(歳入) | (款)家畜再保険収入 | (項)再保険料 (項)一般会計より受入 |
||
(歳出) | (項)家畜再保険費 | |||
部局等の名称 | 農林水産本省 |
事業の根拠 | 農業災害補償法(昭和22年法律第185号) |
事業名 | 家畜共済事業(肉豚) |
事業の概要 | 農業者が不慮の事故によって受ける農作物や家畜等の損失を補てんするため、国が再保険を引き受けるなどして、農業共済組合等が行う共済事業のうち肉豚を対象とするもの |
不適切な事態に係る農業者 | 農業者420人(平成5、6両年度) |
上記の者に係る共済掛金及び共済金支払額 | 共済掛金 | 15億1331万余円 |
(うち国庫負担額 | 6億0519万余円 | ) |
共済金支払額 | 15億0106万余円 | |
(うち再保険金相当額 | 8億4482万余円 | ) |
【改善の処置要求の全文】
肉豚に係る家畜共済事業の運営について
(平成7年12月6日付け 農林水産大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴省では、農業災害補償法(昭和22年法律第185号)に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補てんして農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。
この制度は、市町村などの各地域ごとに設立される農業共済組合又は市町村(以下「組合等」という。)が行う共済事業、都道府県ごとに設立される農業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う保険事業、国が行う再保険事業の3事業により構成されており、農業者の相互扶助を基本としながら、保険の仕組みによりその危険負担を分散することとして運営されている。
すなわち、組合等は、農業者が払い込む共済掛金により資金を造成し、これを財源として、農作物の被災、家畜の死亡等の共済事故が発生した場合に、その損害の程度に応じて被災農業者に共済金を支払うこととなっている。そして、組合等は、農業者に対し支払う共済金の支払責任の一部を連合会の保険に付し、さらに、連合会は、その保険責任の一部を国の再保険に付することとなっている。
この共済事業は、対象とする作物により農作物、蚕繭、家畜、果樹、畑作物、園芸施設の各共済及び任意共済の7事業に区分されている。これらのうち任意共済を除く6事業について、国は、農業者の負担軽減を図るなどの目的から、共済掛金の一部を負担することとなっており、農業者はその共済掛金のうちこの国庫負担額を除いた額を組合等に払い込むこととなっている。そして、都道府県は、この共済事業の運営について、連合会及び組合等の業務又は会計の状況を検査するなどして、これらの団体を指導監督することとなっている。
上記の共済事業のうち家畜共済事業は、牛、馬、種豚、肉豚等を共済の対象としており、このうち肉豚を対象とする共済事業(以下「肉豚共済」という。)は、昭和52年から実施されているものであるが、その共済関係の成立や共済掛金等についてみると、次のようになっている。
ア 共済関係の成立
共済関係は、組合等の区域内で肉豚を飼養する農業者が、組合等に対して、出生後第50日の日から第8月の月の末日までの肉豚を対象とし(以下、この肉豚を「共済対象の肉豚」という。)、肉豚共済への加入の申込みをして、組合等が承諾することによって成立する(以下、これを「引受け」という。)。
引受けに当たっては、肉豚の場合、1戸当たりの飼養頭数が多く、個体の識別が困難であることなどから、農業者が事故の危険の高い肉豚だけを選択して加入することを防ぐため、個々の肉豚を単位とせずに、農業者が飼養する肉豚全頭を一体として引受けの対象とする(以下、これを「包括共済」という。)。
このため、肉豚共済に加入した農業者(以下「組合員等」という。)は、その後、共済対象の肉豚を新たに購入したり、飼養している肉豚が出生後第50日に達して共済対象の肉豚となったりしたときなどは、その一群すべてについて加入の申込みを行わなければならないこととなっている。そして、組合等においては、包括共済を確保するため、その引受審査に当たって、共済対象の肉豚のすべてについて申込みがない場合等については引受けを行わないこととなっている。
