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  • 平成6年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

季節的業務に従事する短期雇用特例被保険者の通年雇用を促進させるため、冬期雇用安定奨励金の支給を効果的に行うよう改善させたもの


 季節的業務に従事する短期雇用特例被保険者の通年雇用を促進させるため、冬期雇用安定奨励金の支給を効果的に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(雇用勘定)(項)雇用安定等事業費
部局等の名称 労働省
支給の根拠 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
冬期雇用安定奨励金の内容 積雪寒冷地において冬期に事業活動の縮小を余儀なくされる建設業等の事業主が、短期雇用特例被保険者を冬期間臨時的に就労させ、かつ翌春に再雇用するなどした場合に支給する給付金
支給の相手方 109事業主
効果が十分発現していない冬期雇用安定奨励金の支給額 6億5315万余円(平成2年度〜5年度)
<検査の結果>

 上記の冬期雇用安定奨励金について、冬期間における就労日数が50日以上となっていて通年雇用化の基盤整備が進んでいると認められるのに、短期雇用特例被保険者を1人も通年雇用することなく季節的な雇用を繰り返して、毎年奨励金を受給し続けている事業主が109事業主(冬期雇用安定奨励金の支給額6億5315万余円)あり、奨励金の支給が効果的でないと認められた。
 このような事態が生じていたのは、労働省において、短期雇用特例被保険者を通年雇用する目標数を設定し、その達成状況を奨励金の支給額に反映させるなど、通年雇用に移行させるための実効ある方策を講じてこなかったことなどによると認められた。
 
<当局が講じた改善の処置>

 本院の指摘に基づき、労働省では、平成7年3月に雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)の一部を改正するなどして、短期雇用特例被保険者を通年雇用する目標数を設定し、未達成の場合は奨励金の支給額を減ずることとするなど、奨励金の支給を効果的なものとし、通年雇用をより促進させるための処置を講じた。

1 制度の概要

 (冬期雇用安定奨励金の概要等)

 労働省では、労働者の生活と雇用の安定を図り福祉の向上を実現することを目的として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく雇用安定事業の一環として、季節的業務に従事する労働者の通年雇用を促進させるための施策を講じている。
 そして、その一つとして、積雪寒冷地において冬期に事業活動の縮小を余儀なくされる建設業等の事業を行う事業主が、季節的業務に従事し就職・離職を繰り返しながら離職の都度雇用保険の特例一時金を受給する短期雇用特例被保険者(注1) (以下「特例被保険者」という。)を冬期間臨時的に就労させ、翌春に再雇用するなどした場合に、冬期雇用安定奨励金(以下「冬期奨励金」という。)を支給している。また、これらの事業主が特例被保険者を冬期間においても離職させないで通年雇用する場合には、通年雇用奨励金(注2) を支給することとしている。

 (注1)  短期雇用特例被保険者 雇用保険の被保険者の種類の一つで、季節的に雇用される者のほか、同一の事業主に引き続き被保険者として雇用される期間が1年未満の短期の雇用に就くことを常態とする者がこれに該当する。この短期雇用特例被保険者が失業し、かつ離職の日以前1年間の被保険者期間が通算して6箇月以上あるときは、失業給付金の基本手当日額の50日分が特例一時金として支給される。

 (注2)  通年雇用奨励金 短期雇用特例被保険者を通年雇用した場合に、3年間にわたって、事業主が12月16日から翌年3月15日までの間の就業について当該労働者に支払った賃金の2分の1の額を支給するもの

 (冬期奨励金の趣旨)

 これらの奨励金のうち、冬期奨励金は、通年雇用奨励金だけでは、直ちに通年雇用化が実現されることは困難な面もあることから、その前段階として、通年雇用をより促進させるため、特例被保険者の冬期間の就労を促進し、通年雇用化の基盤を整備しようとするものである。

 (冬期奨励金の支給要件及び支給額)

 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)及び冬期雇用安定奨励金支給要領(平成4年労働省職業安定局長通達 職発第762号)により、冬期奨励金の支給対象となる事業主は、次の要件のいずれにも該当する者となっている。

 (ア) 積雪又は寒冷の度が著しく高い地城として労働大臣が指定する地域において、冬期に事業活動の縮小を余儀なくされる業種で労働大臣が指定する業種に属する事業を行う事業主であること

 (イ) 特例被保険者を11月1日以後に離職させ、その際、離職の日以後2箇月を経過した日の翌日からその年の5月31日までの間に再雇用すること、及び生活の安定に資するための資金として一定額以上の冬期手当を支払うことを約し、この約定に基づき冬期手当を支払い、かつ当該特例被保険者を再雇用した事業主であること(下図参照)

 (ウ) 1月1日から3月31日までの間(以下「対象期間」という。)に上記(イ)に係る特例被保険者を35日(平成2年から4年までは30日)以上就労させた事業主であること(下図参照)

季節的業務に従事する短期雇用特例被保険者の通年雇用を促進させるため、冬期雇用安定奨励金の支給を効果的に行うよう改善させたものの図1

 また、冬期奨励金の支給額は、事業主が、上記(イ)及び(ウ)に係る特例被保険者(以下「対象労働者」という。)の対象期間中の就労日について支払った賃金の額(1人当たり50日分を限度とする。)の2分の1となっている。 
 そして、この冬期奨励金は対象期間を経過した翌年度に支給され、その総額は2年度108億余円、3年度124億余円、4年度131億余円、5年度142億余円と多額になっている。

