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  • 平成6年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

東京共同銀行に対する日本銀行の出資について


第5 東京共同銀行に対する日本銀行の出資について

 近年のいわゆるバブルの崩壊に伴い、多くの金融機関が不良債権を多額に抱えているなかで、東京都の金融検査の対象であった東京協和信用組合及び安全信用組合が、不良債権の著しい増加や資金繰りの悪化により経営が困難となり、平成6年12月に東京都の業務改善命令を受けたが、自力再建を断念し、経営破綻に至った。
 この事態について、日本銀行は、我が国の信用制度全体への影響を懸念して、通常の業務の範囲を超えた措置が必要であると判断し、金融政策の一環として、日本銀行法第25条の規定に基づき、大蔵大臣の認可を得て、東京共同銀行の設立及び同行に対する出資を行った。
 本院では、本件出資に係る会計経理について、主として合規性の観点から検査したところ、会計経理は適正に実施されていた。
 なお、今後も本件出資に関する事態の推移を見守る必要がある。

1 検査の背景

 我が国の金融制度においては、大蔵省が行政機関として金融行政に係る事務及び事業を一体的に遂行する責任を負い、日本銀行が中央銀行として信用制度の保持育成に責任を有している。

 そして、我が国の金融機関は、その業務の公共性から運営の健全性を担保するために、大蔵省、都道府県が銀行法(昭和56年法律第59号)等に基づいて実施する検査(以下「金融検査」という。)等により監督を受け、また、日本銀行が日本銀行法(昭和17年法律第67号)第1条の規定に定める信用制度の保持育成という観点から取引先金融機関と締結する約定に基づいて実施する考査等により指導を受けることとなっている。このうち、金融検査には、大蔵省が普通銀行等(注) に対して実施するものと都道府県が信用組合等に対して実施するものがある。

 近年のいわゆるバブルの崩壊に伴い、多くの金融機関において回収が不能又は延滞等の貸出債権(以下「不良債権」という。)を多額に抱えているなかで、東京都の金融検査の対象であった東京協和信用組合及び安全信用組合(以下「両信用組合」という。)が、不良債権の著しい増加や資金繰りの悪化により経営が困難となり、平成6年12月に東京都の業務改善命令を受けたが、自力再建を断念し、経営破綻に至った。

 この事態について、日本銀行は、我が国の信用制度全体への影響を懸念して、通常の業務の範囲を超えた措置が必要であると判断し、日本銀行法第25条の規定に基づき、大蔵大臣の認可を得て、株式会社東京共同銀行(以下「東京共同銀行」という。)の設立及び同行に対する出資を行うこととした。

 この東京共同銀行に対する日本銀行の出資については、国民の関心も極めて高いことから、本院では、日本銀行に対して、7年3月8日から10日までの3日間及び9月11日から14日までの4日間の2度にわたり会計実地検査を実施した。そして、上記の出資に係る会計経理が適正に実施されているかについて、関係書類等の提示を受けたり、説明を聴取したりして調査した。

(注)  普通銀行 銀行法第4条第1項の規定に基づき、大蔵大臣の免許を受けて銀行業を営む都市銀行や地方銀行など

2 東京共同銀行に対する日本銀行の出資

(1) 経営の破綻した両信用組合の処理策

 日本銀行は、東京都の要請を受け、東京都の両信用組合に対する金融検査の結果把握されていた不良債権の処理について、大蔵省、東京都及び民間金融機関等と協議のうえ、次のような処理策を実施することに合意した。

〔1〕   日本銀行は、民間金融機関とともに、両信用組合の事業全部の譲渡を受ける普通銀行を設立する。

〔2〕   同普通銀行は、両信用組合から譲渡された不良債権を処理することとし、その一部を社団法人東京都信用組合協会(以下「東京都信用組合協会」という。)に移管する。

〔3〕 上記の事業の譲渡及び不良債権の処理に当たり、同普通銀行は、預金保険機構(注) からの資金援助を求めるとともに、民間金融機関からの支援を受ける。

 この合意を踏まえ、日本銀行は、その意思決定機関である政策委員会において、6年12月9日に、信用制度全体の安定を確保するため、両信用組合の事業全部の譲渡を受ける普通銀行を民間金融機関との共同出資により設立することを決定した。そして、7年1月13日に、日本銀行が民間金融機関とともに発起人となって、東京共同銀行を設立すること、これに200億円の出資を行うことを決定した。

(注)  預金保険機構 預金保険法(昭和46年法律第34号)に基づき、預金者等の保護を図るため、金融機関が預金等の払戻しを停止した場合等に預金者等に対して保険金等を支払うほか、経営が破綻した金融機関に係る合併等に際し、これを救済する金融機関に対して適切な資金援助を行い、信用秩序の維持に資することを目的として設立された法人

(2) 処理の実施

(東京共同銀行の設立及び日本銀行の出資)

 東京共同銀行は、7年1月13日に日本銀行及び民間金融機関が発起人となって設立され、その資本金は、前記の合意等を踏まえて400億円とされた。
 そして、日本銀行では、同日に日本銀行法第25条の規定に基づき、大蔵大臣の認可を得て、東京共同銀行に対し200億円の出資を行った。東京共同銀行は、同月17日に大蔵大臣から銀行法に基づき、銀行業の免許を受けた。
 なお、資本金のうち、上記の日本銀行による200億円を除いた残りの200億円は、2月3日までに全国152の民間金融機関から全額払い込まれた。

(両信用組合の全部の事業の譲受け)

 東京共同銀行は、1月19日に両信用組合から貸出債権、預金等すべての資産及び負債を譲り受けることについて、両信用組合との間で事業譲渡契約を締結し、この契約について、2月16日に開催された同行の臨時株主総会の承認を受けた。そして、3月20日に資産及び負債をともに2562億9748万余円(うち貸出債権は1325億6153万余円)として譲渡を受け、同日営業を開始した。

(東京都信用組合協会に対する不良債権の譲渡)

 東京共同銀行は、3月20日に東京都信用組合協会との間で、両信用組合から譲り受けた貸出債権1325億6153万余円のうち、不良債権の一部を譲渡する契約を締結し、同日これを東京都信用組合協会に譲渡した。そして、同月31日こ譲渡価額を652億2400万円と確定した。
 これにより、東京共同銀行は、貸出債権を差し引き673億3753万余円継承することとなった。

(預金保険機構等からの資金援助)

 東京共同銀行は、預金保険法における救済金融機関として、同月20日に預金保険機構から一括して400億円の贈与を受けた。また、全国152の民間金融機関と一括又は15年の分割払いにより総額387億1100万円の資金贈与を受ける契約を締結し、これに基づき同月30日及び31日に計25億8540万円の贈与を受けた。

 上記処理の概要を示すと下図のとおりとなる。

上記処理の概要を示すと下図のとおりとなる。

3 検査の状況

 日本銀行は、今回の出資が日本銀行法第25条に規定する信用制度の保持育成のために必要な業務であり、金融政策の一環として行ったものであるとしている。
 本院では、東京共同銀行に対する日本銀行の出資に係る会計経理について、主として合規性の観点から検査を実施したが、当該会計経理は適正に実施されていた。
 なお、今後も本件出資に関する事態の推移を見守る必要がある。