会計名及び科目 | 一般会計(組織)水産庁(項)水産業振興費 |
部局等の名称 | 水産庁 |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 町3、漁業協同組合等21、計24事業主体 |
補助事業 | 新沿岸漁業構造改善事業(前期対策)等 |
事業の内容 | 漁家の漁業経費の節減や所得の向上を図るなどのため、増養殖用の種苗の供給促進等の増養殖場の整備、水産物簡易加工処理施設等の漁業近代化施設の整備等を行うもの |
上記の事業に係る事業費 | 10億7011万余円 |
上記に対する国庫補助金 | 4億9883万余円 |
<検査の結果> |
沿岸漁業構造改善事業において、漁業協同組合等が、従来より低価で餌料等を提供したり、新たに就労の場所を提供したりするなどして、漁家の漁業経費の節減や所得の向上を図ることを目的として設置する施設がある。これらの施設のなかに施設の運営経費が直接的効果を上回っていたり、収支が赤字になっていて施設の運営を継続することが困難となっていたりなどしていて、事業効果が十分発現していないと認められるものが北海道ほか13府県で24件(事業費10億7011万余円、国庫補助金4億9883万余円)見受けられた。 このような事態が生じているのは、次のことによると認められた。 (ア) 事業主体等において、施設の運営経費と直接的効果との関連性等企業経営的な観点からの分析、検討が十分でなく、また、情勢の変化を的確に把握し、運営体制の整備、運営経費と効果等を検討する体制が十分でなかったこと (イ) 道府県及び市町村において、施設の運営経費と直接的効果とを関連づけた事業内容の検討等が十分でなく、また、施設の整備による効果の発現状況等の把握及び情勢の変化に対する指導の体制が十分でなかったこと (ウ) 水産庁において、経費と効果との関連性等について十分に検討できるような資料を提出させていなかったなどのため、企業経営的な観点からの審査が十分でなく、また、施設の運営状況及び事業効果を的確に把握し、指導する体制が十分でなかったこと |
<是正改善の処置要求> |
水産庁において、沿岸漁業活性化構造改善事業等を効果的に実施するため、次のような処置を執る必要があると認められた。 (ア) 経費と効果との関連性などを検討できるようにするとともに十分審査を行い、また、事業効果等を的確に把握し、必要な処置を講ずる。 (イ) 都道府県、市町村に対し、事業の内容について十分検討をさせ、また、施設の運営による効果の発現状況等を十分把握するとともに、効果が発現していないものなどについては、その対応策を適時、適切に検討する体制を整備するよう指導する。 (ウ) 事業主体等に対して、施設の運営経費と直接的効果との関連性等について十分検討させ、また、運営経費と効果等を把握し、適時、適切な対応がとれる体制を確立するよう指導する。 上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成7年12月11日に水産庁長官に対して是正改善の処置を要求した。 |
【是正改善の処置要求の全文】
沿岸漁業構造改善事業による施設の設置及び運営について
(平成7年12月11日付け 水産庁長官あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴庁では、沿岸漁業の近代化を促進し、沿岸漁業者及び漁業従事者の所得の向上を図ることなどを目的として、次の事業を国庫補助事業として実施している。
〔1〕 新沿岸漁業構造改善事業(前期対策)(昭和54年度〜62年度)
〔2〕 同(後期対策)(63年度〜平成5年度)
また、これらの事業に関連して、次の事業を国庫補助事業として実施している。
〔3〕 資源管理型漁業定着化推進事業(3年度〜5年度)
〔4〕 ふるさと漁村ライフアップモデル事業(4年度、5年度)
〔5〕 美しい漁村づくりモデル事業(4年度、5年度)
上記の各事業において、漁業協同組合等の事業主体では、その目的を実現するため、増養殖用種苗生産施設、水産物簡易加工処理施設、水産廃棄物等処理施設等多くの施設の整備等を行っている。
そして、昭和60年度から平成4年度までの間に北海道ほか39都府県(注1)
において実施したこれらの事業は4,879件、事業費1132億6652万余円、これに対する国庫補助金の交付額は535億8097万余円の多額に上っている。
上記各事業の実施に当たっては、次のような手続により行うことになっている。
〔1〕 都道府県知事又は市町村長は、沿岸漁業構造改善計画等に基づき、年度ごとに、事業主体が検討した内容を審査するなどして、事業の目的、効果、収支計画等を記載した新沿岸漁業構造改善事業等の事業実施計画(以下「事業実施計画」という。)を作成し、貴庁と協議する。
〔2〕 事業主体は、事業実施計画に基づき事業を実施し、その実績を都道府県を通じて貴庁に報告する。
〔3〕 都道府県知事は、補助事業の終了の翌年度から5箇年間、管理、利用及び収支の状況を事業主体から報告させる。
2 本院の検査結果
前記の5事業で設置する施設のなかには、漁業協同組合等がこれを運営することにより、漁家に対して従来より低価で餌料等を提供したり、新たに就労の場所を提供したりするなどして、漁家の漁業経費の節減や所得の向上を図ることなどを目的とする施設がある。
