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厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの


(39) 厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計(年金勘定) (項)保険給付費
国民年金特別会計(基礎年金勘定) (項)基礎年金給付費
部局等の名称
社会保険庁

支給の相手方 (1) 厚生年金保険 1,426人
(2) 国民年金 129人
1,552人 (重複者3人)
老齢厚生年金等の支給額の合計 (1) 厚生年金保険 2,759,721,175円
(2) 国民年金 56,751,246円
2,816,472,421円
不適正支給額 (1) 厚生年金保険 1,450,353,619円
(2) 国民年金 56,751,246円
1,507,104,865円
 老齢厚生年金等の支給に当たり、審査に当たる道府県の社会保険事務所において、年金の受給権者が被保険者資格を取得した場合の届出等に対する調査確認及び指導が十分でなかったため、上記の1,552人に対して1,507,104,865円が不適正に支給されていた。これらについては、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。

1 保険給付の概要

(1) 厚生年金保険及び国民年金の給付

 厚生年金保険(前掲の「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」参照 )において行う給付には、老齢厚生年金、老齢年金及び通算老齢年金などがある。また、国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者等を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行うものであり、この給付には、老齢基礎年金などがある。

(2) 老齢厚生年金

 (老齢厚生年金の支給の原則)

 老齢厚生年金は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号。以下「法」という。)第42条の規定により、厚生年金保険の適用事業所に使用された期間(以下「被保険者期間」という。)を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などが65歳に達したときに受給権者となる。

 (特別支給の老齢厚生年金)

 特別支給の老齢厚生年金は、昭和60年の法改正により、当分の間の特例として65歳未満であっても支給されることとなったものである。そして、平成6年の法改正により、7年4月からは、60歳(女子、坑内員及び船員については55歳から60歳までの一定の年齢)に達していて被保険者期間を1年以上有し、保険料納付済期間が25年以上ある者などが受給権者となっている。
 7年3月までは、被保険者期間を1年以上有し、保険料納付済期間が25年以上ある者などが、次のような場合に該当したとき受給権者となることとなっていた。

〔1〕 被保険者の資格を喪失している者(退職者)であって、その者が60歳(女子については55歳から60歳までの一定の年齢、坑内員及び船員については55歳)に達している場合

〔2〕 被保険者である者(在職者)が60歳に達していて、現に受けている報酬月額の標準報酬等級(注) が第16級以下である場合

(注)  標準報酬等級 第1級92,000円から第30級590,000円(平成6年10月までは第1級80,000円から第30級530,000円)までの等級に区分されているもので、被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。

 (特別支給の老齢厚生年金の給付額)

 特別支給の老齢厚生年金の給付額は、〔1〕 受給権者の被保険者期間及びその期間における報酬を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と〔2〕 配偶者等について加算される額(以下「加給年金額」という。)との合計額となっている。

 (特別支給の老齢厚生年金の支給の停止)

(ア) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、厚生年金保険の適用事業所に新たに使用されて被保険者となったときなどには、7年4月からは、次のとおり、年金の支給を停止することとなっている。

〔1〕 標準報酬月額と基本月額(基本年金額の100分の80に相当する額を12で除して得た額)との合計額が220,000円以下のときは基本年金額の100分の20に相当する額の支給停止

〔2〕 上記の合計額が220,000円を超えるときは、標準報酬月額と基本月額とを用いて、一定の方式により算定した額に応じ、基本年金額の一部又は年金の額の全部(加給年金額を含む。以下同じ。)の支給停止

 7年3月までは、次のとおり、支給を停止することとなっていた。

〔1〕 受給権者が60歳未満である場合は年金の額の全部の支給停止

〔2〕 受給権者が60歳以上65歳未満である場合は、その者が現に受けている報酬月額の標準報酬等級の区分に応じ、基本年金額の100分の20から100分の80に相当する部分又は年金の額の全部の支給停止

(イ) この場合の支給停止の手続は次のとおりである。

〔1〕 厚生年金保険の適用事業所の事業主は、新たに使用した者などが受給権者であるときは、その者の生年月日、資格取得年月日、報酬月額、受給権を有することなどを記載した被保険者資格取得届に、その者から提出を受けた年金手帳及び年金証書を添えて都道府県の社会保険事務所に提出する。

