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  • 平成6年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

日本下水道事業団の電気設備工事の発注について


第3 日本下水道事業団の電気設備工事の発注について

(1) 公正取引委員会は、日本下水道事業団から電気設備工事を受注している電機メーカー9社に対し、独占禁止法に違反する入札談合の疑いで審査を行い、平成7年3月及び6月、上記9社及び関係者を検事総長に告発し、現在、裁判所で刑事訴訟が係属中である。また、上記9社は、同委員会の課徴金納付命令に従い課徴金を納付した。

(2) このような事態を踏まえて検査した状況は、次のとおりである。

〔1〕 予定価格の積算については、機器費の積算見積りの依頼先が上記9社を含む少数の業者に限定されており、見積り価格の査定も一律となっている。また、機器の据付費等の積算について、一部検討を要する点も見受けられた。

〔2〕 契約事務の執行については、随意契約が半数以上となっている。また、指名競争入札における指名業者は、大部分が上記9社を含む少数の業者に固定している。その落札までの入札回数をみると、6事業年度では1回で落札した割合が高くなっている。

(3) 事業団は、業務適正化委員会を設置するなどして、公募型指名競争入札方式の適用の拡大、入札参加資格業者数及び指名業者数の増加などを図り、契約手続の透明性、客観性及び公正性を確保するための改善措置を講じている。
 今後においては、予定価格の積算方法を見直したり、契約方式をできる限り競争契約に移行させたりなどするよう、調査、検討するとともに、上記の改善策に沿った着実な業務運営を図ることが肝要である。

1 検査の背景

 公正取引委員会は、日本下水道事業団(以下「事業団」という。)が発注する電気設備工事の契約の相手方である株式会社日立製作所ほか8社(注) (以下「9社」という。)に対し、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)で禁止する不当な取引制限(入札談合)の疑いがあるとして審査を行った。そして、平成7年3月及び6月に「9社」及びその受注業務担当者17名について独占禁止法に違反する犯罪があったものと思料して、また、同年6月に事業団の発注業務担当者1名についてその犯行をほう助したものと思料して、検事総長に告発した。そして、同月、東京高等検察庁は、これら「9社」及び18名について東京高等裁判所に公判請求を行った。
 また、同年7月、同委員会は、「9社」に対して、4、5両年度における違反行為について課徴金納付命令を行うとともに、事業団に対して、入札における独占禁止法違反行為の再発防止の徹底についての要請を行った。これに対し、「9社」は同年9月に課徴金納付命令に従い課徴金を納付し、また、事業団は同年8月に再発防止のため講じた具体的な措置の内容を同委員会に報告した。
 本院では、従来から事業団が発注する工事について検査を実施してきたところであるが、このような事態を踏まえ、事業団発注工事の一層の適正化を図るという観点から、電気設備工事について重点的に検査を実施することとした。

(注)  株式会社日立製作所ほか8社 株式会社日立製作所、株式会社東芝、三菱電機株式会社、富士電機株式会社及び株式会社明電舎の5社と、株式会社安川電機、日新電機株式会社、神鋼電機株式会社及び株式会社高岳製作所の4社

2 検査の対象、観点及び方法

(検査の対象)

 事業団が発注する工事は、主として地方公共団体の委託を受けて、下水道の根幹的施設を建設するものである。このうち電気設備工事は、終末処理場、ポンプ場等に設置される水処理設備、汚泥処理設備、ポンプ設備などを稼働させ制御するなどのため必要となる受変電・配電設備、特殊電源設備、監視制御設備等の電気設備を設置するものである。
 検査に当たっては、この電気設備工事のうち、4事業年度から6事業年度までの3事業年度に発注した工事で、契約金額が5000万円以上のものを対象とした。これらの件数及び契約金額は、4事業年度196件440億5320万余円、5事業年度175件353億1653万余円、6事業年度194件459億1297万余円、計565件1252億8271万余円となっている。

(検査の観点)

 検査に当たっては、予定価格の積算の妥当性を重点に調査するとともに、契約事務の執行の状況についても併せて調査することとした。

(1) 予定価格の積算の妥当性については、主に次のような観点を中心に調査した。

(ア) 電気設備の機器費の積算は、実勢の価格等を反映し、適正な価格により行われているか。

(イ) 機器費の見積りを徴する場合において、見積りを依頼する業者の選定及び徴した見積書の内容の検討は適切なものとなっているか。

(ウ) 機器の据付費等の積算は、施工の実態を反映したものとなっているか。

(2) 契約事務の執行の状況については、主に次のような観点を中心に調査した。

(ア) 契約方式の選定は適切なものとなっているか。

(イ) 競争契約における資格審査及び指名は適切に行われているか。

(ウ) その他契約事務の執行に関し、見直し、検討の要があるものはないか。

(検査の方法)

