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  • 平成7年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

病院における医師等の標準人員に対する充足状況を的確に把握することにより、療養環境加算等の診療報酬の算定が適切に行われるよう改善させたもの


(3) 病院における医師等の標準人員に対する充足状況を的確に把握することにより、療養環境加算等の診療報酬の算定が適切に行われるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)老人福祉費
(項)国民健康保険助成費
(項)生活保護費
厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
船員保険特別会計 (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか11府県
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)
医療給付の種類 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、老人保健法及び生活保護法に基づく医療
実施主体 国、道府県8、市232、特別区13、町373、村73、国民健康保険組合32、計732実施主体
医療機関 公立4、法人14、個人1、計19病院
不適正に支払われた医療費 84,312,450円
上記に対する国の負担額 51,957,175円
<検査の結果>

 上記の19病院において、診療報酬の請求に当たり、医師の数が標準人員を満たしていないのに入院環境料の療養環境加算等を算定しており、このため医療費が84,312,450円(これに対する国の負担額51,957,175円)不適正に支払われていた。
 このような事態が生じていたのは、療養環境加算等の届出書が医師等の標準人員に対する充足状況を的確に把握できるものとなっていなかったこと、都道府県において届出時の審査等に当たり医師等の充足状況の確認が十分でなかったこと、病院において所定の算定要件についての認識が十分でなかったことなどによると認められた。

<当局が講じた改善の処置>

 本院の指摘に基づき、厚生省では、平成8年10月に各都道府県に対して通知を発し、医師等の充足状況を的確に把握できるよう届出書の様式を改正するとともに、届出時の審査等において医師等の充足状況を十分確認するよう指導し、併せて病院に対して算定要件を周知徹底させるなどの処置を講じた。

1 制度の概要

 (医療給付と診療報酬)

 厚生省では、健康保険法等に基づいて保険者等が行う医療給付に関し、その適正な実施を図るため保険者等に対する指導を行うとともに、医療給付に要する費用の一部を負担している。この医療給付においては、医療機関が診療を担当し、その費用を「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号。以下「算定基準」という。)等に基づいて算定して、患者及び保険者等に診療報酬として請求することとなっている。(前掲の「医療費に係る国の負担が不当と認められるもの」参照

 (入院環境料の療養環境加算等)

 入院患者に係る診療報酬の中には、病室等の療養環境に係る入院環境料があり、この入院環境料については、医療機関のうち病院において、次のような療養環境の整備に係る要件(以下「算定要件」という。)を満たしている場合には、療養環境加算又は療養型病床群療養環境加算(A)・(B)(以下「療養環境加算等」という。)として所定の点数を加算できることとなっている。このうち療養型病床群療養環境加算は、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるための療養病棟を有する病院において算定できるものである。

(ア) 療養環境加算について

〔1〕  病院における1病床当たりの平均床面積が8m2 以上で、かつ、各病室ごとの1病床当たりの床面積が6.4m2 以上であること

〔2〕  医師、看護婦等の数が、医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)を満たしていること

(イ) 療養型病床群療養環境加算(A)・(B)について

〔1〕  1病室の病床数が4床以下で、その1病床当たりの床面積が6.4m2 以上であることなど((A)については、更に廊下の幅が1.8m以上であること)

〔2〕  医師、看護婦等の数が標準人員を満たしていること

 (療養環境加算等の届出等)

 上記の算定要件を満たし療養環境加算等を算定しようとする病院は、所定の届出書により、算定要件を満たしている旨を都道府県に届け出ることとなっている。そして、都道府県は、これを基に審査を行い、算定要件を満たしている場合は届出を受理するとともに、届出の内容について適宜事後調査を行うこととなっている。
 また、療養環境加算等の届出を受理された病院で、届出後において算定要件を満たさないこととなった場合には、療養環境加算等は算定しないこととなっている。

2 検査の結果

 (調査の観点及び対象)

 入院環境料の療養環境加算等は、平成6年4月の診療報酬の改定の際に、病室面積の拡大、十分な医師等の配置を推進することにより、病院で提供されるサービスの質を向上させ、患者の療養環境を高める趣旨で設けられたものであるが、患者の療養環境に対するニーズの高まりを背景に、これを算定する病院の数は増加傾向にある。
 そこで、北海道ほか20都府県(注1) に所在し療養環境加算等を算定している203病院について、前記の算定要件を満たしているかという観点から療養環境加算等に係る診療報酬の算定の適否について調査した。

 (調査の結果)

 調査したところ、前記算定要件のうち医師の数が標準人員を満たしていないのに療養環境加算等を算定しているものが、北海道ほか11府県(注2) に所在する19病院において見受けられ、このため医療費(診療報酬から患者負担分を除いた保険者支払分)が31,716件、84,312,450円(これに対する国の負担額51,957,175円)不適正に支払われていた。
 これを、態様別に示すと次のとおりである。

(ア) 届出時に医師の数が標準人員を満たしていなかったのに届出を行い、療養環境加算等を算定していたもの

10道府県(注3) 14病院
不適正に支払われた医療費 27,520件 68,537,740円
(これに対する国の負担額 42,578,158円)

(イ) 届出後に医師の数が標準人員を満たさないこととなったのに、引き続き療養環境加算等を算定していたもの

4道県(注4) 5病院
不適正に支払われた医療費 4,196件 15,774,710円
(これに対する国の負担額 9,379,017円)

 上記の事態について一例を挙げると、次のとおりである。

<事例>

 A病院は、6年5月に療養環境加算の届出を行い、6年6月から同加算を算定していた。
 しかし、同病院の6年5月の医師の数は6.1名で標準人員の9名を満たしておらず、以後も、本院が調査した8年5月まで各月5.9名から6.4名となっていて、標準人員(7年4月からは10名)を満たしていなかった。
 このため、療養環境加算に係る医療費が1,311件、5,044,500円(これに対する国の負担額3,028,871円)不適正に支払われていた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

(ア) 厚生省で定めた療養環境加算等の届出書の様式が、医師等の標準人員に対する充足状況を的確に把握できるものとなっていなかったこと

(イ) 都道府県において、届出時の審査及び事後の調査に当たり、医師等の充足状況の確認が十分でなかったこと

(ウ) 病院において、診療報酬の請求に当たり、算定基準等に定める算定要件についての認識が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、8年10月に各都道府県に対して通知を発し、療養環境加算等の算定が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。

(ア) 医師等の標準人員に対する充足状況を的確に把握できるよう、届出書の様式を改正して、医師等の標準人員に関する事項を充実させた。

(イ) 届出時の審査及び事後の調査に当たり、定期的に調査把握している資料を活用するなどして医師等の充足状況を十分確認するよう指導した。

(ウ) 病院に対して療養環境加算等の算定要件を周知徹底させるとともに、標準人員を満たさなくなった場合は速やかに届出を行わせることとした。

 (注1)  北海道ほか20都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、山形、福島、埼玉、千葉、神奈川、石川、愛知、滋賀、鳥取、広島、山口、徳島、愛媛、熊本、宮崎、沖縄各県

 (注2)  北海道ほか11府県 北海道、京都、大阪両府、山形、福島、千葉、愛知、広島、山口、徳島、愛媛、熊本各県

 (注3)  10道府県 北海道、京都、大阪両府、山形、千葉、愛知、広島、山口、愛媛、熊本各県

 (注4)  4道県 北海道、福島、千葉、徳島各県