また、組合員等には、共済対象の肉豚に豚コレラの予防注射を行うなどの損害防止義務を負わせている。
イ 共済掛金
組合員等が支払う共済掛金は、加入申込みに当たり組合員等が申し出た共済金額(共済事故により損害が生じた場合の補償限度額)に、共済掛金率を乗じて算出する。この共済掛金率は、過去3年間における事故率(共済金額に対する支払共済金の額の割合)を基礎として、家畜の種類及び地域別に、貴省において定めることとなっている。ただし、個々の組合員等の事故率に相当の差がある場合は、組合員等間の公平を図るため、組合等において、貴省が定めた共済掛金率を基に、組合員等別に共済掛金率を定めることができる(以下、この掛金率を「危険段階別掛金率」という。)。
肉豚共済においては、国は共済掛金の4割を負担することとなっているので、組合員等は、共済掛金のうち6割を組合等に支払うこととなっている。
ウ 共済金の支払
引受けの対象となっている肉豚が死亡した場合、組合員等は、これを共済事故として組合等に通知し、これを受けた組合等は、遅滞なく死亡を確認した後、共済金の額を算定し支払いを行う。この場合、国は、組合等の支払う共済金に充当するため、このうち5割又は6割に相当する額を再保険金として連合会に支払うこととなっている。
エ 共済事故の確認
肉豚共済では、共済事故の確認に当たり、獣医師の死亡検案書も提出されないこととなっているため、組合等は職員を現地に派遣して、死亡した肉豚が引受けの対象となっているものかなどの確認を特に厳正に行うこととなっている。そして、包括共済となっていることから、事故発生時において、加入申込みをしていない共済対象の肉豚が認められた場合、組合等は、当該共済事故にとどまらず、その組合員等の他の共済関係を含めて共済金全額の支払の責を免れることになっている(以下「支払免責」という。)。
2 本院の検査結果
肉豚共済は、52年の引受開始から長期間経過し、その間、養豚経営においては、経営の大規模化が進むとともに、その飼養形態も繁殖から肥育までを一貫して行う経営(以下「一貫経営」という。)が増加するなどの変化が生じている。
このような状況を踏まえて肉豚共済において、組合等の引受け、共済事故の確認等が適切に行われ、制度が適正に運営されているか調査した。
北海道ほか20県(注) 管内の平成5年度における110組合等の組合員等685人、6年度における107組合等の組合員等674人について調査を実施した。これらの組合員等に係る肉豚共済の共済掛金は、5年度17億5012万余円(うち国庫負担額6億9995万余円)、6年度16億0974万余円(同6億4383万余円)、また、共済金支払額は5年度17億4055万余円(うち再保険金相当額9億8139万余円)、6年度16億0995万余円(同9億0444万余円)となっていた。
調査したところ、肉豚共済の引受け及び共済事故の確認に当たり、共済対象の肉豚の頭数を、肉豚の飼養場所で実際に確認していない組合等が多数見受けられた。このため、引受頭数や事故頭数と、実際の共済対象の肉豚の頭数や死亡頭数とがかい離していて、適切でないと認められる事態が次のとおり見受けられた。
(1) 引受頭数が実際の共済対象の肉豚の頭数とかい離しているもの
ア 引受頭数が過小となっているもの |
|||||
年度 | 道県数 |
組合等数 |
組合員等数 |
左に係る共済掛金 (うち国庫負担額) |
同共済金支払額 |
人 | 千円 | 千円 | |||
5 | 18 | 83 | 282 | 455,064 (181,942) |
487,943 (277,195) |
6 | 18 | 82 | 278 | 464,753 (185,859) |
472,571 (270,723) |
上記の組合等においては、共済対象の肉豚の頭数を現地で実際に確認せず、組合員等の申し出た頭数でそのまま引き受けていたり、豚コレラの予防注射を一部の肉豚にしか行っていないのにこの接種頭数で引き受けていたりなどしていた。このため、引受頭数が過小となっていて、肉豚共済の運営に不可欠な包括共済が確保されていない状況になっていた。 |
|||||
<事例> A県a農業共済組合 | |||||