そして、これらの施設は、計画どおり利用されることはもとより、その運営についても、利用収入等で運営経費をまかなうなど、収支バランスのとれた健全な運営が行われることによって、その設置目的達成のための基盤が整備されるものである。
したがって、事業実施計画の策定、施設の運営に当たっては、これらの点に留意し、補助事業の効果が十分発現できるようにする必要がある。
そこで、上記施設について、次の観点から調査した。
(ア) 漁家所得の向上など、所期の事業効果は発現しているか。
(イ) 施設運営における収支のバランスはどうなっているか。
調査に当たっては、特に、〔1〕 事業実施計画のうち、施設の設置、運営に伴う効果として具体的な数値で表わされた漁業経費の節減額、漁家所得の向上額等(以下、これらを「直接的効果」という。)について、〔2〕 収支計画のうち、施設の運営に要する経費及びその経費を支弁するための利用収入等について、それぞれ着目した。
昭和60年度から平成4年度までの間に、北海道ほか25府県(注2) で前記の5事業により設置した施設等のうち、243件、これに係る事業費103億2667万余円(国庫補助金49億0866万余円)を対象として調査した。
調査の結果、北海道ほか13府県(注3)
において、施設の運営経費が直接的効果を上回っていたり、収支が赤字になっていて施設の運営を継続することが困難になっていたりなどしていて、事業効果が十分に発現していないと認められるものが、24件(事業費10億7011万余円、国庫補助金4億9883万余円)見受けられた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(1) 事業実施計画の策定に当たり、施設の運営経費と直接的効果との関連性について認識が十分でなかったり、需要動向の調査等が十分でなかったりしたなどのため、施設の運営経費が直接的効果を上回ることとなったり、収支に大幅な赤字を生じ施設の運営を継続することが困難となったりなどしていて期待どおりの効果を発現していないもの
18件 |
事業費 |
8億8839万余円 |
(国庫補助金 | 4億1417万余円) |
事業名 新沿岸漁業構造改善事業(後期対策) | ||||
道府県名 |
事業主体 | 年度 | 事業費 |
左に対する国庫補助金 |
千円 | 千円 | |||
福岡県 | A漁業協同組合 | 平成2 |
33,150 | 16,575 |
この事業は、漁業者が餌をまとめ買いし大量保存を行うことによって、その購入経費の節減等を図り、漁家所得を向上させることを目的として、A漁業協同組合が、冷凍保管施設1棟(本件事業該当部分88m2
)を設置したものである。
事業実施計画では、漁業者は餌代の10%を節減でき、漁業者全体では、年間635千円の餌代が節減できるとしていたが、一方、この施設の運営に当たって必要となる電気代等の年間経費2,276千円は、施設を利用する漁業者に入庫料等として負担させることとしていた。
したがって、この事業実施計画は、計画の時点から漁家経費の節減可能額より漁家が負担する施設の運営経費の方が大きく、漁家所得の向上に寄与しないものとなっていた。そして、施設設置後の実績をみても、節減できた漁家経費と施設の運営経費は、それぞれ4年度493千円、1,863千円、5年度383千円、1,820千円、6年度277千円、1,773千円となっている状況である。
これは、事業実施計画策定時に、施設の運営経費と直接的効果との関連性について認識が十分でなかったことなどによると認められた。
事業名 美しい漁村づくりモデル事業 | ||||
道府県名 |
事業主体 | 年度 | 事業費 |
左に対する国庫補助金 |
千円 | 千円 | |||
茨城県 | B町 |
平成4 |
92,782 | 46,000 |
この事業は、B町が、地元の水産物を観光客等に展示販売するとともに、関係水産団体等と連携し地域活性化の推進を図ることを目的として、地域産物展示販売施設1棟(210.33m2
)を設置したものである。同町では、この施設を地元の漁業協同組合等が出資している株式会社Cセンターに貸し付けて、管理、運営させることとしていた。
事業実施計画では、年間の予定利用者数及び販売額を70千人、182,651千円としていたが、利用者数及び販売実績は、5年度23千人、23,223千円、6年度19千人、15,355千円と計画を著しく下回っていた。このため、同センターは、この収入により施設の運営経費をまかなうことができず、累積赤字額が26,037千円(6年度末現在)となっていて、施設の運営を継続することが困難な状況となっている。
これは、事業実施計画の策定に当たり、水産物の需要動向の調査、検討が十分でなかったことなどによると認められた。
(2) 事業実施後、施設の運営体制を整えないまま運営していたり、情勢の変化に応じた適切な対策を講ずることなく運営を継続していたりしていたことなどのため、施設の運営が休止されるなどしていて、設置した施設が期待どおりの効果を発現していないもの
6件 | 事業費 | 1億8172万余円(国庫補助金8466万余円) |
事業名 新沿岸漁業構造改善事業(前期対策) | ||||
道府県名 | 事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
千円 | 千円 | |||
