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  • 平成7年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

東京共同銀行に対する日本銀行の出資について


第4 東京共同銀行に対する日本銀行の出資について

(平成6年度決算検査報告参照)

 日本銀行は、我が国の信用制度の保持育成のため、経営破綻に至った東京協和信用組合及び安全信用組合の事業の全部を譲り受ける東京共同銀行に対し、日本銀行法第25条の規定に基づき、出資を行った。昨年は、この日本銀行の出資に係る会計経理について、主として合規性の観点から検査を実施し、その後も出資に関する事態の推移を見守るとしたところである。
 そこで、本年は、この日本銀行が出資した東京共同銀行における業務の運営状況をみるため、その資金繰り及び貸出債権の回収状況などについて検査した。
 その結果、東京共同銀行においてはその資金繰りは支障なく行われている一方で、平成8年3月期までにおいては延滞債権等が増加しているなどの状況にあるものと認められた。このような状況にあって、東京共同銀行は預金保険法上の協定銀行と位置づけられて整理回収銀行に改組され、整理回収体制の強化が図られている。
 今後は、この新しい枠組みの下、一層の整理回収が行われ、引き続き信用制度が保持育成されることが肝要である。

1 出資の概要

 日本銀行は、通貨の調節、金融の調整及び信用制度の保持育成を行うことをその目的としている。そして、日本銀行は、東京協和信用組合及び安全信用組合(以下「両信用組合」という。)の経営破綻が、我が国の信用制度全体に影響を及ぼすことを懸念して、日本銀行法(昭和17年法律第67号。以下「法」という。)第25条の規定に基づき、両信用組合の事業の全部を譲り受ける株式会社東京共同銀行(以下「東京共同銀行」という。)に対し、平成7年1月、200億円の出資を行った。日本銀行では、この出資に至った経緯は以下のとおりであるとしている。
 両信用組合は、その経営破綻の程度が著しく、他の金融機関には引受手がなかった。そこで、両信用組合の事業を譲り受ける新たな受皿機関を設立することが必要となったが、その設立には、中央銀行である日本銀行の出資が不可欠であった。また、この新たに設立される受皿機関が、預金の引受け、払戻しなどの銀行業務を円滑に進めるとともに、回収が不能となったり、利払いが延滞したりなどしている貸出債権を処理するためには、日本銀行が、法第25条の規定により、貸出しではなく出資を行って、預金者及び一般債権者に対する東京共同銀行の信用力を保持することが必要であった。

2 検査の対象、観点及び方法

 (検査の対象及び観点)

 本院は、昨年、この東京共同銀行に対する日本銀行の出資については、国民の関心も極めて高いことから、その出資に係る会計経理について、主として合規性の観点から検査を実施し、その後も出資に関する事態の推移を見守るとしたところである。
 そこで、本年は、日本銀行が出資するに至った経緯を踏まえ、設立後の東京共同銀行における業務の運営状況をみるため、東京共同銀行の資金繰り及び貸出債権の回収の状況などについて検査を実施することとした。

 (検査の方法)

 本院では、日本銀行に対して、8年3月4日から6日までの3日間及び9月17日から20日までの4日間の2度にわたり会計実地検査を実施し、出資に係る関係書類等の提示を受けたり、説明を聴取したりして調査した。

3 検査の状況

 上記の検査の観点に基づいて検査した状況は、以下のとおりである。

(1) 東京共同銀行における資金繰りの状況について

 東京共同銀行は、7年3月20日に、両信用組合の事業の全部を譲り受け、その後8年3月25日、コスモ信用組合の事業の全部(貸出債権85,339百万円、預金105,612百万円等)を譲り受けた。
 両信用組合からの事業譲受け後、東京共同銀行においては、表1のとおり、預金の減少が続いてはいるが、法第25条の規定による日本銀行からの貸出しを受けることなく、金融市場から譲渡性預金(譲渡可能な定期預金)、コールマネー(他の金融機関が保有している短期の余裕金を、一時的に借り受けた資金)等により資金を調達することができ、これにより、預金の払戻し等に対応した。

表1

(単位 百万円)

