会計名及び科目 | 厚生保険特別会計 | (健康勘定) | (款)保険収入 | (項)保険料収入 |
(年金勘定) | (款)保険収入 | (項)保険料収入 |
部局等の名称 | 北海道ほか26都府県(217社会保険事務所) |
保険料納付義務者 | 4,607事業主 |
徴収不足額 | 15,762,163,907円 |
1 保険料の概要
(健康保険、厚生年金保険)
健康保険は、常時従業員を使用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷、分娩等に関し医療、療養費、傷病手当金、出産手当金等の給付を行う保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を使用する事業所の65歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う保険である。
(保険者)
健康保険においては、国及び健康保険組合が保険者となっている。そして、健康保険の被保険者になるべき者であっても、国民健康保険組合(注1)
の被保険者である者は、国の承認を得て健康保険の被保険者としないことができる。
また、厚生年金保険においては、国が保険者となっている。
(保険料の徴収)
保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
そして、これらの事業主は、都道府県の社会保険事務所に対し、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。
(ア) 新たに従業員を使用したときには、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届
(イ) 毎年8月には、同月1日現在において使用している被保険者の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額算定基礎届
(ウ) 被保険者の報酬月額が所定の範囲以上に増減したときには、変更後の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額変更届
これらの届け書の提出を受けた社会保険事務所は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注2) を決定し、これに保険料率を乗じて得た額を保険料として徴収している。
(注1) 国民健康保険組合 医療保険制度は、健康保険などの被用者保険と国民健康保険に大別される。国民健康保険は、市町村が行うものと国民健康保険組合が行うものとがある。国民健康保険組合は、被保険者の疾病、負傷等に関して必要な保険給付を行うため、同種の事業又は業務に従事する者を組合員として国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき組織されたもので、全国に166組合ある。
(注2) 標準報酬月額 健康保険では第1級92,000円から第40級980,000円(平成6年9月までは第1級80,000円から第42級980,000円)まで、厚生年金保険では第1級92,000円から第30級590,000円(平成6年10月までは第1級80,000円から第30級530,000円)までの等級にそれぞれ区分されている。被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。
2 検査の結果
(検査の観点及び対象)
本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金(注3)
の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者(後掲の「厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」参照
)を使用している事業主が届出を適正に行っていなかったため保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。そこで、本年も引き続き、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた受給権者を使用している事業主について検査することとした。
また、平成6年度決算検査報告において、土木建築業を対象とする国民健康保険組合に加入している従業員を使用している事業主が厚生年金保険に係る届出を適正に行っていなかったため厚生年金保険の保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。これを受けて、本年は、国民健康保険組合のうち同一の業種としては組合数が最も多い医師、歯科医師等を対象とする国民健康保険組合を選定し、これらの国民健康保険組合に加入している医師、歯科医師等を使用している医療機関の事業主に着目して検査することとした。すなわち、これらの医療機関のうち3人未満の医師又は歯科医師が常時勤務する医療機関については、昭和60年に医療法(昭和23年法律第205号)が改正され、医療法人の設立が認められたため、医療法人となったものが多数あり、これらの医療法人は、すべて厚生年金保険の適用事業所となる。そこで、これらの医療法人の事業主のうち厚生年金保険に係る届出が適正に行われているかなど調査の要があると認められた事業主について検査することとした。
これらのことから、本年の検査に当たっては、北海道ほか26都府県の217社会保険事務所管内の事業主のうち、次のような7,962事業主について、都道府県における保険料の徴収の適否を検査した。
(ア) 国民健康保険組合に加入している従業員を使用している医療法人の事業主
(イ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用している事業主など
(注3) 特別支給の老齢厚生年金 厚生年金保険において行う保険給付であり、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あって老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などに60歳以上65歳に達するまでの間支給される。そして、受給権者が厚生年金保険の適用事業所に使用され被保険者である間は、その者の標準報酬月額等に応じて年金の額の一部又は全部の支給が停止される。
(徴収不足の事態)
検査したところ、北海道ほか26都府県の217社会保険事務所において、7,962事業主のうち4,607事業主について徴収額が15,762,163,907円(健康保険保険料1,247,476,839円、厚生年金保険保険料14,514,687,068円)不足していた。これは、上記の27都道府県の217社会保険事務所において、事業主が次のように届出を適正に行っていなかったのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによるものである。
(ア) 被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
4,497事業主 | 徴収不足額 | 15,483,021,302円 |
(イ) 資格取得年月日の記載が事実と相違していたもの
87事業主 | 徴収不足額 | 161,232,052円 |
(ウ) 報酬月額に算入しなければならない賞与等を算入しないなどしていたもの
23事業主 | 徴収不足額 | 117,910,553円 |
このように事業主が届出を適正に行っていなかったのは、事業主において、前記のような医療法人にも厚生年金保険が適用されることを十分認識していなかったり、従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる事態を避けようとしたりしていたことなどによるものである。
なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置を執ることになった。
徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事態についての事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 国民健康保険組合に加入している従業員を使用している医療法人の事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
A医療法人は、医師1人を含む従業員4人を常用的に使用しており、これら従業員は、医療保険についてはB医師国民健康保険組合に加入していた。そして、事業主は、同医療法人には厚生年金保険が適用されることを認識していなかったため、社会保険事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、同医療法人には厚生年金保険が適用されることから、厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、厚生年金保険の保険料については3,543,100円が徴収不足になっていた。
<事例2> 特別支給の老齢厚生年金の受給権者を使用している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
C会社は、建物の管理等の業務に従事する従業員273人を使用していた。同会社は、これら従業員のうち258人については、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していた。しかし、同会社は、定年退職後に使用した者であって年金の受給権者である従業員から、被保険者資格取得届が提出されると当該従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止になるとの申し出を受けるなどしたため、15人について社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、年金の受給権者である従業員等について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら15人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料8,973,642円(健康保険保険料3,934,092円、厚生年金保険保険料5,039,550円)が徴収不足になっていた。
(都道府県別の徴収不足額)
これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。