |
293 (36.8) |
264 (41.0) |
375 (52.1) |
148 (61.6) |
1,340 (41.2) |
上記のとおり、建物の延べ面積により算定された処理対象人員に基づき設置された合併浄化槽の人槽と居住人員がかい離している事態は、過大な合併浄化槽が設置され、補助金が過大に交付される結果となっているもので、ひいては補助事業の効率的な実施が図られていないと認められた。
設置時の居住人員が合併浄化槽の人槽の2分の1以下となっていて、設置時点から居住人員が増加していない前記の4,400基について、居住人員に余裕を見込んで、それぞれ補助基準額区分の1段階下の規模のものを設置したとすると、補助金額が19億4835万余円となり、交付した補助金23億3997万余円との差額3億9161万余円が節減できた計算となる。
この事態について一例を挙げると、次のとおりである。
A県B町において、設置者Cが4年度に自宅(木造2階建て、延べ面積239m2
)に合併浄化槽を設置するに当たり、処理対象人員をJIS算定基準の算定式により10人と算定し、10人槽を設置していた。そして、B町は同町の補助金交付要綱に基づいて設置者Cに町補助金824千円を交付し、厚生省はB町に補助金274千円を交付していた。
これに対し、設置者C宅の設置時における居住人員は、本人(昭和3年生)、妻(同4年生)、母(明治41年生)及び従妹(昭和14年生)の4人で、設置した合併浄化槽の大槽の2分の1以下となっており、居住人員はその後も増加していない。
また、設置者C宅について、5年度の水道水使用量が最大の月における1日当たり使用量をみると、0.73m3
であり、最小規模の5人槽の標準処理量である1.0m3
以下となっていた。
そこで、上記の居住人員の実情も考慮するなどして7人槽を設置したとすれば、B町においては、設置者Cに対する町補助金が463千円となって361千円が節減でき、厚生省においては、B町に対する補助金が154千円となって120千円が節減できる計算となる。なお、この場合、設置者Cにとっても、設置工事費が少なくなり、設置後の維持管理費用も節減できることになる。
このような事態が生じていたのは、事業主体等において、JIS算定基準に対する認識や理解が十分でなく、合併浄化槽の規模が建築確認等の手続を経て決められることからそのまま受け入れていたことにもよるが、厚生省において、次のとおり適切でない点があったことなどによると認められた。
(ア) 建築確認等における合併浄化槽の規模の決定が、必要に応じてJIS算定基準のただし書を適用することにより、居住人員の実情も考慮して行われるようにするために、都道府県の建築行政担当部局などの関係機関と連絡・調整を図るよう、事業主体を指導していなかったこと
(イ) 本件補助事業により合併浄化槽を設置する者に対して、設置に当たって、居住人員の状況によってはその実情が考慮される場合があることを周知するよう、事業主体に指示していなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、合併浄化槽の設置が居住人員の実情も考慮して行われるようにするために、7年10月に各都道府県(衛生行政担当部局)に対して通知を発して次のとおり事業主体を指導するなどし、本件補助事業が効率的に実施されるよう処置を講じた。
(ア) JIS算定基準の適用について、都道府県の建築行政担当部局などの関係機関との連絡・調整を図る。
(イ) 合併浄化槽の設置者に対して、JIS算定基準の内容を十分周知する。
なお、建設省においても、厚生省の要請により、同月に、都道府県の建築行政担当部局に対して通知を発し、厚生省通知の趣旨を周知するとともに、必要に応じ同部局が衛生行政担当部局との連絡・調整に当たることとした。
(注) 北海道ほか18県 北海道、青森、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、神奈川、新潟、富山、福井、愛知、三重、鳥取、広島、愛媛、福岡、佐賀、長崎各県