同組合では、引受けに当たり、豚コレラ予防注射の頭数で引き受けることとしていたが、組合員がその飼養する肉豚の全頭について豚コレラ予防注射を接種したかどうかを確認していなかった。このため、組合員Zにおいては、6年度に、出荷伝票等によると約500頭の肉豚を飼養していたと認められるのに、豚コレラの予防注射を接種した371頭しか引き受けておらず、引受頭数が過小になっていた。 |
|||||
イ 引受頭数が過大となっているもの | |||||
年度 | 道県数 |
組合等数 |
組合員等数 |
左に係る共済掛金 (うち国庫負担額) |
同共済金支払額 |
人 | 千円 | 千円 | |||
5 | 10 | 18 | 27 | 147,347 (58,936) |
141,395 (82,360) |
6 | 10 | 21 | 32 | 148,992 (59,594) |
140,235 (78,048) |
上記の組合等においては、共済対象の肉豚の頭数を現地で実際に確認せず、組合員等の年間飼養計画の頭数で引き受けていたり、前年の引受頭数の実績で引き受けていたり、組合員等が申し出た頭数でそのまま引き受けていたりなどしていた。このため、引受頭数が過大になっていて、ひいては国が必要以上に共済掛金を負担する結果となっていた。 |
|||||
<事例> B県b農業共済組合 | |||||
同組合では、組合としての引受頭数の実績を確保するため、組合員と協議して飼養実態と関係なく年間の引受計画等を作成し、これにより引き受けることとしていた。このため、組合員Yにおいては、5、6両年度の実際の飼養頭数はそれぞれ7,998頭、8,486頭であったのに、5年度10,000頭、6年度10,046頭の引受けを行っており、引受頭数が過大になっていた。 |
(2) 事故頭数が実際の死亡頭数とかい離しているもの
ア 事故頭数が過大になっているもの |
|||||
年度 | 道県数 |
組合等数 |
組合員等数 |
左に係る共済掛金 (うち国庫負担額) |
同共済金支払額 |
人 | 千円 | 千円 | |||
5 | 7 | 11 | 23 | 166,749 (66,697) |
142,223 (79,409) |
6 | 6 | 10 | 21 | 159,621 (63,846) |
144,678 (80,482) |
上記の組合等においては、事故率が低く共済金の受取額が少なくなる組合員等についても一定額の共済金を受け取れるようにするため、肉豚の死亡頭数を確認せず、共済金支払の算定の基となる事故頭数を実際より過大に計上していた。 |
|||||
<事例> C県c農業共済組合 | |||||
同組合では、事故率を引受頭数の8%程度までは容認することとし、実際の死亡頭数を確認していなかった。このため、組合員Xにおいては、実際の死亡頭数を調査したところ、5年度130頭、6年度120頭であったのに、組合には、5年度169頭、6年度170頭と通知し事故頭数を過大に計上していた。 |
|||||
イ 事故頭数が過小になっているもの | |||||
年度 | 道県数 |
組合等数 |
組合員等数 |
左に係る共済掛金 (うち国庫負担額) |
同共済金支払額 |
人 | 千円 | 千円 | |||
5 |
7 | 11 | 20 | 98,274 (39,308) |
99,411 (51,315) |
6 | 6 | 12 | 21 | 99,794 (39,917) |
105,382 (55,009) |
上記の組合等においては、組合員等の共済掛金の負担を軽減し、共済加入を容易にすることなどのため、実際の死亡頭数を確認せず、共済掛金率の算定の基となる事故率が低くなるように、事故率の高い組合員等について、事故頭数を実際より過小に計上していた。 |
|||||
<事例> D県d農業共済組合 | |||||
同組合では、組合員の共済掛金の負担が増加しないよう、事故率の高い組合員については、事故率7%で共済金の支払を打ち切ることとしていた。このため、組合員Wの実際の死亡頭数は5年度877頭、6年度1,017頭であったのに、組合では5年度635頭、6年度639頭と事故頭数を過小に計上していた。 |
上記の(1)及び(2)の事態には重複しているものがあるので、その分を整理すると、次のとおり、5、6両年度において、19道県で98組合等の420組合員等について不適切な事態が生じていた。これらの組合員等に係る共済掛金は計15億1331万余円(うち国庫負担額6億0519万余円)、共済金支払額は計15億0106万余円(うち再保険金相当額8億4482万余円)となっている。