 前記の565件の契約について、予定価格の積算等が適切に行われているかなど、その実施状況を把握するため、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき事業団から本院に提出されている契約書、入札調書等の証拠書類について書面検査を行った。また、7年2月から9月までの間に141人日を投じて、事業団の本社、支社等の実地検査を実施した。

3 検査の状況

 上記の検査の観点に基づいて検査した状況は、次のとおりである。

(1) 予定価格の積算について

 事業団では、電気設備工事の予定価格の積算は、建設省都市局下水道部制定の機械・電気設備工事工事費積算要領及び同積算基準に基づき作成した機械・電気設備工事の「工事費積算基準」(以下「積算基準」という。)により行うこととしている。この積算基準によれば、直接工事費は、機器費、据付費及び試運転費からなっており、この直接工事費に間接工事費、一般管理費等を加えるなどして予定価格を積算することになっている。
 この予定価格の積算について、5、6両事業年度に発注した工事を中心に検査した。その状況は次のとおりである。

ア 機器費の積算方法について

 機器費は、電気設備工事における直接工事費の約80%を占めている。そして、事業団では、仕様が標準化され、使用頻度の高い配電盤、変圧器等の機器については標準価格を定め、これにより機器費を積算することとしている。この標準価格については、毎年、地方公共団体の積算事例や卸売物価指数の動向等を総合的に検討して価格の見直しを行っている。
 また、標準価格を定めていない機器については、業者から見積りを徴して積算していて、その見積りにより積算しているものは機器費の約50%となっている。この見積りを依頼する業者としては、事業団の仕様による機器製作の実績がある3社以上を選定することとなっていて、ほとんどの場合「9社」を含む12社の中から選定されている。そして、見積りの最低価格を一定の方法で査定して機器費を算出している。このように、見積りによる積算は機器費の約50%に上っているが、その見積りは限定された業者から徴したもので、その価格の査定も一律となっている。

イ 据付費の積算方法について

 機器の据付費について、積算基準では、工事現場での据付け、調整作業が高度の専門知識と経験を必要とすることから、作業の多くを製作会社等から派遣される作業員が行うものとして、据付労務費を積算することとしている。しかし、その作業内容をみると、近年、一部の機器は、あらかじめ工場で一体に組み立てたものを現場に搬入して据え付けるものとなっていて、現場での作業は簡易化してきている。このため、製作会社等の作業員でなく、現地雇用の電工及びその他の作業員でも対応できると思われる作業も中には見受けられた。

ウ 各工事における積算について

 各工事の積算内容を検査したところ、いずれも軽微な誤りではあったが、機器の重量や労務歩掛かりの適用を誤って据付費を過大に積算したり、設置する機器について機器費の計上を漏らしたりなどしているものが見受けられた。

(2) 契約事務の執行状況について

 電気設備工事の契約事務の執行状況を、前記の4事業年度から6事業年度に発注した工事について検査した。その状況は次のとおりである。

ア 契約方式について

 上記3事業年度に発注した565件、契約金額1252億8271万余円の工事の契約状況をみると、指名競争契約が265件(全体の47%)、588億1536万余円(同47%)、随意契約が300件(同53%)、664億6734万余円(同53%)となっていて、件数、金額とも随意契約が指名競争契約を上回っていた。
 このように随意契約が多いのは、予算上の制約等により必ずしも工事を一括発注できないことから、当初発注の新規工事は指名競争契約によるものの、その後の継続工事は全体システムの一体化を図るため引き続き同一業者に随意契約で発注していることなどによるものである。しかし、このことは、契約の透明性、客観性及び競争性の確保の観点からは必ずしも好ましいことではないと思料される。
 なお、事業団では、6年7月、より一層の透明性、客観性及び競争性を確保するため、契約予定金額が24億3千万円以上の工事についてはすべて一般競争入札方式によるとともに、7億円以上24億3千万円未満の工事についても、一定の条件により公募型指名競争入札方式(注) を導入している。これら契約方式の導入後の当初発注工事97件のうちで、一般競争の要件に該当するものはなく、また、指名競争で公募型指名競争入札方式によったものは12件となっている。

