1 本院が表示した改善の意見
労働省では、60歳定年を基盤とする65歳までの継続雇用を推進し高年齢者の雇用の確保を図るため、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく雇用安定事業において、定年の引上げ等により高年齢者の雇用を延長して、61歳以上の年齢まで継続雇用する制度(以下「継続雇用制度」という。)を導入する事業主に対して、継続雇用制度導入奨励金(以下「奨励金」という。)を支給している。
奨励金は、労働協約又は就業規則の改定等により継続雇用制度を設けること、同制度を設けた日から3年以内に当該制度の適用を受けて継続雇用されることが見込まれる常用被保険者(以下「雇用延長見込労働者」という。)を、一定数以上雇用していることなどの要件を満たす事業主に対して支給することとなっている。
そこで、継続雇用制度を導入し奨励金を受給した1,990事業主について、奨励金支給後の雇用延長見込労働者の就業状況等を調査した。その結果、393事業主については雇用延長見込労働者全員が継続雇用期間経過前に離職し、しかも、その大半の者が早期に離職していて、奨励金の支給の効果が十分発現していないと認められた。
このような事態が生じているのは、労働省において、継続雇用制度における継続雇用期間については長短により奨励金の支給額に差異を設けているものの、制度導入後の高年齢者の継続雇用の状況については、その実態に対する認識が十分でなく、奨励金の支給額に反映させることとしていないことなどによると認められた。
継続雇用制度導入後の高年齢者の継続雇用の状況を奨励金の支給額に反映させるようにするとともに、その継続雇用の状況を的確に確認する措置を講ずるなどして、奨励金の支給を効果的に行うよう、労働大臣に対し平成8年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
2 当局が講じた改善の処置
労働省では、本院指摘の趣旨に沿い、9年4月に雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)の一部を改正するなどして、奨励金に代えて、新たに継続雇用の推進及び定着を図る継続雇用定着促進助成金(以下「助成金」という。)を創設し、効果的に支給を行うため次のような処置を講じた。
(ア) 高年齢者の継続雇用の状況を支給額に反映させるため、65歳以上の年齢まで継続雇用する制度を設けた事業主に対して、当該制度により継続雇用されることとなる期間(最大5年間)に応じ、分割して1年ごとに助成金を支給することとした。
(イ) 第2回以降の助成金の支給申請時には、事業主から当該制度の適用を受けた常用被保険者等の名簿を提出させ、継続雇用の状況の確認を行い、これらの者を事業主の都合により解雇していない場合及び一定数以上雇用している場合などに支給することとした。