年度 | 道県数 | 組合等数 | 組合員等数 | 左に係る共済掛金 (うち国庫負担額) |
同共済金支払額 (うち再保険金相当額) |
人 | 千円 | 千円 | |||
5 |
19 | 91 | 336 | 760,293 (304,030) |
761,578 (429,065) |
6 | 18 | 89 | 333 | 753,018 (301,162) |
739,488 (415,759) |
計 | 19 | 98 | 420 | 1,513,311 (605,193) |
1,501,066 (844,825) |
(注) 計欄の道県数、組合等数、組合員等数は両年度で重複しているものを除いた数字である。
上記のほか、引受頭数が毎月同数であったり、事故頭数が引受頭数に対し一定率であったりなどしている不自然なものが相当数見受けられた。しかし、これらの組合員等においては、管理日誌や棚卸帳など、飼養状況が確認できる資料が全くなかったり、十分整備されていなかったりしていたため、その引受頭数及び事故頭数の確認ができない状況となっていた。
また、包括共済となっていない場合、共済金の支払免責規定を適用できるのに、これを行っている組合等は見受けられなかった。さらに、個々の組合員等の事故率に相当の差がある場合、同一の掛金率では組合員等間に不公平感が生ずるので、負担の公平を図るために危険段階別掛金率を定めることができるのに、これを定めている組合等はわずかであった。
上記のように、組合等において、引受け及び事故確認が適切に行われていないため、引受頭数又は事故頭数が実態とかい離している事態は、本件制度が農業者の相互扶助を基本とし保険の仕組みを採用している制度の趣旨からみて適切とは認められない。そして、このような事態を放置することは、組合員等間、組合等間の公平を欠くことにもなり、ひいては国の共済掛金負担や再保険金等によって支えられている家畜共済事業の健全な運営に支障を来すこととなるので改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、肉豚は個体識別が困難なうえ、組合員等において、防疫等の理由から豚舎への立入りを拒む場合もあるなどの事情もあるが、主として、次の理由によると認められる。
(ア) 貴省において、養豚経営の規模が拡大し一貫経営が増加するなどして飼養頭数の把握が困難となっているのに、これに対応した引受方法の見直しを行っていないこと、また、豚舎への立入りの容認や飼養状況の記録など、共済事業における組合員等の義務や責任を明確にしていないこと
(イ) 都道府県及び連合会において、組合等の引受審査、事故確認等の業務に対する指導・監督の体制が十分でないこと
(ウ) 組合等において、共済事業についての認識、理解が十分でなく、組合員等に対して適切な指導を行っていないこと、また、不適切な事態に対して共済金の支払免責など厳格な処置を執っていなかったり、組合員等単位に掛金率を設定する危険段階別掛金率を採用していなかったりしていること
3 本院が要求する改善の処置
ついては、本件共済事業は、今後も引き続き実施されるのであるから、不適切な事態を解消し、事業運営の適正化を図るため、貴省において、次のような処置を講ずる要があると認められる。
(ア) 近年の養豚経営の規模拡大、一貫経営の増加等の状況の変化に対応し、頭数の把握が容易となるような引受方法に変更する。また、組合員等に対し、組合等の豚舎への立入りを拒否しないこと、肉豚の飼養状況の記録を作成させることとするなど、共済事業における組合員等の義務や責任を明確にする。
(イ) 都道府県及び連合会における組合等に対する指導・監督体制を整備するよう、適切な処置を執る。
(ウ) 組合等において、制度の理解や適正な業務の遂行に対する認識を深め、肉豚の飼養状況を把握するための体制を整備するよう指導する。また、組合員等に対し制度の趣旨を徹底し、共済金の支払免責規定の厳格な適用を行うとともに、危険段階別掛金率の採用を推進するよう指導する。
(注) 北海道ほか20県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、千葉、新潟、石川、長野、滋賀、香川、愛媛、高知、長崎、大分、宮崎、鹿児島各県