(注)  公募型指名競争入札方式 各工事の指名競争入札に当たって、あらかじめ発注者より競争に参加できることの認定を受けた有資格業者から入札参加の希望を募り、その応募者の中から技術、能力等を審査して入札参加者を決定し、指名する方式をいう。したがって、受注を希望する業者が条件を満たした場合に入札に参加できる制度である。

イ 競争参加有資格業者とその指名基準について

 事業団では、電気設備工事の競争入札に参加できる者の認定を行い、有資格業者として登録(6年7月からは、有資格業者を、契約予定金額が5000万円以上の工事の入札に参加できるA等級と5000万円未満の工事の入札に参加できるB等級に格付けして登録)している。指名競争入札に当たっては、事業団制定の「指名業者の選定等に関する達」(昭和59年達第8号)等により、当該工事に相当の実績があり主要部分の機器について自社製作能力を有すること等を条件として、なるべく7社以上を指名することとしている。そして、本院が調査した4事業年度から6事業年度の契約金額5000万円以上この電気設備工事においては、ほとんどの指名競争入札において、6年7月以降にA等級に格付けされた14社のうち、主要部分の機器の製作能力のある12社(「9社」を含む。)の中から7社が指名されていて、電気設備工事の指名業者は少数の者に固定している状況であった。

ウ 入札の状況について

 4事業年度から6事業年度において、指名競争に付した電気設備工事は、入札が不調で随意契約に移行した6件を含め計271件で、これらの落札までの回数等をみると、次表のような状況となっていて、6事業年度では1回で落札した割合が高くなっている。

区分 落札までの入札回 入札不調
(随意契約)
1回 2回 3回

4事業年度

4

84

1

0

89
5事業年度 48 32 0 0 80
6事業年度 86 10 0 6 102
138 126 1 6 271

 そして、調査した電気設備工事565件、契約金額1252億8271万余円について、契約金額の割合をみると、4事業年度は株式会社日立製作所ほか4社(以下「5社」という。)が78%、株式会社安川電機ほか3社(以下「4社」という。)が19%、5事業年度は5社が73%、4社が21%、6事業年度は5社が73%、4社が21%となっている。

4 当局の対応

 事業団では、6年9月、電気設備工事に関して入札談合があったとのマスコミの報道を受け、業務運営の適正化の推進を図るため、業務適正化委員会を設置して改善策の検討を進めた。そして、電気設備工事の指名競争入札に関して、次のような改善措置を講じた。

〔1〕 入札方式について、7年4月から、公募型指名競争入札方式を契約予定金額が24億3千万円未満のすべての工事に導入した。

〔2〕 指名基準について、7年4月に、主要部分の機器について自社製作能力を有することの条件を外し、A等級の有資格業者数を14社から29社に増やした。

〔3〕 有資格業者の中から指名する業者数について、7年2月から、7社以上から10社以上に増やした。

 また、併せて、建設省が実施した事業団に対する特別監察による指示や公正取引委員会の要請を受けて、工事関係情報の管理の適正化を図ったり、職員に対し独占禁止法に関する研修を実施したりなどして、入札・契約手続の透明性、客観性及び公正性の確保を図るための所要の改善措置を講じている。

5 本院の所見

 予定価格の積算及び契約事務の執行状況について調査したところ、特に「第2章 個別の検査結果」に掲記するような事態は見受けられなかったが、前記のとおり、予定価格の積算や契約事務の執行の適正を確保する上で必ずしも十分でない状況が見受けられたので、今後の課題として、次の点についての調査、検討が望まれる。

〔1〕 機器費について、積算価格の客観性、妥当性の観点から、できる限り各機器の実勢の価格を調査、検討して標準価格の対象機器の拡大を図り、見積りによる積算を少なくすること

〔2〕 据付費について、技術の進展等により、据付作業が簡易化してきている機器については、その作業実態に即した積算を行うよう調査、検討し、必要に応じて積算基準の見直しをすること

〔3〕 各工事の積算においては、違算や歩掛かりの適用誤り等が生じないよう、審査・点検の充実を図ること

〔4〕 随意契約については、関係機関と協議して、できる限り競争契約に移行させるよう、その方途を検討すること
 また、事業団においては、前記のとおり、契約事務の執行に関し、所要の改善措置を講じているが、今後、その改善策に沿った着実な業務の運営を図ることが肝要であると認められる。