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  • 平成8年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 保険給付

厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの


(43) 厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計(年金勘定)
国民年金特別会計(基礎年金勘定)
(項)保険給付費
(項)基礎年金給付費
部局等の名称 社会保険庁
支給の相手方 (1) 厚生年金保険 1,382人
(2) 国民年金 56人
1,437人 (重複者1人)
老齢厚生年金等の支給額の合計 (1) 厚生年金保険 2,729,603,937円
(2) 国民年金 28,974,568円
2,758,578,505円
不適正支給額 (1) 厚生年金保険 1,267,422,128円
(2) 国民年金 28,974,568円
1,296,396,696円
 老齢厚生年金等の支給に当たり、審査に当たる都道府県の社会保険事務所において、年金の受給権者が被保険者資格を取得した場合の届出等に対する調査確認及び指導が十分でなかったため、上記の1,437人に対して1,296,396,696円が不適正に支給されていた。これらについては、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。

1 保険給付の概要

(1) 厚生年金保険及び国民年金の給付

 厚生年金保険(前掲の「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」参照) において行う給付には、老齢厚生年金及び老齢年金などがある。また、国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者等を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行うものであり、この給付には、老齢基礎年金などがある。

(2) 老齢厚生年金

(老齢厚生年金の支給の原則)

 老齢厚生年金は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号。以下「法」という。)第42条の規定により、厚生年金保険の適用事業所に使用された期間(以下「被保険者期間」という。)を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などが65歳に達したときに受給権者となる。

(特別支給の老齢厚生年金)

 特別支給の老齢厚生年金は、昭和60年の法改正により、当分の間の特例として65歳未満であっても支給されることとなったものである。そして、平成6年の法改正により、60歳(女子、坑内員及び船員については55歳から60歳までの一定の年齢)に達していて被保険者期間を1年以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などが受給権者となっている。

(特別支給の老齢厚生年金の給付額)

 特別支給の老齢厚生年金の給付額は、〔1〕 受給権者の被保険者期間及びその期間における報酬を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と〔2〕 配偶者等について加算される額との合計額となっている。

(特別支給の老齢厚生年金の支給の停止)

(ア) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、厚生年金保険の適用事業所に新たに使用されて被保険者となったときなどには、次のとおり、年金の支給を停止することとなっている。

〔1〕  標準報酬月額と基本月額(基本年金額の100分の80に相当する額を12で除して得た額)との合計額が220,000円以下のときは基本年金額の100分の20に相当する額の支給停止

〔2〕  上記の合計額が220,000円を超えるときは、標準報酬月額と基本月額とを用いて、一定の方式により算定した額に応じ、基本年金額の一部又は年金の額の全部の支給停止

(イ) この場合の支給停止の手続は次のとおりである。

〔1〕  厚生年金保険の適用事業所の事業主は、新たに使用した者などが受給権者であるときは、その者の生年月日、資格取得年月日、報酬月額、受給権を有することなどを記載した被保険者資格取得届に、その者から提出を受けた年金手帳及び年金証書を添えて都道府県の社会保険事務所に提出する。

〔2〕  社会保険事務所は、これを調査確認のうえ、届出内容を社会保険庁にオンラインで伝送し、同庁は、これに基づいて受給権者に係る年金の支給停止額を算定のうえ、支給額を決定する。

(3) 老齢年金

 老齢年金は、昭和60年改正前の法に規定される保険給付であり、61年4月1日において60歳以上の者又はその前日において既に受給権を有していた者を対象としている。65歳未満の者に係る老齢年金の支給の要件、支給の手続等は特別支給の老齢厚生年金の支給の要件等とほぼ同様である。

(4) 国民年金の老齢基礎年金

 国民年金の老齢基礎年金は、保険料納付済期間が25年以上ある者などが65歳に達したとき、又は65歳に達する前に繰上げ支給の請求をしたときは、そのときから受給権者となる。そして、繰上げ支給の請求をした者が、その後、厚生年金保険の被保険者となったときは、年金の額の全部が支給停止されることになっていて、その手続は特別支給の老齢厚生年金の場合とほぼ同様である。

2 検査の結果

(検査の対象)

 北海道ほか28都府県の192社会保険事務所において、平成6年に特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者等317,318人のうち、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた者が3,227人見受けられた。これらの受給権者を使用している2,482事業所について、厚生年金保険の被保険者資格取得届の提出の必要性の有無並びに厚生年金保険の特別支給の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給の適否を検査した。

(不適正支給の事態)

 検査したところ、北海道ほか28都府県で966事業所の1,437人については当該事業所において常用的に使用されていて、年金の額の一部又は全部の支給を停止すべきであったのに被保険者資格取得届が提出されなかったなどのため、年金の支給停止の手続が執られていなかった。このため、厚生年金保険の特別支給の老齢厚生年金等の受給権者1,382人に対する支給(支給額2,729,603,937円)について1,267,422,128円、国民年金の老齢基礎年金の受給権者56人(注) に対する支給(支給額28,974,568円、について28,974,568円、計1,296,396,696円が不適正に支給されていた。

 これは、北海道ほか28都府県の188社会保険事務所において、受給権者又は事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、事業主が前記の届出を怠るなどしていたのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったため、社会保険庁で年金の支給停止をしていなかったことによるものである。

 なお、これらの不適正支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。
(注)  56人の中には特別支給の老齢厚生年金も不適正に受給しているものが1人含まれている。

 これらの不適正支給額を都道府県別に示すと次のとおりである。

都道府県名 社会保険事務所 本院が調査した受給権者数 不適正受給権者数 左の受給権者に支給した年金の額 左のうち不適正支給額

北海道

札幌東ほか11

110

38
千円
66,482
千円
32,219
秋田県 秋田ほか3 73 41 54,168 23,750
茨城県 水戸南ほか4 151 99 190,851 88,930
群馬県 前橋ほか4 82 27 49,039 22,081
埼玉県 浦和ほか5 171 74 165,092 71,362
千葉県 千葉ほか5 106 33 66,545 32,777
東京都 麹町ほか22 341 124 243,818 141,068
神奈川県 鶴見ほか12 137 58 175,015 91,812
富山県 富山ほか3 112 53 100,440 60,183
福井県 福井ほか2 50 15 35,837 18,095
山梨県 甲府ほか1 94 60 66,867 24,724
岐阜県 岐阜南ほか5 110 32 61,122 28,801
愛知県 大曽根ほか14 271 100 177,902 81,074
三重県 津ほか4 98 43 87,588 45,215
滋賀県 大津ほか2 53 14 31,113 14,731
京都府 上京ほか5 114 58 141,166 69,121
大阪府 天満ほか16 308 153 351,841 154,910
奈良県 奈良ほか2 48 19 58,824 30,704
和歌山県 和歌山東ほか2 45 11 20,781 9,045
鳥取県 鳥取ほか2 29 11 20,927 8,118
島根県 松江ほか2 60 36 60,874 22,215
広島県 広島東ほか7 90 41 65,150 31,300
徳島県 徳島南ほか2 49 19 38,047 20,428
愛媛県 松山東ほか4 93 38 69,417 31,100
高知県 高知東ほか3 61 25 34,845 13,764
福岡県 東福岡ほか8 165 82 140,323 56,446
佐賀県 佐賀ほか2 55 43 62,433 24,021
大分県 大分ほか3 67 36 53,105 21,821
沖縄県 那覇ほか4 67 54 68,950 26,567
 計 188箇所 3,210 1,437 2,758,578 1,296,396