資金の運用

資金の調達

貸出債権 預金 譲渡性預金・コールマネー等

合計

事業譲受日
(7年3月20日)
67,337 73,441 73,441
第1期決算
(7年3月31日)
66,973 63,053 19,000 82,053
第2期中間決算
(7年9月30日)
67,157 26,679 47,000 73,679
第2期決算
(8年3月31日)
150,401 107,383 101,000 208,383

(2) 東京共同銀行における貸出債権の回収状況について

 東京共同銀行は、7年3月20日、前記の両信用組合からの事業譲受けにより、両信用組合の貸出債権132,561百万円と保証債務9,720百万円を承継した。同日付けで東京共同銀行は社団法人東京都信用組合協会との間で、貸出債権の一部を譲渡する契約を締結し、同日これを同協会に譲渡した。これにより東京共同銀行は貸出債権については差引き67,337百万円を承継することになった。また、コスモ信用組合からの事業譲受けにより、貸出債権85,339百万円と保証債務14,570百万円を承継した。これら貸出債権等の状況についてみると、債権の管理回収体制の整備を図ったものの、表2のとおり、8年3月期までの回収等累計は7,301百万円で、同期における延滞債権は47,550百万円、破綻先債権は7,709百万円と増加している状況にある。

表2

(単位 百万円)

貸出債権

保証債務残高(B) 貸出債権等残高(A)+(B)  

 

回収等

残高(A)

うち
延滞債権
うち
破綻先債権
当期 累計
事業譲受日
(7年3月20日)
67,337 9,720 77,058  
第1期決算
(7年3月31日)
66,973 353 9,662 76,635   423 423
第2期中間決算
(7年9月30日)
67,157 38,025 3,866 6,784 73,941   2,693 3,116
第2期決算
(8年3月31日)
150,401 47,550 7,709 19,266 169,667   4,184 7,301

 延滞債権等が増加している理由は、いわゆるバブルの崩壊後、引き続き資産価格が下落していることにより貸出先の経営が悪化したことなどである。

(3) 東京共同銀行の財務の状況について

 8年3月期の決算においては、上記のように延滞債権等が増加したこと、担保価値が下がったことなどに伴い、23,882百万円の貸倒引当金を計上した。この内訳は、法人税法(昭和40年法律第34号)により、貸金の1000分の3に相当する額を引き当てている一般貸倒引当金445百万円と、貸出先の破産の申立てなど一定の事実があったときに、貸出債権のうち回収不能と認められる額に相当する額を引き当てている債権償却特別勘定23,437百万円となっている。この貸倒引当金の計上などから、同期の当期損失は33,043百万円となり、これに前期からの繰越損失を合わせた損失の累計額は34,105百万円となることから、資本の部の合計は、資本金400億円から、この損失の累計額を差し引いた5,894百万円となっている。

4 東京共同銀行の整理回収銀行への改組について

 8年6月、預金保険法(昭和46年法律第34号)の一部が改正され、破綻信用組合の事業の整理を促進するため、預金保険機構は整理回収業務を主たる目的とする銀行と協定を締結し(以下、この協定を締結した銀行を「協定銀行」という。)、協定銀行に対して出資等を行うことができることとされた。
 東京共同銀行は、この協定銀行に位置づけられて、同年9月、株式会社整理回収銀行(以下「整理回収銀行」という。)に改組され、預金保険法上の整理回収業務を主たる目的とする銀行となった。そして、整理回収体制についても、人員を増強したり、東京の統括本部のほかに大阪本部を設けたりするなど強化が図られている。
 また、整理回収銀行に対し、同年同月、預金保険機構から1200億円の出資が行われ、整理回収銀行は安定的に整理回収業務を運営できるよう、その財務基盤が強化されることとなった。

5 本院の所見

 以上のとおり、日本銀行が出資することにより、東京共同銀行が設立され、また、設立後の東京共同銀行は、市場からの資金調達により資金繰りを行っているなど、当面の信用制度に大きな混乱が生じることはなかった。一方、東京共同銀行は、8年3月期において、延滞債権等の回収が必ずしも良好に行われているとは認められない。このような状況にあって、上記のように、東京共同銀行は預金保険法上の協定銀行と位置づけられて整理回収銀行に改組され、整理回収体制の強化が図られている。
 今後は、この新しい枠組みの下、一層の整理回収が行われ、引き続き信用制度が保持育成されることが肝要である。