2 検査の結果

 (調査の観点)

 冬期奨励金は、前記のように通年雇用化の基盤整備を図る趣旨で設けられたものである。
 そして、労働省では、通年雇用されている者の1月から3月までの間における就業日数が60日程度であることから、対象期間における特例被保険者の就労日数が50日以上となっている事業主については、通年雇用化の基盤整備が進んでおり、通年雇用に移行することが可能であるとして、冬期奨励金制度では助成の対象となる就労日数を50日までとしている。
 そこで、冬期奨励金の支給が特例被保険者の通年雇用を実現する上で効果的なものとなっているかという観点から、対象労働者の就労日数の状況と通年雇用化の状況について調査した。

 (調査の対象)

 冬期奨励金の支給額は、北海道及び青森県で全国の大部分を占めていることから、両道県の札幌公共職業安定所ほか22公共職業安定所において、2年度に冬期奨励金を支給した8,985事業主の中から公共職業安定所ごとに無作為に計750事業主を抽出し、このうち5年度までの間に3年以上継続して冬期奨励金を支給している508事業主について調査した。

 (調査の結果)

 調査したところ、2年から5年までの対象期間における対象労働者1人当たりの平均就労日数が50日以上である事業主は142事業主、50日未満である事業主は366事業主となっていた。
 これらの事業主における対象労働者の通年雇用化の状況をみると、次表のとおりとなっており、平均就労日数が50日以上である事業主は、50日未満の事業主に比べて通年雇用化の基盤整備が進んでいると認められるのに、通年雇用化の割合は逆に下回っていた。

平均就労日数の区分 事業主数 対象労働者数(A) 左のうち通年雇用された者の数(B) 通年雇用化の割合(B/A)
50日以上 142
1,538

96

6.2
50日未満 366 2,729 184 6.7

 そして、平均就労日数が50日以上である142事業主のうち109事業主(2年度から5年度までの冬期奨励金の支給額6億5315万余円)は、2年度から5年度までの間に対象労働者1,0051人)を1人も通年雇用しておらず、中には、平均就労日数が60日以上となっているのに1人も通年雇用していない事業主も10事業主見受けられた。
 このように、これら109事業主にあっては、対象期間における対象労働者の平均就労日数が50日以上となっていて、通年雇用化の基盤整備が進んでいると認められるのに、対象労働者を1人も通年雇用することなく季節的な雇用を繰り返して毎年冬期奨励金を受給し続けており、冬期奨励金の支給が効果的でないと認められた。
 上記について、一例を示すと次のとおりである。

<事例>

冬期奨励金の支給対象 支給年度

対象労働者数

冬期奨励金支給額

株式会社A組(建設業)

2
3
4
5


3
3
5
5


691,100
731,900
1,270,673
1,364,161
4,057,834

 この事業主は、年間を通じて上記の対象労働者以外の者を雇用しておらず、冬期には上記の対象労働者を毎年継続的に就労させており、5年度の冬期奨励金の対象労働者についてみると、5人のうち、3人は2年度から、また他の2人は4年度から継続して対象労働者として支給申請をしていた。
 そして、2年から5年までの対象期間における対象労働者の就労日数をみると、平均67.3日となっていた。また、対象労働者の年間の就労状況をみると、12月下旬に離職し、対象期間においては月に6日程度休むだけで、これらの日以外は就労し、4月当初に事業主に再雇用されており、これを毎年繰り返していた(下図参照)

季節的業務に従事する短期雇用特例被保険者の通年雇用を促進させるため、冬期雇用安定奨励金の支給を効果的に行うよう改善させたものの図2

 このような状況から、対象労働者を通年雇用することが可能であると認められるのに、事業主は1人も通年雇用することなく毎年冬期奨励金を受給し続けていた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア) 労働省において、対象期間の翌年度に特例被保険者を通年雇用する目標数を設定し、その達成状況を冬期奨励金の支給額に反映させるなど、通年雇用に移行させるための実効ある方策を講じてこなかったこと
(イ) 道県及び公共職業安定所において、冬期奨励金は単に賃金を助成するのではなく、特例被保険者を季節雇用から通年雇用に移行させるために支給するものであるという趣旨を事業主に徹底しておらず、また、通年雇用化に向けた指導も十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、労働省では、7年3月に雇用保険法施行規則の一部を改正するなどして、次のとおり、冬期奨励金の支給を効果的なものとし、特例被保険者の通年雇用をより促進させるための処置を講じた。

(ア) 冬季の奨励金の対象労働者数及びその対象期間における就労日数に応じて、翌年度に特例被保険者を通年雇用する目標数を設定し、未達成の場合は冬期奨励金の支給額を減ずることとし、また併せて通年雇用奨励金の助成率も見直しをして、制度的に通年雇用への移行を積極的に誘導することとした。

(イ) 道県及び公共職業安定所に対し、冬期奨励金が通年雇用に移行させるために支給するものであるという趣旨を事業主に徹底し、通年雇用化に向けて指導するよう措置した。