会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 (項)国民健康保険助成費 |
部局等の名称 | 厚生本省(交付決定庁) 北海道ほか10都府県(支出庁) |
交付の根拠 | 国民健康保険法(昭和33年法律第192号) |
交付先 | 38市(保険者) |
特別調整交付金の概要 | 市町村等の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付する財政調整交付金のうち、結核性疾病及び精神病に係る医療給付費等が多額である場合に交付するもの |
上記に対する特別調整交付金の交付額 | 81億0761万余円 | (平成6年度〜8年度) |
過大となっていた交付額 | 4億3260万余円 | (平成6年度〜8年度) |
1 交付金の概要
厚生省では、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして市町村に対して財政調整交付金(前掲「国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの」参照 )を交付している。
財政調整交付金は、市町村の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、災害等特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
そして、特別調整交付金の一つとして、結核性疾病又は精神病(以下「結核・精神病」という。)に係る医療費が多額である場合に交付されるもの(以下「結核・精神病特別交付金」という。)がある。この結核・精神病特別交付金は、結核・精神病を患う被保険者を多く有する市町村は多大な財政負担を負いがちになることから、そうした市町村に財政援助を行うことを目的として交付されるものである。
普通調整交付金の交付額は、当該市町村の一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。)に係る医療給付費(注) 等から定率の国庫負担金を控除(以下、この控除後の額を「医療給付費等の実質保険者負担額」という。)するなどして算定される調整対象需要額(本来保険料(税)で賄うべきとされる額)から、当該調整対象需要額や被保険者の所得等を基に算定される調整対象収入額(本来徴収すべきとされる保険料の額)を控除した額に交付率を乗ずるなどして得た額となっている。
上記の調整対象需要額の算定に当たり、都道府県又は市町村が、国の負担金等の交付を受けないで、年齢その他の事由により被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額(療養の給付に要する費用の額に10分の3を乗じて得た額)の全部又は一部を当該被保険者に代わり、保険医療機関等に支払うこととしている措置(以下「負担軽減措置」という。)を行っている場合には、医療給付費の額を減額調整することとされている。この減額調整は、「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号。以下「算定省令」という。)により、負担軽減措置の対象となった医療給付費に、負担の軽減の度合いに応じて0.9863から0.8427までの率(以下「調整率」という。)を乗じて行うものとなっている。
このように医療給付費を減額調整するのは、次のような理由からである。すなわち、負担軽減措置を行っている場合には、給付水準が高くなることの効果として受診が増加することにより、負担軽減措置が行われていない市町村に比べ医療費が増加する波及増が認められるとされている。そして、この波及増による医療費をそのままにして調整対象需要額を算定すると、より多額の普通調整交付金が交付され、負担軽減措置が行われている市町村と行われていない市町村との間に不均衡が生じることから、そうした不均衡を生じないようにするためである。
また、結核・精神病特別交付金が交付される市町村の調整対象需要額は、同交付金の額を控除して算定することとされている。
(注) 医療給付費 療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る一部負担金に相当する額を控除した額並びに入院時食事療養費、特定療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費、移送費及び高額療養費の支給に要する費用の額の合算額
結核・精神病特別交付金は、医療給付費等の実質保険者負担額のうち結核・精神病に係る額(以下「結核・精神病に係る実質保険者負担額」という。)の占める割合が100分の15を超える市町村に交付することとなっており、その交付額は、算定省令等により、次のように算定することとなっている。
上記の算式における医療給付費等の実質保険者負担額は、前記普通調整交付金の調整対象需要額の計算において算出した額であり、負担軽減措置が行われている場合には、算定省令により、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じて算定した額となっている。
また、結核・精神病に係る実質保険者負担額は、社会保険表章用疾病分類(平成6年保発第143号)の区分に従って結核・精神病に分類される疾病に係る医療給付費を集計し、それに係る定率の国庫負担相当額を控除するなどして算定することとなっている。そして、負担軽減措置が行われている場合には、算定省令により、医療給付費等の実質保険者負担額と同様に、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じて算定することとなっている。
2 検査の結果
結核・精神病に係る実質保険者負担額は、上記のとおり、普通調整交付金の調整対象需要額の計算において算出した医療給付費等の実質保険者負担額のうちの一部であるが、結核・精神病特別交付金の交付申請のために医療給付費等の実質保険者負担額とは別に算定されるものである。
そこで、結核・精神病に係る実質保険者負担額が正しく算定されているか、特に、負担軽減措置が行われている市町村において、結核・精神病に係る実質保険者負担額が、医療給付費等の実質保険者負担額と同様に、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じて算定されているか調査した。
北海道ほか10都府県(注) の、結核・精神病特別交付金の交付額が多額で、かつ、負担軽減措置が行われていた小樽市ほか37市を対象として、平成6年度から8年度までの交付申請書等における結核・精神病に係る実質保険者負担額の算定について調査した。
調査の結果、上記38市(調査した6年度から8年度までの結核・精神病特別交付金の交付額計81億0761万余円)のすベてにおいて、前記の算式中、医療給付費等の実質保険者負担額は、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じて算定した額となっていたが、結核・精神病に係る実質保険者負担額については、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じたものとなっていなかった。
このため、医療給付費等の実質保険者負担額に占める結核・精神病に係る実質保険者負担額の割合が、医療給付費に調整率を乗じて算出した適正な割合に比べて高いものとなり、結核・精神病特別交付金が過大に算定されていて適切でないと認められた。
上記による適正な割合により結核・精神病特別交付金を算定すると、計74億7767万余円となり、前記交付額計81億0761万余円は、6億2993万余円過大となっている。そして、結核・精神病特別交付金の減額に伴って調整対象需要額が増額となることによる普通調整交付金の増額分を差し引いても、計4億3260万余円が過大に交付されていると認められた。
このような事態が生じていたのは、市において、制度の理解が十分でなかったことにもよるが、厚生省において、結核・精神病に係る実質保険者負担額についても、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じて算定すべき旨を交付申請書の様式において明確に示していなかったことなどによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、9年11月に各都道府県に対して通知を発し、結核・精神病に係る実質保険者負担額の算定方法について、負担軽減措置の対象となった医療給付費に調整率を乗じて行う旨、交付申請書の様式において明確に示すなどするとともに、これを市町村に対して周知徹底させる処置を講じた。
(注) 北海道ほか10都府県 東京都、北海道、大阪府、青森、山形、山梨、鳥取、広島、香川、福岡、熊本各県