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  • 平成8年度|
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健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの


(42) 健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (健康勘定)
(年金勘定)
(款)保険収入
(款)保険収入
(項)保険料収入
(項)保険料収入
部局等の名称 北海道ほか28都府県(188社会保険事務所)
保険料納付義務者 1,482事業主
徴収不足額 5,457,301,862円

 健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、事業主からの届出に対する調査確認及び指導が十分でなかったため、上記の1,482事業主について徴収額が5,457,301,862円(健康保険保険料1,531,264,899円、厚生年金保険保険料3,926,036,963円)不足していた。これらについては、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。

1 保険料の概要

(健康保険、厚生年金保険)

 健康保険は、常時従業員を使用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷、分娩等に関し医療、療養費、傷病手当金、出産手当金等の給付を行う保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を使用する事業所の65歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う保険である。

(保険者)

 健康保険においては、国及び健康保険組合が保険者となっている。また、厚生年金保険においては、国が保険者となっている。

(保険料の徴収)

 保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。

 そして、これらの事業主は、都道府県の社会保険事務所に対し、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。

(ア) 新たに従業員を使用したときには、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届

(イ) 毎年8月には、同月1日現在において使用している被保険者の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額算定基礎届

(ウ) 被保険者の報酬月額が所定の範囲以上に増減したときには、変更後の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額変更届

 これらの届け書の提出を受けた社会保険事務所は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1) を決定し、これに保険料率を乗じて得た額を保険料として徴収している。

標準報酬月額 健康保険では第1級92,000円から第40級980,000円まで、厚生年金保険では第1級92,000円から第30級590,000円までの等級にそれぞれ区分されている。被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。

2 検査の結果

(検査の観点及び対象)

 本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金(注2) の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者(後掲の「厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」参照 )を使用している事業主が届出を適正に行っていなかったため多額の保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。そこで、本年も引き続き、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた受給権者を使用している事業主について検査することとした。

 また、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(昭和60年法律第88号)の施行後約10年が経過し、派遣先においてその事業主の指揮命令を受けて事務用機器の操作、財務処理等の業務を行う派遣労働者が多数に上っている。そして、常用的に使用されていて健康保険及び厚生年金保険の被保険者となる派遣労働者も相当多数に上ると想定されたので、本年は、派遣労働者を使用している労働者派遣事業の派遣元の事業主についても検査することとした。

 これらのことから、本年の検査に当たっては、北海道ほか28都府県の192社会保険事務所管内の事業主のうち、次のような3,986事業主について、都道府県における保険料の徴収の適否を検査した。

(ア) 派遣労働者を使用している派遣元の事業主

(イ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用している事業主など

(注2)  特別支給の老齢厚生年金 厚生年金保険において行う保険給付であり、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あって老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などに60歳以上65歳に達するまでの間支給される。そして、受給権者が厚生年金保険の適用事業所に使用され被保険者である間は、その者の標準報酬月額等に応じて年金の額の一部又は全部の支給が停止される。

(徴収不足の事態)

 検査したところ、北海道ほか28都府県の188社会保険事務所において、3,957事業主のうち1,482事業主について徴収額が5,457,301,862円(健康保険保険料1,531,264,899円、厚生年金保険保険料3,926,036,963円)不足していた。これは、上記の29都道府県の188社会保険事務所において、事業主が次のように届出を適正に行っていなかったのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによるものである。

(ア) 被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
1,367事業主 徴収不足額 5,230,971,963円
(イ) 資格取得年月日の記載が事実と相違していたもの
84事業主 徴収不足額 187,081,473円
(ウ) 被保険者資格喪失届を誤って提出していたものなど
31事業主 徴収不足額 39,248,426円

 このように事業主が届出を適正に行っていなかったのは、派遣労働者を使用している派遣元の事業主が制度を十分に理解していなかったり、従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる事態を避けようとしたりしていたことなどによるものである。

 なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。

 徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事態についての事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  派遣労働者を使用している派遣元の事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 A会社は、派遣先において事務用機器の操作等の業務に従事する派遣労働者757人を使用していた。同会社は、これら派遣労働者のうち107人については、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していたものの、650人については、使用期間が短く常用的な使用でないなどとして被保険者資格取得届を提出していなかった。

 しかし、常用的な使用でないなどとしている派遣労働者650人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社は、このうち派遣労働者249人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。

 このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料164,779,070円(健康保険保険料53,476,300円、厚生年金保険保険料111,302,770円)が徴収不足になっていた。

<事例2>  特別支給の老齢厚生年金の受給権者を使用している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 B会社は、工業用ゴム製品製造の業務に従事する従業員504人を使用していた。同会社は、これら従業員のうち493人については、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していた。一方、同会社は、定年退職後に使用した者であって年金の受給権者である従業員から、被保険者資格取得届が提出されると受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止になるとの申し出を受けるなどしたため、11人については、被保険者資格取得届を提出していなかった。

 しかし、年金の受給権者である従業員等について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら11人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。

 このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料8,659,252円(健康保険保険料3,215,816円、厚生年金保険保険料5,443,436円)が徴収不足になっていた。

(都道府県別の徴収不足額)

 これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。

これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。