熊本県 | D漁業協同組合 | 昭和60 |
18,000 | 9,000 |
この事業は、D漁業協同組合の婦人部員が、タチウオ、アジ等を干物に加工することにより、その加工賃(人件費)が漁家所得の向上になるとして、同組合が、水産物簡易加工処理施設1棟(82.80m2
)を設置したものである。
事業実施計画では、当初、これらの魚を年間54トン加工し、12,044千円の収入を得て、これで全経費をまかない、経費のうち加工賃5,040千円が漁家所得の向上になるとしていた。
この施設については、設置直後から施設の利用状況が著しく低かった(取扱原魚61年度2トン、62年度0トン)ため、同組合ではこの計画を見直し、平成元年度からは運営を直営化するとともに加工対象をタチウオだけとし、取扱量や加工賃も3年度を目標に19トン、2,509千円に縮小することにした。
しかし、その後の運営状況等についてみると、取扱量及び加工賃は3年度11トン、1,977千円、4年度5トン、980千円となり、5年度は6月までに1トンを取り扱っただけで加工賃は支払われておらず、7月以降は休止し、6年度になっても再開されないままとなっていた。
その結果、この施設は設置当初から漁家所得の向上にほとんど寄与しておらず、また、累積赤字額は8,665千円(6年度末現在)となっていて、組合の経営にも悪影響を与えている状況である。
これは、施設の運営に当たり仕入れ、加工、販売等の役割分担が明確でないなど運営体制が整っていなかったこと、情勢の変化に応じた適切な対策を講ずることなく運営を継続したことなどによると認められた。
前記の5事業により設置した施設のなかに、上記のように、計画の時点から施設の運営経費が直接的効果を上回っていたり、その運営上、収支が赤字になっていて、そのまま運営を継続することが困難となっていたりしているものなどが見受けられた。これらの事態は、設置した施設が、その目的である漁家所得の向上等に寄与しておらず、事業効果が十分発現していないもので、適切とは認められず、是正改善の要があると認められる。
このような事態が生じていたのは、次のようなことによると認められる。
(1) 事業主体等では
ア 事業の計画段階において、事業実施の検討に当たり、その実施内容等について、施設の運営経費と直接的効果との関連性等、企業経営的な観点からの分析、検討が不足していたこと
イ 事業の実施及び施設の運営に当たり、情勢の変化を的確に把握し、運営体制の整備、運営経費と効果等を検討する体制が十分でなかったこと
(2) 道府県及び市町村では
ア 事業実施計画の策定に当たり、施設の運営経費と直接的効果とを関連づけた事業内容等の検討、事業主体に対する指導が十分でなかったこと
イ 事業実施後においても、施設の整備による効果の発現状況、正確な収支状況、現状における問題点の把握及び情勢の変化に対する指導の体制が十分でなかったこと
(3)貴庁では
ア 事業実施計画の協議に当たり、計画の実現性、経費と効果との関連性について十分に検討できるような資料を提出させていなかったなどのため、企業経営的な観点からの審査が十分でなかったこと
イ 事業実施後においても、企業経営的な観点から、施設の運営状況及び事業効果を的確に把握し、指導する体制が十分でなかったこと
3 本院が要求する是正改善の処置
ついては、貴庁においては、本件補助事業に引き続き沿岸漁業活性化構造改善事業及びこれに関連する事業を実施しているのであるから、その実施に当たっては、企業経営的観点に立ち、効果的に実施できるよう、次のような改善のための処置を講ずる要があると認められる。
ア 事業実施計画の協議に当たり、施設設置の前提条件や収支計画の内容、経費と効果との関連性などを検討できるようにするとともに、十分審査を行うこと
また、事業実施後においても、事業効果等を的確に把握し、必要な処置を講ずること
イ 都道府県、市町村に対し次のような指導を行うこと
(ア) 事業実施計画を策定するに当たっては、現状及び効果の分析、施設の運営体制、収支等の内容について十分な検討を行うこと
(イ) 運営体制の整備状況、その後の情勢の変化や施設の運営による効果の発現状況等を十分把握するとともに、所期の効果が発現していないものなどについては、その対応策を適時、適切に検討する体制を整備すること
ウ 事業主体等に対して、都道府県等を通じて、次のような指導を行うこと
(ア) 事業の計画段階において、事業の実施検討に当たっては、施設の運営経費と直接的効果との関連性、収支の内容、施設の運営体制などについて十分考慮すること
(イ) 事業の実施及び施設の運営に当たっては、情勢の変化、施設の運営体制、運営経費と効果等を把握し、適時、適切な対応がとれるような体制の確立を図ること
(注1) 北海道ほか39都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注2) 北海道ほか25府県 北海道、京都府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、茨城、千葉、新潟、富山、三重、滋賀、和歌山、島根、岡山、広島、山口、愛媛、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注3) 北海道ほか13府県 北海道、京都府、茨城、新潟、三重、滋賀、和歌山、広島、山口、福岡、長崎、熊本、大分、鹿児島各県