〔2〕 社会保険事務所は、これを調査確認のうえ、届出内容を社会保険庁にオンラインで伝送し、同庁は、これに基づいて受給権者に係る年金の支給停止額を算定のうえ、支給額を決定する。

(3) 老齢年金及び通算老齢年金

 老齢年金及び通算老齢年金は、いずれも昭和60年改正前の法に規定される保険給付であり、61年4月1日において60歳以上の者又はその前日において既に受給権を有していた者を対象としている。65歳未満の者に係る老齢年金及び通算老齢年金の支給の要件、支給の手続等は特別支給の老齢厚生年金の支給の要件等とほぼ同様である。

(4) 国民年金の老齢基礎年金

 国民年金の老齢基礎年金は、保険料納付済期間が25年以上ある者などが65歳に達したとき、又は65歳に達する前に繰上げ支給の請求をしたときは、そのときから受給権者となる。そして、繰上げ支給の請求をした者が、その後、厚生年金保険の被保険者となったときは、年金の額の全部が支給停止されることになっていて、その手続は特別支給の老齢厚生年金の場合とほぼ同様である。

2 検査の結果

 (検査の対象)

 北海道ほか23府県の154社会保険事務所において、平成4年及び5年に特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者等226,001人のうち、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた者が3,306人見受けられた。そして、これらの受給権者を使用している2,576事業所について、厚生年金保険の被保険者資格取得届の提出の必要性の有無並びに厚生年金保険の特別支給の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給の適否を検査した。

 (不適正支給の事態)

 検査したところ、北海道ほか23府県で1,099事業所の1,552人については当該事業所において常用的に使用されていて、年金の額の一部又は全部の支給を停止すべきであったのに被保険者資格取得届が提出されなかったなどのため、年金の支給停止の手続が執られていなかった。このため、厚生年金保険の特別支給の老齢厚生年金等の受給権者1,426人に対する支給(支給額2,759,721,175円)について1,450,353,619円、国民年金の老齢基礎年金の受給権者129人(注) に対する支給(支給額56,751,246円)について56,751,246円、計1,507,104,865円が不適正に支給されていた。
 これは、北海道ほか23府県の151社会保険事務所において、受給権者又は事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、事業主が前記の届出を怠るなどしていたのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったため、社会保険庁で年金の支給停止をしていなかったことによるものである。
 なお、これらの不適正支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。

(注)  129人の中には特別支給の老齢厚生年金も不適正に受給している者が3人含まれている。これらの不適正支給額を道府県別に示すと、次のとおりである。

道府県名 社会保険事務所 本院が調査した受給権者数 不適正受給権者数 左の受給権者に支給した年金の額 左のうち不適正支給額

北海道

札幌東ほか13

253

69
千円
148,682
千円
80,232
青森県 青森ほか2 59 38 78,107 47,893
岩手県 盛岡ほか4 136 79 106,656 53,239
宮城県 仙台東ほか4 142 80 149,906 76,155
山形県 山形ほか4 142 78 81,228 41,449
福島県 東北福島ほか4 216 162 253,322 149,655
栃木県 宇都宮ほか2 57 32 75,859 40,170
埼玉県 浦和ほか5 52 29 61,349 37,690
千葉県 千葉ほか5 143 50 113,821 77,024
新潟県 新潟東ほか7 232 133 176,574 95,417
石川県 金沢南ほか3 85 26 33,057 19,645
長野県 長野南ほか6 214 97 183,821 83,265
静岡県 静岡ほか7 251 104 197,794 108,338
愛知県 大曽根ほか15 287 131 324,772 170,526
京都府 上京ほか4 51 42 73,862 30,662
岡山県 岡山東ほか5 118 37 88,575 50,394
広島県 広島東ほか7 193 57 101,569 59,659
山口県 山口ほか4 63 34 115,164 60,001
香川県 高松東ほか2 53 24 43,750 23,651
福岡県 東福岡ほか9 155 65 143,579 77,843
長崎県 長崎南ほか3 59 28 56,667 30,031
熊本県 熊本東ほか4 76 24 46,880 22,426
宮崎県 宮崎ほか3 91 32 45,844 18,830
鹿児島県 鹿児島南ほか5 164 101 115,623 52,897

151箇所 3,292 1,552 2,816,472 1,507,104